桜ノ色ハ血ノ色(アスラン)【全38P完結】
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「どうしてかな……」
残されたアスランは一人、ぼんやりとその場に立ちつくしている。
「また……置いて行かれた」
通りすがりの者が、思わず心配してしまうほどに悲しい表情を宿したアスランの顔。8年前とは違って泣きじゃくることも縋り付くことも出来ない今、その想いはただ一人自分の中で消化するしかない。頬の傷とは比べものにならない大きな傷が、アスランの胸に刻まれていた。
「サラが、分からない……」
ぽろりと涙がこぼれる。
「俺なりに考えて出した答えだったんだ……昔サラが俺に何も言わずに姿を消したのは、俺を想っていてくれたからだって。桜の下で再開した時も、俺を覚えてくれていて… …俺を想っていてくれたんじゃないかって。軍人としての生活を送っていても、時々ふと見せる表情や戸惑いは、俺を……」
伝う涙が頬の傷に触れる。痛みを覚えたが、アスランは拭おうとはしなかった。
「所詮は俺の思い込み……自惚れが過ぎたって事か?」
自嘲の笑みは、ほんの少し口角をつり上げただけのもの。
「分からないよ、サラ……どうして俺を拒絶するんだ?」
空を見上げる。
ぽろぽろとこぼれ落ちる涙をそのままにただ空を見上げていると、やがて舞い落ちてくる雪。
「っく……」
言葉にならないうめきを一つ漏らすと、アスランはそっと舞い落ちてきた雪の最初の一片を掴んだ。一瞬で溶けて消え去る結晶に、切なさが募る。
「俺の想いは、この雪のようなものなんだろうか……」
人の温もりに触れたと同時に消えてしまう雪。サラの心に触れれば、一瞬のうちにかき消されてしまうアスランの想い。
「カミサマ」
信じていないはずの存在が、口をついて出た。
「俺は、サラの側にいることを許されない人間なのですか……?」
あれからサラは、今まで以上にアスランとの距離を置いていた。必要最低限の、更に底辺ほどしか話をしていない。時折話しかけたそうにするアスランを無視し、サラはひたすら自分の仕事に打ち込んでいた。意識しすぎての行動と言うこともあるが、それ以上に実際の所、サラには余裕がなくなっていたから。
日に日に激しくなる戦火。
悪化する戦況。
それに伴ってますます大きくなる、軍の自分への期待。
そんな時に限って、更にサラを追いつめる出来事が起きる。
『とうとう計画が動き出した』
急遽入った通信で、開口一番父から告げられたその言葉に、サラは一瞬言葉を失う。腕時計の液晶に小さく映る父の姿も、慌てているようだった。覚悟はしていたものの、まだ時間はあると思っていたから。
「そんな……早すぎる! 未だあの薬は……!」
『人体実験も兼ねての投与だ。駄目なら他があるということらしい』
「それじゃ彼らは……」
『あぁ、既にデータは消去済みだ』
「……っ!」
かつて所属していた研究所で、共に過ごしていた少年達の姿が浮かぶ。お互いの事はあまりよく知らなかったが、辛いときには励まし合い、慰め合う事もあった。
物静かで本好きな、頼りがいのある兄のような存在の少年と。
賑やかでゲーム好きな、マブダチのような少年と。
ちょっぴり我が儘で音楽好きな、年上なのに弟のような少年と。
兄弟のいないサラにとって、まるで肉親のように大切だった存在。だが、もう――。
「分かった……じゃぁ例の3機も?」
『アズラエルが嬉々としてプログラムを組んでいる』
「そう……」
いよいよ時が来たようだった。未だ大丈夫、未だ時間はあるとごまかし続けてきたが、もうそんな悠長な事を言ってはいられない。
「こちらも動くわ。3日後にカオシュンへの攻撃が始まる。既に上はへリオポリスへの攻撃も念頭に置いているから」
『ああ、こちらもそろそろ決行する』
ブツリと切られた回線から聞こえるノイズ。ボタンを押してこちらの回線も切ると、サラはがくりと頽れた。
「皆、ごめん……間に合わなくて……」
ダンッと強く床を叩く。何度も何度も。手が赤く腫れ上がっても、サラはやめない。彼らに何が起きても決して彼らのために涙を流さないと約束させられていたサラは、痛みを涙の代わりとする。
「ごめん……ごめんなさい……」
苦しげに絞り出された声は誰に届けられることもなく、部屋の中で寂しく消えていった。
残されたアスランは一人、ぼんやりとその場に立ちつくしている。
「また……置いて行かれた」
通りすがりの者が、思わず心配してしまうほどに悲しい表情を宿したアスランの顔。8年前とは違って泣きじゃくることも縋り付くことも出来ない今、その想いはただ一人自分の中で消化するしかない。頬の傷とは比べものにならない大きな傷が、アスランの胸に刻まれていた。
「サラが、分からない……」
ぽろりと涙がこぼれる。
「俺なりに考えて出した答えだったんだ……昔サラが俺に何も言わずに姿を消したのは、俺を想っていてくれたからだって。桜の下で再開した時も、俺を覚えてくれていて… …俺を想っていてくれたんじゃないかって。軍人としての生活を送っていても、時々ふと見せる表情や戸惑いは、俺を……」
伝う涙が頬の傷に触れる。痛みを覚えたが、アスランは拭おうとはしなかった。
「所詮は俺の思い込み……自惚れが過ぎたって事か?」
自嘲の笑みは、ほんの少し口角をつり上げただけのもの。
「分からないよ、サラ……どうして俺を拒絶するんだ?」
空を見上げる。
ぽろぽろとこぼれ落ちる涙をそのままにただ空を見上げていると、やがて舞い落ちてくる雪。
「っく……」
言葉にならないうめきを一つ漏らすと、アスランはそっと舞い落ちてきた雪の最初の一片を掴んだ。一瞬で溶けて消え去る結晶に、切なさが募る。
「俺の想いは、この雪のようなものなんだろうか……」
人の温もりに触れたと同時に消えてしまう雪。サラの心に触れれば、一瞬のうちにかき消されてしまうアスランの想い。
「カミサマ」
信じていないはずの存在が、口をついて出た。
「俺は、サラの側にいることを許されない人間なのですか……?」
あれからサラは、今まで以上にアスランとの距離を置いていた。必要最低限の、更に底辺ほどしか話をしていない。時折話しかけたそうにするアスランを無視し、サラはひたすら自分の仕事に打ち込んでいた。意識しすぎての行動と言うこともあるが、それ以上に実際の所、サラには余裕がなくなっていたから。
日に日に激しくなる戦火。
悪化する戦況。
それに伴ってますます大きくなる、軍の自分への期待。
そんな時に限って、更にサラを追いつめる出来事が起きる。
『とうとう計画が動き出した』
急遽入った通信で、開口一番父から告げられたその言葉に、サラは一瞬言葉を失う。腕時計の液晶に小さく映る父の姿も、慌てているようだった。覚悟はしていたものの、まだ時間はあると思っていたから。
「そんな……早すぎる! 未だあの薬は……!」
『人体実験も兼ねての投与だ。駄目なら他があるということらしい』
「それじゃ彼らは……」
『あぁ、既にデータは消去済みだ』
「……っ!」
かつて所属していた研究所で、共に過ごしていた少年達の姿が浮かぶ。お互いの事はあまりよく知らなかったが、辛いときには励まし合い、慰め合う事もあった。
物静かで本好きな、頼りがいのある兄のような存在の少年と。
賑やかでゲーム好きな、マブダチのような少年と。
ちょっぴり我が儘で音楽好きな、年上なのに弟のような少年と。
兄弟のいないサラにとって、まるで肉親のように大切だった存在。だが、もう――。
「分かった……じゃぁ例の3機も?」
『アズラエルが嬉々としてプログラムを組んでいる』
「そう……」
いよいよ時が来たようだった。未だ大丈夫、未だ時間はあるとごまかし続けてきたが、もうそんな悠長な事を言ってはいられない。
「こちらも動くわ。3日後にカオシュンへの攻撃が始まる。既に上はへリオポリスへの攻撃も念頭に置いているから」
『ああ、こちらもそろそろ決行する』
ブツリと切られた回線から聞こえるノイズ。ボタンを押してこちらの回線も切ると、サラはがくりと頽れた。
「皆、ごめん……間に合わなくて……」
ダンッと強く床を叩く。何度も何度も。手が赤く腫れ上がっても、サラはやめない。彼らに何が起きても決して彼らのために涙を流さないと約束させられていたサラは、痛みを涙の代わりとする。
「ごめん……ごめんなさい……」
苦しげに絞り出された声は誰に届けられることもなく、部屋の中で寂しく消えていった。
