Dear my fairy(ニコル)
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約束のコンサートのために、私は次の日から新しい曲作りに励み始めていた。
今日でイベントから7日目。なかなか良いフレーズが浮かばずイライラすることもあったが、それはそれで楽しかった。
それに、毎日ニコルからの電話も入る。何故かいらついているときにタイミング良くかかってきて、私の心を和ませてくれるのだから不思議だった。
そして今日も、かかってくる電話。
「はい、ニコル?」
「……こんにちは。サラさん。」
「……おば様……?」
イベントの帰り、実はニコルは私を一度家まで連れて行ってくれていた。
両親に紹介したいから、と。
あまりに性急な事で驚いたのだが、それでも大切な人として紹介してもらえるのは嬉しかった。だから、あまりまだ話はしていないものの、ニコルのお母様とも面識はあるわけで。
でもおば様から電話が来る用事などあっただろうか?
「一体どうなさったのですか?」
「サラさん……気を確かに持って欲しいの。ニコルが……」
「え?」
「ニコルが戦死しました」
「……っ!?」
全く考えもしなかった言葉に、驚きのあまり何も言葉が出てこなかった。一瞬で頭の中が真っ白になる。
「今日の戦闘で……あの子の乗ったブリッツが、敵のモビルスーツに倒されて……ニコルも……っ!」
「う……そ……そんな……だって、ニコル……」
「私も信じたくない……でも……あの子はもう帰って来ない……」
「いや……そんなのってない……ニコルが……ニコルがもう……!!!」
完全にパニックに陥っていた。
だって、信じられるはずがない。私はニコルと話をしたのだから。昨夜、とても元気な声を聞いていたのだから。
「……明日、ニコルのお葬式をするの……軍の仕切で……だから……是非貴女にも来て欲しくて……あの子本当に貴女が好きだったから……」
「ニコル……信じられない。ニコルが……」
おば様の声は聞こえているのに、その言葉が頭に入ってこない。電話が切れても、私は呟き続けていた。
「ニコル……嘘だよね? こんなの……」
次の日、一睡もせずに尋ねたニコルの家には多くの人が集まっていた。
軍関係者だけでなく、私もよく知っている音楽業界の人達も。それを見て、いかにニコルが愛されていた人物なのかがよく分かった。
「サラさん……来て下さってありがとう。」
「おば様……ニコルは……何処ですか?」
「……サラさん……」
せめてそこに遺体だけでもあれば、まだ諦めがついたのかもしれないのに。
目の前にあるのは遺影のみ。頭では理解していても、心はまだ認めることが出来ていなかった。
「サラさん……辛いのは分かるけれど、気をしっかり持って頂戴。お願いだから。あと……これを貴女に」
「これは……?」
渡されたのは、ニコルの愛用している楽譜入れ。
「中を見て頂戴」
言われた通り開いてみると、そこには真新しい楽譜が入っていた。よく見ると、曲は完成している。最後に書かれている日付は……昨日の早朝。
「貴女とのコンサートのために作っていた曲らしいの。貴女をイメージしながら……ね」
メロディーを辿ると、それはそれは可愛らしいイメージで。楽譜を辿るだけでも作り手の愛情が伝わってきた。
これが……ニコルの中の私のイメージ……?
私は貴方にこんなにも想われていたの……?
最後まで楽譜が読めない。涙が溢れて止まらないから。
「ニコル……ニコル……っ!!」
周囲の視線が私に集中するのもお構いなしに、私は大声を上げて泣いた。
――こんなにも好きなのに。
――こんなにも大切なのに。
貴方は……いない。
泣き疲れて、ふらふらと辿り着いたのはニコルのピアノ室。いつもキラキラと輝いていたグランドピアノが、今日はとても曇って見えた。
「ご主人様がいないんだもん。……ピアノだって分かるんだよね……」
曲が出来上がったら、一緒にこのピアノで練習しようと約束していた。でも、その約束が果たされる日はもう来ない。
「コンサートは2ヶ月後。一人3曲ノルマと言うことで頑張りましょうね。サラ」
「3曲~!? 私、作曲苦手なんだよ~」
「駄目ですよ。僕たちのオリジナルの曲で……しかも新曲が一杯のコンサートをやってみたいと最初に言ったのは貴女でしょう?」
「確かに言ったけど~……無理っぽい感じ……かも……」
「楽しみにしてますからね」
「……その笑顔反則……」
「……サラ?」
「やらせていただきます。はい。」
あの時の会話を思い出しながら、私はピアノの蓋を開ける。鍵盤を叩くと、いかにこのピアノが大切にされているかがよく分かった。
微々たる狂いもない音。ニコルのことだからきっと、毎日きっちりと調律をしていたのだろう。
楽譜を立て、手をポジションに置く。辛くて……どうしようもなく辛いから。
私は、弾き始めた。
ニコルの新曲を。
ニコルの音で。
可愛らしさ、優しさ。
暖かさ、無邪気さ。
それらが入り交じって心和む世界を生み出す。
素敵な曲だった。これが……ニコルの音。ニコルの心。
「ねぇ、聞こえる? ニコル」
私はピアノを弾きながら呟いた。
「貴方のこの曲、今私が弾いてるんだよ。これも一種の連弾だよね? 貴方の想いを受け止めて、私がそれを音にする。この音は貴方だから。私はいつでも貴方に包まれていたいから……これからも弾き続けるよ」
ずっと。
貴方と一緒に。
貴方の分まで。
あれから数年。私もプロのピアニストとなり、プロの世界でもそれなりに認められる程になった。
でも……。
「やっぱり貴方の音を超えることは出来ないわね、ニコル――。」
楽屋で一人、私は向かい合う。
目の前にあるのは、ニコルの笑顔の写真。
「フユツキさん、出番です。」
「はーい、すぐ行きます。」
私は立ち上がると、ニコルの写真を懐にしまって言った。
「今日も良い演奏をしようね。一緒に」
そのまま私は舞台へと向かった。
楽屋に残されているのはプログラム。
そこに書かれているのは――。
ピアニスト;サラ=フユツキ
曲名;Always on your side
作曲;ニコル=アマルフィ
~了~
今日でイベントから7日目。なかなか良いフレーズが浮かばずイライラすることもあったが、それはそれで楽しかった。
それに、毎日ニコルからの電話も入る。何故かいらついているときにタイミング良くかかってきて、私の心を和ませてくれるのだから不思議だった。
そして今日も、かかってくる電話。
「はい、ニコル?」
「……こんにちは。サラさん。」
「……おば様……?」
イベントの帰り、実はニコルは私を一度家まで連れて行ってくれていた。
両親に紹介したいから、と。
あまりに性急な事で驚いたのだが、それでも大切な人として紹介してもらえるのは嬉しかった。だから、あまりまだ話はしていないものの、ニコルのお母様とも面識はあるわけで。
でもおば様から電話が来る用事などあっただろうか?
「一体どうなさったのですか?」
「サラさん……気を確かに持って欲しいの。ニコルが……」
「え?」
「ニコルが戦死しました」
「……っ!?」
全く考えもしなかった言葉に、驚きのあまり何も言葉が出てこなかった。一瞬で頭の中が真っ白になる。
「今日の戦闘で……あの子の乗ったブリッツが、敵のモビルスーツに倒されて……ニコルも……っ!」
「う……そ……そんな……だって、ニコル……」
「私も信じたくない……でも……あの子はもう帰って来ない……」
「いや……そんなのってない……ニコルが……ニコルがもう……!!!」
完全にパニックに陥っていた。
だって、信じられるはずがない。私はニコルと話をしたのだから。昨夜、とても元気な声を聞いていたのだから。
「……明日、ニコルのお葬式をするの……軍の仕切で……だから……是非貴女にも来て欲しくて……あの子本当に貴女が好きだったから……」
「ニコル……信じられない。ニコルが……」
おば様の声は聞こえているのに、その言葉が頭に入ってこない。電話が切れても、私は呟き続けていた。
「ニコル……嘘だよね? こんなの……」
次の日、一睡もせずに尋ねたニコルの家には多くの人が集まっていた。
軍関係者だけでなく、私もよく知っている音楽業界の人達も。それを見て、いかにニコルが愛されていた人物なのかがよく分かった。
「サラさん……来て下さってありがとう。」
「おば様……ニコルは……何処ですか?」
「……サラさん……」
せめてそこに遺体だけでもあれば、まだ諦めがついたのかもしれないのに。
目の前にあるのは遺影のみ。頭では理解していても、心はまだ認めることが出来ていなかった。
「サラさん……辛いのは分かるけれど、気をしっかり持って頂戴。お願いだから。あと……これを貴女に」
「これは……?」
渡されたのは、ニコルの愛用している楽譜入れ。
「中を見て頂戴」
言われた通り開いてみると、そこには真新しい楽譜が入っていた。よく見ると、曲は完成している。最後に書かれている日付は……昨日の早朝。
「貴女とのコンサートのために作っていた曲らしいの。貴女をイメージしながら……ね」
メロディーを辿ると、それはそれは可愛らしいイメージで。楽譜を辿るだけでも作り手の愛情が伝わってきた。
これが……ニコルの中の私のイメージ……?
私は貴方にこんなにも想われていたの……?
最後まで楽譜が読めない。涙が溢れて止まらないから。
「ニコル……ニコル……っ!!」
周囲の視線が私に集中するのもお構いなしに、私は大声を上げて泣いた。
――こんなにも好きなのに。
――こんなにも大切なのに。
貴方は……いない。
泣き疲れて、ふらふらと辿り着いたのはニコルのピアノ室。いつもキラキラと輝いていたグランドピアノが、今日はとても曇って見えた。
「ご主人様がいないんだもん。……ピアノだって分かるんだよね……」
曲が出来上がったら、一緒にこのピアノで練習しようと約束していた。でも、その約束が果たされる日はもう来ない。
「コンサートは2ヶ月後。一人3曲ノルマと言うことで頑張りましょうね。サラ」
「3曲~!? 私、作曲苦手なんだよ~」
「駄目ですよ。僕たちのオリジナルの曲で……しかも新曲が一杯のコンサートをやってみたいと最初に言ったのは貴女でしょう?」
「確かに言ったけど~……無理っぽい感じ……かも……」
「楽しみにしてますからね」
「……その笑顔反則……」
「……サラ?」
「やらせていただきます。はい。」
あの時の会話を思い出しながら、私はピアノの蓋を開ける。鍵盤を叩くと、いかにこのピアノが大切にされているかがよく分かった。
微々たる狂いもない音。ニコルのことだからきっと、毎日きっちりと調律をしていたのだろう。
楽譜を立て、手をポジションに置く。辛くて……どうしようもなく辛いから。
私は、弾き始めた。
ニコルの新曲を。
ニコルの音で。
可愛らしさ、優しさ。
暖かさ、無邪気さ。
それらが入り交じって心和む世界を生み出す。
素敵な曲だった。これが……ニコルの音。ニコルの心。
「ねぇ、聞こえる? ニコル」
私はピアノを弾きながら呟いた。
「貴方のこの曲、今私が弾いてるんだよ。これも一種の連弾だよね? 貴方の想いを受け止めて、私がそれを音にする。この音は貴方だから。私はいつでも貴方に包まれていたいから……これからも弾き続けるよ」
ずっと。
貴方と一緒に。
貴方の分まで。
あれから数年。私もプロのピアニストとなり、プロの世界でもそれなりに認められる程になった。
でも……。
「やっぱり貴方の音を超えることは出来ないわね、ニコル――。」
楽屋で一人、私は向かい合う。
目の前にあるのは、ニコルの笑顔の写真。
「フユツキさん、出番です。」
「はーい、すぐ行きます。」
私は立ち上がると、ニコルの写真を懐にしまって言った。
「今日も良い演奏をしようね。一緒に」
そのまま私は舞台へと向かった。
楽屋に残されているのはプログラム。
そこに書かれているのは――。
ピアニスト;サラ=フユツキ
曲名;Always on your side
作曲;ニコル=アマルフィ
~了~
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