上鳴電気×緑谷出久
初めての恋は中学生のとき。相手は文学少女だった。ぱっと冴えない女の子だったけど笑顔がとびきり可愛い子だった。その子と共通の話題を探そうにもやっぱり小説しかなくて、話がしたいがために読書をはじめた。
最初は今どきもうどこの学校もやってねーよって感じの貸出記録が本の最後に挟まってるやつを片っ端から確認してその子の名前がある本を借りて行った。
今思えばストーカーっぽいし昔の映画にそんな話あった気がするしちょっと自分で気持ち悪いな、と思う。
その子と本の話ができるようになった頃、その子には彼氏がいることを知った。でも俺はバカだからそのうち俺の良さに気づいた彼女が俺に乗り換えるだろうと思ってたその時までは。
いつも通り図書室にいくと彼女とその彼氏が痴話喧嘩してるのが聞こえてくる。
「なぁ、お前って本当に本の話題しかないの?もっと雑談しようって気、ある?」
「あ、あるよ。でも、何話したらいいかわからなくて」
その後バカでかいため息と共に彼氏が図書室の扉をこれまたバカでかい音を立てながら去っていく。こっちを見た彼女に全部見ていたことをバレたことに気づいた俺はない頭を回転させてなんて言い訳しようか考えてたら言い訳が口から出てくる前に彼女の頬に涙が一筋流れた。
その表情すら綺麗に見えてうっかり黙り込んでしまっていたら彼女の方から喋り出した。
「ごめんね、醜いところみせちゃって。ちょっと御手洗行ってくるから上鳴くんは好きに図書室使っていいから」
そう言うと声をかける隙間も与えてくれず立ち去ってしまった。方角は女子トイレ。たぶん1人で泣くのだろう。というか醜いところ見せちゃってとはどういう意味なんだろうか。喧嘩が醜いってことなのか、泣いてる姿が醜いってことなのだろうか。後者なら否定しなければいけない。あんな綺麗になく人を初めてみたと思うくらいキレイだったのに。
彼女が借りていた本の1つである石川啄木。石川啄木が残した詩の中に柔らかい雪に火照った頬を押し付けるような恋がしたい、というのがあった。この詩を見た時まさに今の自分だ!って思った。この恋は柔らかい雪で冷ますのが丁度いいって感動していた。でもこの恋を覚ますのは彼女の彼氏たちの言動だった。
彼女は笑顔がとびきり可愛いだけあってお相手の彼氏はたびたび図書室に現れる。でも彼女の彼氏はみんな最後は本以外の話出来ないの?と言って去っていった。そんな姿を何度も見てたらふわふわしてて熱いくらいあったかい恋心が急激に冷えて萎んでいくようだった。
こんなにも報われない恋愛があって、こんなにも話題が盛り上がる俺のところには来てくれない彼女。でもそれでも捨てきれない恋心。
でもそれも卒業間際の一言で砕け散った。
「こんな本のお話できる友達はじめて。すごい嬉しい。ありがとう、私と友達になってくれて」
こんなにそばにいても気持ちは通じないんだ、という気持ちとはじめての友達になれた優越感。
「まじ?そんなこと言われると照れるじゃんかよー!」
なんでもない振りして答えた。下校中も初めての友達の優越感に浸ってた。でも湯船に浸かった瞬間だめだった。彼女の報われない恋と俺の報われない恋。どちらに対してもあまりにも悲しい結末すぎると涙が静かに流れた。そしたらもう、本当にだめになった親に気づかれないよう声を押し殺しながらただひたすら泣き続けた。ここで泣きまくって明日からは初めての友達に戻れますように。そんなこと祈りながら泣いた。立ち上る湯気だけが俺を慰めてくれているようだった。
それから卒業式まで友達としての立ち位置を守り続けた。そんな俺を称えるかのような彼女のお別れの笑顔は桜のようでお別れなのに出会いの花なんだな、なんて考えて1人で苦笑いをした。
最後の校門をくぐる時決意した。もう恋なんてしない、と。
それから雄英高校に入ってからまた彼女と出会った頃のように胸が高鳴る相手がいた。それは緑谷出久。個性は未だよくわかってないけどあのオールマイトのような個性。
でもオールマイトとは違って根暗でオタクで。でも誰よりも最後まで諦めなくて誰よりも最高にカッコイイヒーローだった。どんなピンチでも真っ先に助けに行くメンタリティ。それは誰よりもオールマイトのそれだった。
そんな彼に気がついたら心を奪われていた。親友ポジションでいいから近づきたい、そう思ってしまったから話しかけてしまった。これは最大の失敗だったと思う。
何かと話題の中心になる彼はヒーローオタクなので昨夜テレビで気になったヒーローの名前を挙げると1から10、いや1から100まで語る勢いで話し続ける。
自分だってその語られる側になりうる存在なくせに驕らずヒーロー研究を止めない。
もともと本好きの彼女の話に付き合ってた自分だからそういう己の好きなものを語ってる話に付き合うのは得意分野だ。時間が許す限りずっと相槌を打ちながら聞いていた。
そんなことを続けてたら一緒に出かける仲になり、気づけば互いの家にいくほどまでになった。
今日僕のうちくる?と聞かれてホイホイついてったある日、デクの家でふと気がついたら無言タイムになった。
その時何故かデクはじーと俺の顔を見つめ続けてくる。
「え、なに。俺の顔になんかついてる?」
「ついてるよ」
冗談で聞いたつもりだったのにとても真剣に見つめて答えてくるので恥ずかしくなってきた。
「え?!?まじで!えっ、どこ?」
「ついてるよ恋煩いの虫が」
は?いや隠してきたはずなのに。いつ?なんで?いや、これこそ冗談かもしれない。
「は?俺が恋してるって言いたいの?」
「うん。そうだよ。だって電気くんの視線熱烈だからね。わかっちゃうよ」
「ははっ、緑谷様には嘘つけねーな。相手誰かわかる?」
これは半分冗談できいた。バレてないって自信があったから。でも答えは俺にクリーンヒットして吹っ飛ばされるものだった。
「僕でしょ」
「え、なん、なんで、いや」
「だから言ったじゃん。僕を見る目が熱烈だって。こんな情熱家な目線でバレないと思った?」
ここまで言い切ったあとデクは盛大にため息を吐いた。外国人のようなやれやれっていうポーズ付きで。でもそのポーズは初めてやりましたという風でかなりぎこちなかったけど。
「いやじゃないよってアピールしてたつもりなのに電気くん全然きがつかないんだもん!焦れったくなって僕から言っちゃった」
デクの気持ちは嬉しい。だけど。
「でも、俺、もう恋するつもりなんか」
「電気くんの過去に何があったかは聞かないけどその恋愛に対して根暗なのどうかと思うんだけどな。僕はオッケーって言ってるんだからもう、よくないかな?だめ?」
「おれ、もう報われない恋なんてしたくないんだ。だから」
ごめんと続けようとしたときまるで幼子をあやすかのように優しく抱きしめられた。
「じゃあ、僕と電気くんと2人でこの恋を報われる恋にしよう?最っ高のハッピーエンドにしようよ」
「なれっかな、ハッピーエンドに。できっかな、報われる恋に」
「なるよ、絶対なる。だって僕らは最高のヒーローになるんだ。最高のヒーローたちの恋が最高で素敵なもの以外なんだって言うんだよ」
俺を抱きしめるデクの横顔を覗くとすべてを包み込むような優しい笑顔だった。なんだか心まで包み込んでくれているようで安心できてようやく俺にも笑う余裕ができた。うまく笑えてる自信はないけど。
「なんでだろデクが言うと本当にそうなる気がしてきた。A組のヒーロー様が言うことはちげぇや」
A組のヒーロー様はお願いを聞いてくれるだろうか?俺の臆病なお願いを。
「なあ、デク。この気持ち、報われる?そう祈ってくれる?」
「電気くんのためなら、いくらでも祈るよ。そして僕が全力で向き合うから」
俺を抱きしめているデクの腕に力がこもる。
「だから、そばにいよう」
「デクが祈り飽きるまでならそばにいるよ。それまではそばにいていいだろ?」
「じゃあ死が2人を分かつまで、だね!」
嬉しそうに叫ぶ声がデクの部屋に響いているようだった。
本当にその日までそばにいられるといい。あの時報われない恋で臆病になってたふわふわで熱いくらいあったかい恋心が微笑んだ気がした。
最初は今どきもうどこの学校もやってねーよって感じの貸出記録が本の最後に挟まってるやつを片っ端から確認してその子の名前がある本を借りて行った。
今思えばストーカーっぽいし昔の映画にそんな話あった気がするしちょっと自分で気持ち悪いな、と思う。
その子と本の話ができるようになった頃、その子には彼氏がいることを知った。でも俺はバカだからそのうち俺の良さに気づいた彼女が俺に乗り換えるだろうと思ってたその時までは。
いつも通り図書室にいくと彼女とその彼氏が痴話喧嘩してるのが聞こえてくる。
「なぁ、お前って本当に本の話題しかないの?もっと雑談しようって気、ある?」
「あ、あるよ。でも、何話したらいいかわからなくて」
その後バカでかいため息と共に彼氏が図書室の扉をこれまたバカでかい音を立てながら去っていく。こっちを見た彼女に全部見ていたことをバレたことに気づいた俺はない頭を回転させてなんて言い訳しようか考えてたら言い訳が口から出てくる前に彼女の頬に涙が一筋流れた。
その表情すら綺麗に見えてうっかり黙り込んでしまっていたら彼女の方から喋り出した。
「ごめんね、醜いところみせちゃって。ちょっと御手洗行ってくるから上鳴くんは好きに図書室使っていいから」
そう言うと声をかける隙間も与えてくれず立ち去ってしまった。方角は女子トイレ。たぶん1人で泣くのだろう。というか醜いところ見せちゃってとはどういう意味なんだろうか。喧嘩が醜いってことなのか、泣いてる姿が醜いってことなのだろうか。後者なら否定しなければいけない。あんな綺麗になく人を初めてみたと思うくらいキレイだったのに。
彼女が借りていた本の1つである石川啄木。石川啄木が残した詩の中に柔らかい雪に火照った頬を押し付けるような恋がしたい、というのがあった。この詩を見た時まさに今の自分だ!って思った。この恋は柔らかい雪で冷ますのが丁度いいって感動していた。でもこの恋を覚ますのは彼女の彼氏たちの言動だった。
彼女は笑顔がとびきり可愛いだけあってお相手の彼氏はたびたび図書室に現れる。でも彼女の彼氏はみんな最後は本以外の話出来ないの?と言って去っていった。そんな姿を何度も見てたらふわふわしてて熱いくらいあったかい恋心が急激に冷えて萎んでいくようだった。
こんなにも報われない恋愛があって、こんなにも話題が盛り上がる俺のところには来てくれない彼女。でもそれでも捨てきれない恋心。
でもそれも卒業間際の一言で砕け散った。
「こんな本のお話できる友達はじめて。すごい嬉しい。ありがとう、私と友達になってくれて」
こんなにそばにいても気持ちは通じないんだ、という気持ちとはじめての友達になれた優越感。
「まじ?そんなこと言われると照れるじゃんかよー!」
なんでもない振りして答えた。下校中も初めての友達の優越感に浸ってた。でも湯船に浸かった瞬間だめだった。彼女の報われない恋と俺の報われない恋。どちらに対してもあまりにも悲しい結末すぎると涙が静かに流れた。そしたらもう、本当にだめになった親に気づかれないよう声を押し殺しながらただひたすら泣き続けた。ここで泣きまくって明日からは初めての友達に戻れますように。そんなこと祈りながら泣いた。立ち上る湯気だけが俺を慰めてくれているようだった。
それから卒業式まで友達としての立ち位置を守り続けた。そんな俺を称えるかのような彼女のお別れの笑顔は桜のようでお別れなのに出会いの花なんだな、なんて考えて1人で苦笑いをした。
最後の校門をくぐる時決意した。もう恋なんてしない、と。
それから雄英高校に入ってからまた彼女と出会った頃のように胸が高鳴る相手がいた。それは緑谷出久。個性は未だよくわかってないけどあのオールマイトのような個性。
でもオールマイトとは違って根暗でオタクで。でも誰よりも最後まで諦めなくて誰よりも最高にカッコイイヒーローだった。どんなピンチでも真っ先に助けに行くメンタリティ。それは誰よりもオールマイトのそれだった。
そんな彼に気がついたら心を奪われていた。親友ポジションでいいから近づきたい、そう思ってしまったから話しかけてしまった。これは最大の失敗だったと思う。
何かと話題の中心になる彼はヒーローオタクなので昨夜テレビで気になったヒーローの名前を挙げると1から10、いや1から100まで語る勢いで話し続ける。
自分だってその語られる側になりうる存在なくせに驕らずヒーロー研究を止めない。
もともと本好きの彼女の話に付き合ってた自分だからそういう己の好きなものを語ってる話に付き合うのは得意分野だ。時間が許す限りずっと相槌を打ちながら聞いていた。
そんなことを続けてたら一緒に出かける仲になり、気づけば互いの家にいくほどまでになった。
今日僕のうちくる?と聞かれてホイホイついてったある日、デクの家でふと気がついたら無言タイムになった。
その時何故かデクはじーと俺の顔を見つめ続けてくる。
「え、なに。俺の顔になんかついてる?」
「ついてるよ」
冗談で聞いたつもりだったのにとても真剣に見つめて答えてくるので恥ずかしくなってきた。
「え?!?まじで!えっ、どこ?」
「ついてるよ恋煩いの虫が」
は?いや隠してきたはずなのに。いつ?なんで?いや、これこそ冗談かもしれない。
「は?俺が恋してるって言いたいの?」
「うん。そうだよ。だって電気くんの視線熱烈だからね。わかっちゃうよ」
「ははっ、緑谷様には嘘つけねーな。相手誰かわかる?」
これは半分冗談できいた。バレてないって自信があったから。でも答えは俺にクリーンヒットして吹っ飛ばされるものだった。
「僕でしょ」
「え、なん、なんで、いや」
「だから言ったじゃん。僕を見る目が熱烈だって。こんな情熱家な目線でバレないと思った?」
ここまで言い切ったあとデクは盛大にため息を吐いた。外国人のようなやれやれっていうポーズ付きで。でもそのポーズは初めてやりましたという風でかなりぎこちなかったけど。
「いやじゃないよってアピールしてたつもりなのに電気くん全然きがつかないんだもん!焦れったくなって僕から言っちゃった」
デクの気持ちは嬉しい。だけど。
「でも、俺、もう恋するつもりなんか」
「電気くんの過去に何があったかは聞かないけどその恋愛に対して根暗なのどうかと思うんだけどな。僕はオッケーって言ってるんだからもう、よくないかな?だめ?」
「おれ、もう報われない恋なんてしたくないんだ。だから」
ごめんと続けようとしたときまるで幼子をあやすかのように優しく抱きしめられた。
「じゃあ、僕と電気くんと2人でこの恋を報われる恋にしよう?最っ高のハッピーエンドにしようよ」
「なれっかな、ハッピーエンドに。できっかな、報われる恋に」
「なるよ、絶対なる。だって僕らは最高のヒーローになるんだ。最高のヒーローたちの恋が最高で素敵なもの以外なんだって言うんだよ」
俺を抱きしめるデクの横顔を覗くとすべてを包み込むような優しい笑顔だった。なんだか心まで包み込んでくれているようで安心できてようやく俺にも笑う余裕ができた。うまく笑えてる自信はないけど。
「なんでだろデクが言うと本当にそうなる気がしてきた。A組のヒーロー様が言うことはちげぇや」
A組のヒーロー様はお願いを聞いてくれるだろうか?俺の臆病なお願いを。
「なあ、デク。この気持ち、報われる?そう祈ってくれる?」
「電気くんのためなら、いくらでも祈るよ。そして僕が全力で向き合うから」
俺を抱きしめているデクの腕に力がこもる。
「だから、そばにいよう」
「デクが祈り飽きるまでならそばにいるよ。それまではそばにいていいだろ?」
「じゃあ死が2人を分かつまで、だね!」
嬉しそうに叫ぶ声がデクの部屋に響いているようだった。
本当にその日までそばにいられるといい。あの時報われない恋で臆病になってたふわふわで熱いくらいあったかい恋心が微笑んだ気がした。