上鳴電気×緑谷出久
これは、私が初恋を乗り越えて二人を見守ると誓う話だ。
私、麗日お茶子。雄英高校一年生。緑谷出久くんことデクくんに絶賛片思い中。
恋を自覚してからは毎日がドキドキで楽しい!些細なことで幸せをかんじちゃったり。
そんな日々を送るなか、いつも通り登校した私は一人で音楽を教室で聞いていた上鳴くんになんとなくだけど声をかけた。何を聞いてる、の答えが聞ければそれでよかったのに。
「ねえ上鳴くん、なに聴いてるの?」
「おお、麗日さんか!この間のドラマの主題歌のやつなんだけどさ」
そう言いながらイヤフォンを外した上鳴くんのイヤフォンの先、耳の中に入る部分のカバーが緑色なことに気付いた。今やいろんな色のカバーが売ってるのは知ってたけど実際に見えないところまでこだわってる人なんて見たことなかったからそのことについて聞いてみることにした。
「上鳴くんってイヤフォンのさきっちょまでこだわってるんだね」
「ああ、これ?見えないところも気を使ってこそオシャレジョーキューシャってやつ?」
得意げにイヤフォンをいじってる姿をみて思わず笑う。やっぱり誰かに気付いてほしかったのかな?
「へぇ、お洒落さんは違うなあ」
そんな会話をしたまた別の日、登校中のデクくんを見つけた私は思わず声をかけた。
その時のデクくんも何かイヤフォンで聞いてる最中なようだった。何を聴いているのか、が話のきっかけだな、なんて思いながらデクくんの肩を叩く。
「おはよう!デクくん。なに聴いてたの?」
「うわっ、なんだ麗日さんか。プレゼントマイクのラジオの過去ログを聴いてたんだ」
私の質問に答えながらイヤフォンを外すデクくんのイヤフォンの先が緑色のことに気付いた。
「あれっ、デクくんもイヤフォンの先緑色にしてるんだ!上鳴くんと一緒だね!」
「えっ?!電気くんと……あっ、えっ、それは偶然だなあ!こ、こんなこと被るんだね!あははははは……」
視線を彷徨わせながら頭を掻く姿をみて女の直感みたいなものが働いた。
これは偶然なんかじゃないな。もしかして二人って。いやデクくんが偶然って言うなら偶然なのかな。そうであってほしいな。
青山くんやヴィラン連合の女の子に言われて気づいてしまったこの気持ち。
だから誰よりも好きな人の変化には敏感なんだ。
だから、靴紐の色が変わったことだってすぐに気づいた。
授業が校庭でやることになって靴を履き替えていたときにすぐさま気づき、会話をするチャンスだと思わず話しかけていた。
「あれ、デクくん靴紐前黒じゃなかった?」
「えっ、あ、ああ、そう、そうなんだ、ちょっと変えてみたんだ。前のがダメになったから。色付きの靴っておしゃれかなーって。でもちょっと変だったかな」
「ううん、そんなことない。似合ってるよ。靴が赤いから派手派手になった気がする!足元からお洒落って素敵だと思うな」
靴紐を褒めていると予想に反してデクくんは目線を地面にやって頬を搔いていた。そしてただ一言ありがとう、と呟いた。
その様子を見てきっと上鳴くんの靴紐も黄色になってるんだろうなっていう予想をした。
たぶんそうなんだろうなって確信を持ってる私とそんなことないよって否定したい私もいる。前回のイヤフォンの先がお揃いだったのはたまたまだってそう思いたいけど女の直感が告げてくる。
見たら後悔するなんてわかりきってたのに私は下校のとき上鳴くんの靴箱をそっと覗いてみた。
上鳴くんの靴には新品の黄色い靴紐が結われていた。
それを見た私は一体どうやって帰ってきたのかわからなかった。誰かに何かを言われたわけでもないのに確信した失恋に帰る道すがらずっと涙が止まらない。すれ違うひとたちにぎょっとされるのも気にならなかった。
幸い今日は金曜日で、土日はなんの予定もない。こういうときだけ都合が良くて私は一人で散々泣き喚いた。
散々泣いて涙も枯れてきた頃。ふとあることに気付いた。もしかして、私だけ?私だけが二人のことに気づいてる?
休日があけた、登校する足取りが重くなる月曜日。基礎体力向上のための校庭外周マラソンの授業のときスタート地点で準備運動をしているデクくんのそばに立つ。
「ね、デクくんに聞きたいことがあるんだ。多分人に聞かれたくない話だと思うから走りながらでもいい?」
何を聞かれるのだろうかという不安そうな顔をしたデクくんが私の真剣な目に気付いたのか一瞬息を飲んだ。そしてしっかり見つめ返してくれる。
「わかった。なんでも聞いて。ものによっては答えられないかもしれないけど答えられる範囲で答えるよ」
その瞬間プレゼントマイクの声が響いた。
「ヨォォォイ、スタート!」
走り始めた最初の十分はお互い無言だった。
デクくんはきっと私が話し始めるのを待ってたんだろうし、私は話すきっかけの言葉を探っていたせいだ。
「ねえ」
ついに私は口を動かした。もうなるようになれ!
「イヤフォンの先が緑色なのも靴紐が黄色なのも上鳴くんとお揃いなんだよね?」
私の質問を聞いたデクくんがものすごい勢いで横を向く。私の方を見るデクくんはさながら罠に引っかかったウサギのようだった。
「な、なんで知ってるの?!電気くんが何か言った?!」
「ううん、私が勝手にそうかな、と思ったの。でも、合ってたんだね」
さらりと、なんでもない風を装って。そう自分に言い聞かせて一番聞きたかったことを問う。
「隠さなくていいよ、付き合ってるんだよね」
「いや、付き合ってるかといわれるとノーなんだけど」
突然のコイバナにあからさまに照れてるデクくんはもじもじと話を続ける。
「ノーなんだけどそれでもなんて言えばいいのかわからないけど電気くんの一番そばにいるのは僕がいいって思っちゃうんだ。身体が、じゃなくて心がって話なんだけど。反対に僕のそばにいるのも電気くんがいいなって思うんだ。他の誰かじゃなくて。しかもなんとなくそう思ってるだけだったのに、お互い。気持ちだけじゃ我慢できなくなっちゃったんだ。だから人目につくようでつかないところでお揃いをしようってなって。ささやかな僕らの主張であり、反抗、みたいな?」
「じゃあそのささやかな主張を受け取った一番手が私なんだね」
声に出さなかったけど思わず、よかった、なんて言いそうになった。
初めての恋、初めての失恋。でも初めて共有した秘密。
「なーなー、そのコイバナに俺も入れてくれよ!水くせーなー!」
後ろから声がかかったと思ったら私とデクくんの肩を叩いたのは話題の張本人上鳴電気くんだった。
「ね、麗日さん」
私に話しかけてきた上鳴くんはいたずらっこの笑顔を浮かべている。
「俺たちの秘密共有者の証として一緒にオソロしない?」
秘密の共有者の証。私にとってとっても甘美な響きがした。
「い、いいの?」
ちょっと不安そうな声で聞いてしまったけど上鳴くんはやっぱりいたずらっ子のような眩しい笑顔だった。
「でもその代わり誰にも言いふらすなよー!」
「しないよ、そんなこと」
「じゃ、今日放課後買い出しに行こうぜ。靴紐とイヤーパッド。思い立ったが吉日、ってな」
そう言い残すと上鳴くんは私たちを追い抜いていった。その背中はなんだかまぶしくて思わず瞼を閉じそうになる。
あんなに悲しんでた土日がウソのように今、ちょっとだけドキドキしてる。私たちだけの秘密。なんて素敵なんだろうと心の中でうっとりした。
放課後になって木椰区のショッピングモールにきた。ここにクラスメイトと来るのは林間学校前にみんなで買い出しに行ったとき以来だ。
二人はどこで買ったかなんて忘れるわけがなく迷わずショッピングモールの中を進む。
電気屋のイヤフォンコーナーで緑色のイヤーパッドを、靴屋のレジ前にある靴紐コーナーで黄色の靴紐を、それぞれお揃いのものを手に入れる。
「明日から、いや今日から秘密の共有者、だね」
人差し指を立てて小声でささやくデクくんをみたら急に泣き腫らした恋心が笑ったような気がした。
そういえばファッション雑誌がほしかったところだったんだと思い出した私は二人に本屋に寄っていいか聞いた。
二人からオーケーをもらったので本屋の方向へと歩き出した。
本屋に着いたら私と上鳴くんはファッション雑誌の、デクくんはテレビガイド誌の棚へと向かう。
私がファッション雑誌を物色してると隣にいる上鳴くんが自分のお目当てのものを探さずに爪をいじりながらなんでもないように小声で話しかけてきた。
「出久はまだ恋愛感情って認識してないみたいだからまだそっとしておくつもりなんだ、俺。絶対卒業までに自覚させてみせる。そしてプロになった暁には正式に告る。ね、それまで静かに俺たちを見守っててよ麗日さん。俺たちの女神になってほしい。いつの日かこの関係がオープンにできるその日、までさ」
ああ、気づいてたんだ上鳴くん。私の気持ちに。諦めきれない私に残酷で優しい役目を与えてくれるんだね。
きっとこの恋心が完全に消化しておめでとうって言うその日まで。どうする?私?答えは決まってる。
「オープンにしたその日まで、でいいの?」
「え?……それって」
「最後まで見届けるよ、二人の女神さまになるんだったら。最後まで見届ける。だから私長生きしなきゃなー!可愛いおばあちゃんになって、それでも見守ってるから、私」
上鳴くんがこりゃまいったぜと言わんばかりに両手を上げてやれやれのポーズをとっていた。
「まじかよ……そこまでしてくれんの?なら、俺たちの女神さまに愛想尽かれないように頑張らないとじゃん」
そういう上鳴くんを見て私は思わず笑った。どっちも責任重大だね。なんてね。
そんな私たちに呼びかける声が聞こえてきた。
「おーい、二人とも買うもの決まった?僕はオールマイトが表紙のテレビガイド誌買っちゃった!」
と、戦利品にホクホクしているんだなとわかる嬉しそうな声で私たちのもとにやってきた。でみどう見ても雑誌を探しているようには見えないだろう私たちをみて不思議そうな顔をして立ち止まる。
「なに、してたの?ふたりとも」
「んー?今日から私は二人の秘密を見届ける女神様だねって話」
私の返事を聞いたデクくんは急に眼を輝かせる。
「女神様?!それはいい!スゴくいいと思う!女神様って感じだよね麗日さんって!ピッタリだと思う!」
「いやーそんな褒められても困りますがな」
褒められて照れてると、上鳴くんがまじまじとこっちを見てきた。なんなんだようと思っていると上鳴くんが笑顔になる。
「照れてる麗日さんって珍しくない?記念にトッピングマシマシのカフェオレ奢ってあげよっかなー」
「まじ?!上鳴くんサイッコー!」
私が大げさに喜ぶと二人が笑いだす。そんな楽しそうな三人の笑い声と共にカフェに姿を消していった。
さようなら、私の初恋。死が二人を分かつまで。私はこの泣き腫らした恋心と共に緑谷出久と上鳴電気をいつまでも見守っていくことでしょう。
それは残酷だけどとても幸せな日々だと思うのです。
私、麗日お茶子。雄英高校一年生。緑谷出久くんことデクくんに絶賛片思い中。
恋を自覚してからは毎日がドキドキで楽しい!些細なことで幸せをかんじちゃったり。
そんな日々を送るなか、いつも通り登校した私は一人で音楽を教室で聞いていた上鳴くんになんとなくだけど声をかけた。何を聞いてる、の答えが聞ければそれでよかったのに。
「ねえ上鳴くん、なに聴いてるの?」
「おお、麗日さんか!この間のドラマの主題歌のやつなんだけどさ」
そう言いながらイヤフォンを外した上鳴くんのイヤフォンの先、耳の中に入る部分のカバーが緑色なことに気付いた。今やいろんな色のカバーが売ってるのは知ってたけど実際に見えないところまでこだわってる人なんて見たことなかったからそのことについて聞いてみることにした。
「上鳴くんってイヤフォンのさきっちょまでこだわってるんだね」
「ああ、これ?見えないところも気を使ってこそオシャレジョーキューシャってやつ?」
得意げにイヤフォンをいじってる姿をみて思わず笑う。やっぱり誰かに気付いてほしかったのかな?
「へぇ、お洒落さんは違うなあ」
そんな会話をしたまた別の日、登校中のデクくんを見つけた私は思わず声をかけた。
その時のデクくんも何かイヤフォンで聞いてる最中なようだった。何を聴いているのか、が話のきっかけだな、なんて思いながらデクくんの肩を叩く。
「おはよう!デクくん。なに聴いてたの?」
「うわっ、なんだ麗日さんか。プレゼントマイクのラジオの過去ログを聴いてたんだ」
私の質問に答えながらイヤフォンを外すデクくんのイヤフォンの先が緑色のことに気付いた。
「あれっ、デクくんもイヤフォンの先緑色にしてるんだ!上鳴くんと一緒だね!」
「えっ?!電気くんと……あっ、えっ、それは偶然だなあ!こ、こんなこと被るんだね!あははははは……」
視線を彷徨わせながら頭を掻く姿をみて女の直感みたいなものが働いた。
これは偶然なんかじゃないな。もしかして二人って。いやデクくんが偶然って言うなら偶然なのかな。そうであってほしいな。
青山くんやヴィラン連合の女の子に言われて気づいてしまったこの気持ち。
だから誰よりも好きな人の変化には敏感なんだ。
だから、靴紐の色が変わったことだってすぐに気づいた。
授業が校庭でやることになって靴を履き替えていたときにすぐさま気づき、会話をするチャンスだと思わず話しかけていた。
「あれ、デクくん靴紐前黒じゃなかった?」
「えっ、あ、ああ、そう、そうなんだ、ちょっと変えてみたんだ。前のがダメになったから。色付きの靴っておしゃれかなーって。でもちょっと変だったかな」
「ううん、そんなことない。似合ってるよ。靴が赤いから派手派手になった気がする!足元からお洒落って素敵だと思うな」
靴紐を褒めていると予想に反してデクくんは目線を地面にやって頬を搔いていた。そしてただ一言ありがとう、と呟いた。
その様子を見てきっと上鳴くんの靴紐も黄色になってるんだろうなっていう予想をした。
たぶんそうなんだろうなって確信を持ってる私とそんなことないよって否定したい私もいる。前回のイヤフォンの先がお揃いだったのはたまたまだってそう思いたいけど女の直感が告げてくる。
見たら後悔するなんてわかりきってたのに私は下校のとき上鳴くんの靴箱をそっと覗いてみた。
上鳴くんの靴には新品の黄色い靴紐が結われていた。
それを見た私は一体どうやって帰ってきたのかわからなかった。誰かに何かを言われたわけでもないのに確信した失恋に帰る道すがらずっと涙が止まらない。すれ違うひとたちにぎょっとされるのも気にならなかった。
幸い今日は金曜日で、土日はなんの予定もない。こういうときだけ都合が良くて私は一人で散々泣き喚いた。
散々泣いて涙も枯れてきた頃。ふとあることに気付いた。もしかして、私だけ?私だけが二人のことに気づいてる?
休日があけた、登校する足取りが重くなる月曜日。基礎体力向上のための校庭外周マラソンの授業のときスタート地点で準備運動をしているデクくんのそばに立つ。
「ね、デクくんに聞きたいことがあるんだ。多分人に聞かれたくない話だと思うから走りながらでもいい?」
何を聞かれるのだろうかという不安そうな顔をしたデクくんが私の真剣な目に気付いたのか一瞬息を飲んだ。そしてしっかり見つめ返してくれる。
「わかった。なんでも聞いて。ものによっては答えられないかもしれないけど答えられる範囲で答えるよ」
その瞬間プレゼントマイクの声が響いた。
「ヨォォォイ、スタート!」
走り始めた最初の十分はお互い無言だった。
デクくんはきっと私が話し始めるのを待ってたんだろうし、私は話すきっかけの言葉を探っていたせいだ。
「ねえ」
ついに私は口を動かした。もうなるようになれ!
「イヤフォンの先が緑色なのも靴紐が黄色なのも上鳴くんとお揃いなんだよね?」
私の質問を聞いたデクくんがものすごい勢いで横を向く。私の方を見るデクくんはさながら罠に引っかかったウサギのようだった。
「な、なんで知ってるの?!電気くんが何か言った?!」
「ううん、私が勝手にそうかな、と思ったの。でも、合ってたんだね」
さらりと、なんでもない風を装って。そう自分に言い聞かせて一番聞きたかったことを問う。
「隠さなくていいよ、付き合ってるんだよね」
「いや、付き合ってるかといわれるとノーなんだけど」
突然のコイバナにあからさまに照れてるデクくんはもじもじと話を続ける。
「ノーなんだけどそれでもなんて言えばいいのかわからないけど電気くんの一番そばにいるのは僕がいいって思っちゃうんだ。身体が、じゃなくて心がって話なんだけど。反対に僕のそばにいるのも電気くんがいいなって思うんだ。他の誰かじゃなくて。しかもなんとなくそう思ってるだけだったのに、お互い。気持ちだけじゃ我慢できなくなっちゃったんだ。だから人目につくようでつかないところでお揃いをしようってなって。ささやかな僕らの主張であり、反抗、みたいな?」
「じゃあそのささやかな主張を受け取った一番手が私なんだね」
声に出さなかったけど思わず、よかった、なんて言いそうになった。
初めての恋、初めての失恋。でも初めて共有した秘密。
「なーなー、そのコイバナに俺も入れてくれよ!水くせーなー!」
後ろから声がかかったと思ったら私とデクくんの肩を叩いたのは話題の張本人上鳴電気くんだった。
「ね、麗日さん」
私に話しかけてきた上鳴くんはいたずらっこの笑顔を浮かべている。
「俺たちの秘密共有者の証として一緒にオソロしない?」
秘密の共有者の証。私にとってとっても甘美な響きがした。
「い、いいの?」
ちょっと不安そうな声で聞いてしまったけど上鳴くんはやっぱりいたずらっ子のような眩しい笑顔だった。
「でもその代わり誰にも言いふらすなよー!」
「しないよ、そんなこと」
「じゃ、今日放課後買い出しに行こうぜ。靴紐とイヤーパッド。思い立ったが吉日、ってな」
そう言い残すと上鳴くんは私たちを追い抜いていった。その背中はなんだかまぶしくて思わず瞼を閉じそうになる。
あんなに悲しんでた土日がウソのように今、ちょっとだけドキドキしてる。私たちだけの秘密。なんて素敵なんだろうと心の中でうっとりした。
放課後になって木椰区のショッピングモールにきた。ここにクラスメイトと来るのは林間学校前にみんなで買い出しに行ったとき以来だ。
二人はどこで買ったかなんて忘れるわけがなく迷わずショッピングモールの中を進む。
電気屋のイヤフォンコーナーで緑色のイヤーパッドを、靴屋のレジ前にある靴紐コーナーで黄色の靴紐を、それぞれお揃いのものを手に入れる。
「明日から、いや今日から秘密の共有者、だね」
人差し指を立てて小声でささやくデクくんをみたら急に泣き腫らした恋心が笑ったような気がした。
そういえばファッション雑誌がほしかったところだったんだと思い出した私は二人に本屋に寄っていいか聞いた。
二人からオーケーをもらったので本屋の方向へと歩き出した。
本屋に着いたら私と上鳴くんはファッション雑誌の、デクくんはテレビガイド誌の棚へと向かう。
私がファッション雑誌を物色してると隣にいる上鳴くんが自分のお目当てのものを探さずに爪をいじりながらなんでもないように小声で話しかけてきた。
「出久はまだ恋愛感情って認識してないみたいだからまだそっとしておくつもりなんだ、俺。絶対卒業までに自覚させてみせる。そしてプロになった暁には正式に告る。ね、それまで静かに俺たちを見守っててよ麗日さん。俺たちの女神になってほしい。いつの日かこの関係がオープンにできるその日、までさ」
ああ、気づいてたんだ上鳴くん。私の気持ちに。諦めきれない私に残酷で優しい役目を与えてくれるんだね。
きっとこの恋心が完全に消化しておめでとうって言うその日まで。どうする?私?答えは決まってる。
「オープンにしたその日まで、でいいの?」
「え?……それって」
「最後まで見届けるよ、二人の女神さまになるんだったら。最後まで見届ける。だから私長生きしなきゃなー!可愛いおばあちゃんになって、それでも見守ってるから、私」
上鳴くんがこりゃまいったぜと言わんばかりに両手を上げてやれやれのポーズをとっていた。
「まじかよ……そこまでしてくれんの?なら、俺たちの女神さまに愛想尽かれないように頑張らないとじゃん」
そういう上鳴くんを見て私は思わず笑った。どっちも責任重大だね。なんてね。
そんな私たちに呼びかける声が聞こえてきた。
「おーい、二人とも買うもの決まった?僕はオールマイトが表紙のテレビガイド誌買っちゃった!」
と、戦利品にホクホクしているんだなとわかる嬉しそうな声で私たちのもとにやってきた。でみどう見ても雑誌を探しているようには見えないだろう私たちをみて不思議そうな顔をして立ち止まる。
「なに、してたの?ふたりとも」
「んー?今日から私は二人の秘密を見届ける女神様だねって話」
私の返事を聞いたデクくんは急に眼を輝かせる。
「女神様?!それはいい!スゴくいいと思う!女神様って感じだよね麗日さんって!ピッタリだと思う!」
「いやーそんな褒められても困りますがな」
褒められて照れてると、上鳴くんがまじまじとこっちを見てきた。なんなんだようと思っていると上鳴くんが笑顔になる。
「照れてる麗日さんって珍しくない?記念にトッピングマシマシのカフェオレ奢ってあげよっかなー」
「まじ?!上鳴くんサイッコー!」
私が大げさに喜ぶと二人が笑いだす。そんな楽しそうな三人の笑い声と共にカフェに姿を消していった。
さようなら、私の初恋。死が二人を分かつまで。私はこの泣き腫らした恋心と共に緑谷出久と上鳴電気をいつまでも見守っていくことでしょう。
それは残酷だけどとても幸せな日々だと思うのです。
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