それぞれの話
おなまえをおしえてね
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「ブレンドコーヒーのブラックふたつと、ミルクたっぷりカフェオレね。あーこれ、おまけのクッキー」
「ありがとうございます」
モリッツとデュベルが経営するカフェ、お昼時を過ぎてそろそろお茶の時間、そんな頃合にミラーはバルチカと共にお使いにやってきた。タンブラーはみっつ、それぞれ家族が飲む用のコーヒー(ミラーはカフェオレを持って帰って家で砂糖を足す)をたっぷり入れてもらって、バルチカがお会計をしている。
店内は人影がまばらで、ゆったりした時間が流れていた。
「あ、そうだ、ふたりともこの後は暇?」
「ゴ主人 待タセルト 面倒」
「帰ったら、みんなでこのコーヒーを飲みます」
「そっかー、じゃあ仕方ないね」
冗談が返ってくることもなく、モリッツは笑ってあっさり引き下がる。いつものことだ。
「デハ」
「お気を付けて」
カウンターで夜のためのグラスを磨くデュベルは、静かに会釈した。ミラーとバルチカが行儀よく会釈を返す。
あのふたりが来るようになって3年ほど。初めは驚いたが、今は同じ隊で活動していることもあって、結構慣れた。訓練所で一緒にランニングしたっけ。こっちは歳だし、向こうはアンドロイドとホムンクルス、初老(意地でも中年なんて言わない!)の地球人がかなうはずもなくて、こっちが1周して腰をおさえていた頃、ふたりはやすやすと周回していた。
「いいお育ちしてるよねぇ、あのふたり」
「ハイトさんの教え方が良いのだろうな」
「たまには本人も来ればいいのに」
「人付き合いが苦手と伺っている、……特にお前のような男は相手にしづらいのではないか」
「だいぶ前に来た時目を合わせてくれなかったもんね」
「訓練所でお会いした時は、挨拶はしてくださったが」
「えっ」
「ん?」
「俺逃げられたんだけど……」
悲しいなあ。地球にいた頃の話とか、もう少ししたい。モリッツは人が好きだ。かわいい女の子はもちろんだし、綺麗なお姉さんもうきうきする。元気のいい男子は沢山食べてもらいたくなるし、ミドルは共に悲哀を分かち合いたい。
ハイトはひとりでプネブマに飛んできた。モリッツはデュベルと一緒だったから耐えられたことも多い(絶対本人には言わないけど)。寂しくなかったんだろうか。
あ、寂しかったからあのふたりを作ったのか。
「あーあ、寂しいなあ」
「なんだ、急に」
「ハイト博士に頼んでかわいい恋人ロボットでも作ってもらおうかなあ」
「動機が不純すぎるだろう、それは」
「俺も家族欲しい」
「真面目にお相手を見つければいい」
「俺はいつだって恋には真面目よ?」
デュベルは涼しい顔で何も言わなかった。ふざけてないのよ、大真面目。聞いてる?ねえ。
カランカラン、と店の扉から音が鳴った。
「いらっしゃいませ、どうぞお好きなお席に……」
「いらっしゃーい、ちょうどクッキーが焼きたてだよ」
お仕事お仕事、客商売はモリッツにとって天職だ。入ってきた触手のお嬢さんと、腕が6本ある素敵な彼氏にメニューを渡す。ふたりともデート中?いいねー、ごゆっくりどうぞ。何気ない会話が心を潤す。
苦手とか言ってないでさ、来てみてよ。伝わるかな。注文をとりながら、渡したクッキーの袋に思いを馳せた。
「クッキー?」
「おまけ、でくださいました」
「……そうか、お礼はちゃんと言ったか?」
「モチノロン」
「うんうん、それじゃ有難くいただいて……ん?」
「紙切レ ヲ 発見シタ」
「字が書いてあります」
「手紙……?」
ハイトはクッキーの袋に入っていた、可愛らしい紙を開いた。誰の趣味かはなんとなくわかる。気取った字が踊っていた。
「……」
「ラブレター カ? トウトウ 39サイ 二 春ガ 来タ可能性、イヤ、ナイカー」
「? 春? ハイト様に……? 花が咲いたり、蝶が飛んだりするのですか?」
「オオヨソ 似タヨウナ 光景二 ナル」
「春とは、いろいろなところに訪れるのですね」
「あのね、違うからな」
「知ッテタ」
「ミラーに変なこと教えるなよ」
「ハイト様に春は来ていないのですか?」
「…………………うん、来てないよ、うん」
参ったな、ハイトは頭をかいた。自分の人付き合いの苦手さはわかりきったことではあったけれど、だからって失礼な態度は取りたくない。というか、失礼にならないように気を付けすぎてしまうくらいで。
あの人、すごいな。いや、自分がわかりやすいのかな。他人に興味のある人間の洞察力は、ハイトには無い力である。
コーヒーが冷めてしまう。ふたりを席に誘導しながら、今夜は早く寝ようと決めた。
カランカラン、扉が来客をうたう。バルチカとミラーが、またコーヒーを買いに来た。
「いらっしゃーい、ちょっと待ってね」
「はい、待ちます」
「モリッツ、今日ハ 渡スモノガ アリマス」
バルチカがすっと、可愛らしい模様の箱を差し出した。これ、なんか、アニメ……の、キャラっぽい……?朝早く起きた時に見たことあるような。なんだっけ。誰の趣味?この子達が見てるのかな。モリッツは箱を受取った。
「クッキー ノ オ礼」
「大変美味しくいただきました」
「わーお」
箱には、これまたかわいらしいマカロンがころころと入っていた。ももいろみどりきいろちゃいろ、どれが何味なのか。バルチカとミラーが作ったのだと言う。この子達すごいなあ。デュベルに見せるとやはり、感心して微笑んでいた。
「……あれ」
箱の中にマカロンではない何かがある。紙切れだ。開いて読むと、きちんと整理整頓された文字が書かれていた。
「……」
真面目だなあ。几帳面?人付き合いが苦手だなんて嘘みたいだけど、手紙で返してくる上に本人が来ないのがその証明なのだろう。
「いい人だねえ、あんた達のご主人」
「ソウデモナイ」
「まあまあ、座っててよ」
2人をカウンターに座らせる。すると、バルチカがモリッツをじっと見た。
「何?」
「……アレカラ ゴ主人ノ 睡眠時間ガ 1時間 増エタ」
「あら、そうなの?いつもクマがひどいもんね、無理しちゃだめだよー、今いくつだっけ?」
「39サイ」
「あー、もういろいろとガタが来る頃よねー、今の俺よりマシだけどさあ」
「……」
「ほんと、体は大事にしないと」
「……私モ 今後 注意スル」
アリガトウゴザイマシタ。バルチカのお礼は素直だった。
いいな、モリッツはほんとうに羨ましくなった。いいな。一緒に住んでる家族って。互いを思いあって、暮らしてる。いいな。そんな家族を作ることのできたハイトという人は、すごい。
「じゃあ今度お礼に、俺専用の恋人ロボット作って貰っちゃえたりしない?」
「…………アンタモ ソッチノ 趣味 ナノ」
「あんたも?」
「ナンデモナッシング」
「恋人…まほ様のことですか? それともあの」
「ミラー、シーッ」
「しーっ、なのですか」
「シーッ、デスヨ」
恋人いたんだ。へー、いたんだ! その話もっと聞きたい! モリッツは身を乗り出したが、デュベルに睨まれたのでやめた。
(いつかちゃんと話そうよ)
「ありがとうございます」
モリッツとデュベルが経営するカフェ、お昼時を過ぎてそろそろお茶の時間、そんな頃合にミラーはバルチカと共にお使いにやってきた。タンブラーはみっつ、それぞれ家族が飲む用のコーヒー(ミラーはカフェオレを持って帰って家で砂糖を足す)をたっぷり入れてもらって、バルチカがお会計をしている。
店内は人影がまばらで、ゆったりした時間が流れていた。
「あ、そうだ、ふたりともこの後は暇?」
「ゴ主人 待タセルト 面倒」
「帰ったら、みんなでこのコーヒーを飲みます」
「そっかー、じゃあ仕方ないね」
冗談が返ってくることもなく、モリッツは笑ってあっさり引き下がる。いつものことだ。
「デハ」
「お気を付けて」
カウンターで夜のためのグラスを磨くデュベルは、静かに会釈した。ミラーとバルチカが行儀よく会釈を返す。
あのふたりが来るようになって3年ほど。初めは驚いたが、今は同じ隊で活動していることもあって、結構慣れた。訓練所で一緒にランニングしたっけ。こっちは歳だし、向こうはアンドロイドとホムンクルス、初老(意地でも中年なんて言わない!)の地球人がかなうはずもなくて、こっちが1周して腰をおさえていた頃、ふたりはやすやすと周回していた。
「いいお育ちしてるよねぇ、あのふたり」
「ハイトさんの教え方が良いのだろうな」
「たまには本人も来ればいいのに」
「人付き合いが苦手と伺っている、……特にお前のような男は相手にしづらいのではないか」
「だいぶ前に来た時目を合わせてくれなかったもんね」
「訓練所でお会いした時は、挨拶はしてくださったが」
「えっ」
「ん?」
「俺逃げられたんだけど……」
悲しいなあ。地球にいた頃の話とか、もう少ししたい。モリッツは人が好きだ。かわいい女の子はもちろんだし、綺麗なお姉さんもうきうきする。元気のいい男子は沢山食べてもらいたくなるし、ミドルは共に悲哀を分かち合いたい。
ハイトはひとりでプネブマに飛んできた。モリッツはデュベルと一緒だったから耐えられたことも多い(絶対本人には言わないけど)。寂しくなかったんだろうか。
あ、寂しかったからあのふたりを作ったのか。
「あーあ、寂しいなあ」
「なんだ、急に」
「ハイト博士に頼んでかわいい恋人ロボットでも作ってもらおうかなあ」
「動機が不純すぎるだろう、それは」
「俺も家族欲しい」
「真面目にお相手を見つければいい」
「俺はいつだって恋には真面目よ?」
デュベルは涼しい顔で何も言わなかった。ふざけてないのよ、大真面目。聞いてる?ねえ。
カランカラン、と店の扉から音が鳴った。
「いらっしゃいませ、どうぞお好きなお席に……」
「いらっしゃーい、ちょうどクッキーが焼きたてだよ」
お仕事お仕事、客商売はモリッツにとって天職だ。入ってきた触手のお嬢さんと、腕が6本ある素敵な彼氏にメニューを渡す。ふたりともデート中?いいねー、ごゆっくりどうぞ。何気ない会話が心を潤す。
苦手とか言ってないでさ、来てみてよ。伝わるかな。注文をとりながら、渡したクッキーの袋に思いを馳せた。
「クッキー?」
「おまけ、でくださいました」
「……そうか、お礼はちゃんと言ったか?」
「モチノロン」
「うんうん、それじゃ有難くいただいて……ん?」
「紙切レ ヲ 発見シタ」
「字が書いてあります」
「手紙……?」
ハイトはクッキーの袋に入っていた、可愛らしい紙を開いた。誰の趣味かはなんとなくわかる。気取った字が踊っていた。
「……」
「ラブレター カ? トウトウ 39サイ 二 春ガ 来タ可能性、イヤ、ナイカー」
「? 春? ハイト様に……? 花が咲いたり、蝶が飛んだりするのですか?」
「オオヨソ 似タヨウナ 光景二 ナル」
「春とは、いろいろなところに訪れるのですね」
「あのね、違うからな」
「知ッテタ」
「ミラーに変なこと教えるなよ」
「ハイト様に春は来ていないのですか?」
「…………………うん、来てないよ、うん」
参ったな、ハイトは頭をかいた。自分の人付き合いの苦手さはわかりきったことではあったけれど、だからって失礼な態度は取りたくない。というか、失礼にならないように気を付けすぎてしまうくらいで。
あの人、すごいな。いや、自分がわかりやすいのかな。他人に興味のある人間の洞察力は、ハイトには無い力である。
コーヒーが冷めてしまう。ふたりを席に誘導しながら、今夜は早く寝ようと決めた。
カランカラン、扉が来客をうたう。バルチカとミラーが、またコーヒーを買いに来た。
「いらっしゃーい、ちょっと待ってね」
「はい、待ちます」
「モリッツ、今日ハ 渡スモノガ アリマス」
バルチカがすっと、可愛らしい模様の箱を差し出した。これ、なんか、アニメ……の、キャラっぽい……?朝早く起きた時に見たことあるような。なんだっけ。誰の趣味?この子達が見てるのかな。モリッツは箱を受取った。
「クッキー ノ オ礼」
「大変美味しくいただきました」
「わーお」
箱には、これまたかわいらしいマカロンがころころと入っていた。ももいろみどりきいろちゃいろ、どれが何味なのか。バルチカとミラーが作ったのだと言う。この子達すごいなあ。デュベルに見せるとやはり、感心して微笑んでいた。
「……あれ」
箱の中にマカロンではない何かがある。紙切れだ。開いて読むと、きちんと整理整頓された文字が書かれていた。
「……」
真面目だなあ。几帳面?人付き合いが苦手だなんて嘘みたいだけど、手紙で返してくる上に本人が来ないのがその証明なのだろう。
「いい人だねえ、あんた達のご主人」
「ソウデモナイ」
「まあまあ、座っててよ」
2人をカウンターに座らせる。すると、バルチカがモリッツをじっと見た。
「何?」
「……アレカラ ゴ主人ノ 睡眠時間ガ 1時間 増エタ」
「あら、そうなの?いつもクマがひどいもんね、無理しちゃだめだよー、今いくつだっけ?」
「39サイ」
「あー、もういろいろとガタが来る頃よねー、今の俺よりマシだけどさあ」
「……」
「ほんと、体は大事にしないと」
「……私モ 今後 注意スル」
アリガトウゴザイマシタ。バルチカのお礼は素直だった。
いいな、モリッツはほんとうに羨ましくなった。いいな。一緒に住んでる家族って。互いを思いあって、暮らしてる。いいな。そんな家族を作ることのできたハイトという人は、すごい。
「じゃあ今度お礼に、俺専用の恋人ロボット作って貰っちゃえたりしない?」
「…………アンタモ ソッチノ 趣味 ナノ」
「あんたも?」
「ナンデモナッシング」
「恋人…まほ様のことですか? それともあの」
「ミラー、シーッ」
「しーっ、なのですか」
「シーッ、デスヨ」
恋人いたんだ。へー、いたんだ! その話もっと聞きたい! モリッツは身を乗り出したが、デュベルに睨まれたのでやめた。
(いつかちゃんと話そうよ)
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