バルチカ
おなまえをおしえてね
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「国民ヒーローカードチョコ」
つい声に出た。スーパーで買い物中、たまたま通りがかったお菓子売り場で見つけてしまったのだ。
「こくみんひーろーかーどちょこ」
手に取ってみた。何これ。見覚えのある顔がパッケージに載っている。上を見上げた。棚には「食玩コーナー」と書いてある。パッケージをよくよく見ると「神託の指揮官隊編」の文字。神託の指揮官隊編。へえ。えっ、いつこんなの出たの。
「こくみんひー」
「ウルセエ」
「ろー!」
いつの間にか背後にバルチカがいた。本物の方だ。近くでお菓子をねだっていた子がこっちを見た。ごめんね。びっくりしたね。あんまり見ないでね。しかしその子が見ていたのはバルチカの方だった。兎耳の少年は目を輝かせて、真っ黒なボディを見上げている。
少年はお母さんに何かをねだった。すると、お母さんの鞄の中からカード入れがでてきた。
「ん!」
カード入れの中から引っ張り出して掲げたのは、バルチカのカードだった。胸から上の写真が載っている。
バルチカはそれを見て、ちょっとだけ目をチカチカさせた。バルチカの目がチカチカ。………………はあ。
お母さんに腕をひかれて、満足げに立ち去った少年、を思い出しながら、国民ヒーローカードチョコのパッケージを開ける。
「買イヤガリマシタカー」
「だってこんなの出てるなんて知らなかったんだもん」
「エルピダ デハ 人気、コレクター 多数。イヤー、私モ ツイニ ヒーロー」
「……」
「ユカイユカイ。因ミニ コノ カード ノ 収益ハ 国防資金二 充テラレル」
「……」
「指揮官?」
「……」
知らなかった。兵役中の人達が国民にとって憧れの存在で、こんなグッズが出ているなんて知らなかった。パッケージからはウルケルさんやソフィエロくん、アンカーくんが出てきた。
「あ」
バルチカのカードがアンカーくんのカードの下からでてきた。白衣を羽織ってネクタイをしている。これはハイトさんの白衣なんだろうか。ぱっつぱつで肩が、その、肩が。
こんなバルチカは見たこと無かった。
「……いつ撮ったの」
「結構前」
「結構前」
「私服デ 撮ル トカ 言イヤガル カラ、ハイト ノ 一丁裏ヲ 拝借シタ」
「ふーん」
ふーん。
知らない。こんなバルチカは見たことがない。もう毎日会ってるし、しょっちゅうご飯を食べに行ってるし、最近はお弁当も作ってくれるけど、こんなバルチカは見たことがない。
だけどあの子は知ってるんだ。いや、知ってた、んだ。
「ふーん……」
「……」
適当にカードを、ズボンのポケットに押し込んだ。右のおしりのポケット。ちょっと折れたかな。ごめんねアンカーくん。今そういうことを気にできる気持ちじゃないんだ。
「ほあっ」
突然バルチカにおしりを触られた。いや正確には、今おしりのポケットに突っ込んだカードを引っ張りだされた。
「ちかん!」
「ハイハイ」
「おかん!」
「ハ?」
「ん?」
なんか変なこと言ったかな。考え込む暇もなく、バルチカは目を激しく光らせた。
「燃ヤス」
「え!?」
強い光と熱、咄嗟に腕で顔を庇う。焦げた匂いがあたりに広がった。少しず腕を下ろして目を開くと、はらはらと真っ黒な消し炭が風に乗って揺れながら落ちていった。
それって、
「カード」
「燃ヤシタ」
「カード!!」
「ハッハッハ」
「ハッハッハじゃなくて!!」
「マァマァ イイジャナイノ」
「なにが!」
「実物 ハ ココニ イルンデスカラ、好キナダケ 見レバァ?」
両手を広げたバルチカの手のひらから、消し炭が流れていく。ひらひら、はらはら、
ちょっとかっこいいと思った。
けど。けど! 今は不機嫌なのだ。なんでだか知らないけど。勝手に燃やしちゃって! バルチカなんかもやしになってしまえ! ん?
ふいっとバルチカに背中を向けて歩き出す。しーらない。あんなバルチカ。私は知らなかったんだから。知らなかったんだから、ずっと知らないのだ。
五歩くらい歩いたところでバルチカが言った。
「今晩 カルボナーラ」
「………………7時!!」
「アイヨ」
不機嫌なのだ。そう、7時までは。だってあの子は今晩バルチカにカルボナーラをごちそうになったり、おうちに行ったりするなんてことは、ない。だから、7時までなのだ。
実物がここにいるんだから好きなだけ見ればぁ? だと? 見てやる。穴があくまで見てやる。人間だって目からビームが出せるんだぞ。目に見えないビームだ。それでドーナツみたいに穴あきバルチカになってしまえばいいんだ。
ふん! バルチカなんか、………あれ?
(シークレットカードは指揮官)