バルチカ
おなまえをおしえてね
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バルチカの腕がもげた。
右腕だ。肩からぶっつり切れて飛んでいった。訓練場のゲル壁にぶつかってぼいんと跳ね、訓練用のカカシをなぎ倒したついでに隣にいたカールスバーグに当たって地面に落ちた。カールスバーグは現在高貴な気絶姿を披露している……多分こう言っておけばあとで宥めるのも容易いはずだ。多分。
「バルチカ、右腕が取れました」
ミラーが飛んでいった右腕を指さして言った。
「アーア」
バルチカは倒れているカールスバーグを見ていた。あれは……落ち込んでるのかびっくりしてるのかなんとも思っていないのか。ミラーが焦る様子もなく腕を取りに行く。
「大丈夫?」
「問題ナッシング、ゴ主人ニツケテモラウ。アッヤベ、ソレジャバレル」
「バレるって……腕が取れるほど何をしてたの?」
バルチカの腕はカカシをポコ殴りするくらいでふっ飛ぶような弱さではないはずだ。ミラーが持ってきた腕の付け根はいろいろなよくわからない部品や線がぶちぶちと切れている。結構な力がかかったはずである。
「新技の開発をしていました」
「新技の開発」
「ツイデニ自作パーツヲ試シテイタ」
「自作パーツ」
自作したパーツ(普段より強度が落ちる)を使った腕で新技の開発(無茶な動かし方)をしたので吹っ飛んだと、なるほどなるほど。納得。納得はしたがそういうことじゃない。
「そのせいで周りに迷惑かけた自覚ある?」
「カールスバーグ、死ンデナイ? 」
「死んでたらこんなこと話してる場合じゃないからね」
「ハッハッハ」
「ハッハッハじゃないからね」
声に抑揚がないせいで、本当に反省しているのか状況がわかっているのか、いまいち掴めない。一応見た限りでは機能に支障ないようだが、早くに直す方がいいだろう。
「リングネスさん、あと頼んでいいですか?」
カールスバーグを医務室に運び終えたリングネスがこちらにやってきたので、頭を下げた。
「今からハイトさんのところへ連れて行きます」
「うむ、それがいいだろう。こちらのことは気にしなくていい」
「はい」
「私ノ事モ気ニシナクテイイノニ」
「いや腕もげたらほっとけないでしょ、行くよ」
「アー」
「勝手にパーツ変えたことバレるのが嫌なんでしょ」
「イエス」
イエスじゃねえよ。だからこんなことになってるんだぞ。バルチカを引きずって訓練場を出た。
× × ×
右腕のないバルチカと並んで、もげた腕を持って歩く。ミラーは残って訓練を続けるよう指示した。
バルチカの腕は細いが、案外重い。エルピダの様々な素材はゲルが主だが、やっぱりロボって金属なのだろうか。触った感じはほんとうに金属そのものだ。でも例えばベックスのアクセサリーは、どう見ても金属なのに実際はペトラやアエリオを固めたものだったりするから、エルピダ市民一年未満の自分では、見た目では判断できない。
「バルチカって何でできてるの?」
「イヤン、デリケートナ質問」
「あっ、ごめん」
「正確二言ウト」
「うん」
「トップシークレットデス」
「やっぱそうかあ」
「スマソ」
「いえいえ」
噴水広場を通り掛かった。今日はお花屋さんの仕事をしているサタンが、お届け物の花をカゴいっぱいに入れて走っている。
「ミラーノ頭二、時々花ガ咲イテイル」
こちらに気付かず一目散に猛ダッシュで消えていったサタンの背中を見送りながら、バルチカが口を開いた。
「この前、ミラーが言ってたね」
「何ト?」
「サタンちゃんが時々花を咲かせてくれるんだって」
「アイツガ犯人カ」
「ミラーは嬉しいみたいだけど?」
「…………」
口をパカパカさせるバルチカは、多分言葉を選んでいる。
「……、花ガ、100%安全トハ立証デキナイ」
「うん?」
「ミラー ハ ホムンクルス。産マレテ3年、未ダ経過観察ノ必要アリ」
「えーっと、まだ何が大丈夫で何がダメなのかわからないこともあるってことかな」
「ソウイウコト」
多分、
バルチカはミラーを心配しているのだ。以前この噴水広場で見かけたバルチカは、まだまだ知識の無いミラーに丁寧に花と蝶を教えていた。それは兄が弟の面倒をみているようで、微笑ましい光景だった。
それがハイトさんからの指示なのか、自発的な考えもあるのか、そこはわからないけれど。
「バルチカは優しいお兄さんだね」
ミラーがちょっとうらやましい、そう言って笑うと、バルチカは言葉を繰り返した。
「オ兄サン」
「うん、だって兄弟なんでしょ? バルチカは先に生まれたんだし、立派にお兄さんしてるじゃない」
「フッフッフ」
「何」
「私ハ完全無欠ノアンドロイド、オ兄サンヲスルノモ完璧」
「もう完璧なんだったら、わざわざ腕を自分で作って交換するなんてしなくていいんじゃない?」
「ハイト純正品デ コノスペックナノガ ムカツク」
「ええ……」
「イツカ越エテヤル、フハハハハ」
それって「父親を越える」ってやつだろうか。
だとしたら立派に男の子でもあるわけだ。やっぱり。
「バルチカってちゃんと、ハイトさんの息子なんだね」
いつの間にか広場は通り過ぎて、人気の少ない道に入っていた。もう少し歩いてそこの角を曲がれば、ハイトさんの研究所である。事の次第をどう説明するか考えていると、隣にバルチカの姿が無かった。
「バルチカ?」
振り返ると、バルチカが立ち止まっていた。直立不動。もしかして腕がもげたことが今になって影響してきたのだろうか、最悪ここで倒れられても研究所に駆け込めばなんとかなりそう、あっでもこの体を研究所に入れるの大変そうだな、ハイトさんも筋力は無さそうだし、
「息子」
「え?」
「息子」
「うん?」
「…………」
なんだろう、もしかして息子扱いされるのは気に入らないことだったろうか。それとも処理能力に支障が出てるとか。
でも別にそういうわけではないみたいだった。
「ハッハッハ」
「え?」
「チョーウケル」
「は?」
気づけば研究所の前だった。
バルチカはさっと背後に回って背中をぐいぐい押してきた。
「サア指揮官、指揮官」
「ちょっ何、この期に及んで隠そうとしてんの?」
「指揮官ガ助ケテクレタラ確率ハ90%二上昇」
「しないから!!」
「チッ」
研究所のインターホンを押す、どうせハイトさん本人は出ないけど。こいつ絶対叱られろ、と眉間にしわを寄せる。そのうしろで、バルチカは楽しそうに笑っていた。
「ダッテ パパ ノ オ説教 怖インダモーン」
(AIなんだけどね)