バルチカ
おなまえをおしえてね
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「ア、ソコノ ロック解除シタラ 1ヶ月オサカナディナー強行シマス」
「しないよそんなこと……」
遠征帰りのメンテナンスをしていると、バルチカがあるデータにしっかりとロックをかけているのを見つけたので、なんだろうと思った瞬間、釘を刺された。
別に珍しいことじゃない。大抵はろくでもないことだけど、いくらハイトが作り主だからといって、バルチカの全てを詮索する権利などない。自分で歩き自分で考えるように作ったのだから、秘密のひとつやふたつあって当然である。
「また僕へのイタズラだったら怒るからな」
「ソンナコトシナイヨー」
「わざとらしい」
プネブマ山は高所ということもありやや寒冷で空気も地表に比べれば薄かったようだが、特に問題もなく不具合もない。粉塵だらけの砂漠に向かわせられるのだけは不安があるが、山なら今後も活躍できるだろう。データをまとめたらまた指揮官に送ることにした。
「……」
「特に故障箇所もなく、順調で何よりだよ」
「……」
「この星空はすごいな、VRに活用して……」
「……」
「……」
「……」
「……バルチカ?」
「ア?」
今日はやけに静かだ。いつもならくだらない悪態をついたり、相談があったり、他愛ない話を細々とするのに。一応電子頭脳の波長を見ておこうか、うーん? これは、思考中?
「ゴ主人」
「ん?」
少し静かな時間があってから、バルチカは突然口を開いた。
「万年毒男ノ ゴ主人ニハ 酷ナ質問ダト思ウデス、ガ」
「…………うん」
「……例エバ」
「うん」
「……」
「……」
「……私ノAIニオイテ、例エバ、恋、トイウ感情ハ、起コリ得マスカ?」
うっかりハイトはタンブラーをひっくり返した。中はほとんど空だったので被害は無い。よかった。いいや、よくない。
今なんて言った?
「……こ、こい?」
「アー、ソーリー、ヤッパリ ゴ主人ニハ刺激ノ強イ質問デシタ」
「そ、それくらいべべ別に」
はた、とハイトは落としたタンブラーを拾いながら思い至る。数日前のできごとだ。フライパンの焦げ。指揮官。あ、あー、あの、えっと、多分、そういうことか? そういうことだな?
ハイトは何とか体勢を立て直し平静を装った。
「そっ、そ、そうだな、かー、可能性としては」
「無理シナクテイイデスヨ」
「してな、してない、してないぞ。ふーむそうだな可能性としてはだな!」
声が上ずっている。しかしだ。これはきちんと答えてあげなければいけない問題だ。誤魔化してはいけない。
例え苦手分野であったとしてもだ。苦手分野、というのは得意分野ではないという意味であって、決してそういう単語を聞いただけで変な汗が出るとか、いつもの声の出し方を忘れるとか、動機や息切れが激しくなるとか、そんなことはない。ない。
「か、可能性としては……全く無い、とは言いきれない、よ」
「……」
「お前のAIはかなり自由に組んである、学習したことを元に人格形成、そこから発展してある種の欲であるとか、そういったことは充分に有り得る」
「……」
「……うん、有り得る。としか、言えないな……こればっかりはお前の問題だ、あまり外野がとやかく言うことではないんだよ、そういうのは」
指揮官さんか、とは、きかなかった。
「……」
「……」
「……ハァー」
「なんだよ」
「余計ナ モン 組ミ込ミ ヤガッテ」
「だから可能性の話であって」
「ソモソモ コンナニ自由ニ 作ラナキャ良カッタダロ、自分ハ万年毒男のクセニ」
「想定外だと言えばいいのか?」
「無責任」
「もう……どっちだよ……」
「…………」
話しながら接続していたケーブルを抜いた。例の相談事以外は異常なし。
父親って息子の……恋……の悩みって、きいてあげるものなのだろうか。自分の父親を思い浮かべて、自分がそういう話をしたことがなかったから却下した。あの人を基準にしてはいけない。というか自分がまずモデルケースにならない。
「ドーシタライイ?」
バルチカの機械音声が随分と幼く聞こえた。
「私ハ アンドロイド」
「……」
「……」
「……ここは、プネブマだから」
ハイトには恋愛経験などない。できるアドバイスなど、たかが知れている。でも、だからこそ、これしか言えないし、これがベストだと、確信していた。
「いいんじゃないのかな、お前のやりたいようにすれば」
「……」
「あ、いや、でもな、無理矢理は駄目だぞ、あくまで相手の同意を得てからじゃないとな、その、そう、無理矢理は駄目」
「シネーヨ」
「だよな!!」
ははははは、乾いた笑いが口から伸びていく。一瞬でいつもの調子に戻ったバルチカは、ひょいと立ち上がった。
「1回シカ 言イマセンヨ」
「?」
「……」
「……何」
「アリガト」
びっくりして答える前に、部屋のドアがばたんと閉まった。ひとり残ったハイトは、手持ち無沙汰にタンブラーを掴む。
「…………がんばれ」
「あっ」
「ア」
翌朝、訓練に出向くと指揮官とバルチカは鉢合わせた。バルチカの顔を見た途端、指揮官の顔に血液が集中するのを感知する。心拍数も跳ね上がっていた。
「お、お、お、おは、おはよ」
「オハヨー。ゴ主人ノ 真似?」
「ちちちがうし!!」
「違ウノ?」
「何、何の用」
「朝ノ挨拶シタダケデショ」
「そっかーおはよーおはよー! それじゃ!」
「……」
コレ、脈アリ、ッテヤツデハ? バルチカはちょっと勇気が出た。
(攻略開始)