バルチカ
おなまえをおしえてね
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「……………………………」
「……………………………」
「………………」
「………………」
「……戻リマシタ」
「……おかえり」
「……コレ 素材」
「……あ、うん」
「………………」
「………………」
バルチカが帰ってきた。遠征の結果特に異常無し。今後も定期的に観測する必要はあるものの、危険度は低い。報告を聞いて採取されたイグロたちを引き取る。
顔が見られない。なんでだろう。こないだまであんなに普通に話してたのに。何を言っても「そう」聞こえてしまう。違う違うよ、別にそんなんじゃないよ。
『付き合ってるの?』
いやいやいやいやちがうちがう。付き合ってません。そういうんじゃないから。そう。仲良しなだけ。ほら、バルチカはほかの隊員と違ってアンドロイドだし、でもこの国で生まれとか種族とかあんまり関係ないよね、そうだね、えっと。
顔を上げられないでいると、額に鈍い痛みが走った。バルチカが細い指で突っついたのだ。結構痛いぞ。
「いだっ」
「ナンカ 変デスヨ 指揮官」
「変!? 何が!?」
「マア、頭ガ弱イ トカ ポンコツ トカ ソレハイツモノコトダカラ気ニナラネェデスガ」
「うん。うん?」
「アアソウソウイウトコロ」
「どういうところ?」
「コノオ話ハ ナカッタコトニ……」
「ええ!?」
あ、うん、ほら、いつも通りだ。ちょっとお互い疲れてたんだ、それだけそれだけ。
「…………」
「…………」
あれ。
あれ、あの、黙らないでください。いつもはうるさいくらい絡んでくるのになんなの。どうしたの。それとも、
『付き合ってるの?』
私が、気にしてるだけかな。
「あ、あさひ〜と、バルチカじゃん」
「アー? エルディンガー」
「やっほ〜あさひちゃん、久しぶり、会えなくて寂しかったよぉ」
「あ、モリッツさん」
背後からエルディンガーさんが、バルチカのうしろからモリッツさんが、それぞれ現れた。……現れた、うわ、待って、エルディンガーさん、そんな楽しそうに見ないでください、元はと言えばあなたが、ねえ、ねえ!
「モリッツ」
「そんな嫌な顔しないでよバルちゃん、俺のガラスのハートが傷付いちゃう」
「粉々ニシテヤリマスカ」
「えーちょっとなになに? ふたりとも仲良し?」
「仲良クナイ」
3人で盛り上がってしまって入る隙間がない。そうだ、今なら抜け出せるじゃないか、そろり、そろり、後ずさりした。
「ア、」
一瞬バルチカに見られたけれど、しぴっと敬礼して走り去る。うんうん、スマート。誰だポンコツなんて言ったのは。こんなにも鮮やかに成し遂げる人なんてそうそういないんだぞ。
「ごめんなさい」
自分の足がそんなに早くないこと、エルディンガーさんもモリッツさんも止めてくれる人ではないこと、バルチカが超高性能アンドロイドだったことを忘れていた。
「か、壁ドンだあ、わあ、すごーい」
「ポンコツ ナノモ 大概二 シナイト 生命ノ危機二陥リマスヨ」
「そんなに深刻!?」
「……」
「……」
訓練場、倉庫裏。とりあえず目立たないところに逃げ込んだけど、あっさり追いつかれてしまった。硬化ゲル壁にヒビが入っている。バルチカの手がドシンと衝撃を与えたのだ。それ、当たったら人体に影響が出るレベルの力だよね?
バルチカの目のライトが消えている。これは怒っている。何したっけ。逃げたのが悪かったのだろうか。
「な、なんでここがわかったの」
「……GPS」
「へ?」
「……端末」
「あ」
「ハア〜」
「ええ〜」
わざとらしい溜め息をついて、バルチカは壁から腕を離した。
あれ、普通に話せてる。
「あさひ」
「はい」
「質問」
「はい」
「何故逃ゲルンデス」
「逃げ」
「逃ゲタヨナ?」
「逃げました」
「今日ハ 本当二 オカシイゾ アンタ」
「やっぱり?」
あ、気のせいじゃなかった。そしておかしいのは私だけだったんだ、そう思った。
「……テッキリ私、 バグッタノカト思ッタ」
「バグった? 誰が?」
「私ガ」
「バルチカが?」
「イエス」
「なんで?」
「……」
バルチカの目が点灯した。小刻みにチカチカしている。バルチカの目がチカチカ。あはは。はは。は、
「……」
「……」
「ナイショ☆」
「ええ」
「サテ 今晩ハ 炊キ込ミゴ飯ノ予定ダケド」
「7時」
「ハイヨ」
壁の向こうからカールスバーグさんの大きな声が聞こえてきた。あ、早く遠征報告書出せって言ってる。5分以内に行かないと、飛んできて見つかって拉致されるパターンだ。バルチカもそろそろ訓練に行かないといけない。
「行かなきゃ」
「ソウ」
「うん」
「カールスバーグ、血管切レソウダナ」
「ね、ちょっと心配、こっそり胃が痛かったりしな、」
いかな、という言葉はどっかに飛んで行った。
ごり、と硬いものが頭に当たった。何だかわからなかった。でも今までで一番近い距離に、黒い塊、バルチカの顔があった。
額にバルチカの頭が、ごり、ごり、と擦りつけられていた。
「ば、」
「……」
「ばる、」
「……………サテ、行クカ」
「えっ」
「ジャ、マタ」
「ええ」
颯爽と立ち去るバルチカは私よりも数倍スマートな去り具合だった。それは置いといて、どうでもよくて、ねえ、今の、何?
頭と体がこんがらがって、気がついたら頭上からカールスバーグさんの怒号が飛んできた。
「バルチカ、訓練をしましょう」
「OK、走リ込ミ カラ」
「向こうで何をしていたのですか?」
「指揮官ト 話シテタ」
「そうですか」
「……」
バグだったらどんなにかマシだったのに。
(残念ながらお使いのAIは正常です)