そのほか
おなまえをおしえてね
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「何をしているんですか?」
「卵焼キヲ焼イテイマス」
「今日の昼食ですか?」
「イエス、弁当二詰メル」
朝5時30分頃。キッチンで弁当を作っていると、ミラーが起きてきた。このところ起きるのが早いのは、蕾をつけた朝顔をいち早く確認するためだ。ジョウロを持って庭に出ていく。
バルチカはそれを見届けてから、最後のひと巻きをくるんと済ませた。ふんわり黄金色の卵焼き。今朝も完璧である。中には星型などにくり抜いた人参も入れてある。見た目もよし。さすが万能アンドロイド。
弁当箱はみっつ用意した。バルチカ用、ミラー用、そして、
「まだ咲いていませんでした……」
「モウ少シ モウ少シ」
「バルチカ」
「ハイ」
「今日はハイト様もいらっしゃるのですか? 弁当箱がみっつあります」
「……」
ミラーは素直なので、家族三人分の弁当だと思ったのだろう。でもハイトの弁当箱はこんな小ぶりなまるっこいものではい。バルチカやミラーとお揃いの、かわいいイラストが印刷された特製だ。
「……イヤ、チョット」
「?」
「ゴ主人ノ弁当デハ ナイ」
「? では、誰の?」
「……指揮官」
「指揮官様のお弁当をバルチカが作っているのですか?」
「イエス」
「何故ですか?」
「……………」
ミラーの質問は純粋なものだ。不思議に思ったから尋ねる。当たり前のことだ。
でも聞かれて困ることもある。
「秘密デス」
「秘密ですか」
「ミラー ニハ マダ早イ 話デスヨ」
「では、いつになったら教えてくれますか?」
バルチカは弁当箱に、おにぎりと肉団子、卵焼き、菜っ葉の和え物を詰めて、蓋をした。
「サア、イツデショーネ」
パタパタと忙しなく走り回る、ああ、要領が悪い。それを一緒に持って行けば、いや、その前にそっちを早く、見てられない。それでも賢明に仕事をしようとしているのだ、
ああでもやっぱりだめだこいつ。
「ハロー」
「ぶへっ!?」
進行方向を算出して立ち塞がる。予想通り避けきれずぶつかってきた指揮官の頭を、バルチカはぺちぺちと軽く叩いた。
「モウ オ昼デスヨ、時計クライ見ヤガレ」
「えっ!? あっ!」
「ン」
「あだっ!?」
いちいちうるさいヒトだ。顔に弁当を押し付ける。
「コレ食ッテ 午後モ オ気張リヤス」
「えっ? あっ、これお弁当?」
「ジャ」
「ちょっと待ってバルチカ、また作ってくれたの?」
「…………」
振り向くのも嫌だった。嫌? いいえ、顔を見ると余計なことを言いそうだからです。超高性能アンドロイドの意地にかけて、余計なことなんて。絶対に。
「明日モ 作ッテヤリマスカラ サボラナイデ 働ケ」
逃げるようにその場をあとにした。言えるわけがないのだ。言っていい筈もないし。でもこっそり詰めておくのは、別に悪いことじゃないと、思う。
昼前、遅く起きたハイトは冷蔵庫の中を見た。今朝も早くからバルチカが弁当を作っていたのは知っている。残りが入っていたので、軽く食べようと皿を手に取った。乗っていたのは卵焼きと、形がくり抜かれた人参。おそらくグラッセにしてあるのだろう。つまりは、もったいないから食えという事だ。
星型、四角形、丸型、そして、ハート型。
「あいつ……朝から器用なことするなあ……ふああ」
寝不足のハイトは気付くはずもないのだ、たくさんくり抜かれた形がある中で、ハート型だけ、何故かひとつしかないことを。
(言えない気持ちを たまごとじ)