そのほか
おなまえをおしえてね
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カーテンの隙間から朝日が差し込む。昨晩はちょっと夜更かししてしまったから、まだ体が重いけど起きなくちゃ。朝だよ、と隣で眠る彼女を揺さぶる。シャンプーの香りがして、ゆっくり瞼を開いた。
あさひ、おはよう。言うと、彼女は少しまだ寝ぼけた顔で笑って言う。おはよう。起きられる? 平気。コーヒー入れてくるよ。ありがとう。そんな会話をしながら、僕は部屋着に袖を通
「朝ダ起キヤガレ」
現実は襲いくる。嗚呼現実は襲いくる。シーツと毛布をいっぺんに引き剥がされて、ハイトはベッドから転げ落ちた。
「臭気ヲ感知。洗濯シマス」
「おま、チカ、ちょっと乱暴すぎるだろ!」
「ウルセエ脱ガス」
「うわぁぁぁぁやめろやめろわかった脱ぐから待て待て待て」
「ハイハイ ソウ言ッテ何日着テルカ数エテゴランナサイ」
「あああああああ」
バルチカの容赦ない手は3日目のパンツさえ剥ぎ取っていった。菌床ニデモスル気カ、コレダカラ毒男ハ、そろりと受け取りに来たミラーの目が輝いている。そういえば昨日くらいから視線を感じた。洗濯するチャンスをうかがっていたのだろうか。
丸裸になってベッドに放り投げられ、30分で着替えて出てこないと朝飯抜きだとまで言われてしまった。ここまで厳しくされる必要があるだろうか。時計を見ればすでに午前10時を過ぎていた。そもそも何時に寝たっけ? ああ、そうか、晩御飯も食べてないや。そうか。そういうことか。
訓練が午後からでよかったと思う。バルチカに引き摺られて訓練場にやってきた。今月はこのままのペースだと規定の時間に足りなくなる、少し気合を入れなければならない。
「あ、ハイトさん、おはようございます」
「えっ、あっ、お……はようございま………」
「あれ? なんか今日いい匂いしません?」
「はいっ!?」
「今日のハイト様は、洗いたての隊服を着ています」
「あーそっかあ柔軟剤かあ」
それでおしまい。今日の会話はそれでおしまい。いいや、今日は、じゃない。きっと明日もそうだし、明後日もそうだ。
彼女にとって自分はたくさんいる隊員の中のひとりなのだ。同僚ですらない。もちろん丁寧に扱ってくれるし、発明品や研究にも理解を示してくれる。だけど。
僕は彼女のいちばんではないのだ。
「今日ハ ハイペース デスナ」
「チューナーの発注がかかってただろう、納期が近いから早く取り掛からないと」
「アノ程度 私デ 充分デハ?」
「新しい基盤を取り付けるから」
「ンナモン 一緒デショ」
バルチカはわざとらしくおおきなため息をついた。なんだよ。別にこのダンベル運動は現実逃避じゃないぞ。集中してないと彼女のことを考えてしまうとか、そういうことじゃないぞ。ただ、
「ひどーい先生!鬼!」
「お前が不摂生するからだろう」
「!?」
突然談笑しながら彼女がやってきた。うっかり1キロダンベルを落とすところだった。一緒にいるのは……シュヴァルツ医師、だ。
「不摂生ってちょっと寝不足なだけじゃないですか」
「そのちょっとした寝不足が重なると徹夜と同じ状態になるんだ。この前も説明したはずだが?」
「言っておくけど今日のは先生のせい……………あ」
あ、って何。ごめんなさい。いてごめんなさい。でも今聞き捨てならないことを聞いてしまった。「今週のは先生の」せい? 何故?
バルチカが笑った。
「録音データ ヲ 保存シマシタ」
「えっ録音!? だめ! 消して!」
「ロック解除デキマセン」
「したのバルチカでしょー!?」
そんなに聞かれたらまずかったのか。それって。それって。寝不足、シュヴァルツ先生のせい、聞かれたらまずい、ああ、嫌でも想像がつく。今の僕はどんな顔なんだろう。
「す」
ハイトはダンベルを投げ出した。
「すみません!」
逃げた。逃げた。走って逃げた。何から逃げた? そんなの決まってるだろう。昔からの得意技だ。現実から逃げたんだ。
まだ昼間のグラウンドに走り出る。みんな汗を流している。流れる汗すら色っぽいシンハーさん、すやすや眠るキングフィッシャーさん、体力自慢のソフィエロさん、みんな、青空に良く似合う。
僕はだめだ。だめなんだ。こんな青空似合わない。彼女に相応しいのは青空が似合って、髪の毛もボサボサじゃなくて、背が高くて、なにより、なにより、
「バルチカ…ハイトさんに謝っておいてもらえる?」
「拒否、自分デ言イヤガリマセ」
「あれじゃ声もかけられないじゃない」
「謝る…? 何か粗相を?」
「さっきの話、ハイトさん何か勘違いしちゃったでしょう」
「話? ああ……」
栄養学について出した課題が多すぎてお前が寝不足になった話か。そうそうそれですよ。しかしいったい彼は何の勘違いを?
「ソレハデスネ」
バルチカはどうやって3人をいじくろうかニヤニヤしていた。
(高嶺の花子さん)