きらきらのおくりもの
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午前中の作業がもう少しで終わりそうなころ、ふと名前を呼ばれた。近い距離からの呼びかけだった。
カセキじいちゃんに断って、声の聞こえた方向を向く。
金狼が、工房のそばに来ていた。
「作業を邪魔してすまない、作ってほしいものがあるのだ。今、話せるか?」
金狼からの依頼だ、と僕の落ち着きかけていた気持ちは少し上向きになる。内容を聞くために、道具を置いて彼のそばへ駆け寄る。
「説明する。今朝、メノウに取り置きしておいてくれ、と伝えたとんぼ玉を使ってほしいのだ。それから……」
彼の話を聞きながら、僕は首を傾げた。
あのピンクと紫のとんぼ玉を使う。そこまでは理解できる。しかし、その先は未知の世界だった。
作ったところで、なにかに役立つとは到底思えない。なぜそれを作ってほしいのか、彼の意図もわからない。
耳に入る言葉は説明としては理解できるものの、気持ちはそれに追いつくことができなかった。
言葉が止まったのを見て、僕は疑いの目を彼に向ける。
「本当に……本当にそれでいいの?」
僕の中の職人としての矜持が、最後の確認を取らせる。金狼は一瞬目を丸くし、そして真面目な顔つきになる。
「うむ。千空が言うには、これもアクセサリーの一つだったそうだ」
「ふーん……」
ラボで、彼と千空が会話する場面を想像する。僕の知らない技術の話もしているのだろうかと、少しだけ関心を抱いた。
「こんなこと、メノウにしか頼めないのだ。難しければ、断ってもらって構わない」
金狼は両手を合わせて、僕の目を見る。
「お願いしても、いいだろうか……」
言葉の紡がれる速度が徐々に落ちる。声の端々に、不安が表れていた。
金狼の頼みごとと言えば槍の手入れくらいで、ものづくりに強くお願いされることは今までになかった。その謎のものを相当作ってほしいらしい。
彼の頼みに押されて、疑問は存在感を消していく。相手の不安を消し飛ばすように、笑ってみせる。
「いいよ。今作っているものが終わったらやってみるね。難しくないと思うから、夕飯前にはできてるはずだよ」
「本当か? ありがとう、メノウ!」
きらきら輝く瞳で、感謝を伝えられた。彼は「鍛錬をしてくる!」と満面の笑みを浮かべて走り去る。
元気だなぁ、と思いつつ、期待に応えたい気持ちが確かな緊張と共に湧き上がる。相手はガラスだ、割らないように細心の注意を払わなくては。
とんぼ玉はどれも一点ものだ。似たようなものは作れても、それは代替品にはならない。
金狼がわざわざ選んだものなのだ、それを使って依頼を達成してみせたい。依頼を受ける立場としてのプライドが、僕のやる気に火をつける。
カセキじいちゃんの隣に戻り、作業を再開する。
手を動かしているはずなのに、いつものように集中できない。一度薄くなったはずの疑問が再び形を成してきたのだ。
なぜこれを作るのだろう、と彼の依頼に疑問を呈していたとき、同時に頭に浮かんだのは朝の金狼の言葉だった。
彼は、アクセサリーは仕事の邪魔になると口にしていた。だから僕は、あれを渡せなかったのだ。
金狼が自分のためにアクセサリーを頼むとは考えにくい。真面目な彼のことだ、僕に嘘をつくなんてありえない。
そうだとしたら誰か、ほかの人のためのはずだ。それは一体、誰なのだろう。
考えたくないのに、頭は勝手にその候補を並べていく。そんな視線を向けたくないのに、僕にやさしい言葉をかけてくれる村の人たち数人が、頭の中に浮かぶ。
彼らが金狼と話していたシーンがよみがえる。みな笑顔で、聞こえてくる声は明るい。なんてことのない村の一風景。その記憶たちが僕の肩にずしりとのしかかる。
おくりものを渡す相手が、僕であるわけがない。
金狼は、いつもそばにいてくれた。落ち込んでいるときも、穏やかなときも、嬉しいときも。もちろん、相手のそれを僕が受けとめるときもあった。
向いている方向は違うけれど、長い間お互い背中を預けてきた、そう形容してもおかしくはない関係のはずだ。
でもそれはきっと、幼馴染だからだ。年の近い村の人、僕はその一人に過ぎない。ましてや恋愛として好きな相手に、僕が選ばれるわけがない。
金狼は一体誰に、僕の作ったものをおくるのだろう。
「メノウ、手が止まっているぞい」
穏やかにかけられた師匠の声に、はっとなる。炉の炎の燃える音、その熱、煤の匂い。頭が感覚を認識し、思考は現実に引き戻される。
「ごめん、カセキじいちゃん!」
この気持ちは、悟られないように隠してしまおう。金狼が笑っていてくれるのが一番だ。そこに僕は、いなくたっていい。
手を動かしていると、モヤモヤは徐々に薄くなっていった。
カセキじいちゃんに断って、声の聞こえた方向を向く。
金狼が、工房のそばに来ていた。
「作業を邪魔してすまない、作ってほしいものがあるのだ。今、話せるか?」
金狼からの依頼だ、と僕の落ち着きかけていた気持ちは少し上向きになる。内容を聞くために、道具を置いて彼のそばへ駆け寄る。
「説明する。今朝、メノウに取り置きしておいてくれ、と伝えたとんぼ玉を使ってほしいのだ。それから……」
彼の話を聞きながら、僕は首を傾げた。
あのピンクと紫のとんぼ玉を使う。そこまでは理解できる。しかし、その先は未知の世界だった。
作ったところで、なにかに役立つとは到底思えない。なぜそれを作ってほしいのか、彼の意図もわからない。
耳に入る言葉は説明としては理解できるものの、気持ちはそれに追いつくことができなかった。
言葉が止まったのを見て、僕は疑いの目を彼に向ける。
「本当に……本当にそれでいいの?」
僕の中の職人としての矜持が、最後の確認を取らせる。金狼は一瞬目を丸くし、そして真面目な顔つきになる。
「うむ。千空が言うには、これもアクセサリーの一つだったそうだ」
「ふーん……」
ラボで、彼と千空が会話する場面を想像する。僕の知らない技術の話もしているのだろうかと、少しだけ関心を抱いた。
「こんなこと、メノウにしか頼めないのだ。難しければ、断ってもらって構わない」
金狼は両手を合わせて、僕の目を見る。
「お願いしても、いいだろうか……」
言葉の紡がれる速度が徐々に落ちる。声の端々に、不安が表れていた。
金狼の頼みごとと言えば槍の手入れくらいで、ものづくりに強くお願いされることは今までになかった。その謎のものを相当作ってほしいらしい。
彼の頼みに押されて、疑問は存在感を消していく。相手の不安を消し飛ばすように、笑ってみせる。
「いいよ。今作っているものが終わったらやってみるね。難しくないと思うから、夕飯前にはできてるはずだよ」
「本当か? ありがとう、メノウ!」
きらきら輝く瞳で、感謝を伝えられた。彼は「鍛錬をしてくる!」と満面の笑みを浮かべて走り去る。
元気だなぁ、と思いつつ、期待に応えたい気持ちが確かな緊張と共に湧き上がる。相手はガラスだ、割らないように細心の注意を払わなくては。
とんぼ玉はどれも一点ものだ。似たようなものは作れても、それは代替品にはならない。
金狼がわざわざ選んだものなのだ、それを使って依頼を達成してみせたい。依頼を受ける立場としてのプライドが、僕のやる気に火をつける。
カセキじいちゃんの隣に戻り、作業を再開する。
手を動かしているはずなのに、いつものように集中できない。一度薄くなったはずの疑問が再び形を成してきたのだ。
なぜこれを作るのだろう、と彼の依頼に疑問を呈していたとき、同時に頭に浮かんだのは朝の金狼の言葉だった。
彼は、アクセサリーは仕事の邪魔になると口にしていた。だから僕は、あれを渡せなかったのだ。
金狼が自分のためにアクセサリーを頼むとは考えにくい。真面目な彼のことだ、僕に嘘をつくなんてありえない。
そうだとしたら誰か、ほかの人のためのはずだ。それは一体、誰なのだろう。
考えたくないのに、頭は勝手にその候補を並べていく。そんな視線を向けたくないのに、僕にやさしい言葉をかけてくれる村の人たち数人が、頭の中に浮かぶ。
彼らが金狼と話していたシーンがよみがえる。みな笑顔で、聞こえてくる声は明るい。なんてことのない村の一風景。その記憶たちが僕の肩にずしりとのしかかる。
おくりものを渡す相手が、僕であるわけがない。
金狼は、いつもそばにいてくれた。落ち込んでいるときも、穏やかなときも、嬉しいときも。もちろん、相手のそれを僕が受けとめるときもあった。
向いている方向は違うけれど、長い間お互い背中を預けてきた、そう形容してもおかしくはない関係のはずだ。
でもそれはきっと、幼馴染だからだ。年の近い村の人、僕はその一人に過ぎない。ましてや恋愛として好きな相手に、僕が選ばれるわけがない。
金狼は一体誰に、僕の作ったものをおくるのだろう。
「メノウ、手が止まっているぞい」
穏やかにかけられた師匠の声に、はっとなる。炉の炎の燃える音、その熱、煤の匂い。頭が感覚を認識し、思考は現実に引き戻される。
「ごめん、カセキじいちゃん!」
この気持ちは、悟られないように隠してしまおう。金狼が笑っていてくれるのが一番だ。そこに僕は、いなくたっていい。
手を動かしていると、モヤモヤは徐々に薄くなっていった。