きらきらのおくりもの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
わだかまりを抱えたまま川から戻ると、みんなが僕たちの帰りを待ってくれていた。村に戻るころには、すっかり日が沈んでいた。
みんなで焚き火を囲う。炎の上に吊るされた鍋から、食欲をそそられる匂いが漂っている。
笑い声の飛び交う温かな雰囲気に、不安だった心は安心を取り戻す。僕はスープをお椀によそって、金狼の左隣に座った。
杠が僕のかんざしのとんぼ玉を見て、目をぱちぱちさせる。微笑みを浮かべて、口を動かした。
「ワオ! メノウちゃん、かわいいかんざしですな!」
「いいでしょ! 金狼がおくってくれたんだ、これはお気に入りなの!」
ふふん、と自慢をする。
すると、その横から言い争う声が聞こえてきた。またやってるよ、と僕は呆れた視線を二人に向ける。
「金狼ばっかりずーるーいー! なんでそんなにかっこいいの作ってもらえてるの!? ずるいよぉ!」
「これはメノウからのおくりものだ! メノウの気持ちを、ひたむきに努力してきたその時間を蔑ろにするな! 最低だぞ、銀狼!」
「わーん! メノウちゃん助けて~!」
言い負かされた銀狼が、逃げ場を求めて僕の名前を呼ぶ。半泣きの彼に僕は頭を下げ、提案をする。
「ごめんね。銀狼はなにが欲しい? 難しくなければ作ってみるよ」
「わーい! えっとねぇ〜……」
「はぁ……メノウが作ると言えば手のひらをくるくると……」
一瞬でにっこり笑顔になった弟に、呆れ顔の金狼は肉をかじる。
やけに工程の多そうな銀狼の頼みを頭に叩き込んで、僕もスープを一口飲む。ほどよい塩味と温かさに体がゆるんで、ほっと一息つく。
「すまないな、メノウ」
金狼が僕の顔を見て、申し訳なさそうな顔をする。その心配をかき消すように、僕はゆるく首を横に振る。
「ううん。むしろいい経験になるから、大丈夫だよ。
難しいのは大変だけど、やりがいがあるんだ」
「それなら、いいのだが……」
眉間にしわを寄せている金狼に、微笑みを向ける。
彼は一瞬驚いた顔をして視線を外した。一拍の間ののち、僕の顔を見て困ったような笑みを浮かべる。
真面目でまっすぐな性格と全く違う、曖昧な表情だ。
「金狼……」
自然と声に不安が混じる。
彼は僕から顔を逸らして焚き火を見つめた。ゆらめく炎が、金狼の普段は見せない表情を照らす。
「心配してるよ。なにか困っているなら、話してほしいな」
「大丈夫だ。本当になんでもないのだ」
気持ちを伝えても、返ってくるのははぐらかす言葉だけ。いつもはちゃんと言葉を伝えてくれるのに、一体どうしたんだろう。
代わりに、少しうつむいた横顔の瞳が微かに潤むのを、僕は見逃さなかった。
「金狼、気持ちはちゃんと伝えたほうがいいんだよ」
幼い声が聞こえて、その主を見る。左隣に座るスイカが、うつむく金狼の方を向いて話しかけていた。
「スイカは、かんざしをおくる意味を知っているんだよ。千空から教えてもらったんだよ」
少しののち首を横に振り、スイカは身を乗り出して言う。
「でも、それは金狼が伝えないと意味がないんだよ!」
耳が痛い言葉を聞いて、金狼が口を歪ませる。まるで、僕に伝えるのをためらっているかのように。
「スイカの言う通りだな。あれは百億パーセント、お前が伝えて初めて意味を持つ」
向かいから、柔らかな笑みを浮かべた千空が声を出す。
「そうだよ、金狼くん! 私も言うに賛成!」
「ほんっとうに呆れるよね。いつまで我慢してんの?
俺に相談しすぎだよ、そろそろ自分の言葉で伝える時期なんじゃないかなぁ!」
杠が片手を上げながら、銀狼は少し怒りを混ぜながら伝える。
「わしもみんなに賛成じゃ」
カセキじいちゃんが、穏やかな声で話す。
「言えなかった後悔は、絶対にこの先残ることになる。年寄りから若者へのアドバイスじゃ」
少しの沈黙。みんなで彼の行動を見守る。
金狼が、ゆっくりと顔を上げた。僕の方へ向き直り、目を合わせてくる。
落とした眉。朝露を乗せたように潤んだ、翡翠の瞳。
「……メノウ」
らしくない、震えた声。僕は小さくうなずく。
「かんざしをおくる、その意味は」
一度言葉を切って、彼は告げる。
「『あなたを守りたい』、だ」
そこまで言うと、泣きそうな顔で僕の手元に視線を落とした。
「すまない。メノウのことが好きだ。小さいころから……ずっと」
いつもそばにいたのに、今まで欠片も見せなかった、幼馴染の恋心。僕の胸はとくんとくんと、柔らかく高鳴っていく。
「俺がメノウに持っていた感情は、一緒にいて楽しい、だった。
メノウは作ったもので俺たちを楽しませてくれるし、なにより、話していて安心するのだ。このまま、なんでも話せる穏やかな関係が続けばいいと思っていた。
だが、数年前に気づいたのだ。俺の中で、それが形を変えてきていることに」
静かな独白が続く。白いサメの歯に挟まれた、首元の緑色のとんぼ玉に、焚火のゆらめきが映っている。
「メノウを想うと、俺はおかしくなるのだ。
笑顔を見るとうれしいはずなのに、胸が苦しくなる。
メノウが誰と話していようと俺には関係ないのに、気になって仕方ない。
また明日会えるはずなのに、寝る前に一人、悶々とメノウのことを考えてしまう。
いつの間にか、俺の中でメノウが唯一無二の存在になっていたのだ。それからすぐに、この苦しさが恋であると、好きという気持ちであると、気づいたのだ」
口を閉じてから数秒後、決心したように顔を上げる。眼鏡の奥のきりりとした瞳が、まっすぐに僕を見つめていた。
「迷惑なら無下にしてもらって構わない。
俺は、メノウの幸せを一番に願っている。たとえ、俺が隣に、立てなくても」
徐々に、小さくなる声。僕の顔、胸元、手元、と視線が落ちる。
「本当は、二人きりで伝えたかったのだ。だが……口にする直前で、怖くなってしまった。
伝えることで、メノウに迷惑をかけてしまうと思ったのだ。それなら、言わずにこのままの関係を維持した方がよいと考えたのだ」
心情を吐露したのち、金狼は首を横に振る。
「……言い訳を並べていてもよくないな。中途半端で、心配させるような結果になってしまった。すまない」
視線は落としたままだった。結ばれた唇が、かすかに震えている。
僕はそばにお椀を置き、落ちた肩に両手を伸ばす。触れた瞬間、びくりと相手の体が揺れたことが手のひらに伝わった。
「金狼」
やさしく名前を呼ぶと、金狼は恐る恐る顔を上げた。瞳は不安に揺れている。
「僕も、金狼のことが好きだよ」
ゆっくりと見開かれた両目は、確かに僕を捉えている。周りから冷やかす声が上がったが、聞こえないふりをして、続ける。
「いつも、僕のことを見てくれているよね。
微熱を出したときも、食欲がないときも、集中しすぎているときも。
いつだって、一番に気づいてくれた。声を、かけてくれた。心配してくれた」
僕の言葉を肯定するかのように、金狼は小さく頷く。
声が震えてしまっていて、格好がつかない。それでも、言葉を続ける。
「金狼の隣にいると、僕も安心するんだ。背中を預けられるような、大切な人だよ。
でも、それだけじゃ、足りないって思っちゃった」
恥ずかしくて泣きそうだ。逃げそうになるところをぐっと踏みとどまって、大きく息を吸う。
「僕は金狼と、もっと一緒にいたい。
幼馴染じゃなくて、恋人に、なりたい」
僕の告白を耳にした相手の頬が、じわりじわりと赤くなっていく。
最後の一押しだ。唇をぎゅっと閉じて震えを落ち着かせてから、ずっと抱えていた気持ちを伝える。
「小さいころからずっと、気持ちは変わらないよ。
あなたのことが、大好き。ぜひ、隣に立ってください」
両肩に置いていた手を外し、胸元に添える。つい指先を弄ぶ。
頬が熱いのが、自分でもよくわかる。心臓も信じられないくらいの速さで高鳴っているのが、耳に伝わってくる。
でも、それを恥ずかしいとは思わなくなっていた。
これは、隠すべき感情ではない。相手に伝えるべき感情だと、思ったからだ。
「わかった。あなたを、守ろう」
金狼は口元をゆるめて、僕を見つめる。紅潮した頬は、僕と同じだ。
途端、冷やかすような歓声が上がり、周りを見渡す。
指笛を吹いたり、拍手をしたり、ばんざいしたり。見守ってくれていたみんなは、三者三様の喜び方で、僕たち二人のことを祝福していた。
みんなで焚き火を囲う。炎の上に吊るされた鍋から、食欲をそそられる匂いが漂っている。
笑い声の飛び交う温かな雰囲気に、不安だった心は安心を取り戻す。僕はスープをお椀によそって、金狼の左隣に座った。
杠が僕のかんざしのとんぼ玉を見て、目をぱちぱちさせる。微笑みを浮かべて、口を動かした。
「ワオ! メノウちゃん、かわいいかんざしですな!」
「いいでしょ! 金狼がおくってくれたんだ、これはお気に入りなの!」
ふふん、と自慢をする。
すると、その横から言い争う声が聞こえてきた。またやってるよ、と僕は呆れた視線を二人に向ける。
「金狼ばっかりずーるーいー! なんでそんなにかっこいいの作ってもらえてるの!? ずるいよぉ!」
「これはメノウからのおくりものだ! メノウの気持ちを、ひたむきに努力してきたその時間を蔑ろにするな! 最低だぞ、銀狼!」
「わーん! メノウちゃん助けて~!」
言い負かされた銀狼が、逃げ場を求めて僕の名前を呼ぶ。半泣きの彼に僕は頭を下げ、提案をする。
「ごめんね。銀狼はなにが欲しい? 難しくなければ作ってみるよ」
「わーい! えっとねぇ〜……」
「はぁ……メノウが作ると言えば手のひらをくるくると……」
一瞬でにっこり笑顔になった弟に、呆れ顔の金狼は肉をかじる。
やけに工程の多そうな銀狼の頼みを頭に叩き込んで、僕もスープを一口飲む。ほどよい塩味と温かさに体がゆるんで、ほっと一息つく。
「すまないな、メノウ」
金狼が僕の顔を見て、申し訳なさそうな顔をする。その心配をかき消すように、僕はゆるく首を横に振る。
「ううん。むしろいい経験になるから、大丈夫だよ。
難しいのは大変だけど、やりがいがあるんだ」
「それなら、いいのだが……」
眉間にしわを寄せている金狼に、微笑みを向ける。
彼は一瞬驚いた顔をして視線を外した。一拍の間ののち、僕の顔を見て困ったような笑みを浮かべる。
真面目でまっすぐな性格と全く違う、曖昧な表情だ。
「金狼……」
自然と声に不安が混じる。
彼は僕から顔を逸らして焚き火を見つめた。ゆらめく炎が、金狼の普段は見せない表情を照らす。
「心配してるよ。なにか困っているなら、話してほしいな」
「大丈夫だ。本当になんでもないのだ」
気持ちを伝えても、返ってくるのははぐらかす言葉だけ。いつもはちゃんと言葉を伝えてくれるのに、一体どうしたんだろう。
代わりに、少しうつむいた横顔の瞳が微かに潤むのを、僕は見逃さなかった。
「金狼、気持ちはちゃんと伝えたほうがいいんだよ」
幼い声が聞こえて、その主を見る。左隣に座るスイカが、うつむく金狼の方を向いて話しかけていた。
「スイカは、かんざしをおくる意味を知っているんだよ。千空から教えてもらったんだよ」
少しののち首を横に振り、スイカは身を乗り出して言う。
「でも、それは金狼が伝えないと意味がないんだよ!」
耳が痛い言葉を聞いて、金狼が口を歪ませる。まるで、僕に伝えるのをためらっているかのように。
「スイカの言う通りだな。あれは百億パーセント、お前が伝えて初めて意味を持つ」
向かいから、柔らかな笑みを浮かべた千空が声を出す。
「そうだよ、金狼くん! 私も言うに賛成!」
「ほんっとうに呆れるよね。いつまで我慢してんの?
俺に相談しすぎだよ、そろそろ自分の言葉で伝える時期なんじゃないかなぁ!」
杠が片手を上げながら、銀狼は少し怒りを混ぜながら伝える。
「わしもみんなに賛成じゃ」
カセキじいちゃんが、穏やかな声で話す。
「言えなかった後悔は、絶対にこの先残ることになる。年寄りから若者へのアドバイスじゃ」
少しの沈黙。みんなで彼の行動を見守る。
金狼が、ゆっくりと顔を上げた。僕の方へ向き直り、目を合わせてくる。
落とした眉。朝露を乗せたように潤んだ、翡翠の瞳。
「……メノウ」
らしくない、震えた声。僕は小さくうなずく。
「かんざしをおくる、その意味は」
一度言葉を切って、彼は告げる。
「『あなたを守りたい』、だ」
そこまで言うと、泣きそうな顔で僕の手元に視線を落とした。
「すまない。メノウのことが好きだ。小さいころから……ずっと」
いつもそばにいたのに、今まで欠片も見せなかった、幼馴染の恋心。僕の胸はとくんとくんと、柔らかく高鳴っていく。
「俺がメノウに持っていた感情は、一緒にいて楽しい、だった。
メノウは作ったもので俺たちを楽しませてくれるし、なにより、話していて安心するのだ。このまま、なんでも話せる穏やかな関係が続けばいいと思っていた。
だが、数年前に気づいたのだ。俺の中で、それが形を変えてきていることに」
静かな独白が続く。白いサメの歯に挟まれた、首元の緑色のとんぼ玉に、焚火のゆらめきが映っている。
「メノウを想うと、俺はおかしくなるのだ。
笑顔を見るとうれしいはずなのに、胸が苦しくなる。
メノウが誰と話していようと俺には関係ないのに、気になって仕方ない。
また明日会えるはずなのに、寝る前に一人、悶々とメノウのことを考えてしまう。
いつの間にか、俺の中でメノウが唯一無二の存在になっていたのだ。それからすぐに、この苦しさが恋であると、好きという気持ちであると、気づいたのだ」
口を閉じてから数秒後、決心したように顔を上げる。眼鏡の奥のきりりとした瞳が、まっすぐに僕を見つめていた。
「迷惑なら無下にしてもらって構わない。
俺は、メノウの幸せを一番に願っている。たとえ、俺が隣に、立てなくても」
徐々に、小さくなる声。僕の顔、胸元、手元、と視線が落ちる。
「本当は、二人きりで伝えたかったのだ。だが……口にする直前で、怖くなってしまった。
伝えることで、メノウに迷惑をかけてしまうと思ったのだ。それなら、言わずにこのままの関係を維持した方がよいと考えたのだ」
心情を吐露したのち、金狼は首を横に振る。
「……言い訳を並べていてもよくないな。中途半端で、心配させるような結果になってしまった。すまない」
視線は落としたままだった。結ばれた唇が、かすかに震えている。
僕はそばにお椀を置き、落ちた肩に両手を伸ばす。触れた瞬間、びくりと相手の体が揺れたことが手のひらに伝わった。
「金狼」
やさしく名前を呼ぶと、金狼は恐る恐る顔を上げた。瞳は不安に揺れている。
「僕も、金狼のことが好きだよ」
ゆっくりと見開かれた両目は、確かに僕を捉えている。周りから冷やかす声が上がったが、聞こえないふりをして、続ける。
「いつも、僕のことを見てくれているよね。
微熱を出したときも、食欲がないときも、集中しすぎているときも。
いつだって、一番に気づいてくれた。声を、かけてくれた。心配してくれた」
僕の言葉を肯定するかのように、金狼は小さく頷く。
声が震えてしまっていて、格好がつかない。それでも、言葉を続ける。
「金狼の隣にいると、僕も安心するんだ。背中を預けられるような、大切な人だよ。
でも、それだけじゃ、足りないって思っちゃった」
恥ずかしくて泣きそうだ。逃げそうになるところをぐっと踏みとどまって、大きく息を吸う。
「僕は金狼と、もっと一緒にいたい。
幼馴染じゃなくて、恋人に、なりたい」
僕の告白を耳にした相手の頬が、じわりじわりと赤くなっていく。
最後の一押しだ。唇をぎゅっと閉じて震えを落ち着かせてから、ずっと抱えていた気持ちを伝える。
「小さいころからずっと、気持ちは変わらないよ。
あなたのことが、大好き。ぜひ、隣に立ってください」
両肩に置いていた手を外し、胸元に添える。つい指先を弄ぶ。
頬が熱いのが、自分でもよくわかる。心臓も信じられないくらいの速さで高鳴っているのが、耳に伝わってくる。
でも、それを恥ずかしいとは思わなくなっていた。
これは、隠すべき感情ではない。相手に伝えるべき感情だと、思ったからだ。
「わかった。あなたを、守ろう」
金狼は口元をゆるめて、僕を見つめる。紅潮した頬は、僕と同じだ。
途端、冷やかすような歓声が上がり、周りを見渡す。
指笛を吹いたり、拍手をしたり、ばんざいしたり。見守ってくれていたみんなは、三者三様の喜び方で、僕たち二人のことを祝福していた。