きらきらのおくりもの
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夕焼けの明かりに気づいて、僕は手を止める。ずらっと並んだ成果物が細く長い影を作っていた。今日も一日頑張ったな、と伸びをすると、張り詰めていた体がゆるまっていく。
もうすぐごはんの時間だ。カセキじいちゃんに言われたばかりだ、僕は体より頭を優先してしまう癖がある。体が悲鳴を上げて動けなくなる前に、休まなくちゃ。
「メノウ、頼んでいたものはできたか?」
声をかけられた。好きな人の声だ。片付けの手を一旦止めて、依頼の品を手に取る。
「もちろん。これでしょ?」
金狼に、棒状のそれを渡す。彼はその端の方をそっと握って、じっと見つめている。
「本当にこれでいいの? お箸の頭にとんぼ玉をつけるなんて……なにに使うの?」
作りながら、まったく用途が思い浮かばなかった。疑いの目を向けると、金狼は謎の物体に視線を落としたまま答える。
「これは『かんざし』だ」
「……かんざし?」
「うむ。髪をまとめるのに使う」
「ふーん……」
髪をまとめるということは、ある程度の長さがないとできない。やっぱり、勘は当たってた。
金狼はこれを他の子にあげるんだ。きっと、意中の子に。僕ではない、誰かに。
動揺する心を隠して、微笑む。
「教えてくれてありがとう。渡してきなよ、きっとその子も喜ぶと思うよ」
促す言葉をかけても、彼は動かない。
代わりに、ゆっくりと顔を上げた。眼鏡の奥の両瞳が、僕の目を捉える。
緑色の、きれいな目だ。ガラスのきらきらよりも、ずっと、ずっと魅力的で、まっすぐな。
ゆっくりと、その口が開く。
「メノウに、渡しに来たのだ」
「……えっ」
思考が停止して、僕の体が固まる。予想だにしていなかった出来事に、口を半開きにしたまま相手を見つめてしまう。
「……作ってくれたものを、そのまま作った人におくるなんておかしいだろうな。だが、俺はこのとんぼ玉がメノウに似合うと、そう思ったのだ」
金狼は「こんなやり方ですまない」と謝る。一呼吸おいて、翡翠の瞳が僕を見つめる。
「よかったら、俺に髪をまとめさせてくれないか」
「い、いいけど……」
僕は髪留めを外す。自由になった髪の毛が広がる感触がした。頭の後ろを彼に向けるように立つと、少し緊張しているような声が聞こえた。
「やり方は杠に教えてもらった。実践するのは初めてなんだ、痛かったら言ってくれ」
そう言うと、金狼は僕の髪の毛に触れた。
髪が一つにまとめられ、かんざしというものにくるくると巻きつけられていくのがわかる。それをねじって、ぐぐ、と差し込まれていく感触があった。
「……できたぞ」
触ってみると、お団子のような、それでいて違うものが、僕の頭の後ろにできていた。
「メノウ、ここでは自分の姿が見えないだろう。川まで行こう」
「わ、わかっ……」
振り返って、あ、と僕は声を出す。思い出した。僕も金狼に渡すものがあるじゃないか!
でも、いらないと言われたらどうしよう。彼を困らせたくない。相反する二つの考えが、僕の動きを止める。
「どうした、メノウ?」
不思議そうに僕の顔を覗き込む金狼。その顔を見ていたら、言ってもいい気がした。
「あ、あのね、金狼!」
思わず出てしまった大声に、彼の目が見開かれる。
「実は、金狼のために首飾りを作ってあるんだ。でも、いらないんだったら」
「見せてくれ」
「……ちょっと待ってて!」
僕は作業場の隅に置いてあった木箱に駆け寄る。完成したアクセサリーやとんぼ玉の中から、それを見つけ出す。
「こ、これなんだけど……」
首飾りをそろえた手のひらの上に乗せて、彼に見せる。
シンプルな緑色のとんぼ玉をメインに、サメの歯二つで挟む形で通してみたのだ。触っても痛くないように、ちゃんと磨いてある。
また、戦うときに動いてしまわないように、ほかのものより紐を短くしてあるのがちょっとしたこだわりだ。
「……どうかな」
千空に頼まれたものを見せるときとはまた違う高揚感が、僕の頬をほのかに熱くさせる。
金狼は僕の手のひらの首飾りを見つめている。数秒置いて、返事が帰ってきた。
「すまない、メノウ。これは受け取れない」
両手が驚いて揺れ、渡すはずだったものが小さな音を立てる。
ああ、やっぱり。でも、そんな気がしていた。そうだよね、いくら工夫しようと、これ自体が邪魔になってしまうから。
あきらめかけたとき、金狼は落ちたトーンの声で話し始めた。
「俺はこれを壊してしまう。だから受け取れない」
「こわ……す?」
「ああ。ガラスでできているんだ、きっと戦闘で壊してしまうだろう。
それはメノウに申し訳ないからな……だから受け取れない」
うつむいた彼を見て、僕は「なあんだ、そんなこと!」と声を上げる。
「大丈夫だよ、金狼。壊してもまた作ればいいから!」
「だ、だが……メノウに負担がかかるだろう」
「このくらいなんともないよ! 道具もきっと、使ってくれるのが一番嬉しいと思うんだ」
戸惑う相手に、「どうぞ」と首飾りを差し出す。説得に折れたのか、彼はそれを受け取ってくれた。
もうすぐごはんの時間だ。カセキじいちゃんに言われたばかりだ、僕は体より頭を優先してしまう癖がある。体が悲鳴を上げて動けなくなる前に、休まなくちゃ。
「メノウ、頼んでいたものはできたか?」
声をかけられた。好きな人の声だ。片付けの手を一旦止めて、依頼の品を手に取る。
「もちろん。これでしょ?」
金狼に、棒状のそれを渡す。彼はその端の方をそっと握って、じっと見つめている。
「本当にこれでいいの? お箸の頭にとんぼ玉をつけるなんて……なにに使うの?」
作りながら、まったく用途が思い浮かばなかった。疑いの目を向けると、金狼は謎の物体に視線を落としたまま答える。
「これは『かんざし』だ」
「……かんざし?」
「うむ。髪をまとめるのに使う」
「ふーん……」
髪をまとめるということは、ある程度の長さがないとできない。やっぱり、勘は当たってた。
金狼はこれを他の子にあげるんだ。きっと、意中の子に。僕ではない、誰かに。
動揺する心を隠して、微笑む。
「教えてくれてありがとう。渡してきなよ、きっとその子も喜ぶと思うよ」
促す言葉をかけても、彼は動かない。
代わりに、ゆっくりと顔を上げた。眼鏡の奥の両瞳が、僕の目を捉える。
緑色の、きれいな目だ。ガラスのきらきらよりも、ずっと、ずっと魅力的で、まっすぐな。
ゆっくりと、その口が開く。
「メノウに、渡しに来たのだ」
「……えっ」
思考が停止して、僕の体が固まる。予想だにしていなかった出来事に、口を半開きにしたまま相手を見つめてしまう。
「……作ってくれたものを、そのまま作った人におくるなんておかしいだろうな。だが、俺はこのとんぼ玉がメノウに似合うと、そう思ったのだ」
金狼は「こんなやり方ですまない」と謝る。一呼吸おいて、翡翠の瞳が僕を見つめる。
「よかったら、俺に髪をまとめさせてくれないか」
「い、いいけど……」
僕は髪留めを外す。自由になった髪の毛が広がる感触がした。頭の後ろを彼に向けるように立つと、少し緊張しているような声が聞こえた。
「やり方は杠に教えてもらった。実践するのは初めてなんだ、痛かったら言ってくれ」
そう言うと、金狼は僕の髪の毛に触れた。
髪が一つにまとめられ、かんざしというものにくるくると巻きつけられていくのがわかる。それをねじって、ぐぐ、と差し込まれていく感触があった。
「……できたぞ」
触ってみると、お団子のような、それでいて違うものが、僕の頭の後ろにできていた。
「メノウ、ここでは自分の姿が見えないだろう。川まで行こう」
「わ、わかっ……」
振り返って、あ、と僕は声を出す。思い出した。僕も金狼に渡すものがあるじゃないか!
でも、いらないと言われたらどうしよう。彼を困らせたくない。相反する二つの考えが、僕の動きを止める。
「どうした、メノウ?」
不思議そうに僕の顔を覗き込む金狼。その顔を見ていたら、言ってもいい気がした。
「あ、あのね、金狼!」
思わず出てしまった大声に、彼の目が見開かれる。
「実は、金狼のために首飾りを作ってあるんだ。でも、いらないんだったら」
「見せてくれ」
「……ちょっと待ってて!」
僕は作業場の隅に置いてあった木箱に駆け寄る。完成したアクセサリーやとんぼ玉の中から、それを見つけ出す。
「こ、これなんだけど……」
首飾りをそろえた手のひらの上に乗せて、彼に見せる。
シンプルな緑色のとんぼ玉をメインに、サメの歯二つで挟む形で通してみたのだ。触っても痛くないように、ちゃんと磨いてある。
また、戦うときに動いてしまわないように、ほかのものより紐を短くしてあるのがちょっとしたこだわりだ。
「……どうかな」
千空に頼まれたものを見せるときとはまた違う高揚感が、僕の頬をほのかに熱くさせる。
金狼は僕の手のひらの首飾りを見つめている。数秒置いて、返事が帰ってきた。
「すまない、メノウ。これは受け取れない」
両手が驚いて揺れ、渡すはずだったものが小さな音を立てる。
ああ、やっぱり。でも、そんな気がしていた。そうだよね、いくら工夫しようと、これ自体が邪魔になってしまうから。
あきらめかけたとき、金狼は落ちたトーンの声で話し始めた。
「俺はこれを壊してしまう。だから受け取れない」
「こわ……す?」
「ああ。ガラスでできているんだ、きっと戦闘で壊してしまうだろう。
それはメノウに申し訳ないからな……だから受け取れない」
うつむいた彼を見て、僕は「なあんだ、そんなこと!」と声を上げる。
「大丈夫だよ、金狼。壊してもまた作ればいいから!」
「だ、だが……メノウに負担がかかるだろう」
「このくらいなんともないよ! 道具もきっと、使ってくれるのが一番嬉しいと思うんだ」
戸惑う相手に、「どうぞ」と首飾りを差し出す。説得に折れたのか、彼はそれを受け取ってくれた。