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「ここですか」
 ミントが目を向けた先には、カラフルなスイーツバイキングの看板があった。土日だからか行列ができており、その最後尾に並ぶ。
 列には女性のグループや友達同士が多かったが、中にはカップルもいた。俺らも手を繋ぎあってイチャイチャしている彼らと同類だと考えると、なんだか複雑な気持ちになる。
「アキさん、ありがとうございます。誕生日プレゼントにデートとお食事なんて、嬉しいです」
 ふふ、と笑う顔に、本当にミントが楽しんでくれているか不安になる。
 ミントは欲がない。デンジやパワーと違って、欲しいものはあるか、なんて聞いても「アキさんといられたら十分です」なんて控えめすぎる答えを返すし、部屋にも行ったことはあるが本当にミニマリストみたいな部屋だった。なにもなかった。
 悪魔との契約上たくさんの食事を食べざるを得ないのだが、それすらもそこまで好きじゃないらしい。確かにがっついて食べるような感じではない。少量ずつ長い時間食べ続けて完食するスタイルだ。
 俺はミントが食べているところを見るのが好きだ。だから喜んでくれるかなと思って、スイーツバイキングを選んだ。だが、それも俺のエゴに過ぎないのだろうか。
「……ミント」
「なんですか?」
 ほんのり微笑んで尋ねるその顔が、思いっきり笑ったところを見たことはない。いつも穏やかだが、俺には感情を抑圧しているようにも思える。
「ミントは、俺といて楽しいか」
「もちろんです。今、こうして並んでいるだけでも楽しいですよ」
「……そうか」
 本人が言うところによると、俺の不安はあまり気にすることではないらしい。
 それなら、と質問をする。
「なにか、してほしいことはあるか? ミントは物欲が少ないから、プレゼントは体験できるものにしたんだが……」
「……それなら」
 俺の耳に口を近づけたミントが、囁くように言う。
「『あーん』、してほしいです」
 さっと顔を離して、少しうつむく。その頬には珍しくほんのりと赤がさしていて、初めて見る表情に俺は驚きを覚える。
「……そんなことでいいのか?」
「……はい。おうちに行ってもデンジくんとパワーちゃんがいますし、それに」
 前方の手繋ぎカップルを見ながら、言葉を続ける。
「ここなら、その……馴染めるかなと」
 右手を口元に添えて、ミントなりに恥ずかしさを感じているらしい。
 ふ、と思わず口元から笑みがこぼれた。
「じゃあ、ミントからも『あーん』してくれ」
「えっ!? アキさんもしてほしいんですか?」
「いいだろ? せっかく恋人になったんだからさ」
 強気に言うと、頬の赤が深みを増した。言葉を発せずぷるぷるしているミントに、「ほら、前進んだぞ」と声をかける。
 足を一歩前にして、ミントは口を動かす。
「たまには、そういうのもいいですね」
 微笑む顔は、いつもの表情に戻っていた。先程の照れ顔が見れなくなったのが惜しいなと思いつつ、もっとミントのことを知りたいという考えが、綿菓子のようにふわりと頭に浮かんだ。
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