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 公安からの依頼をこなして、早川先輩と駅前で別れる。電車に揺られ、降り、傘を差す。頭上からはぱたんぱたんと湿った音がしている。
 アパートの外階段を上がり、さっさっと傘についた水滴を払う。自分の部屋に鍵を差し込む。風呂場で傘を開いて干し、手を洗う。タオルで拭くと、ふと玄関の脇に置いてある小さな折りたたみ傘が目に入る。
 水色のそれを、雨の日にはいつも気にしてしまうのだ。返せなかった、それを。
 四課に配属されて緊張していた初日、気さくに話しかけてくれた。
 悪魔との契約上空腹になりやすい私に、行きつけのお店でたくさんの中華料理を奢ってくれた。
 恋敵だとわかると、嫌そうな態度をとることもなく「お互い頑張ろうね!」と笑ってくれた。
 思い出があふれる度に、私の目からは涙があふれる。
 この水色の傘だって。
「ミントちゃん、傘忘れちゃったの?」
「そうなんです……うち、駅から遠いから頑張って帰ります」
「そんなミントちゃんにー……嬉しいお知らせが! じゃーん! 折りたたみ傘でっす!」
「ありがとうございます……! いいんですか?」
「うん! なんかカバンに埋まってたから!」
 はい、と渡されたあのときの微笑み。
 やさしさに触れた、私の感情。
 目の奥に宿った気持ち。
 私は、いつの間にか、忘れてかけている。
「姫野、先輩……」
 声は持ち主の元には届くことはなく、強くなった雨の音が部屋に響いている。ざあざあと、容赦なく、私の心を抉るように。

お題.comより
「返せなかった、雨の日に君が貸してくれた傘」
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