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 病室のドアをノックすると、奥からくぐもった返事が聞こえた。取っ手を引くと、白いベッドに座る入院服に身を包んだアキさんがいた。
「お邪魔します。体調、どうですか」
 ベッドのわきに置いてある丸椅子に座る。アキさんは私と視線を合わせず、少しうつむいている。
「少しずつだけど、よくはなってきた。ミントは」
「今日から動いてもいいって言われました。アキさんが心配で、来ちゃいました」
 声の調子を上げて言うと、アキさんは口の端から笑みをこぼした。でも、それも束の間だった。
「……守ってやれなくて、ごめん」
「謝らないでください。アキさんが気に病む必要なんて、ないですよ」
「……」
 銃の悪魔による、大規模な襲撃。甚大な人的被害を残したその事件は、まだ記憶に色濃くこびりついている。思い返していると、おもむろにアキさんがこちらに体の向きを変えた。
「……ミント。嫌だったら、ごめん」
 病室に来てから、初めて顔を上げる。長い黒髪が揺れ、その隙間から見える瞳は私を捉えている。ひどく、さみしそうだった。
「……抱きしめても、いいか」
「……どうぞ」
 腕を広げると、アキさんはそっと私のことを抱きしめた。普段のアキさんと比べると、おそろしいほど弱々しい力だった。
「嫌なんかじゃ、ないですよ」
 ゆっくりと、背中をさする。
 アキさんがここまで弱るのを見るのは初めてだった。きっと、あの人のことが関係しているのだろう。文字通り、アキさんのために身を捧げた、あの人のことを。
「……つらい、ですね」
 声をかけると、すぐそばから小さな嗚咽が聞こえてくる。抱きしめる力が少し強くなり、呼吸が乱れていく。
 きっと私は、姫野先輩の代わりにはなれない。明るく、あっけらかんとしていて、いつだって四課のみんなを気にかけてくれていた。
 命の重さの軽い、残酷なこの世界で、なにを頼りにして生きていけばいいのか、私はたまにわからなくなる。
 でも。
 姫野先輩がいたこと。姫野先輩が生きていたということ。姫野先輩が、アキさんを好きだったということ。
 その存在を、その跡を、その想いを、忘れずに前に進んでいくということ。きっとそれが、姫野先輩への弔いになると思うから。
 背中をさすっていた手を頭に置き、そっとなでる。柔らかな髪の感触を確かめる。変わらず涙を流すアキさんは、私の長い髪を触っている。その手の震えが伝わってくる。
「そばに、いますから」
 ただ、近くにいて、気にかけるということ。私にできることは、きっとそれくらいしかない。
 あなたの愛したこの人を、私はどこまでも支えます。あなたの果たせなかった、銃の悪魔を倒すという願いを叶えてみせます。
 だから。
 天国から見ていてください、姫野先輩。あなたと言葉を交わしたあの日々を、私は絶対に忘れない。
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