再会
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焦凍の後ろを歩いていた。A組の教室が見えてくる。
あれ? みんな教室の外にいる。全員がこちらに頭を向けている。
「轟さん! あの、水火さんとは……」
百ちゃんが焦凍に話しかける。
「……」
焦凍は何も言わず、教室へすっと入っていってしまう。
「水火さん! どうでしたか……?」
不安そうな顔の百ちゃん。私は足を止めた。クラスの他の子も、心配そうに私を見ている。
「大丈夫でした!」
笑って答えるとみんなぱっと笑顔になって、「よかったよかった」と言ってくれた。
どこからか拍手が聞こえる。その拍手はだんだん大きくなっていく。周りにいた事情を知らない他クラスの生徒たちがなんだなんだ、と私を見てくる。
「や、やめてよ〜」
苦笑いでお願いすると、どっと笑いが起きた。
あぁ、よかった。諦めないでよかった。
「百ちゃん」
一番応援してくれていた彼女に話しかける。
「あのとき、『諦めないで』って言ってくれたから、やっと会えたんだ。ありがとう!」
感謝を伝えると、驚いた顔をされた。
「本当に、本当に……よかったですわ……!」
百ちゃんは少しだけ泣きそうな顔で私に笑いかけた。
予鈴が鳴る。
「轟くんと水火くんの再会を祝うのもいいが、もう授業の時間だ。みんな! 準備を始めよう!」
メガネのいかにも頭良さそうな男子生徒がみんなに呼びかける。はーい、と返事をして生徒たちは教室へ帰っていく。
百ちゃんは帰らない。
「八百万くん!」
「ちょっと待ってください、飯田さん! 言いたいことがあるんですの」
メガネの子の指摘を制止して、百ちゃんは私を見る。黒い綺麗な瞳と目が合う。
「また、A組に遊びに来てくださいね」
「……うん!」
頷くと、百ちゃんは微笑んで教室へ戻っていった。
あ、私も次の授業の支度しなきゃ。次は……英語だ。マイク先生だ!
先生の授業おもしろいんだよな、そういえば単語の小テストだったっけ、なんて考えながら、私はC組へ急いだ。
帰り道。駅まで歩いて、電車に乗って、また歩いて。たったそれだけのことなのに、隣に話し相手がいると楽しいものだ。
「それで、授業中に敵 がやってきたんだ」
「えぇ!? 大丈夫だったの?」
「倒した」
「倒したぁ!?」
焦凍の口から出てくる話はどれもおもしろくて、私は「いいなー、A組楽しそうだね」と返す。
「……まぁな」
普通に歩いても二人の差が開いていかないのは、きっと焦凍が私に歩幅を合わせてくれているからだろう。
「担任の先生、誰なの?」
「相澤先生。イレイザーヘッド」
「あ、なんか聞いたことあるかも……?」
「あまり知られていないからな。でも、強いんだ。すごく」
「へぇ……」
担任といえば……私は少し前のことを思い出す。
帰ろうとしたら焦凍が教室の前に立っているものだから驚いた。クラスの子もびっくりしてたし、担任の先生も「なにかご用ですか……!?」と敬語になってしまっていた。
「……ふふ」
「どうした?」
「いや、さっきのうちの担任の先生の言葉、おもしろかったなって」
「あー……すまん。今度からはA組で待ち合わせるか?」
「え」
次なんてあるの? てっきり今日だけかと思っていた。私は心の中で飛び上がるほど喜んだ。
「じゃあ、A組の前で」
「あぁ、わかった」
頷く焦凍。夕暮れの風が彼の髪をふわりと揺らす。
「あ、そうだ。焦凍、食堂にパンのコーナーあるの知ってる?」
「ん……そうなのか」
「でね、そこのクリームパンが絶品でさー……」
喋りながら、私は気づいたことがある。
「クリームとパンの比率が絶妙なんだよね!」
こんなに楽しそうにパン談義をしても、焦凍は表情を一切変えないのだ。
「くどいと思わせない配合っていうのかなー……とにかくすごいんだよ!」
笑ってくれないのだ。
「焦凍もよかったら食べてみて!」
前は、笑ってくれたはずなのに。
「あぁ」
どうしちゃったのかな。
でも、「焦凍、笑わないね」なんて聞けるはずもなく、私はただ適当な話題で気づかないふりをするしかなかった。
「変わらないな」
「え?」
「変わらないな、水火は」
「……そう、かな」
焦凍は私を表情のない顔で見る。
「そのまっすぐなところ、羨ましいって思ってる」
まっすぐ? 私が……?
「そんなことないよ。私だってこの十年ぐちゃぐちゃだったし、うまくいかないことだらけだし」
焦凍と会えない間、本当に色々あったんだ。今話すべきではないと思うから、心にしまっておくけれど。
「でもね、友達に言われたんだ。『諦めないで』って。だから、頑張ってるの」
「……」
百ちゃん。あなたに会えなければ、多分今頃私は、C組で心にぽっかりと穴が空いたまま過ごしていたと思うんだ。
ありがとう。そうだ、今度会ったらもう一回言おう。
「そうか」
焦凍の足が止まる。気づけば、焦凍の家の前まで来ていた。和風建築のその家は、静かな住宅街で圧倒的な存在感を放っている。相変わらず大きいな……。
「水火」
名前を呼ばれて振り返る。
「水火は、将来何になりたいんだ?」
「今の所、医師だけど……」
答えると、焦凍は「そうか」とぼそり、口にした。
「また遊びに来てくれ。親父には俺から言っておくから」
「え……」
突然の誘いに私は驚いて硬直してしまう。
また、遊びに行けるの? ってことは、冬美さんや夏雄さんにも会えるってこと? 冷さんにも? いや、冷さんは、今……。
「じゃあ、また明日」
私ははっとなって返事する。
「う、うん、また、明日」
お互いに手を振って別れる。懐かしい感覚。
夕暮れどきの帰り道、歩く足は次第に軽やかになる。
焦凍にやっと会えた! 十年ぶりだよ!? こんなに嬉しいことがあったのは久々だ! 今日はノリノリで宿題できちゃいそう……!
思わず口の端が上がる。
お父さんに報告しようかな、焦凍に会えたって。喜んでくれるかな。
淡い期待を抱きながら、私は家路につくのだった。
〈再会編 おしまい〉
あれ? みんな教室の外にいる。全員がこちらに頭を向けている。
「轟さん! あの、水火さんとは……」
百ちゃんが焦凍に話しかける。
「……」
焦凍は何も言わず、教室へすっと入っていってしまう。
「水火さん! どうでしたか……?」
不安そうな顔の百ちゃん。私は足を止めた。クラスの他の子も、心配そうに私を見ている。
「大丈夫でした!」
笑って答えるとみんなぱっと笑顔になって、「よかったよかった」と言ってくれた。
どこからか拍手が聞こえる。その拍手はだんだん大きくなっていく。周りにいた事情を知らない他クラスの生徒たちがなんだなんだ、と私を見てくる。
「や、やめてよ〜」
苦笑いでお願いすると、どっと笑いが起きた。
あぁ、よかった。諦めないでよかった。
「百ちゃん」
一番応援してくれていた彼女に話しかける。
「あのとき、『諦めないで』って言ってくれたから、やっと会えたんだ。ありがとう!」
感謝を伝えると、驚いた顔をされた。
「本当に、本当に……よかったですわ……!」
百ちゃんは少しだけ泣きそうな顔で私に笑いかけた。
予鈴が鳴る。
「轟くんと水火くんの再会を祝うのもいいが、もう授業の時間だ。みんな! 準備を始めよう!」
メガネのいかにも頭良さそうな男子生徒がみんなに呼びかける。はーい、と返事をして生徒たちは教室へ帰っていく。
百ちゃんは帰らない。
「八百万くん!」
「ちょっと待ってください、飯田さん! 言いたいことがあるんですの」
メガネの子の指摘を制止して、百ちゃんは私を見る。黒い綺麗な瞳と目が合う。
「また、A組に遊びに来てくださいね」
「……うん!」
頷くと、百ちゃんは微笑んで教室へ戻っていった。
あ、私も次の授業の支度しなきゃ。次は……英語だ。マイク先生だ!
先生の授業おもしろいんだよな、そういえば単語の小テストだったっけ、なんて考えながら、私はC組へ急いだ。
帰り道。駅まで歩いて、電車に乗って、また歩いて。たったそれだけのことなのに、隣に話し相手がいると楽しいものだ。
「それで、授業中に
「えぇ!? 大丈夫だったの?」
「倒した」
「倒したぁ!?」
焦凍の口から出てくる話はどれもおもしろくて、私は「いいなー、A組楽しそうだね」と返す。
「……まぁな」
普通に歩いても二人の差が開いていかないのは、きっと焦凍が私に歩幅を合わせてくれているからだろう。
「担任の先生、誰なの?」
「相澤先生。イレイザーヘッド」
「あ、なんか聞いたことあるかも……?」
「あまり知られていないからな。でも、強いんだ。すごく」
「へぇ……」
担任といえば……私は少し前のことを思い出す。
帰ろうとしたら焦凍が教室の前に立っているものだから驚いた。クラスの子もびっくりしてたし、担任の先生も「なにかご用ですか……!?」と敬語になってしまっていた。
「……ふふ」
「どうした?」
「いや、さっきのうちの担任の先生の言葉、おもしろかったなって」
「あー……すまん。今度からはA組で待ち合わせるか?」
「え」
次なんてあるの? てっきり今日だけかと思っていた。私は心の中で飛び上がるほど喜んだ。
「じゃあ、A組の前で」
「あぁ、わかった」
頷く焦凍。夕暮れの風が彼の髪をふわりと揺らす。
「あ、そうだ。焦凍、食堂にパンのコーナーあるの知ってる?」
「ん……そうなのか」
「でね、そこのクリームパンが絶品でさー……」
喋りながら、私は気づいたことがある。
「クリームとパンの比率が絶妙なんだよね!」
こんなに楽しそうにパン談義をしても、焦凍は表情を一切変えないのだ。
「くどいと思わせない配合っていうのかなー……とにかくすごいんだよ!」
笑ってくれないのだ。
「焦凍もよかったら食べてみて!」
前は、笑ってくれたはずなのに。
「あぁ」
どうしちゃったのかな。
でも、「焦凍、笑わないね」なんて聞けるはずもなく、私はただ適当な話題で気づかないふりをするしかなかった。
「変わらないな」
「え?」
「変わらないな、水火は」
「……そう、かな」
焦凍は私を表情のない顔で見る。
「そのまっすぐなところ、羨ましいって思ってる」
まっすぐ? 私が……?
「そんなことないよ。私だってこの十年ぐちゃぐちゃだったし、うまくいかないことだらけだし」
焦凍と会えない間、本当に色々あったんだ。今話すべきではないと思うから、心にしまっておくけれど。
「でもね、友達に言われたんだ。『諦めないで』って。だから、頑張ってるの」
「……」
百ちゃん。あなたに会えなければ、多分今頃私は、C組で心にぽっかりと穴が空いたまま過ごしていたと思うんだ。
ありがとう。そうだ、今度会ったらもう一回言おう。
「そうか」
焦凍の足が止まる。気づけば、焦凍の家の前まで来ていた。和風建築のその家は、静かな住宅街で圧倒的な存在感を放っている。相変わらず大きいな……。
「水火」
名前を呼ばれて振り返る。
「水火は、将来何になりたいんだ?」
「今の所、医師だけど……」
答えると、焦凍は「そうか」とぼそり、口にした。
「また遊びに来てくれ。親父には俺から言っておくから」
「え……」
突然の誘いに私は驚いて硬直してしまう。
また、遊びに行けるの? ってことは、冬美さんや夏雄さんにも会えるってこと? 冷さんにも? いや、冷さんは、今……。
「じゃあ、また明日」
私ははっとなって返事する。
「う、うん、また、明日」
お互いに手を振って別れる。懐かしい感覚。
夕暮れどきの帰り道、歩く足は次第に軽やかになる。
焦凍にやっと会えた! 十年ぶりだよ!? こんなに嬉しいことがあったのは久々だ! 今日はノリノリで宿題できちゃいそう……!
思わず口の端が上がる。
お父さんに報告しようかな、焦凍に会えたって。喜んでくれるかな。
淡い期待を抱きながら、私は家路につくのだった。
〈再会編 おしまい〉