再会
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男子生徒に無理矢理手首を引かれる女子生徒。その図は珍しいようで、廊下にいる他の学生たちが私たちを奇異の目で見てくる。昼休みだから人が多く、たくさんの視線が私に注がれる。
やがて、ひとつの教室の前で彼は止まった。空き教室だった。ドアを開け、その中に入っていく。教室には誰もいない。
A組の教室のあたりはうるさかったのに、ここはひどく静かだ。
まるで、二人だけが世界に取り残されてしまったかのように。
やっと焦凍が手を離した。私は少しだけほっとする。
「焦凍……」
名前を呼ぶと、彼は私の方を見て、そしてこちらに近づく。
「え、あの」
どんどん二人の距離は縮まる。
「焦凍……?」
近いよ、なんて言おうとしたときだった。
抱きしめられた。
彼の体温が直接、私に伝わる。あたたかな、ぬくもり。
もう訪ねることをやめてしまった、あの家の匂いがふわりと香る。
「……へっ?」
びっくりして固まってしまう。頭はもう真っ白だ。
放心していると、腕の力が強くなった。あばらが少しだけ痛む。
「痛いよ、焦凍」
声をかける。抱きしめられている力が少しだけゆるむ。
あぁ、言葉は届いているのか。
そんなことを考えていると、思考も冷静になって、真っ白だった頭が次第にはっきりと意識を取り戻していく。
私、焦凍に抱きしめられてる……?
顔が熱くなる。え、ちょっと待って、私、抱きしめられてる?
この状況を飲み込もうとしてうまく飲み込めなくて、それでも飲み込もうとすると焦りと恥ずかしさと謎の嬉しさで頭がいっぱいになった。
「焦凍、あの」
なんて言えばいいのかな。言葉に迷う。
「……く……うぅっ……」
ふと、嗚咽が聞こえた。私のものではない。目の前の相手がふるふると震えているのがわかる。
「……会いたかった」
聞こえた声は想像してたより低くて、十年の歳月が経ってしまったという残酷な事実を突きつけられる。
それでも、変わらないものもある。
目の前の相手は、十年前に別れた、あの焦凍だ。
私は優しく笑ってこう返事をする。
「私も、だよ」
ゆっくりと彼の背に手を回すと、彼は一瞬びくりと反応したあと、ふーっと長く息を吐いた。
胸に顔をうずめると、とくんとくん音がする。彼の心臓の音がする。少しだけ早い。その速度はだんだんゆっくりになっていく。
懐かしい香り。あぁ、今、焦凍に会えたんだ。再会、できたんだ。
このまましばらくいられたら……。
その瞬間、焦凍がバッと身を引いた。私の両手が虚しくそのままの形で残る。
「……すまん」
こちらを見る目は赤くなっていて、先程まで抱きしめていた相手が泣いていたことを知る。
「大丈夫だよ」
手を下ろして、安心させるように声をかける。焦凍はもう一度「すまん」と言って、気まずそうに視線を逸らした。
「ヒーロー科、なんでしょ?」
できるだけ明るい声で話しかけた。
「すごいじゃん、焦凍! ヒーロー、なりたいって言ってたもんね!」
にこり、微笑んでみせると焦凍は一瞬複雑そうな顔をしたのち、「そうだな」と肯定的な返事をくれた。
「……水火もすごいな。ここ偏差値79だぞ、相当勉強頑張ったんじゃないか?」
「まぁ、そうだね。あはは」
苦笑いをする。焦凍は制服の袖で涙を拭う。
「焦凍、推薦だったんでしょ?」
「あぁ。だから俺は別に。一般入試の水火よりすごくない」
「いや、でも推薦も大変なんでしょ? すごいよー!」
「……そうだな」
C組じゃ飽きるほど聞いた、推薦 or 一般入試の話題。お互いを謙遜しあうだけのつまらない社交辞令。
それでも、彼と話すのは楽しかった。
「引っ越してないよな?」
「え? うん、そうだけど……」
急に聞かれて私は困惑する。
「その、水火がよかったら、なんだが」
焦凍はぽつぽつと話す。
「一緒に帰らねぇか?」
声は少しだけ震えていて、彼が緊張していることがわずかに伝わってきた。
「もっちろん!」
思い切りよく返事をする。こんなお誘い、誰が断るというのだ。だって私は、焦凍のことが——。
焦凍の、ことが?
「ほら、もう昼休み終わるから帰るぞ」
「あ、うん!」
焦凍は教室の外へ私を招く。一瞬浮かんだ疑問はすぐにまた沈む。見なかったことにした。
やがて、ひとつの教室の前で彼は止まった。空き教室だった。ドアを開け、その中に入っていく。教室には誰もいない。
A組の教室のあたりはうるさかったのに、ここはひどく静かだ。
まるで、二人だけが世界に取り残されてしまったかのように。
やっと焦凍が手を離した。私は少しだけほっとする。
「焦凍……」
名前を呼ぶと、彼は私の方を見て、そしてこちらに近づく。
「え、あの」
どんどん二人の距離は縮まる。
「焦凍……?」
近いよ、なんて言おうとしたときだった。
抱きしめられた。
彼の体温が直接、私に伝わる。あたたかな、ぬくもり。
もう訪ねることをやめてしまった、あの家の匂いがふわりと香る。
「……へっ?」
びっくりして固まってしまう。頭はもう真っ白だ。
放心していると、腕の力が強くなった。あばらが少しだけ痛む。
「痛いよ、焦凍」
声をかける。抱きしめられている力が少しだけゆるむ。
あぁ、言葉は届いているのか。
そんなことを考えていると、思考も冷静になって、真っ白だった頭が次第にはっきりと意識を取り戻していく。
私、焦凍に抱きしめられてる……?
顔が熱くなる。え、ちょっと待って、私、抱きしめられてる?
この状況を飲み込もうとしてうまく飲み込めなくて、それでも飲み込もうとすると焦りと恥ずかしさと謎の嬉しさで頭がいっぱいになった。
「焦凍、あの」
なんて言えばいいのかな。言葉に迷う。
「……く……うぅっ……」
ふと、嗚咽が聞こえた。私のものではない。目の前の相手がふるふると震えているのがわかる。
「……会いたかった」
聞こえた声は想像してたより低くて、十年の歳月が経ってしまったという残酷な事実を突きつけられる。
それでも、変わらないものもある。
目の前の相手は、十年前に別れた、あの焦凍だ。
私は優しく笑ってこう返事をする。
「私も、だよ」
ゆっくりと彼の背に手を回すと、彼は一瞬びくりと反応したあと、ふーっと長く息を吐いた。
胸に顔をうずめると、とくんとくん音がする。彼の心臓の音がする。少しだけ早い。その速度はだんだんゆっくりになっていく。
懐かしい香り。あぁ、今、焦凍に会えたんだ。再会、できたんだ。
このまましばらくいられたら……。
その瞬間、焦凍がバッと身を引いた。私の両手が虚しくそのままの形で残る。
「……すまん」
こちらを見る目は赤くなっていて、先程まで抱きしめていた相手が泣いていたことを知る。
「大丈夫だよ」
手を下ろして、安心させるように声をかける。焦凍はもう一度「すまん」と言って、気まずそうに視線を逸らした。
「ヒーロー科、なんでしょ?」
できるだけ明るい声で話しかけた。
「すごいじゃん、焦凍! ヒーロー、なりたいって言ってたもんね!」
にこり、微笑んでみせると焦凍は一瞬複雑そうな顔をしたのち、「そうだな」と肯定的な返事をくれた。
「……水火もすごいな。ここ偏差値79だぞ、相当勉強頑張ったんじゃないか?」
「まぁ、そうだね。あはは」
苦笑いをする。焦凍は制服の袖で涙を拭う。
「焦凍、推薦だったんでしょ?」
「あぁ。だから俺は別に。一般入試の水火よりすごくない」
「いや、でも推薦も大変なんでしょ? すごいよー!」
「……そうだな」
C組じゃ飽きるほど聞いた、推薦 or 一般入試の話題。お互いを謙遜しあうだけのつまらない社交辞令。
それでも、彼と話すのは楽しかった。
「引っ越してないよな?」
「え? うん、そうだけど……」
急に聞かれて私は困惑する。
「その、水火がよかったら、なんだが」
焦凍はぽつぽつと話す。
「一緒に帰らねぇか?」
声は少しだけ震えていて、彼が緊張していることがわずかに伝わってきた。
「もっちろん!」
思い切りよく返事をする。こんなお誘い、誰が断るというのだ。だって私は、焦凍のことが——。
焦凍の、ことが?
「ほら、もう昼休み終わるから帰るぞ」
「あ、うん!」
焦凍は教室の外へ私を招く。一瞬浮かんだ疑問はすぐにまた沈む。見なかったことにした。