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再会

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 ハンカチを触る。

 薄い水色で、雪の結晶の模様があるそのハンカチは、何度も洗っているせいでもう最初の頃の柔らかさはなくなっている。
 それでも俺は、このハンカチを大切にしている。
 なぜって?

 水火からの最後のプレゼントだからだ。
 そして、おそらくこれが、人生で本当に最後の、彼女からのプレゼントだということも知っている。

 雄英の受験のときも助けてくれたハンカチだ。本当にこのハンカチには、ハンカチの送り主には感謝しかない。

 昼休みの教室は騒がしく、俺は次の授業の予習をしようとぼんやり考える。

 昼食後は意識が少しぼーっとする。頭が回らないのだ。この前のUSJでのヴィランの襲撃など、予測できないイベントが重なって疲れている面もあるのだろう。

 こんなとき、俺の思考は自然と過去へ向いてしまう。

 あのとき、最後に水火が家に来てくれたあのとき。
 親父は、俺を水火と会わせてくれなかった。

 玄関で兄弟たちと水火水火の父親が話していたのを、遠くからこっそりと見ることしかできなかった。

 あのとき親父の手を振り払ってでも会いに行けばよかったと、今更後悔している。

 でもどうせ、会うつもりもないのだ。会えないのだから。だから、この後悔は無駄なものだ。

 ふと思い出す、水火の笑顔。

「しょうと!」

 俺はひとつため息をつく。
 ハンカチをしまう。次の授業の予習をしようか。

「なぁ、轟」
 前の席に座っている生徒が話しかけてきた。この特徴的な黒い頭は……。

「常闇か。なんだ」
「……本人から言わぬよう言われているから、言いづらいのだが」
 常闇は一呼吸置いて小声で俺に話す。

「轟によく似た生徒が、轟が帰った後に教室に来ているんだ」
「……」

 俺は首を傾げる。
 俺によく似た生徒? そんな個性を持ったやつが他にもいるのか?

「毎日だ。入学式から……昨日も。もう一ヶ月近いな」
 そんなに俺に会いたいのか? と不思議に思う。

「誰だ」
「轟のいとこ、みたいだぞ」
 いとこ。その言葉に、思わず目を見開いてしまう。

「心当たりはあるのか」
 常闇ははぁ、と呆れたようにため息をついた。

 水火? 確かに、姉から彼女が雄英に来ているということを教えてもらったが。

 水火が俺に会おうとしている?

 あの水火が?

 今の俺を何も知らない水火が?

 純粋でまっすぐで、俺のことを曇りのない目で見てくれていたあの子が?

「しょうと」
 また、笑顔が蘇る。

「いや、だ」
 勝手に口からこぼれた気持ちが耳に届いて、俺ははっとなる。

 違う! 俺は、本当は……。

「……ん? 今、なんて言ったんだ?」
「……なんでもねぇ」
「そうか。まぁ、とにかく」
 常闇は俺の目を見て告げる。

「会ってやれよ。あんなに毎日来ているんだ、きっとお前になにか言いたいことがあるんだろう」
「……」
 常闇の提案にただ、口をぎゅっと結ぶことしかできない。

 今の歪んだ俺を、アイツに見せてしまってもいいのか?

 このドス黒い心のうちをアイツに見せてしまってもいいのか?

 複雑になってしまった、別れてからのぐちゃぐちゃの歩みを、アイツに話してもいいのか?

 ……この火傷の跡も。
 左手で左目の付近を触る。ざらりとした感触が指先に伝わった。

 もし怖がらせてしまったらどうしようか。考えて、怖くなる。

「……わからない。本当に会ってしまってもいいのか」
 ぼそりと呟くと、常闇は少し驚いた顔をした。

「ん……? 俺は、二人に何があったのかはよくわからないが」
 前の席の彼は、俺の目を見ながら静かに言う。

「会うことに、マルもバツもないと思うけどな。会いたいのなら」
「……そうか」

「そうですわ、轟さん」
 ふと声に振り向くと、左の席の女子生徒が常闇の意見に同意している。

「ぜひ会ってほしいんです……! あの子、いっつも悲しそうな顔をして帰っていくんですのよ?」

 普段の冷静な八百万と違って、今目の前の彼女は必死に俺に言葉を伝えていた。目にまっすぐな気持ちが宿っている。

「一度でいいんです、どうか」
「……」

「そうだ、轟。積もる話もあるんじゃないか?」
「……」

 二人に迫られて、俺は何も言えない。

「しょうと、『せいこうさく』ってなに?」
 何も知らぬ純粋な顔で、俺に尋ねたあのときの光景を今でも覚えている。

「……みか
 あの頃のように、名前を呼べたなら。

 予鈴が鳴る。二人は次の授業のためにそれぞれ準備を始める。

「……今更」
 後悔の小さな独り言は、教室の喧騒に混ざって消えていく。
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