夏休み
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「すごかったな……」
夕食を食べたベンチに座って、焦凍が懐かしむように声を漏らす。
「うん。まさか……とれちゃうなんてね」
ふふ、と笑って、私はつい先ほどの戦いを思い出す。
あのあと、左端を狙った弾は命中し、箱が倒れた。周囲からはどっと歓声があふれ、私は約束通りゲーム機を少女に渡した。
少女は何度もお礼を言い、そして私に抱きついた。少し戸惑ったが、はしゃぐ彼女の頭を撫でた。小さい頭だった。
射的の店主からは、来年も勝負しようと誘われた。もちろん、と答え、今度はどんな重さの景品になるかと頭の中で予想してみた。
提灯でぼんやりとした灯りの中、行き交う人達を見つめる。
緑のビニールでできた大きなおもちゃを持ってはしゃぐ子供たち、ピンクと白のヨーヨーを持って写真を撮る若いカップル、似た青のデザインの浴衣に身を包んだ老夫婦。みな、楽しそうだ。
横を見ると、いとこは前を向いていた。視線を少し落として、満足そうな笑みを口元に浮かべている。
楽しんで、くれたかな。
脇に置いてある戦利品の中から、一つを手に取る。
「これ、あげるよ」
声かけに気づき、焦凍がこちらに向き直る。チョコがけプリッツの赤い箱。焦凍は手を伸ばしかけ、尋ねる。
「いいのか?」
「うん!」
焦凍の手が箱に触れ、私は手を離す。彼は、手の中の赤いパッケージを眺めている。
「今日のお祭り、すっごく楽しかったんだ。だから、あげる。焦凍がいてくれたからだよ」
「俺はなにも……」
言い淀む焦凍に、「さっきの射的、焦凍が支えてくれなかったら無理だったから」と素直な感想を伝える。その後すぐに、私はその発言を取り消すように首を横に振る。
「ううん、そうじゃなかったとしても、いいの。焦凍がそばにいてくれるだけで、私はうれしいんだ」
言い終えて、相手を見る。焦凍はぽかんと小さく口を開け、まっすぐにこちらを見ている。
告白みたいなことをしてしまったと気づいた。顔にじわじわと熱がのぼっていく。
「ご、ごめん、忘れて」
声が上ずってしまっていた。思わず膝の上の手元に視線を落とす。黒い浴衣の波紋が、私を見つめる。
「……俺もだ」
柔らかな声に顔を上げ、いとこの方を見る。口が開いて、強く、しかしやさしく、言葉を紡ぐ。
「俺も、水火がいてくれたから楽しかった」
微笑む視線は、確かに私に向けられている。頬がわずかに赤く染まっているように見えるのは、提灯の灯りのせいだろうか。
「また、遊ぼう」
すっと差し出されたのは、小指だった。
十年前、いつも別れるときにしていた、小さな儀式を思い出す。
また会えると信じて疑わなかった、あの約束。今では、また顔を合わせられると、言葉を交わすことができると、強く確信している。
「……うん!」
私も同じようにして、右手の小指を絡める。少し上下してほどかれた、小指に残ったほのかな熱を、そっと左手で包み込んだ。
〈夏休み編 おしまい〉
夕食を食べたベンチに座って、焦凍が懐かしむように声を漏らす。
「うん。まさか……とれちゃうなんてね」
ふふ、と笑って、私はつい先ほどの戦いを思い出す。
あのあと、左端を狙った弾は命中し、箱が倒れた。周囲からはどっと歓声があふれ、私は約束通りゲーム機を少女に渡した。
少女は何度もお礼を言い、そして私に抱きついた。少し戸惑ったが、はしゃぐ彼女の頭を撫でた。小さい頭だった。
射的の店主からは、来年も勝負しようと誘われた。もちろん、と答え、今度はどんな重さの景品になるかと頭の中で予想してみた。
提灯でぼんやりとした灯りの中、行き交う人達を見つめる。
緑のビニールでできた大きなおもちゃを持ってはしゃぐ子供たち、ピンクと白のヨーヨーを持って写真を撮る若いカップル、似た青のデザインの浴衣に身を包んだ老夫婦。みな、楽しそうだ。
横を見ると、いとこは前を向いていた。視線を少し落として、満足そうな笑みを口元に浮かべている。
楽しんで、くれたかな。
脇に置いてある戦利品の中から、一つを手に取る。
「これ、あげるよ」
声かけに気づき、焦凍がこちらに向き直る。チョコがけプリッツの赤い箱。焦凍は手を伸ばしかけ、尋ねる。
「いいのか?」
「うん!」
焦凍の手が箱に触れ、私は手を離す。彼は、手の中の赤いパッケージを眺めている。
「今日のお祭り、すっごく楽しかったんだ。だから、あげる。焦凍がいてくれたからだよ」
「俺はなにも……」
言い淀む焦凍に、「さっきの射的、焦凍が支えてくれなかったら無理だったから」と素直な感想を伝える。その後すぐに、私はその発言を取り消すように首を横に振る。
「ううん、そうじゃなかったとしても、いいの。焦凍がそばにいてくれるだけで、私はうれしいんだ」
言い終えて、相手を見る。焦凍はぽかんと小さく口を開け、まっすぐにこちらを見ている。
告白みたいなことをしてしまったと気づいた。顔にじわじわと熱がのぼっていく。
「ご、ごめん、忘れて」
声が上ずってしまっていた。思わず膝の上の手元に視線を落とす。黒い浴衣の波紋が、私を見つめる。
「……俺もだ」
柔らかな声に顔を上げ、いとこの方を見る。口が開いて、強く、しかしやさしく、言葉を紡ぐ。
「俺も、水火がいてくれたから楽しかった」
微笑む視線は、確かに私に向けられている。頬がわずかに赤く染まっているように見えるのは、提灯の灯りのせいだろうか。
「また、遊ぼう」
すっと差し出されたのは、小指だった。
十年前、いつも別れるときにしていた、小さな儀式を思い出す。
また会えると信じて疑わなかった、あの約束。今では、また顔を合わせられると、言葉を交わすことができると、強く確信している。
「……うん!」
私も同じようにして、右手の小指を絡める。少し上下してほどかれた、小指に残ったほのかな熱を、そっと左手で包み込んだ。
〈夏休み編 おしまい〉