夏休み
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「水火……大丈夫か?」
「うん。一発当ててみて、だめそうだったらお菓子に切り替える」
「……ちゃんと考えてるんだな」
「そうだね……」
ふー、と息を吐いて、景品までの距離を目視で測り、中に入っているであろう重りの形を想像する。
大きな石なら。大量の砂なら。どこが重心になる。どこを、打てばいい。
たくさんのパターンを想像しながら、ほかの弾が当たっても微動だにしないそれを観察する。
手元には三発の弾しかない。これで撃ち落とすには、どうすればいい。
「姉ちゃん、まさかあれを狙うつもりかい?」
店主が私に語りかける。
「やめておいた方がいいよ。あれは落とせるようにはできてないから」
「でも、落としますから」
「……ほう?」
彼はにやりと笑って、ゲーム機の箱に視線を向けた。
銃を構える。狙うは、箱の右上のぎりぎりの端。てこの原理だ。加えて、端っこを狙うと回転がついてより後ろに落ちやすくなる。それを狙う。
頭ではわかっているけれど、これを実践するとなるとなかなか難しい。普段から撃ち慣れているわけではないし、そんな状況にもなかなかならない。
勉強と違って、反復練習をしていないから、本当に一発勝負だ。三発あるから大丈夫、と思ってはいけない。徒然草の『ある人、弓射ることを習ふに』の通りだ。
この三発すべてを使わないと、撃ち落とすことは叶わないだろう。そのくらいの強敵だと私は見ていた。
「ちょっとすみません!」
即興の計算で出した打ちやすい場所へ、ほかの客をかきわけるように移動する。動いた私に、屋台の周りにいる人たちが視線を向ける。
「あれ、落とすらしいよ」
「マジー? 無理っしょ」
中学生が、私を見て発言したのがわかった。くすくす、と笑い声。後ろに立っているのだろう。
気にすることはない。私のやることは、ただ、目標に照準を合わせるのみ。
深呼吸して、銃を構える。狙うは右上、端の端。引き金を引く。
バチィッ! と当たる音がして、びくともしなかった箱が、回転する形で奥に五センチほど、動いた。
「おー!」
隣で見ていた少女が、感嘆の声を上げる。
「お姉ちゃん、これなら行けるよね!」
「多分……」
残り二発。弾を込めて、また移動する。
「やる気だな、水火」
「うん……」
たった一発、当てられただけだ。気をゆるませてはいけないと、私はまた深呼吸をして、今度は左上に狙いを定める。
引き金を引くと、それは当てたかったところに派手な音を立てて当たった。箱がまた、後ろに数センチ動き、ぐらぐらっと揺れた。
その次の瞬間、予想していなかった方向から弾が飛んできて、箱に当たった。もちろん、私の放ったものではない。一体どこから、と周りを見渡すと、すぐ隣に立っていた浴衣姿の子供たちが、次々と引き金を引いている。
「お姉ちゃんの力になりたいんだ!」
「おれも!」
「わたしも!」
たった五発で五百円、その値段は小学生のお小遣いにしてはなかなかの痛手だろう。それなのに、彼らはただ、純粋な気持ちで、私の助けになってくれている。
「お客さん、そういうのは困りますって!」
射的の店主が大きな両手を広げて止めにかかるも、少年がべろを出して威嚇する。
「べーだ! 毎年ずるしやがって!」
「そーだそーだ! ずるしてるのはおじさんだ!」
「ぐっ……」
彼は苦い顔をして、すごすごと下がった。
「お姉ちゃん! がんばって!」
銃を構えた少年が笑う。奥には、ぎゅうと拳を握りしめた少女が、私を心配そうに見つめている。彼女に強気に笑ってみせ、私は最後の一発を急いで込める。
集中しろ。ぐらぐらと揺れている箱は、重心がわかりにくい。だが、ここから狙えるはずだ。さっきも当てた、左端を。
引き金に指をかける。どうしても緊張してしまっていて、手の震えから銃口が揺れているのが自分でもわかる。
そのとき、すっと誰かの手が射的銃の持ち手を下から支えた。誰かはもう、わかっていた。
「焦凍、ありがとう」
「ああ。水火ならできる。そばにいるから」
左端を狙って、引き金に指をかける。
「うん。一発当ててみて、だめそうだったらお菓子に切り替える」
「……ちゃんと考えてるんだな」
「そうだね……」
ふー、と息を吐いて、景品までの距離を目視で測り、中に入っているであろう重りの形を想像する。
大きな石なら。大量の砂なら。どこが重心になる。どこを、打てばいい。
たくさんのパターンを想像しながら、ほかの弾が当たっても微動だにしないそれを観察する。
手元には三発の弾しかない。これで撃ち落とすには、どうすればいい。
「姉ちゃん、まさかあれを狙うつもりかい?」
店主が私に語りかける。
「やめておいた方がいいよ。あれは落とせるようにはできてないから」
「でも、落としますから」
「……ほう?」
彼はにやりと笑って、ゲーム機の箱に視線を向けた。
銃を構える。狙うは、箱の右上のぎりぎりの端。てこの原理だ。加えて、端っこを狙うと回転がついてより後ろに落ちやすくなる。それを狙う。
頭ではわかっているけれど、これを実践するとなるとなかなか難しい。普段から撃ち慣れているわけではないし、そんな状況にもなかなかならない。
勉強と違って、反復練習をしていないから、本当に一発勝負だ。三発あるから大丈夫、と思ってはいけない。徒然草の『ある人、弓射ることを習ふに』の通りだ。
この三発すべてを使わないと、撃ち落とすことは叶わないだろう。そのくらいの強敵だと私は見ていた。
「ちょっとすみません!」
即興の計算で出した打ちやすい場所へ、ほかの客をかきわけるように移動する。動いた私に、屋台の周りにいる人たちが視線を向ける。
「あれ、落とすらしいよ」
「マジー? 無理っしょ」
中学生が、私を見て発言したのがわかった。くすくす、と笑い声。後ろに立っているのだろう。
気にすることはない。私のやることは、ただ、目標に照準を合わせるのみ。
深呼吸して、銃を構える。狙うは右上、端の端。引き金を引く。
バチィッ! と当たる音がして、びくともしなかった箱が、回転する形で奥に五センチほど、動いた。
「おー!」
隣で見ていた少女が、感嘆の声を上げる。
「お姉ちゃん、これなら行けるよね!」
「多分……」
残り二発。弾を込めて、また移動する。
「やる気だな、水火」
「うん……」
たった一発、当てられただけだ。気をゆるませてはいけないと、私はまた深呼吸をして、今度は左上に狙いを定める。
引き金を引くと、それは当てたかったところに派手な音を立てて当たった。箱がまた、後ろに数センチ動き、ぐらぐらっと揺れた。
その次の瞬間、予想していなかった方向から弾が飛んできて、箱に当たった。もちろん、私の放ったものではない。一体どこから、と周りを見渡すと、すぐ隣に立っていた浴衣姿の子供たちが、次々と引き金を引いている。
「お姉ちゃんの力になりたいんだ!」
「おれも!」
「わたしも!」
たった五発で五百円、その値段は小学生のお小遣いにしてはなかなかの痛手だろう。それなのに、彼らはただ、純粋な気持ちで、私の助けになってくれている。
「お客さん、そういうのは困りますって!」
射的の店主が大きな両手を広げて止めにかかるも、少年がべろを出して威嚇する。
「べーだ! 毎年ずるしやがって!」
「そーだそーだ! ずるしてるのはおじさんだ!」
「ぐっ……」
彼は苦い顔をして、すごすごと下がった。
「お姉ちゃん! がんばって!」
銃を構えた少年が笑う。奥には、ぎゅうと拳を握りしめた少女が、私を心配そうに見つめている。彼女に強気に笑ってみせ、私は最後の一発を急いで込める。
集中しろ。ぐらぐらと揺れている箱は、重心がわかりにくい。だが、ここから狙えるはずだ。さっきも当てた、左端を。
引き金に指をかける。どうしても緊張してしまっていて、手の震えから銃口が揺れているのが自分でもわかる。
そのとき、すっと誰かの手が射的銃の持ち手を下から支えた。誰かはもう、わかっていた。
「焦凍、ありがとう」
「ああ。水火ならできる。そばにいるから」
左端を狙って、引き金に指をかける。