夏休み
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夕飯を食べ終え、私たちはまた屋台を巡っていた。
声変わり前の高い声がいくつも聞こえた。自然と視線は子供たちが集まっている、ある屋台に向く。
「ママ、当たらないよ!」
「よーく狙ってみなさい」
男の子と、母親の声。
「これ、参加賞ね。また来てよ!」
「えー……」
店主と、小さすぎるプラスチックの景品に目を落とす少女の声。
ぱちん、ぱちん、と音が聞こえる屋台の前で、私は足を止めた。
「水火、射的が気になるのか?」
「うん、やりたいな。やってもいい?」
「ああ。隣で見ている」
お金を払い、店主から射的銃を受け取る。重たい。両手で持って、安定する位置を模索する。
隣の子供の放つ弾を、少しの間観察する。威力の弱さを確認し、目標をどれにしようかと見定める。よし、あのお菓子のラムネにしよう。目の前にあるし、難しくない。
弾を込めて、狙いを定める。勉強中によく食べている、軽いプラスチックの緑のボトルは、ぐらっと揺れて後ろに倒れた。
「お、姉ちゃんやるねぇ」
店主のおじさんが、ラムネを渡してくれる。「ありがとうございます」と受け取り、また次の獲物を狙う。残り、四発。
次はあのお菓子にしよう。細長いプリッツに甘いチョコレートをかけたそのお菓子は、私の好きなお菓子だ。赤い箱は少し遠いが、問題ない。
弾を込めて、狙う。ぱちん、と音がして、箱は倒れた。
「水火、すごいな」
「そう? ありがとうね」
戦利品を受け取り、次を狙う。
手持ちの三発でどれを狙うか悩んでいると、その様子を見ていた少女が「……あの」と、私に話しかけてきた。さっき参加賞をもらって、その景品のしょぼさに落ち込んでいた少女だった。
「お姉ちゃん、あれも打ち落とせる?」
指さしたのは、今流行りのゲーム機の本体だった。お祭りの、薄汚い大人の残酷な真実を伝えるか迷って、伝えることにした。
「ああいった目玉商品は、とても重いんだよね。だから、諦めて小さいお菓子やおもちゃを狙った方が」
「欲しいの!」
私の説明を遮る少女の目は、確かに私を見上げている。
「クラスで私だけ持ってないの。いつも話に入れなくてつらいの。……だから」
少女は下を向いている。薄い紫色の、半袖のTシャツから出ている痩せた腕が、目についた。
私の脳裏に、小さかったころの記憶がよみがえる。私も、少女と同じ毎日を過ごしていた。
笑い声の聞こえる輪に入りたいのに、入れない。存在感を消して勉強に励んでいたが、それでも消えなかった疎外感を、これ以上この子に味わわせたくなかった。
私は決意する。
「……それなら、獲るよ」
少女が顔を上げる。その瞳には、きらきらとしたビー玉が光を受けて輝くような、淡い期待が宿っていた。
「だめだったら、ごめんね」
「大丈夫。私も無理だと思ってるから。でも、お姉ちゃんのこと、応援してる」
に、と笑う彼女の期待を、裏切りたくなかった。たとえ無理だったとしても、撃ち落としたお菓子は全部彼女にあげよう。そう思って、銃に弾を込める。
声変わり前の高い声がいくつも聞こえた。自然と視線は子供たちが集まっている、ある屋台に向く。
「ママ、当たらないよ!」
「よーく狙ってみなさい」
男の子と、母親の声。
「これ、参加賞ね。また来てよ!」
「えー……」
店主と、小さすぎるプラスチックの景品に目を落とす少女の声。
ぱちん、ぱちん、と音が聞こえる屋台の前で、私は足を止めた。
「水火、射的が気になるのか?」
「うん、やりたいな。やってもいい?」
「ああ。隣で見ている」
お金を払い、店主から射的銃を受け取る。重たい。両手で持って、安定する位置を模索する。
隣の子供の放つ弾を、少しの間観察する。威力の弱さを確認し、目標をどれにしようかと見定める。よし、あのお菓子のラムネにしよう。目の前にあるし、難しくない。
弾を込めて、狙いを定める。勉強中によく食べている、軽いプラスチックの緑のボトルは、ぐらっと揺れて後ろに倒れた。
「お、姉ちゃんやるねぇ」
店主のおじさんが、ラムネを渡してくれる。「ありがとうございます」と受け取り、また次の獲物を狙う。残り、四発。
次はあのお菓子にしよう。細長いプリッツに甘いチョコレートをかけたそのお菓子は、私の好きなお菓子だ。赤い箱は少し遠いが、問題ない。
弾を込めて、狙う。ぱちん、と音がして、箱は倒れた。
「水火、すごいな」
「そう? ありがとうね」
戦利品を受け取り、次を狙う。
手持ちの三発でどれを狙うか悩んでいると、その様子を見ていた少女が「……あの」と、私に話しかけてきた。さっき参加賞をもらって、その景品のしょぼさに落ち込んでいた少女だった。
「お姉ちゃん、あれも打ち落とせる?」
指さしたのは、今流行りのゲーム機の本体だった。お祭りの、薄汚い大人の残酷な真実を伝えるか迷って、伝えることにした。
「ああいった目玉商品は、とても重いんだよね。だから、諦めて小さいお菓子やおもちゃを狙った方が」
「欲しいの!」
私の説明を遮る少女の目は、確かに私を見上げている。
「クラスで私だけ持ってないの。いつも話に入れなくてつらいの。……だから」
少女は下を向いている。薄い紫色の、半袖のTシャツから出ている痩せた腕が、目についた。
私の脳裏に、小さかったころの記憶がよみがえる。私も、少女と同じ毎日を過ごしていた。
笑い声の聞こえる輪に入りたいのに、入れない。存在感を消して勉強に励んでいたが、それでも消えなかった疎外感を、これ以上この子に味わわせたくなかった。
私は決意する。
「……それなら、獲るよ」
少女が顔を上げる。その瞳には、きらきらとしたビー玉が光を受けて輝くような、淡い期待が宿っていた。
「だめだったら、ごめんね」
「大丈夫。私も無理だと思ってるから。でも、お姉ちゃんのこと、応援してる」
に、と笑う彼女の期待を、裏切りたくなかった。たとえ無理だったとしても、撃ち落としたお菓子は全部彼女にあげよう。そう思って、銃に弾を込める。