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四月。桜が咲いて、私たちの晴れやかな高校生活が始まる時期。
髪を梳かして、パジャマから着替える。新品の緑のスカート、真っ白いシャツ、ピカピカのちょっと固いグレーのブレザーに腕を通して。赤いネクタイをきゅっとしめて。
「……よし」
鏡の前で、私は緊張している自分の顔を見つめる。どうして初めての日ってこんなにも緊張するんだろう。
「……」
それは、もしかしたらあの子に会えるからかもしれない。
「水火! そろそろ出るか?」
「今行く!」
急いで入学式に必要なものをカバンに詰め込んで、部屋を出る。
スーツ姿のお父さんは私を見て一瞬固まった。
「あー……」
私をちらっと見てはふわりと笑う。
「なに、お父さん」
「かっこいいな、水火」
お父さんはほんの少しだけ、目に涙をためていた。
「もう、お父さん! 早く行かないと二人とも遅刻しちゃうから……!」
「はは……そうだな。行こうか」
恥ずかしくて急かしてしまう。
もしこの場に、お母さんがいてくれたなら。ふと考える。
なんて言ってくれたかな。
「かわいいよ!」? 「素敵だよ!」? 「頑張って!」?
……それとも。
「きっとお母さんも、水火の制服姿、応援してくれてるさ」
思考を見透かされているように、お父さんは笑って言う。
「……うん!」
ドアを開けると、春風がふわり舞い込んできた。桜が確かに私たちを祝福していた。
「あの、轟くんいますか……!」
ドアの近くにいた黒髪ポニーテールの女子生徒に話しかける。彼女は振り返って私を見つめた。
私は、入学式とガイダンスのあとA組の教室の前にいた。目的はもちろん、焦凍に会うためだ。
当たり前だ。それ以外になにがあるというのだ。
きっとこの教室にいるはず。それは冬美さんから教えてもらったのだ。A組の推薦枠だって。
焦凍に会うために、来たんだ。
あぁ、でもなんて言えばいいのかなぁ。絶対びっくりするよね。私も、相手も。それで、ちょっと混乱して「久しぶりだね」なんて言葉を交わして……。
「轟さんなら、もう帰りましたよ」
女子生徒はそう告げた。
「……え?」
驚きの声が私の口から漏れる。
「……」
もう、帰った?
こんなに……こんなに待ち侘びていたのに?
十年も。十年間も。
家も通話も拒否されて、ここでなら、雄英でなら会えると思ったのに。
どうして。
やっぱり、私。焦凍に嫌われて……。
「……なにがあったのか、私は分かりかねますが……」
固まっている私を女子生徒は言葉でほぐしていく。私ははっとなって意識を思考から現実に戻す。
「明日もチャンスはありますわ。えーっと……もしかして、轟さんのご親戚かなにか?」
私の髪をちらっと見てその子は言う。
「あ! そうです! いとこなんです……」
「そうなんですね。髪色が似ているから、てっきり双子なのかと思っていましたわ」
女子生徒はにこっと笑う。途端に空気が華やかになったのがわかった。笑顔が素敵な人だ。
「私、八百万 百 といいます。あなたは?」
「私は、轟水火です。C組です。えっと……百ちゃん、って呼んでもいいですか?」
「もちろんですわ。では……私は水火さんと呼ばせていただきますわね」
やった。ヒーロー科の友達ができた! かも!
私は心の中で一人ガッツポーズをする。
「水火さんがいらしたこと、轟さんに伝えておきましょうか?」
「あ、いや……いいです。迷惑になっちゃうとよくないので……」
「……そうですか」
百ちゃんは「そんなことないのに」とこっそり呟いた。聞かなかったことにした。
「じゃあ、また明日来ます!」
「また明日ですわ、水火さん!」
百ちゃんに手を振って私はA組を後にする。
きっと大丈夫。焦凍は "たまたま" 今日帰っちゃっただけで、きっと明日はいるよね!
また明日、チャレンジだ!
「轟くんいますか!」
「轟ちゃん? 帰っちゃったわ」
「轟くん、いますか?」
「轟ー? 帰っちゃったかなー」
「轟くん、いますか」
「今日は帰ってしまいましたわ……」
「……」
百ちゃんの前で、私はがっくりと肩を落とす。
あぁ。もうだめだ。
一週間粘ってもだめだ。
私が雄英に行くことは冬美さんから伝えられているはず。なのに、会えないということは。
どうせ、私なんて。どうせ……。
「もう、だめかな……」
「そんなことありませんわ、水火さん! どうか気を強く持って! 今日も轟さんは来てましたし、いつか絶対に会えますわ!」
百ちゃんは柔らかな笑顔で私に優しく応援の言葉をかけてくれる。そんな言葉が届かないほど、私の思考は黒くネガティブに塗り固められていく。
どうせお前は嫌われているんだ。
どんな立場で会おうとしているんだ。
彼の領域に赤の他人が土足で踏み入るんじゃない。
お前がかかわることで、彼が落ち込んでしまったらどうする?
過去のことを、思い出したくないことを思い出してしまったらどうする?
お前は、お前は。
「水火さん!」
両肩に感触。百ちゃんに肩を掴まれている。
「何があったのか、私にはわかりませんけど」
百ちゃんは私の涙で滲んだ瞳をしっかりと見つめる。
「絶対、会えますから!」
「そうよ、水火ちゃん。きっと会えるわ」
カエルみたいな女の子が私に言う。
「そうだよー! 今日も来てたんだよ?」
ふわふわした茶髪の女子生徒が私を励ます。
「絶対会えるって!」
透明な子が私の頭を撫でる。目では見えないけど、確かに手の感触がある。
「みんな……」
ぽたり、私の目から涙がこぼれ落ちる。
「私たち、みんな水火さんのこと、応援していますから。だから、どうか」
百ちゃんが真剣な眼差しで私を見ている。
「諦めないで」
「……うん」
涙を拭って、私は明日も来ようと決意を固める。ぎゅっと拳を握りしめた。
髪を梳かして、パジャマから着替える。新品の緑のスカート、真っ白いシャツ、ピカピカのちょっと固いグレーのブレザーに腕を通して。赤いネクタイをきゅっとしめて。
「……よし」
鏡の前で、私は緊張している自分の顔を見つめる。どうして初めての日ってこんなにも緊張するんだろう。
「……」
それは、もしかしたらあの子に会えるからかもしれない。
「水火! そろそろ出るか?」
「今行く!」
急いで入学式に必要なものをカバンに詰め込んで、部屋を出る。
スーツ姿のお父さんは私を見て一瞬固まった。
「あー……」
私をちらっと見てはふわりと笑う。
「なに、お父さん」
「かっこいいな、水火」
お父さんはほんの少しだけ、目に涙をためていた。
「もう、お父さん! 早く行かないと二人とも遅刻しちゃうから……!」
「はは……そうだな。行こうか」
恥ずかしくて急かしてしまう。
もしこの場に、お母さんがいてくれたなら。ふと考える。
なんて言ってくれたかな。
「かわいいよ!」? 「素敵だよ!」? 「頑張って!」?
……それとも。
「きっとお母さんも、水火の制服姿、応援してくれてるさ」
思考を見透かされているように、お父さんは笑って言う。
「……うん!」
ドアを開けると、春風がふわり舞い込んできた。桜が確かに私たちを祝福していた。
「あの、轟くんいますか……!」
ドアの近くにいた黒髪ポニーテールの女子生徒に話しかける。彼女は振り返って私を見つめた。
私は、入学式とガイダンスのあとA組の教室の前にいた。目的はもちろん、焦凍に会うためだ。
当たり前だ。それ以外になにがあるというのだ。
きっとこの教室にいるはず。それは冬美さんから教えてもらったのだ。A組の推薦枠だって。
焦凍に会うために、来たんだ。
あぁ、でもなんて言えばいいのかなぁ。絶対びっくりするよね。私も、相手も。それで、ちょっと混乱して「久しぶりだね」なんて言葉を交わして……。
「轟さんなら、もう帰りましたよ」
女子生徒はそう告げた。
「……え?」
驚きの声が私の口から漏れる。
「……」
もう、帰った?
こんなに……こんなに待ち侘びていたのに?
十年も。十年間も。
家も通話も拒否されて、ここでなら、雄英でなら会えると思ったのに。
どうして。
やっぱり、私。焦凍に嫌われて……。
「……なにがあったのか、私は分かりかねますが……」
固まっている私を女子生徒は言葉でほぐしていく。私ははっとなって意識を思考から現実に戻す。
「明日もチャンスはありますわ。えーっと……もしかして、轟さんのご親戚かなにか?」
私の髪をちらっと見てその子は言う。
「あ! そうです! いとこなんです……」
「そうなんですね。髪色が似ているから、てっきり双子なのかと思っていましたわ」
女子生徒はにこっと笑う。途端に空気が華やかになったのがわかった。笑顔が素敵な人だ。
「私、
「私は、轟水火です。C組です。えっと……百ちゃん、って呼んでもいいですか?」
「もちろんですわ。では……私は水火さんと呼ばせていただきますわね」
やった。ヒーロー科の友達ができた! かも!
私は心の中で一人ガッツポーズをする。
「水火さんがいらしたこと、轟さんに伝えておきましょうか?」
「あ、いや……いいです。迷惑になっちゃうとよくないので……」
「……そうですか」
百ちゃんは「そんなことないのに」とこっそり呟いた。聞かなかったことにした。
「じゃあ、また明日来ます!」
「また明日ですわ、水火さん!」
百ちゃんに手を振って私はA組を後にする。
きっと大丈夫。焦凍は "たまたま" 今日帰っちゃっただけで、きっと明日はいるよね!
また明日、チャレンジだ!
「轟くんいますか!」
「轟ちゃん? 帰っちゃったわ」
「轟くん、いますか?」
「轟ー? 帰っちゃったかなー」
「轟くん、いますか」
「今日は帰ってしまいましたわ……」
「……」
百ちゃんの前で、私はがっくりと肩を落とす。
あぁ。もうだめだ。
一週間粘ってもだめだ。
私が雄英に行くことは冬美さんから伝えられているはず。なのに、会えないということは。
どうせ、私なんて。どうせ……。
「もう、だめかな……」
「そんなことありませんわ、水火さん! どうか気を強く持って! 今日も轟さんは来てましたし、いつか絶対に会えますわ!」
百ちゃんは柔らかな笑顔で私に優しく応援の言葉をかけてくれる。そんな言葉が届かないほど、私の思考は黒くネガティブに塗り固められていく。
どうせお前は嫌われているんだ。
どんな立場で会おうとしているんだ。
彼の領域に赤の他人が土足で踏み入るんじゃない。
お前がかかわることで、彼が落ち込んでしまったらどうする?
過去のことを、思い出したくないことを思い出してしまったらどうする?
お前は、お前は。
「水火さん!」
両肩に感触。百ちゃんに肩を掴まれている。
「何があったのか、私にはわかりませんけど」
百ちゃんは私の涙で滲んだ瞳をしっかりと見つめる。
「絶対、会えますから!」
「そうよ、水火ちゃん。きっと会えるわ」
カエルみたいな女の子が私に言う。
「そうだよー! 今日も来てたんだよ?」
ふわふわした茶髪の女子生徒が私を励ます。
「絶対会えるって!」
透明な子が私の頭を撫でる。目では見えないけど、確かに手の感触がある。
「みんな……」
ぽたり、私の目から涙がこぼれ落ちる。
「私たち、みんな水火さんのこと、応援していますから。だから、どうか」
百ちゃんが真剣な眼差しで私を見ている。
「諦めないで」
「……うん」
涙を拭って、私は明日も来ようと決意を固める。ぎゅっと拳を握りしめた。