夏休み
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夏休みが始まった。焦凍たちヒーロー科は合宿らしい。楽しそう。
私は雄英高校に来ていた。運動系の部活で夏休みも来ている生徒たちはいるものの、校舎内は人が少なく、閑散としている。
部屋に入る前に、身だしなみを整えて汗をハンカチで拭く。毎年気温が上がっている気がするが、一体どこまで上がるのだろう、なんて答えの出ないことを考える。
カバンから目当ての教科書とノートを取り出してドアを開けると、冷房の空気が私の身体の表面を駆け抜けていく。涼しい。
「失礼します」
挨拶すると、数名の先生方が顔を上げて私を見て、にこっと笑ってくれた。雄英の先生方は優しい。目的の先生のところに近づく。
「え、エクトプラズム先生……お仕事中のところすみません」
先生はパソコンから顔を上げて「コンニチハ」と言う。作業をやめて、椅子ごと体を回転させて私に向き直った。
教科書の表紙を見せると、先生は目を見開いた。
「あの……数Ⅲって教えていただけませんか?」
質問に、彼は少しの間を置いたのち、答える。
「コレハ三年生ノ内容ニナル。轟ハマダ一年生ダ。早インジャナイカ?」
「わかってます」
頭にA組の子たちの頑張る姿が浮かび、私は言葉を続ける。
「ヒーロー科の子たちは合宿なんでしょう? 私も、頑張らなきゃって……!」
伝えると、先生は口の端を上げて「ナルホド」と納得する。
「試験デ満点ヲ取リ、次ノ学年ノ内容ヲマスターシテモナオ、更ナル高ミヲ目指ス……。
Plus Ultra、トイウコトダネ?」
「はいっ……!」
「イイダロウ。歓迎シヨウ」
先生はデスクから裏紙とボールペンを取り出す。
「ドコガワカラナイ?」
「あ、ありがとうございます! えっと、練習問題の2-4です。ここがよくわからなくて……」
「フム……」
疑問点を伝えると、口頭での説明と共に、紙に模範解答をより詳しくした解答が書かれていく。先生の解説はいつもわかりやすい。私は頷きっぱなしだった。
数学の他にも、英語と理科をマイク先生と13号先生にそれぞれ聞いて、疑問点はすべて消えてなくなった。先生方の手書きのメモをノートに挟む。
「勉強熱心ダナ、轟」
職員室を出ようとしたところをエクトプラズム先生に声をかけられ、私は振り返る。
「だ、だって! 私、これしか頑張れること、ないですから!」
昔からそうだもん。あはは、と苦笑いすると先生は「ソウカ?」と疑問形で返してきた。
「勉強以外ニモ、轟ニハイイトコロガタクサンアル。アノ話モ、ジックリ検討シテホシイ」
あの話、と聞いて、私の脳裏にいくつかの言葉と光景が駆け巡る。
部屋に響く声、謝罪する声、助けを求める声。そして最後に思い出すのは、記憶に刻まれたあの記憶。忘れようとしても忘れられない、あの記憶。
あのとき、私が、あんなことを言わなければ。
「……」
黙っている私に、先生は声をかける。
「マァ……無理ニトハ言ワナイガ、ナ。外ハ熱イカラ、シッカリ水分補給ヲスルヨウニ」
「……はい」
小さく返事をすると、先生は少しの間私を見つめて言葉を探していた。
「マタ分カラナイトコロガアッタラ、イツデモ聞イテクレ。時間ガ空イテイレバ教エヨウ。
クレグレモ無理ダケハシナイヨウニ」
「ありがとうございます、先生」
「……心配シテイル」
「……えっ、先生が心配することなんてなにもないですよ」
伝えると、先生は静かな声で言った。
「糸ガプツント切レテシマウヨウニ、イツカ轟ノソノ意思ガ切レテシマワナイカ心配ダ」
「あはは、ありがとうございます。そうならないように気をつけます」
「……ソウカ。デハ」
職員室を後にする。エクトプラズム先生の言葉が少し心に引っかかる。「糸がぷつんと切れてしまわないように」。糸を張っているような気はしないけど、先生からはそう見えているのだろうか。
時間は限られている。どうせなら有効活用をしよう。せっかく来たし、空き教室かどこかで勉強してから帰ろうかな。
いつもの、勉強漬けの毎日。予定といえば、そのうち焦凍の家に遊びに行くことくらい。
そんなゆるやかな日常にも、崩壊の音は着々と手を伸ばしていた。
私は雄英高校に来ていた。運動系の部活で夏休みも来ている生徒たちはいるものの、校舎内は人が少なく、閑散としている。
部屋に入る前に、身だしなみを整えて汗をハンカチで拭く。毎年気温が上がっている気がするが、一体どこまで上がるのだろう、なんて答えの出ないことを考える。
カバンから目当ての教科書とノートを取り出してドアを開けると、冷房の空気が私の身体の表面を駆け抜けていく。涼しい。
「失礼します」
挨拶すると、数名の先生方が顔を上げて私を見て、にこっと笑ってくれた。雄英の先生方は優しい。目的の先生のところに近づく。
「え、エクトプラズム先生……お仕事中のところすみません」
先生はパソコンから顔を上げて「コンニチハ」と言う。作業をやめて、椅子ごと体を回転させて私に向き直った。
教科書の表紙を見せると、先生は目を見開いた。
「あの……数Ⅲって教えていただけませんか?」
質問に、彼は少しの間を置いたのち、答える。
「コレハ三年生ノ内容ニナル。轟ハマダ一年生ダ。早インジャナイカ?」
「わかってます」
頭にA組の子たちの頑張る姿が浮かび、私は言葉を続ける。
「ヒーロー科の子たちは合宿なんでしょう? 私も、頑張らなきゃって……!」
伝えると、先生は口の端を上げて「ナルホド」と納得する。
「試験デ満点ヲ取リ、次ノ学年ノ内容ヲマスターシテモナオ、更ナル高ミヲ目指ス……。
Plus Ultra、トイウコトダネ?」
「はいっ……!」
「イイダロウ。歓迎シヨウ」
先生はデスクから裏紙とボールペンを取り出す。
「ドコガワカラナイ?」
「あ、ありがとうございます! えっと、練習問題の2-4です。ここがよくわからなくて……」
「フム……」
疑問点を伝えると、口頭での説明と共に、紙に模範解答をより詳しくした解答が書かれていく。先生の解説はいつもわかりやすい。私は頷きっぱなしだった。
数学の他にも、英語と理科をマイク先生と13号先生にそれぞれ聞いて、疑問点はすべて消えてなくなった。先生方の手書きのメモをノートに挟む。
「勉強熱心ダナ、轟」
職員室を出ようとしたところをエクトプラズム先生に声をかけられ、私は振り返る。
「だ、だって! 私、これしか頑張れること、ないですから!」
昔からそうだもん。あはは、と苦笑いすると先生は「ソウカ?」と疑問形で返してきた。
「勉強以外ニモ、轟ニハイイトコロガタクサンアル。アノ話モ、ジックリ検討シテホシイ」
あの話、と聞いて、私の脳裏にいくつかの言葉と光景が駆け巡る。
部屋に響く声、謝罪する声、助けを求める声。そして最後に思い出すのは、記憶に刻まれたあの記憶。忘れようとしても忘れられない、あの記憶。
あのとき、私が、あんなことを言わなければ。
「……」
黙っている私に、先生は声をかける。
「マァ……無理ニトハ言ワナイガ、ナ。外ハ熱イカラ、シッカリ水分補給ヲスルヨウニ」
「……はい」
小さく返事をすると、先生は少しの間私を見つめて言葉を探していた。
「マタ分カラナイトコロガアッタラ、イツデモ聞イテクレ。時間ガ空イテイレバ教エヨウ。
クレグレモ無理ダケハシナイヨウニ」
「ありがとうございます、先生」
「……心配シテイル」
「……えっ、先生が心配することなんてなにもないですよ」
伝えると、先生は静かな声で言った。
「糸ガプツント切レテシマウヨウニ、イツカ轟ノソノ意思ガ切レテシマワナイカ心配ダ」
「あはは、ありがとうございます。そうならないように気をつけます」
「……ソウカ。デハ」
職員室を後にする。エクトプラズム先生の言葉が少し心に引っかかる。「糸がぷつんと切れてしまわないように」。糸を張っているような気はしないけど、先生からはそう見えているのだろうか。
時間は限られている。どうせなら有効活用をしよう。せっかく来たし、空き教室かどこかで勉強してから帰ろうかな。
いつもの、勉強漬けの毎日。予定といえば、そのうち焦凍の家に遊びに行くことくらい。
そんなゆるやかな日常にも、崩壊の音は着々と手を伸ばしていた。