期末試験
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ドアを開けると、消毒された保健室独特の香りが私の鼻を刺激した。白いカーテンの中に清潔なベッドが見える。ほかに生徒はいないようだった。
二人で部屋に入り、ドアを閉めると、
「リカバリーガール!」
と焦凍が切迫した声を上げた。
「おや、どうしたのかね?」
「水火に熱があって……!」
「ない! ないから!」
焦凍の説明を必死に否定する。
椅子をくるっと回転させたリカバリーガールは、私たち二人に気づくと少し口を開けて驚いていた。
「おやおや……轟の息子さんとその親戚さんかね?」
「よく、ご存知で……」
「そりゃまぁ、A組の授業を見るときもあるからねぇ。熱があるのは水火ちゃんかね?」
「そうです」
「いや、だから……」
即答する焦凍に否定する私。その様子を見て私の気持ちを汲み取ったのか、リカバリーガールはこう言ってくれた。
「ほれ、患者以外は帰りなさい」
「……心配なんです。いさせてもらえませんか」
それでも引かない焦凍。椅子から降りた先生が、私たちの前に歩み寄る。
「もし、これ以上熱がひどくなったらどうするのさね」
「……」
焦凍は少しの間眉を寄せて考えていたが、あきらめがついたのか「わかりました」とドアに向かう。
「水火。病院に行くようなことがあったらいつでも連絡してくれ。付き添うから」
振り返りながら、焦凍は名残惜しそうに保健室をあとにした。扉の閉まる音が聞こえたあとで椅子に座ると、リカバリーガールが体温計を持ってくる。
「……それで、何があったんだい?」
熱を測られる。非接触式の額に当てるものだ。初期費用が安いが、測定者がいないと測れないというデメリットがある。この前読んだ応急手当の本に書いてあった。
「……あの、熱、ないですよね」
ピピ、と電子音が鳴り、リカバリーガールが画面を見せてくる。36度。熱はない。
「あの子は相当心配していたね。なにか顔が赤くなるようなことがあったのかい?」
「……」
ひんやりとした手で、私の額を触ってきた焦凍。その心配そうな顔を思い出して、私の顔はまた熱を持つ。
「ごめんなさい、私、彼が好きだなんて、初めて、気づいて」
本音を乗せた声は震えていて、先生と二人きりの保健室に響いていく。
「もう、どうしたら、いいのか……」
両目にじんわりと涙が浮かぶ。
私は、焦凍にどんな顔で会えばいい? ただのいとこだと思っていたのに。これからも、そんな柔らかい関係でいられると思っていたのに。新たに芽生えた感情の炎はしっかりと熱く、私の心の中で確かな存在感を放っている。
「大丈夫、きっと解決の糸口は見つかる。生きていたらそういうこともあるさね」
先生はそう言ってなにかを取り出した。キャラクターの頭のついた、棒状のカラフルなプラスチックの入れ物。
「ほれ、ペッツでも食べるかい?」
「い、いただきます……」
白く四角いタブレットを受け取る。ペッツは甘かった。恋の自覚を祝ってくれているかのように。
<期末試験編 おしまい>
二人で部屋に入り、ドアを閉めると、
「リカバリーガール!」
と焦凍が切迫した声を上げた。
「おや、どうしたのかね?」
「水火に熱があって……!」
「ない! ないから!」
焦凍の説明を必死に否定する。
椅子をくるっと回転させたリカバリーガールは、私たち二人に気づくと少し口を開けて驚いていた。
「おやおや……轟の息子さんとその親戚さんかね?」
「よく、ご存知で……」
「そりゃまぁ、A組の授業を見るときもあるからねぇ。熱があるのは水火ちゃんかね?」
「そうです」
「いや、だから……」
即答する焦凍に否定する私。その様子を見て私の気持ちを汲み取ったのか、リカバリーガールはこう言ってくれた。
「ほれ、患者以外は帰りなさい」
「……心配なんです。いさせてもらえませんか」
それでも引かない焦凍。椅子から降りた先生が、私たちの前に歩み寄る。
「もし、これ以上熱がひどくなったらどうするのさね」
「……」
焦凍は少しの間眉を寄せて考えていたが、あきらめがついたのか「わかりました」とドアに向かう。
「水火。病院に行くようなことがあったらいつでも連絡してくれ。付き添うから」
振り返りながら、焦凍は名残惜しそうに保健室をあとにした。扉の閉まる音が聞こえたあとで椅子に座ると、リカバリーガールが体温計を持ってくる。
「……それで、何があったんだい?」
熱を測られる。非接触式の額に当てるものだ。初期費用が安いが、測定者がいないと測れないというデメリットがある。この前読んだ応急手当の本に書いてあった。
「……あの、熱、ないですよね」
ピピ、と電子音が鳴り、リカバリーガールが画面を見せてくる。36度。熱はない。
「あの子は相当心配していたね。なにか顔が赤くなるようなことがあったのかい?」
「……」
ひんやりとした手で、私の額を触ってきた焦凍。その心配そうな顔を思い出して、私の顔はまた熱を持つ。
「ごめんなさい、私、彼が好きだなんて、初めて、気づいて」
本音を乗せた声は震えていて、先生と二人きりの保健室に響いていく。
「もう、どうしたら、いいのか……」
両目にじんわりと涙が浮かぶ。
私は、焦凍にどんな顔で会えばいい? ただのいとこだと思っていたのに。これからも、そんな柔らかい関係でいられると思っていたのに。新たに芽生えた感情の炎はしっかりと熱く、私の心の中で確かな存在感を放っている。
「大丈夫、きっと解決の糸口は見つかる。生きていたらそういうこともあるさね」
先生はそう言ってなにかを取り出した。キャラクターの頭のついた、棒状のカラフルなプラスチックの入れ物。
「ほれ、ペッツでも食べるかい?」
「い、いただきます……」
白く四角いタブレットを受け取る。ペッツは甘かった。恋の自覚を祝ってくれているかのように。
<期末試験編 おしまい>