期末試験

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 ドアを開けると、消毒された保健室独特の香りが私の鼻を刺激した。白いカーテンの中に清潔なベッドが見える。ほかに生徒はいないようだった。

 二人で部屋に入り、ドアを閉めると、
「リカバリーガール!」
 と焦凍が切迫した声を上げた。

「おや、どうしたのかね?」
水火に熱があって……!」
「ない! ないから!」
 焦凍の説明を必死に否定する。

 椅子をくるっと回転させたリカバリーガールは、私たち二人に気づくと少し口を開けて驚いていた。

「おやおや……轟の息子さんとその親戚さんかね?」
「よく、ご存知で……」

「そりゃまぁ、A組の授業を見るときもあるからねぇ。熱があるのは水火ちゃんかね?」
「そうです」
「いや、だから……」
 即答する焦凍に否定する私。その様子を見て私の気持ちを汲み取ったのか、リカバリーガールはこう言ってくれた。

「ほれ、患者以外は帰りなさい」
「……心配なんです。いさせてもらえませんか」

 それでも引かない焦凍。椅子から降りた先生が、私たちの前に歩み寄る。

「もし、これ以上熱がひどくなったらどうするのさね」
「……」

 焦凍は少しの間眉を寄せて考えていたが、あきらめがついたのか「わかりました」とドアに向かう。

水火。病院に行くようなことがあったらいつでも連絡してくれ。付き添うから」

 振り返りながら、焦凍は名残惜しそうに保健室をあとにした。扉の閉まる音が聞こえたあとで椅子に座ると、リカバリーガールが体温計を持ってくる。

「……それで、何があったんだい?」
 熱を測られる。非接触式の額に当てるものだ。初期費用が安いが、測定者がいないと測れないというデメリットがある。この前読んだ応急手当の本に書いてあった。

「……あの、熱、ないですよね」
 ピピ、と電子音が鳴り、リカバリーガールが画面を見せてくる。36度。熱はない。

「あの子は相当心配していたね。なにか顔が赤くなるようなことがあったのかい?」
「……」

 ひんやりとした手で、私の額を触ってきた焦凍。その心配そうな顔を思い出して、私の顔はまた熱を持つ。

「ごめんなさい、私、彼が好きだなんて、初めて、気づいて」
 本音を乗せた声は震えていて、先生と二人きりの保健室に響いていく。

「もう、どうしたら、いいのか……」
 両目にじんわりと涙が浮かぶ。

 私は、焦凍にどんな顔で会えばいい? ただのいとこだと思っていたのに。これからも、そんな柔らかい関係でいられると思っていたのに。新たに芽生えた感情の炎はしっかりと熱く、私の心の中で確かな存在感を放っている。

「大丈夫、きっと解決の糸口は見つかる。生きていたらそういうこともあるさね」

 先生はそう言ってなにかを取り出した。キャラクターの頭のついた、棒状のカラフルなプラスチックの入れ物。

「ほれ、ペッツでも食べるかい?」
「い、いただきます……」

 白く四角いタブレットを受け取る。ペッツは甘かった。恋の自覚を祝ってくれているかのように。

<期末試験編 おしまい>
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