期末試験

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「俺は冷たい蕎麦を頼んでくる。水火は?」
「パンかな~。別の列だよね。またあとで合流しよ!」
「あぁ、わかった」

 焦凍と別れ、パンの列に並ぼうと最後尾につく。すると、「そこのパン大好き少女!」と声がかかった。

「え、わ、私……?」
「そうさ! いつもパン食べてくれてありがとう! たまには白米食べない?」
「ら、ランチラッシュ……!」

 白い手袋のサムズアップ。クックヒーロー、ランチラッシュ。真っ白で清潔感あふれるコック帽と制服で、雄英の食堂を支えている。
 そんな人から直々に声がかかるなんて。

「白米……! でも焼きたてパンも捨てがたい……!」
「白米もおいしいよ?」
「んんー!」

 私は迷い、迷いに迷って……パンの列を外れて定食の列に並んだ。

 いつもパンを頼んできたから、この列に並ぶことは慣れない。でも、私はここの白米を食べた経験がないから、いいチャンスかもしれない。

 ありがとう、ランチラッシュ! と伝えようとパンの列を見るも、ランチラッシュはもうそこにいなかった。
 きっと忙しいのだろう。今度会ったら、感想を伝えてみようかな。



 私の持つトレーの上には、白米とお味噌汁、そしてトンカツ。トンカツ定食を頼んだのだ。頼むのは初めてだから、どんな味がするのかわからない。でもランチラッシュの監修があるだろうから、おいしいに違いない。

 焦凍を探す。少し離れた場所に、彼は座っていた。近くへ歩いていく。

「お待たせ!」
「おう」
 焦凍の向かいに座る。

「って、お蕎麦じゃないの?」
 珍しく、彼の目の前にはサバの味噌煮定食があった。

「なんか、ランチラッシュに白米勧められた」
「あっはっは! 私と一緒じゃん!」
 ランチラッシュ、本当に白米食べてほしいんだな。

 笑って相手の反応を見る。すると、今まで話すときしか動かなかった彼の口元がほんの少し、本当にほんの少し、ゆるんでいた。彼と再会してから、初めて見た表情だった。

「焦凍……」
「なんだ」

 すぐいつもの無表情に戻ってしまう。それでも、その些細な変化を見られて、私は柔らかな喜びがこみあげてくるのを感じた。

「食べるか」
「うん。いただきます」

 早速トンカツに箸を伸ばす。一口かじると、さくさくの衣からいい音が鳴った。揚げたてならではの温かさとちょうどいい揚げ加減。お肉もしっかり火が通っているし、なによりとっても柔らかい。

 柔らかさと火の通り加減を両立させるのは至難の業だ。私も家で作ったことがある。でも、火が通っているかを重視するあまりお肉が固くなってしまった。お父さんはおいしいと食べてくれたけれど、あれはまだまだ改善の余地がある。柔らかさと火の通り、そのどちらも併せ持っているこのトンカツは、とても素晴らしい出来と言えるだろう。

 スーパーのお惣菜とはまた違う、作り立てでしか味わえないおいしさ。食堂でこんなにクオリティーの高いものが食べられるなんて。今までなぜこのメニューを頼んでこなかったのかと少し後悔すらした。

 白米もお米の甘みが感じられる。一体どこのお米を使っているんだろう。うちでも同じものを炊いてみたい。

「相当飯がうまいみたいだな」
 向かいから言われて、私ははっとなる。

「あ……ごめん」
「すごくおいしそうに食べているから気になったんだ。俺も食べる」
 焦凍は箸で味噌煮を一口サイズに分け、口に入れる。「これ、うまいな」と目を輝かせた。

「焦凍、テストどうだった?」
「まぁ……満足はしてる」
「そっか」
 お味噌汁を飲む。ちょうどいい塩加減で、ご飯が進みそうだ。

水火は?」
「あー……結構いい、感じ」
「そうなのか。何点だったのか、聞いてもいいか?」
「えっと……」

 自慢に聞こえちゃうかな。さっきの教室での出来事が頭をよぎり、少し迷って静かに伝える。

「満点、だよ」
「どの科目なんだ?」
「ぜ、全部……」
「……」
 案の定、焦凍は目を見開き、箸を動かす手が数秒止まっていた。

「……さすがだな。水火は……本当にすごいな」
「あ、ありがとう。今回頑張ったからね、きっと結果がついてきたんだよ」

 さすが、とか、すごい、とか、そうやって私なんかよりもっとすごい人に褒められると、なんだか恥ずかしくなる。素直に認めてくれていることが嬉しくて、点数を伝えても嫌な顔一つしなかった彼に私はどこか安心していた。
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