体育祭
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「お母さんに会おうと思ってる」
焦凍はぼそっと口に出す。
「冷さんに会いに行くの?」
「そうだ。見舞いをしようと思って」
「いいじゃん! きっと喜んでくれるよ」
「あぁ。そうだと……いいな」
焦凍が表彰式のときに言っていた「清算」のこと、多分冷さんに会うことも含まれているんじゃないかなって私は推測する。きっとそれが済めば、焦凍はもっと前に進める。
彼の成長が見られるのなら、私は嬉しい。私は自然と笑顔になる。
「水火のことも伝える」
突然の私の名前に、「え!?」とすっとんきょうな声を出してしまう。
「い、いいよ、私のことなんて」
「いや、言う。十年ぶりにやっと会えたって言うつもりだ。それに」
一呼吸置いて、焦凍は口を開く。
「水火は俺にとって大切な人だから」
「……」
鳥肌が立った。私は……焦凍に、そんなふうに思われているんだ。
しばらく放心して何も考えられなかった。「大切な人」という単語が頭の中をぐるぐるして、少し恥ずかしくなった。
「あと、これ……」
焦凍は自分の顔の傷を指差す。赤黒いその傷は、きっとやけどなのだろう。
「怖くないか?」
「ううん。焦凍は焦凍だから、怖くないよ」
本心を伝えると、焦凍はうっすらと口を開けて驚いていた。
「これのこと、話してもいいか?」
私はうん、と頷く。
冬美さんからも聞かされていない、やけどの経緯。きっと今聞いておかないと、ずっと聞かずじまいになる気がする。
「昔のこと、なんだけどな」
焦凍はぽつりぽつりと話し出す。
個性の訓練を始めたときのこと。炎司さんの厳しさ、冷さんの優しさ。そしてそんな環境に彼女が耐えられなくなって……焦凍に、煮え湯を浴びせたこと。
それからのことも話してくれた。冷さんは入院させられ、炎司さんとはずっと訓練を続けているということ。
「……」
なんとなく想定はしていたけれど、改めて本人の口から聞くと壮絶で、私はかける言葉が見つからなかった。
「すまない。こんな重たい話、帰り道に言うことじゃないよな」
「えっと……」
返事に迷っていると、焦凍はぺこっと頭を下げた。
「聞いてくれてありがとう。水火には伝えなきゃいけないなって考えてたから」
「……そうなの?」
「いつか話さないといけないと思ってたんだ。だから、今話せてよかった」
焦凍は肩の荷が下りてほっとしたのか、少しだけ緊張のほぐれた顔になった。
「『清算』のこと、焦凍ならできるよ!」
私は応援の言葉をかける。
「今の焦凍なら、きっと大丈夫だよ」
「……あぁ」
静かに頷く焦凍。決意を固めた、そんな顔つきをしていた。
「水火」
焦凍が私の名前を呼んで一歩先で立ち止まり、振り返る。私も歩みを止める。
すっと私を見つめる瞳は、夕暮れに煌めいている。
「水火も……変わりたいのなら、変わってもいい」
「……と思う」と彼は左の手のひらを見つめて言う。
「変わる……」
よくわからなくて、私は投げかけられた言葉を咀嚼する。
「水火さえよければ、また一緒に……」
焦凍は私の顔を見つめ、何かを思案しているようだった。
「一緒に?」
「……いや、なんでもない」
言いかけた言葉をしまうと、焦凍は「行くぞ」と歩き出す。私は急いで彼についていく。
焦凍は最終種目のことを話し始めた。緑谷くんが色々気づかせてくれたこと、入試一位の爆豪くんがやっぱり強かったということ。
彼の方からこんなにたくさん話してくれるのはひさしぶりで、私は少し驚きながらもその話に聞き入っていた。
彼が口に出しかけた誘いの続きを知らないまま。
〈体育祭編 おしまい〉
焦凍はぼそっと口に出す。
「冷さんに会いに行くの?」
「そうだ。見舞いをしようと思って」
「いいじゃん! きっと喜んでくれるよ」
「あぁ。そうだと……いいな」
焦凍が表彰式のときに言っていた「清算」のこと、多分冷さんに会うことも含まれているんじゃないかなって私は推測する。きっとそれが済めば、焦凍はもっと前に進める。
彼の成長が見られるのなら、私は嬉しい。私は自然と笑顔になる。
「水火のことも伝える」
突然の私の名前に、「え!?」とすっとんきょうな声を出してしまう。
「い、いいよ、私のことなんて」
「いや、言う。十年ぶりにやっと会えたって言うつもりだ。それに」
一呼吸置いて、焦凍は口を開く。
「水火は俺にとって大切な人だから」
「……」
鳥肌が立った。私は……焦凍に、そんなふうに思われているんだ。
しばらく放心して何も考えられなかった。「大切な人」という単語が頭の中をぐるぐるして、少し恥ずかしくなった。
「あと、これ……」
焦凍は自分の顔の傷を指差す。赤黒いその傷は、きっとやけどなのだろう。
「怖くないか?」
「ううん。焦凍は焦凍だから、怖くないよ」
本心を伝えると、焦凍はうっすらと口を開けて驚いていた。
「これのこと、話してもいいか?」
私はうん、と頷く。
冬美さんからも聞かされていない、やけどの経緯。きっと今聞いておかないと、ずっと聞かずじまいになる気がする。
「昔のこと、なんだけどな」
焦凍はぽつりぽつりと話し出す。
個性の訓練を始めたときのこと。炎司さんの厳しさ、冷さんの優しさ。そしてそんな環境に彼女が耐えられなくなって……焦凍に、煮え湯を浴びせたこと。
それからのことも話してくれた。冷さんは入院させられ、炎司さんとはずっと訓練を続けているということ。
「……」
なんとなく想定はしていたけれど、改めて本人の口から聞くと壮絶で、私はかける言葉が見つからなかった。
「すまない。こんな重たい話、帰り道に言うことじゃないよな」
「えっと……」
返事に迷っていると、焦凍はぺこっと頭を下げた。
「聞いてくれてありがとう。水火には伝えなきゃいけないなって考えてたから」
「……そうなの?」
「いつか話さないといけないと思ってたんだ。だから、今話せてよかった」
焦凍は肩の荷が下りてほっとしたのか、少しだけ緊張のほぐれた顔になった。
「『清算』のこと、焦凍ならできるよ!」
私は応援の言葉をかける。
「今の焦凍なら、きっと大丈夫だよ」
「……あぁ」
静かに頷く焦凍。決意を固めた、そんな顔つきをしていた。
「水火」
焦凍が私の名前を呼んで一歩先で立ち止まり、振り返る。私も歩みを止める。
すっと私を見つめる瞳は、夕暮れに煌めいている。
「水火も……変わりたいのなら、変わってもいい」
「……と思う」と彼は左の手のひらを見つめて言う。
「変わる……」
よくわからなくて、私は投げかけられた言葉を咀嚼する。
「水火さえよければ、また一緒に……」
焦凍は私の顔を見つめ、何かを思案しているようだった。
「一緒に?」
「……いや、なんでもない」
言いかけた言葉をしまうと、焦凍は「行くぞ」と歩き出す。私は急いで彼についていく。
焦凍は最終種目のことを話し始めた。緑谷くんが色々気づかせてくれたこと、入試一位の爆豪くんがやっぱり強かったということ。
彼の方からこんなにたくさん話してくれるのはひさしぶりで、私は少し驚きながらもその話に聞き入っていた。
彼が口に出しかけた誘いの続きを知らないまま。
〈体育祭編 おしまい〉