体育祭
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表彰式のあと。着替えてこそこそとA組の前に来てみると彼が立っていた。
「帰るぞ」
「うん……」
廊下を歩く。生徒たちは口々に体育祭の感想を言い合っている。
「腕、大丈夫?」
私は尋ねた。
表彰式のとき、焦凍の左腕には包帯が巻かれていた。決勝戦の爆風は観客席から見ていてもものすごい衝撃だったので、それをくらった本人は大丈夫かと心配していたのだ。
「あぁ、処置してもらったから大丈夫だ」
「そっか。よかったね」
「……」
「……」
会話が続かない。周りはうるさいのに、二人の間には沈黙が鎮座している。
なんて声をかけたらいいのかわからないのだ。活躍すごかったね、成長したんだね、なんて言っても彼の家庭のことを思い出させてしまうし、かと言って他の話題もない。
なにを言っても彼を傷つけてしまうかもしれない。私は口を開けずにいた。
「その髪」
校舎を出たところで、彼は口にした。
「今日は結んでるんだな」
気づいてもらえて、私は嬉しくなる。
「そうなの。体育のときとかは結んでるんだ。邪魔にならないように」
「そうなのか」
焦凍は私の目を見て言う。
「結んでいるのも綺麗だな」
綺麗……!? 急に褒められてドキッとする。
「いつもと違う感じで、結んでるのもいいと思う」
さらりと言われて、私は彼が下心なしに純粋な気持ちで褒めてくれていることを感じ取った。
「ありがとう……!」
感謝を伝えると焦凍は頷いた。
体育祭二位の生徒を、周りのみんながちらちらと見ている。視線を気にすることもなく、焦凍ははぁ、とため息をついた。
「……親父が、すまなかった」
「い、いいよ別に!」
私は炎司さんの怖い目つきを思い出す。いきなりのことすぎてびっくりしたけど、きっと私も炎司さんの立場ならあんな態度を取ってしまうだろう。
「焦凍が謝ることじゃないよ。私の個性のせいだし」
「……」
あはは、と苦笑いしてみせる。焦凍は「違うんだ」と首を横に振ってその笑みを否定する。
「水火は水火だ。個性が、その……理想的だって、そんなことだけで水火が差別されるなんて、そんなことはあってほしくない」
「何度も言っているのにな。聞いてくれないんだ」と焦凍は肩を落とした。
私がとっくの昔に諦めていたことを、焦凍はまだ諦めていなかった。私は驚いた。
私は自分の個性を見た人に、心操くんみたいに羨ましがられたり、炎司さんみたいに歪な目で見られたり、もう、そういうものなんだって受け入れてしまっていたから。
焦凍は「何もできなくてすまない」と私に謝る。その瞳に無力感が宿っていることに気がついた。
「焦凍、ありがとう」
「……でも、結局親父は変わってない。また水火を傷つけて、本当に……すまない」
「うん、確かに……そうかもしれない。でもね、そうやって私のこと考えてくれているところ、本当に感謝してるよ。ありがとうね、焦凍」
そう言って焦凍に微笑むと、ハッとした顔をして、一瞬だけつらそうに顔を歪め、いつもの無表情に戻った。
少しだけ無言が続いた。
「帰るぞ」
「うん……」
廊下を歩く。生徒たちは口々に体育祭の感想を言い合っている。
「腕、大丈夫?」
私は尋ねた。
表彰式のとき、焦凍の左腕には包帯が巻かれていた。決勝戦の爆風は観客席から見ていてもものすごい衝撃だったので、それをくらった本人は大丈夫かと心配していたのだ。
「あぁ、処置してもらったから大丈夫だ」
「そっか。よかったね」
「……」
「……」
会話が続かない。周りはうるさいのに、二人の間には沈黙が鎮座している。
なんて声をかけたらいいのかわからないのだ。活躍すごかったね、成長したんだね、なんて言っても彼の家庭のことを思い出させてしまうし、かと言って他の話題もない。
なにを言っても彼を傷つけてしまうかもしれない。私は口を開けずにいた。
「その髪」
校舎を出たところで、彼は口にした。
「今日は結んでるんだな」
気づいてもらえて、私は嬉しくなる。
「そうなの。体育のときとかは結んでるんだ。邪魔にならないように」
「そうなのか」
焦凍は私の目を見て言う。
「結んでいるのも綺麗だな」
綺麗……!? 急に褒められてドキッとする。
「いつもと違う感じで、結んでるのもいいと思う」
さらりと言われて、私は彼が下心なしに純粋な気持ちで褒めてくれていることを感じ取った。
「ありがとう……!」
感謝を伝えると焦凍は頷いた。
体育祭二位の生徒を、周りのみんながちらちらと見ている。視線を気にすることもなく、焦凍ははぁ、とため息をついた。
「……親父が、すまなかった」
「い、いいよ別に!」
私は炎司さんの怖い目つきを思い出す。いきなりのことすぎてびっくりしたけど、きっと私も炎司さんの立場ならあんな態度を取ってしまうだろう。
「焦凍が謝ることじゃないよ。私の個性のせいだし」
「……」
あはは、と苦笑いしてみせる。焦凍は「違うんだ」と首を横に振ってその笑みを否定する。
「水火は水火だ。個性が、その……理想的だって、そんなことだけで水火が差別されるなんて、そんなことはあってほしくない」
「何度も言っているのにな。聞いてくれないんだ」と焦凍は肩を落とした。
私がとっくの昔に諦めていたことを、焦凍はまだ諦めていなかった。私は驚いた。
私は自分の個性を見た人に、心操くんみたいに羨ましがられたり、炎司さんみたいに歪な目で見られたり、もう、そういうものなんだって受け入れてしまっていたから。
焦凍は「何もできなくてすまない」と私に謝る。その瞳に無力感が宿っていることに気がついた。
「焦凍、ありがとう」
「……でも、結局親父は変わってない。また水火を傷つけて、本当に……すまない」
「うん、確かに……そうかもしれない。でもね、そうやって私のこと考えてくれているところ、本当に感謝してるよ。ありがとうね、焦凍」
そう言って焦凍に微笑むと、ハッとした顔をして、一瞬だけつらそうに顔を歪め、いつもの無表情に戻った。
少しだけ無言が続いた。