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「うまくいかないとき、寂しいとき、大切な人ともう会えなくなったとき。私ね、思い出に浸って現実逃避するの。焦凍の笑顔思い出してさ」
「みか! きょうもたくさんあそぼうね!」
轟家の広い玄関で、焦凍が迎えに走ってくる。満面の笑みを浮かべている。遅れて冷さんがついてくる。
「一緒に遊んだこと、一緒にお蕎麦を食べたこと。そうしたら、なんか頑張れるような気がするんだ」
「おかあさん、おかわり!」
「はいはい。水火ちゃんは?」
冷さんは私に優しく問いかける。
まだ小さいのに薬味を食べられる焦凍が羨ましかった。今ではもう、食べられるようになったけれど。
「だから、おかしくなんてないよ」
「……」
焦凍は黙ってしまった。
あぁ、間違えたことを言ってしまったかな。気持ち悪かったかな。
風が二人の間を吹き抜けていった。お互いの髪が揺れる。
「……ありがとな、水火。いつも俺は水火に助けられてばかりだな」
「そう?」
「そうだ」
私だって焦凍に助けられてるよ。そう言おうとしたとき、焦凍が先に口を開いた。
「雄英選んでよかった。水火にまた会えたから」
焦凍はまっすぐ私を見ている。
「ずっと、会いたかったんだ」
「……」
端正な顔に見つめられ、私は顔のあたりが熱くなるのを感じながら、焦凍から目を背けた。
「水火?」
「なんでも、ないから」
「そうなのか?」
あぁ、そういう天然なところ……! 昔と変わってない!
私は少し安堵する。変わったところもある。でも、やっぱり焦凍は焦凍だってわかったから。
「水火は障害物競走、何位だったんだ?」
「えっと……順位忘れちゃったけど、予選敗退だよ」
「そうか……」
少し暗い声に振り返ると、焦凍は寂しそうな顔をしていた。
「ま、私は普通科だからさ! いいのいいの。ヒーロー目指してるわけじゃないし!」
私は相手を慰めるように開き直る。
「焦凍が頑張ってくれれば、それでいいんだ。焦凍の方がすごいじゃん! 障害物競走も騎馬戦も上位ってさ。一位だっけ?」
「……」
こちらが笑顔で話しても、焦凍は笑ってくれない。
「左を使っちまった」
ぼそりと焦凍は言う。その言い方には後悔の気持ちが含まれているように思えた。まるで、何か過ちを犯してしまったかのような、そんな雰囲気だった。
「水火は、個性を使う時に両親の顔が頭に浮かばないのか?」
焦凍の個性を考える。
炎司さんの顔が浮かぶ。厳格な、理想を追い求めることに必死な顔。
その一方で、穏やかな冷さんの柔らかな笑顔も思い浮かぶ。いつも帰るときは最後まで見送りしてくれた。
「なにか思い出したりしないのか?」
お母さん。お父さん。二人の顔を今日初めて思い出す。記憶の中の二人はいつも優しく笑っている。
私は素直に、障害物競走での出来事を伝える。
「私、普段個性を使わないからさ。自分の力でどうにかしようって考えてたらあっという間で、考えてる余裕なんてなかったよ」
焦凍は私をぼーっと見ている。それから、気づいたように口を動かす。
「自分の、力で」
焦凍は自分に言い聞かせるように、静かに私の言葉を繰り返した。
「焦凍が好きなようにすればいいんじゃない?」
私の声かけには答えず、焦凍は自分の左手をじっと見つめている。
あぁ、私がどれだけ言葉をかけても、彼の心の氷を溶かすことはできないんだ。己の無力さを呪う。
大切な人が困っているのに、私は何もできない。
「ごめんね、焦凍。ヒントになってないよね……」
「いや……そんなことはない。それに、話を聞いてくれただけでも十分だ。ありがとう。少し緊張がほぐれた気がする」
焦凍は立ち上がる。
「戻るか」
私も立ち上がって、「そうしよっか」と返事をした。
「みか! きょうもたくさんあそぼうね!」
轟家の広い玄関で、焦凍が迎えに走ってくる。満面の笑みを浮かべている。遅れて冷さんがついてくる。
「一緒に遊んだこと、一緒にお蕎麦を食べたこと。そうしたら、なんか頑張れるような気がするんだ」
「おかあさん、おかわり!」
「はいはい。水火ちゃんは?」
冷さんは私に優しく問いかける。
まだ小さいのに薬味を食べられる焦凍が羨ましかった。今ではもう、食べられるようになったけれど。
「だから、おかしくなんてないよ」
「……」
焦凍は黙ってしまった。
あぁ、間違えたことを言ってしまったかな。気持ち悪かったかな。
風が二人の間を吹き抜けていった。お互いの髪が揺れる。
「……ありがとな、水火。いつも俺は水火に助けられてばかりだな」
「そう?」
「そうだ」
私だって焦凍に助けられてるよ。そう言おうとしたとき、焦凍が先に口を開いた。
「雄英選んでよかった。水火にまた会えたから」
焦凍はまっすぐ私を見ている。
「ずっと、会いたかったんだ」
「……」
端正な顔に見つめられ、私は顔のあたりが熱くなるのを感じながら、焦凍から目を背けた。
「水火?」
「なんでも、ないから」
「そうなのか?」
あぁ、そういう天然なところ……! 昔と変わってない!
私は少し安堵する。変わったところもある。でも、やっぱり焦凍は焦凍だってわかったから。
「水火は障害物競走、何位だったんだ?」
「えっと……順位忘れちゃったけど、予選敗退だよ」
「そうか……」
少し暗い声に振り返ると、焦凍は寂しそうな顔をしていた。
「ま、私は普通科だからさ! いいのいいの。ヒーロー目指してるわけじゃないし!」
私は相手を慰めるように開き直る。
「焦凍が頑張ってくれれば、それでいいんだ。焦凍の方がすごいじゃん! 障害物競走も騎馬戦も上位ってさ。一位だっけ?」
「……」
こちらが笑顔で話しても、焦凍は笑ってくれない。
「左を使っちまった」
ぼそりと焦凍は言う。その言い方には後悔の気持ちが含まれているように思えた。まるで、何か過ちを犯してしまったかのような、そんな雰囲気だった。
「水火は、個性を使う時に両親の顔が頭に浮かばないのか?」
焦凍の個性を考える。
炎司さんの顔が浮かぶ。厳格な、理想を追い求めることに必死な顔。
その一方で、穏やかな冷さんの柔らかな笑顔も思い浮かぶ。いつも帰るときは最後まで見送りしてくれた。
「なにか思い出したりしないのか?」
お母さん。お父さん。二人の顔を今日初めて思い出す。記憶の中の二人はいつも優しく笑っている。
私は素直に、障害物競走での出来事を伝える。
「私、普段個性を使わないからさ。自分の力でどうにかしようって考えてたらあっという間で、考えてる余裕なんてなかったよ」
焦凍は私をぼーっと見ている。それから、気づいたように口を動かす。
「自分の、力で」
焦凍は自分に言い聞かせるように、静かに私の言葉を繰り返した。
「焦凍が好きなようにすればいいんじゃない?」
私の声かけには答えず、焦凍は自分の左手をじっと見つめている。
あぁ、私がどれだけ言葉をかけても、彼の心の氷を溶かすことはできないんだ。己の無力さを呪う。
大切な人が困っているのに、私は何もできない。
「ごめんね、焦凍。ヒントになってないよね……」
「いや……そんなことはない。それに、話を聞いてくれただけでも十分だ。ありがとう。少し緊張がほぐれた気がする」
焦凍は立ち上がる。
「戻るか」
私も立ち上がって、「そうしよっか」と返事をした。