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千景受け


夢を見た。

ふわふわとしていて、自分がどこにいるのかさえ分からない夢。
ショートスリーパーと言われていたが、眠る時間が短いと言うことはその間深い眠りに落ちているからだ。
夢を見ると言うことはめったになかった。
「April。」
風のざわめきのような微かな音が鼓膜に響いた。
その声は、忘れてはいけない、忘れられない人物のものだった。
振り返るとそこにはAugustがいて、こちらを笑顔で見ている。
「August!!」
夢の中だということも忘れて、無我夢中でAugustのもとへと走った。
すぐにでも、抱きしめたかった。
そこにAugustはいると確かめたかった。
けれどそれはできなかった。
「だめだよ、April。」
抱きしめようとした体はするりと春の陽気な風のようにすり抜けていった。
「は、なん、で…」
頭の置くからすっと冷えていく感覚があった。
そうだ、これは夢なんだ。
Augustはいないと改めて確認されたみたいだ。
「…ごめんね。April」
そんな悲しそうな顔で笑わないでくれ。
俺はお前にそんな顔をしてほしいわけじゃない。
「Augustっ、August…」
「ははっ、Aprilは泣き虫だなぁ…」
うるさい、俺は泣き虫なんかじゃない。
そう言い返したいのに、口からはいみもなさない嗚咽しかでなかった。
けれど、止まらないのだ。
Augustがいなくなってからどうやって泣いていたのか分からなくなった。
その分の涙くらい、お前のそばで流してもいいだろう。
涙か止まらない俺をAugustはそっと包み込んだ。
「愛しているよ、April。」
何回も何回も囁かれた言葉。
嬉しいはずなのに、今は胸を締め付ける言葉でしかなかった。
お前はもういないのに、もとになんて戻れないのに。
止まらない涙はいつ、乾くのだろうか。
乾かないでいれば、Augustのそばにいれるのだろうか。
腫れた瞼をゆっくりとおろした。
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