その日は少し考え事をしていた。恨む気持ちはあったのだが少しだけ事情みたいなものを聞き佐久間の考え方は変わったのだ。
（怖い？人が…か？）
部室でぶつぶつと呟く声を聞き成神がやってきた。
「なあにブツブツ言ってるんですかー、あー！さては昨日の女の子と何かあったとか？」
ニヤニヤと口元に手を置き成神は佐久間に近づいた。
「なあ、成神。お前は人が怖いって思ったことあるか？」
成神はポカンとした顔を一瞬だけし、うーむと声を出しながら
「オレは緊張した時とか……ほらはじめて自己紹介をみんなの前でする時とか！ああいう時人が怖いなあって思いません？」
と言った。
「なるほどなあ…たしかにそうかもしれないな……実を言うと………」
佐久間は昨日のことを全て話した。彼女の友達が言ったこと、彼女が言ったこと全てを。
成神はほーと言い話を真剣に聞いていた。
「もしかしたらなんらかの出来事がありそれが原因で佐久間先輩にああいう態度を取ってしまったとか？それをその女の子も気にしてたんですよきっと」
成神が言う言葉に筋が通った。
「そうかもしれないな…そうだとしたらオレの方が結構失礼なことしてね？」
「ですね！」
元気よく答える成神に佐久間は凹んだ。
（相手のこと考えず自分のことばかり考えてた自分が恥ずかしい……）
成神は慰めるかのように
「大丈夫ですよ、また会って謝ればいいじゃないですか！ほら再来週まで部活は短縮ですし」
「そうだな…今日謝ってくるかあ……」



佐久間はそわそわしていた。あの子が来たら本当のことを言う準備をしていたがうまくいえるだろうか。もしあの子の心を傷つけてしまって人が怖いと思う気持ちが強くなったらどうしようか。
（他の人のこと気にするようになったってことは…人間として成長したのかなオレ…）
そうこう思っているとあの子の姿が見えた。今日は昨日の友人と一緒ではない。フォローしてくれる相手がいないけれど二人で話がちゃんとできる。いいことなのか悪いことなのか。
佐久間はその子に近づいた。
「少しいいですか？」
そう聞くと彼女は暖かい風が吹いているのに震えながら、
「はっ…はい…大丈夫です……よ………」
と。
佐久間は駅のホームのベンチに座りどうぞと隣に座ってもらうよう言った。
恐る恐る座る彼女は一つ一つの動きがカラクリ人形のようだった。
座ると彼女は
「やっぱり……怒ってました…よね？…」
と口を開いた。
「まあ、最初は怒ってました……」
聞くなり彼女は目を見開き、そのあと泣きそうな顔で
「ごめん…なさい…やっぱり人にとっては失礼ですもんね…ごめん…なさい……」　
と謝りだした
「待ってください！！オレは謝れたくて来たんじゃなくて謝りに来たんです…！」
彼女はえっ？と疑問に思った。
「昨日、人が怖いとか言っててそのこと他の学校の人に話したらオレの方が失礼なことをしたんじゃないかって話になって…ほんとすみません。自分の今年しか考えず…」
「怒って…ないんですか？」
「自分でも最初頭に血が上って考えてなかったんですけど今思うと怒ってた理由もばかばかしくなるくらい恥ずかしくて…あっ！でも本当に怒ってないです、心配しないでください。」
彼女は安心しほっと一息つくと
「心配性で…すぐ気にする癖あって…ぜっ全然知らない…人にまで迷惑かけちゃったんじゃないかって昨日の一言で…余計なこと言っちゃってごめんなさい…」
また謝る彼女に佐久間は
「もう謝らないで大丈夫ですよ、オレは気にしてないしこれで終わりにしましょう」
とニコッと笑った。自分でも驚いたこんな表情ができるのか自分と。
沸点が低い自分がきっかけでいろんな人がいることについて学べれたことに自分に少しだけ感謝していた。
そう考えていると彼女は
「てっ…帝国学園…なんですね…」
と言った。
「あぁ、そうですよ。中学3年で受験もあるのに部活びっしりです、文武両道だから結構キツいですけどね」
「あっ…同い年…ですね……私も3年生で…」
「じゃあもう敬語いらないな、全く慣れないことはしない方がいいな…」
といつもの佐久間に戻った。
「いつもこの…電車に…乗ってるの…？」
「いや、今は部活が短縮だから」
そっか、と言う彼女はどこか寂しさを感じた。
そんな彼女の顔をよく見るとごく普通の女の子だった。特別可愛いと言うわけでもなく、本当にごく普通の女の子だった。強いといえば、まつ毛が長いのと鼻が通っているところだろうか。
（やっべ、オレも女子を顔で見てんじゃん）
佐久間は自分の嫌なことを人にもしていたと気づき顔を逸らした。
「名前……なんて言うの…？」
そう聞く彼女に佐久間は
「佐久間次郎って言うけどお前は？」
「苗字 名前……佐久間くんか…なんだかカッコいい…苗字だね…憧れ…だ…」
「憧れ？苗字はどちらかと言うと可愛い方だろ、カッコいいにはなれないと思うな」
と言うと苗字は
「そっ……それは努力と…根性で…なんとか…する……から…」
「なんだそれ…」
とクスッと笑った。
「いっいつかイケメン…になって…高身長の人に……なったら…佐久間くん…見下ろす…から…」
とそっぽを向きながら言い返した。