私の知ってるわらしべじゃない!

わらしべ長者とはご存じだろうか。

貧しい人が藁にもすがる思いで色んな人と物を交換し始め最後にはお金持ちになり生活が豊かになるというものだ。 何故いきなりこんな話を始めたのかというと今現在進行形で私がそれに近い体験をしているからである。
言っておくが私は決して裕福ではないが貧しくもない。まあ私の場合は高校に行く途中スーツのお兄さんがボールペンを失くしたらしく私の安いボールペンを渡したのが始まりだった。凄く大切な会議があるらしくボールペンは必須だったみたいだ。肩を掴まれる勢いで感謝され、あまりの勢いに思わず後退ってしまう。これは終わりが見えないぞ、この時点で遅刻は確定しているのでのんびり行くとしよう、友達には遅れると連絡をいれておいた。 お兄さんはお偉いさんだったらしく最初に渡された物に思わずぎょっとしてしまった

「これよかったら」
「んぇっっ!!?えっっぶらっくかーど??こんなの貰えません!!!」

何でよかったらでカード??大丈夫??名義あなたのよ??混乱しながらも勢いよく頭を降り拒否すると残念そうにしていたが引き下がってくれた。是非とも残念がらないで欲しい。
変わりに持たされたのは化粧品、よくよく見たら有名なブランドのでゾッとする。次は答える暇もなくて手に握らせ受け取ったのを見たお兄さんは満足そうに頷き爽やかに去っていったが私の手元には輝く新作の化粧品が虚しく置かれていた。

「えぇ…どうしよう」 使い道ないな、、ぽつりと呟かれた私の声は可愛いらしく鳴いた鳥の声にかきけされた。

とりあえずは遅刻してでも学校に行こうと通学路をのろのろと 歩く。すると道端で女の人がわたわたとバックを漁っているのを見つけ思わず声をかける。見るからに接客業の美人なお姉さんだ。眼福である

「どうしたんですか?」
「今から大事な接待なんだけど口紅忘れちゃって」

どしよう、第一印象が~~!!と泣き崩れるお姉さんの背中を撫でながらこれはあの化粧品の使いどころでは!?と瞬時に思い ひそひそ話をするように話しかける

「お姉さん、お姉さん」
「…なあに?」

ここに先程頂いた化粧品がありまして、口紅もあるんです。私まだ使うというか使いどころがよく分からないのであげますね、と早口で言いお姉さんに化粧品を握らせる。

「これブランドの…」
「貰ったんです」
「もらった…」
「その、ボールペンをあげたお礼に…」

おれい…と考えた顔をしたかと思うと勢いよく肩を掴まれる。あれデジャブ

「私も!!あげるわ!!」
「結構です!!!」

でもお姉さんも諦めるつもりはないらしく売り込みかという勢いで渡してくる。

「これ!!」
「いいです!」
「貰って!!」
「いいです!アッポケットに捩じ込まないで!やめて!チップ捩じ込むみたいに入れないで!?」

私の必死の抵抗も虚しくお姉さんはポケットに紙を捩じ込んだかと思うと勢いよく走り出して去っていった。 暴漢にあったのかというくらいボサボサになった髪を整えポケットに入っている紙を見る

「ヒュッッ」

有名な三ツ星ホテルの食事券だった。やめろ、何で皆こんなものお礼に渡してくるんだ。食事券は嬉しいがそんな高級なところに行く服装なんて持ってもいない。どうしたものかと考えていたら悲しい顔をさている老夫婦が目に入った。そういう人をみるとほおっておけない私は二人のもとにいき話を聞く。何でも予約していたレストランが急遽店休になったらしいのだ。これは私の手の中にある食事券の使い時ではないか!!

「これ、貰ったんですけど私行く予定ないのでお二人で」

とそっと握らせると慌てて返してこようとするが大丈夫ですと止める。嬉しそうにお礼を言う老夫婦ににっこりしているとおじいちゃんが何かを手に握らせてきた。ふと見ると書いてあるものにぎょっとする。

「待ってください」
「本当にありがとねえ」
「いやあの待って」
「楽しんでくるわ」
「待ってくださいお願いします、これ受け取れないです」
「大丈夫、あと何年かしたら乗れるだろ?」

そこに取りに行きなさいと言われ二人は去っていったが私は呆然とそれを見つめることしかできなかった。

「食事券の次は車…???」

あと二年運転できないんですけど?と考えながらも鍵を見つめる。恐る恐る車の車種を調べたら有名なやつで思わず空を見上げる。 私の異常に気づいたのか優しげなお兄さんが声をかけてくれたが涙声で大丈夫ですと返す。
すると横でお兄さんがおっ、その鍵はもう生産中止のやつじゃあないか、俺も欲しかったんだよなと言う。バイクも好きだが車も好きなんだよ~とその呟きを聞き逃さず服を掴み叫ぶ

「あげます!」
「えっ」
「これ!交換で貰ったんです!」
「交換で!!?」
「私よりこれ好きなお兄さんが使って!!ください!!」

いや嬉しいけどさと言いながらも受けとるお兄さんに思わずガッツポーズをする。
「あ、俺もお礼に」
「いいです」
「いやでも」
「ほんとにいらないです」

暫く押し問答が続いたが遂に私がおれることになった。

「これ、弟にやるつもりだったたい焼き」
「えっ弟さん怒りません?」

怒ると思うけど大丈夫だろ~と笑うお兄さんにほんとに大丈夫か?と思いながらも受けとる。 車は今週取りに行ってくれるらしく今度見においでと連絡先を入れられる。

「シンイチローさん…」
「何で片言なんだよ」

じゃあまたなと頭を撫でられ去って行く後ろ姿を見送りながらまた歩き出す。 時計の針が10に近くなっていた。朝から色々濃すぎて体感は1日だった、まだ学校が、、と少し疲れながらもたい焼きの入った袋を腕に抱え歩く。

「休憩しよ…」

立ち寄った公園にふらふら~と引き寄せられるまま行き木陰のベンチに座る。先程お兄さんから頂いたたい焼きを食べようと中を見る

「あんことカスタード…どっちにしよう」
「俺はあんこかな」
「エッ」

顔の横からにゅっと腕が伸びてきてそのままたい焼きをかっさらっていく。視線をそちらにむけると金髪のふわふわした髪をポンパドールにした男の子がいた。 えっいつからいたの、こわい。 あまりの突然の出来事に固まることしかできない私とたい焼きを貪る男の子。謎の空間が完成した。一個目を食べ終えよっという掛け声と共にベンチを飛び越え横に座る。距離が近い

「ごめんね、そのたい焼き好きでさ」
「だからと言って見ず知らずの人のを取る??」
「ごめんってば」

でもお姉さんなら許してくれそうじゃん?と悪気もなさそうな顔で首を傾げる男の子に反論できずぐぅと唸る。
それが面白かったのかにやにやと笑いながらもう一個と言いながらもたい焼きを取る。もう勝手にしてくれ

「あ、俺マイキーって言われてるからマイキーって呼んで」 「唐突すぎない??」
「お姉さんは?」
「陽です」
「陽ちゃんね」
「めちゃくちゃフレンドリーじゃん」

こっわと言う横でもそもそとたい焼きを食べている。

「マイキー君学校は?」

見るからに私より年下だよなと思いながらも聞く

「給食に間に合えばいいの、そういう陽ちゃんは?」

と聞いてくるマイキー君に今朝の一連の出来事を話すと余程面白かったのだろう。大爆笑をして肩を叩いてくる

「陽ちゃん最高すぎない?」
「全然最高じゃないし怖かったかな」
「ふ~ん」

ビブラートを響かせるような笑いがまだ続いてる。そんなに面白かったのだろうか、私は必死だったのに…と恨めしそうに見つめていると何かを思い付いたかのような顔をされる。もうこの流れは読めてきた

「俺もたい焼きのお礼「はいらないですからね」」
「なんで」

とむすりとした顔で此方を見つめるがこれ以上の貰い物は本当に遠慮したい。只困っているお兄さんを助けてからの流れが可笑しかったのだ。

「お礼させて」
「いやもうほんとに大丈夫だから、ね?」
「なら連絡先じゃあ駄目?」

お礼が連絡先と言うのに一瞬きょとんとしてしまう。

「連絡先でいいの?」
「うん、登録しといてね」

困ったことがあったら俺の名前出して電話して。困ったことがあるのだろうかと首を傾げながらも頷く。

「いいこ、またな陽ちゃん」

と言い去って行くマイキーくんを見つめる

「いや私歳上…」

頬がやけに暑いのは夏のせいだと言いたい。 ようやく学校についた時にはお昼前で先生や友達に遅刻の理由を説明するとリアルわらしべ長者と言われた。でも最後はマイキー君の連絡先だからわらしべではなくないか?と思いながらも笑って受け流した。 濃い1日も終わりに差し掛かり帰路につこうとしている時だった。

「お姉ちゃん可愛いじゃんか、俺達と遊ぼうぜ」
「大丈夫です」
「あん?いいからこいよ」

見るからにガラの悪い不良に絡まれてしまった。しかも話が全く通じない、どうしたものかと考えているとふと昼に会ったマイキー君の言葉を思い出す

「マイキー君」
「あ?」
「マイキー君の知り合いなんです」

呼びますねとにこりと言いながら携帯を開くと顔色を変え走り去る不良達。

「マイキー君何者…」

とんだ災難だったと歩くとまた不良に絡まれる。今日はいいことをしたのに絡まれるのはおかしくないか?と疑問がつきない しかも次はマイキー君の名前を出しても無理そうだ。むしろ余計に絡まれてしまい思わず背を向けて走り出す。後ろから怒号が聞こえるがそれどころではない、携帯を開き新しく登録された番号にかける

「…もしもし?陽ちゃん?」

何かをしていたのかざわざわとした声が後ろから聞こえる

「ご、ごめ、不良の人に追われてて」
「今どこ?」

走りながら辺りを見回し目に入った店を伝える。

「分かった、ならあの公園まで逃げれそう?」
「なん…とか!」

息も絶え絶えに答えると待っててと言う声と共に切られた。 とりあえず連絡はした、後は公園までだと痛む足を奮い立たせる。 足がまあまあ速くてよかった、後ろからついてきてはいるが少し差が開いている。目の前に公園が見えほっとした瞬間足が縺れ転ける。

「鬼ごっこは終わりか?」

いつの間にか後ろにきていたのだろうこちらに手を伸ばしてくるのが見え咄嗟に目を瞑る

「っ助けて」 マイキー君と小さく呟いたと同時に目の前まできていた男が飛んだ。

「…え?」

文字通り飛んでいった。横を見ると何を考えているのか分からない顔をしたマイキー君がいた。

「ま、マイキー「無敵のマイキーだ」くん?」

無敵のマイキー?と思っているうちに追いかけてきていた不良達は一瞬で伸された。早業すぎて何がなんだかな状態だ。 怪我一つない状態で此方によりしゃがみこむ。

「陽ちゃん大丈夫?」

血でてるじゃんと言うマイキー君に思わず質問をする

「無敵のマイキーって…?」
「ん?ああ陽ちゃん知らないのか」

朝には着ていなかった服を此方に見せる。

「東京卍會…」

有名じゃんと呟くとにっこりと此方をみる

「俺総長」

「そうちょう」

総長!!?と見ると悪戯が成功したように笑うマイキー君。 お兄さんにボールペンを渡したことから始まった交換が最後にはあの有名な東京卍會の総長の連絡先なんて誰が信じるだろうか。あまりの事に半泣きの私をよしよしと撫でてくるマイキー君。

「ね?俺の連絡先お礼になったでしょ?」
「ソウダネ」
「これからも仲良くしようね陽ちゃん」

嬉しそうに言うマイキー君に拒否などできるわけもなく力なく頷くしかなかった。

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