その後
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送ったLINEは途遥の仕事が終わる時間を大幅に過ぎてから返事がきた。昼休みは何をしていたのかという問いに対して、食堂でそばを食べてすぐに仕事に戻った、と返ってきた。土壇場でエラーが発覚し、一日中対応に追われて休憩どころではなかったと言う。
LINEのトークを眺めながら、治はため息をついた。
安心したような、疑っているような、複雑な気分だ。
途遥に嘘をつかれたことは無い。正月に帰った実家で、女の従兄弟にスキンシップを迫られたことも正直に言ったくらいだ。わざわざ治に報告して、ごめんと謝った。黙っていれば気づかないのに、と治が零すと、不安にさせたくないから、と言った。恋人がいるって断ったから次はないと思うけど、気をつけるね。そう笑って治にグリグリと抱きついていた。
そうだ、途遥は恋人を不安にさせないためのリスク管理は怠らない。
今日のLINEも遅いけれど理由付きでちゃんと返ってきた。
途遥の今までの言動を考えれば、昼間のあれは他人の空似だったのだと鼻で笑えるはずだ。なのに、あまりにも似すぎた背中がその可能性を捨てさせてくれない。
本人なのか、別人なのか。治一人で考えても詮無きことだ。正解が知りたいなら、本人に聞くしかない。でも、その勇気が出ない。自分の知らない途遥がそこにはいるかもしれない。
ぼんやりしたまま時間が過ぎた。明日も通常営業だ。早く起きなければならない。布団の中で何度も寝返りをうちながら、浅い眠りについた。
仕事に没頭する1週間が過ぎた。眠る度にあの日は見間違えたのだという思いが強くなっていった。
翌日から試すように送ったダル絡みのLINEに、途遥がきっちり返信してきたからだ。いつもならこんなことはしないが、直接聞けない弱さと真相を知りたい心がらしくない行動をとらせた。
途遥はそれだけで治の不安を察知したらしい。
「構えなくてごめん。僕も治に会いたい」
疲れた声の短い電話だったが、直接放たれた一言は治の胸を満たした。
次の定休日も途遥は休日出勤に駆り出されていた。前回の遅れがドミノ倒しのように仕事を押しているらしい。治は気持ちを持ち直して、ラーメン屋のリベンジに向かった。
11時開店だからと15分前に着いたら、前に4人並んでいた。分厚く被さった雲で鈍い日差しで並ぶには適温だ。前回と違って公園に人の姿はない。店内に呼ばれるまでの体感は3分だった。
前と同じラーメンとチャーシュー丼を平らげて店を出た。今度こそしっかり堪能した味は、なるほど行列ができるだけある。特にチャーシューの味付けは新作の参考にしたいほど米が進んだ。何回か食べて細かく分析してみたくなった。
リピートが確定した店から家に帰る途中、コンビニのポストを見て思い出した。出さなければいけない封筒がダッシュボードに入れっぱなしだ。慌ててコンビニに寄り、封筒をポストに入れた。
前向きに駐車場したので、バックで車を動かした。切り返して、車線への合流を図る。流れの隙間を伺おうと右を向いた瞬間、目を見開いた。
間違いない、あの時の女と途遥がすぐそこを歩いている!
男の服装には見覚えがあった。途遥がしまむらで買ってきた服だ。それが決定打だった。
ショックで固まる治を置いて、2人はどんどん先へ進む。最後の希望を込めて顔が見たくても、交通量が多くて反対車線へは行けそうにない。コンビニに車を置いて後を付けるか? いや、後ろに車がつっかえて引き返せない。
混乱していると後ろからクラクションを鳴らされた。早く行けと急かされてる。仕方なしに合流し、車を2人とは逆に走らせた。サイドミラーに映る姿が小さく遠ざかっていく。適当な駐車場に入り、信号で引き返した。焼き付いた後ろ姿を探してコンビニ付近の歩道を凝視した。どこかで曲がったらしく、彼らの影はどこにも無かった。
震える手でハンドルを握りしめて、虚ろなまま帰路についた。
バタン、と玄関の扉が閉まる。覚束無い足取りリビングまで歩いた。椅子に座ると全身の力が抜けて動けなかった。
思い出すだけで、内蔵が引き絞られるような痛みがはしった。重く冷えた鉛が落ちてきたように芯から体が凍える。
やっぱり浮気しとったんか、俺に内緒で、女と……。
こういう時、自分はキレ散らかすと思っていた。それは、遊ばれていたと言うことなのだから。相手が途遥でなかったら、そうだったのかもしれない。だけど今は、怒りよりも悲しみが上回った。
会いたいっていうんは嘘やったんか? ほんまは俺の事、鬱陶しいって思っとったん? それとも、俺で遊んでたん? やっぱり女の方がええの?
次から次へと堪えきれない大粒の涙が机に落ちた。途遥が自分に嘘をついた。いや、騙していた。こんなの、受け止めきれない。
治は途遥を愛している。途遥も同じだと信じていた。
こんな仕打ちをされて今すぐ嫌いになりたいのに、なれなそうにない。それどころか、まだ途遥を好きでいる。なんて不毛な。治は自分を嗤った。
先々週、途遥の座っていた場所に突っ伏して、ただ裏切られた悲しみに打ちひしがれて泣いていた。
LINEのトークを眺めながら、治はため息をついた。
安心したような、疑っているような、複雑な気分だ。
途遥に嘘をつかれたことは無い。正月に帰った実家で、女の従兄弟にスキンシップを迫られたことも正直に言ったくらいだ。わざわざ治に報告して、ごめんと謝った。黙っていれば気づかないのに、と治が零すと、不安にさせたくないから、と言った。恋人がいるって断ったから次はないと思うけど、気をつけるね。そう笑って治にグリグリと抱きついていた。
そうだ、途遥は恋人を不安にさせないためのリスク管理は怠らない。
今日のLINEも遅いけれど理由付きでちゃんと返ってきた。
途遥の今までの言動を考えれば、昼間のあれは他人の空似だったのだと鼻で笑えるはずだ。なのに、あまりにも似すぎた背中がその可能性を捨てさせてくれない。
本人なのか、別人なのか。治一人で考えても詮無きことだ。正解が知りたいなら、本人に聞くしかない。でも、その勇気が出ない。自分の知らない途遥がそこにはいるかもしれない。
ぼんやりしたまま時間が過ぎた。明日も通常営業だ。早く起きなければならない。布団の中で何度も寝返りをうちながら、浅い眠りについた。
仕事に没頭する1週間が過ぎた。眠る度にあの日は見間違えたのだという思いが強くなっていった。
翌日から試すように送ったダル絡みのLINEに、途遥がきっちり返信してきたからだ。いつもならこんなことはしないが、直接聞けない弱さと真相を知りたい心がらしくない行動をとらせた。
途遥はそれだけで治の不安を察知したらしい。
「構えなくてごめん。僕も治に会いたい」
疲れた声の短い電話だったが、直接放たれた一言は治の胸を満たした。
次の定休日も途遥は休日出勤に駆り出されていた。前回の遅れがドミノ倒しのように仕事を押しているらしい。治は気持ちを持ち直して、ラーメン屋のリベンジに向かった。
11時開店だからと15分前に着いたら、前に4人並んでいた。分厚く被さった雲で鈍い日差しで並ぶには適温だ。前回と違って公園に人の姿はない。店内に呼ばれるまでの体感は3分だった。
前と同じラーメンとチャーシュー丼を平らげて店を出た。今度こそしっかり堪能した味は、なるほど行列ができるだけある。特にチャーシューの味付けは新作の参考にしたいほど米が進んだ。何回か食べて細かく分析してみたくなった。
リピートが確定した店から家に帰る途中、コンビニのポストを見て思い出した。出さなければいけない封筒がダッシュボードに入れっぱなしだ。慌ててコンビニに寄り、封筒をポストに入れた。
前向きに駐車場したので、バックで車を動かした。切り返して、車線への合流を図る。流れの隙間を伺おうと右を向いた瞬間、目を見開いた。
間違いない、あの時の女と途遥がすぐそこを歩いている!
男の服装には見覚えがあった。途遥がしまむらで買ってきた服だ。それが決定打だった。
ショックで固まる治を置いて、2人はどんどん先へ進む。最後の希望を込めて顔が見たくても、交通量が多くて反対車線へは行けそうにない。コンビニに車を置いて後を付けるか? いや、後ろに車がつっかえて引き返せない。
混乱していると後ろからクラクションを鳴らされた。早く行けと急かされてる。仕方なしに合流し、車を2人とは逆に走らせた。サイドミラーに映る姿が小さく遠ざかっていく。適当な駐車場に入り、信号で引き返した。焼き付いた後ろ姿を探してコンビニ付近の歩道を凝視した。どこかで曲がったらしく、彼らの影はどこにも無かった。
震える手でハンドルを握りしめて、虚ろなまま帰路についた。
バタン、と玄関の扉が閉まる。覚束無い足取りリビングまで歩いた。椅子に座ると全身の力が抜けて動けなかった。
思い出すだけで、内蔵が引き絞られるような痛みがはしった。重く冷えた鉛が落ちてきたように芯から体が凍える。
やっぱり浮気しとったんか、俺に内緒で、女と……。
こういう時、自分はキレ散らかすと思っていた。それは、遊ばれていたと言うことなのだから。相手が途遥でなかったら、そうだったのかもしれない。だけど今は、怒りよりも悲しみが上回った。
会いたいっていうんは嘘やったんか? ほんまは俺の事、鬱陶しいって思っとったん? それとも、俺で遊んでたん? やっぱり女の方がええの?
次から次へと堪えきれない大粒の涙が机に落ちた。途遥が自分に嘘をついた。いや、騙していた。こんなの、受け止めきれない。
治は途遥を愛している。途遥も同じだと信じていた。
こんな仕打ちをされて今すぐ嫌いになりたいのに、なれなそうにない。それどころか、まだ途遥を好きでいる。なんて不毛な。治は自分を嗤った。
先々週、途遥の座っていた場所に突っ伏して、ただ裏切られた悲しみに打ちひしがれて泣いていた。
