本編
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治は途遥のことをたくさん聞いた。途遥もそれに答えてくれる。
途遥の出身は山梨で、父方の実家はぶどう農家。父の仕事に憧れて工学部に入り、今は一人暮らし。治より3つ上なのに大学3年生なのは留年したから。インフルをこじらせて必修を落としたらしい。中高はテニス部で、県大会でベスト8までいったことがあるという。爽やかな途遥らしかった。
治が聞いた分だけ途遥は治のことを聞く。その時点で大人しい振りはやめた。バレーボールの話をされて侑の存在を知られる時は怖かった。クラスの女子に侑目当てでだしにされかけたのを根に持っていた。予想に反して食いつかず、凄いねと軽く流しただけだった。プロの片割れよりも自分に興味があることが明白で、たまらなかった。
ある時、分かれ道で治は引き止められた。生暖かい夜の空間の中で、途遥は持っていたリュックをガサゴソと漁り出した。
「あった」
取り出したのは半透明の袋だった。何かが入っている。
「治、ぶどう好き?」
「おん。おかんがたまにしか買ってくれんから、あんま食べんけど」
「そっか。よかったらこれ、貰ってくれる? 実家から送られてきたぶどう。正規品じゃなくて申し訳ないんだけど、味は絶対美味しいからさ」
手渡された袋は中身がぶどうとは思えないくらいずっしりとしている。バレーボールよりもずっと重たい。
「うわっ、重っ」
「ひと房が大きいからね」
1粒もこのくらい、と指で作られた輪っかは大きい。
袋越しに見える紫色はみっちりとパックにつまっている。スーパーで見かけるようなぶどうとは比べ物にならない甘い香気が袋口から漂っていた。
「美味そうやなぁ……! むっちゃ嬉しい、ありがとう!!」
この箱は宝箱や。大事に持って帰らな。
そっと自分のリュックに入れた。
「これね、凄く珍しい品種で、地元でも作ってる人が少ないからそうそう食べられないよ」
「え、そんなに貴重なん」
「うん。作るのが難しいみたい。買うと結構高いんだよ?」
街灯に照らされた美しい顔が笑った。
「治には特別にあげるね」
「特別……」
動悸が打った。言葉に出されたその2文字は治が欲しくて欲しくて仕方がなかったものだ。歓喜がじんわりと体に染み渡る。足の先まで満たされたら駆け出したいような、猛烈な衝動が起こった。
「2つしか送られてきてないから、僕と治の分しかないんだよね。だから、他の人には内緒にしてね」
治は自分がどうやって帰ったのか覚えていない。
夕飯、風呂を済ませて自室に籠る。両親にも教えずに隠したぶどうを机に置いて眺めた。品種名も知らない大きなぶどうは蛍光灯の光を弾いて輝いている。紫色だと思ったそれは赤みがかっていた。
芳しい1粒を捻りとる。皮ごと食べられるらしい。光る表面に歯を立てれば熟れていたの柔らかく弾けた。
「……! あっま」
舌の上に広がる甘さとぶどうの風味に頬が痺れた。今まで食べていたぶどうが霞むほどに濃厚な味だった。
2、3個食べても房に粒はついている。一気に食べるにはあまりにももったいない。後で冷蔵庫に入れて食べないように言いつけるしかなかった。
無音の室内には時計の音だけが響いている。
「途遥くんの特別か」
あの皆に平等な途遥の特別。走り出したいほどの衝撃がまだ残っている。嬉しい、そのはずなのに、まだ欲しいと思う。さっきまで満たされていたのに、次をねだる自分がいる。
――途遥くんの言う特別って親友的な意味?
話して、知って、仲良くなって、特別になって。その先は? その先なんてない。友達なら親友以上はない。
――なら俺は何が欲しいんやろ。
話すのもこっちを見て笑ってくれるのもいつものことだ。ないのはスキンシップくらいだろうか。
――それええな。そういえば途遥くんに触ったことないわ。
バレーをやっていた時はチームメイトとハイタッチしたり背中を叩いたりなんてこともあったが、途遥とはやったことがない。
――隣にもたれかかったりとか、手握ったりとかしたい。抱きしめられて、よくやったって褒められたい。
俺んことだけ見てほしい。他の人にはやってほしない。
想像するだけで夢見心地だ。優しい声で、とびきり甘やかされたい。元カノにしていたように、自分も恋人のように……。
ハッとした。締め付けられる心臓の鼓動が耳元で鳴っている。自分の考えたことに気づいて、顔は熱いのに、頭だけが冷水を浴びせられたように冷めている。
机の上、頭を抱えて項垂れた。
――俺、途遥くんのことが好きなんや。
恋だと気づくのは遅すぎた。縮めた短い距離がそのまま自分の首を締めあげていた。
途遥の出身は山梨で、父方の実家はぶどう農家。父の仕事に憧れて工学部に入り、今は一人暮らし。治より3つ上なのに大学3年生なのは留年したから。インフルをこじらせて必修を落としたらしい。中高はテニス部で、県大会でベスト8までいったことがあるという。爽やかな途遥らしかった。
治が聞いた分だけ途遥は治のことを聞く。その時点で大人しい振りはやめた。バレーボールの話をされて侑の存在を知られる時は怖かった。クラスの女子に侑目当てでだしにされかけたのを根に持っていた。予想に反して食いつかず、凄いねと軽く流しただけだった。プロの片割れよりも自分に興味があることが明白で、たまらなかった。
ある時、分かれ道で治は引き止められた。生暖かい夜の空間の中で、途遥は持っていたリュックをガサゴソと漁り出した。
「あった」
取り出したのは半透明の袋だった。何かが入っている。
「治、ぶどう好き?」
「おん。おかんがたまにしか買ってくれんから、あんま食べんけど」
「そっか。よかったらこれ、貰ってくれる? 実家から送られてきたぶどう。正規品じゃなくて申し訳ないんだけど、味は絶対美味しいからさ」
手渡された袋は中身がぶどうとは思えないくらいずっしりとしている。バレーボールよりもずっと重たい。
「うわっ、重っ」
「ひと房が大きいからね」
1粒もこのくらい、と指で作られた輪っかは大きい。
袋越しに見える紫色はみっちりとパックにつまっている。スーパーで見かけるようなぶどうとは比べ物にならない甘い香気が袋口から漂っていた。
「美味そうやなぁ……! むっちゃ嬉しい、ありがとう!!」
この箱は宝箱や。大事に持って帰らな。
そっと自分のリュックに入れた。
「これね、凄く珍しい品種で、地元でも作ってる人が少ないからそうそう食べられないよ」
「え、そんなに貴重なん」
「うん。作るのが難しいみたい。買うと結構高いんだよ?」
街灯に照らされた美しい顔が笑った。
「治には特別にあげるね」
「特別……」
動悸が打った。言葉に出されたその2文字は治が欲しくて欲しくて仕方がなかったものだ。歓喜がじんわりと体に染み渡る。足の先まで満たされたら駆け出したいような、猛烈な衝動が起こった。
「2つしか送られてきてないから、僕と治の分しかないんだよね。だから、他の人には内緒にしてね」
治は自分がどうやって帰ったのか覚えていない。
夕飯、風呂を済ませて自室に籠る。両親にも教えずに隠したぶどうを机に置いて眺めた。品種名も知らない大きなぶどうは蛍光灯の光を弾いて輝いている。紫色だと思ったそれは赤みがかっていた。
芳しい1粒を捻りとる。皮ごと食べられるらしい。光る表面に歯を立てれば熟れていたの柔らかく弾けた。
「……! あっま」
舌の上に広がる甘さとぶどうの風味に頬が痺れた。今まで食べていたぶどうが霞むほどに濃厚な味だった。
2、3個食べても房に粒はついている。一気に食べるにはあまりにももったいない。後で冷蔵庫に入れて食べないように言いつけるしかなかった。
無音の室内には時計の音だけが響いている。
「途遥くんの特別か」
あの皆に平等な途遥の特別。走り出したいほどの衝撃がまだ残っている。嬉しい、そのはずなのに、まだ欲しいと思う。さっきまで満たされていたのに、次をねだる自分がいる。
――途遥くんの言う特別って親友的な意味?
話して、知って、仲良くなって、特別になって。その先は? その先なんてない。友達なら親友以上はない。
――なら俺は何が欲しいんやろ。
話すのもこっちを見て笑ってくれるのもいつものことだ。ないのはスキンシップくらいだろうか。
――それええな。そういえば途遥くんに触ったことないわ。
バレーをやっていた時はチームメイトとハイタッチしたり背中を叩いたりなんてこともあったが、途遥とはやったことがない。
――隣にもたれかかったりとか、手握ったりとかしたい。抱きしめられて、よくやったって褒められたい。
俺んことだけ見てほしい。他の人にはやってほしない。
想像するだけで夢見心地だ。優しい声で、とびきり甘やかされたい。元カノにしていたように、自分も恋人のように……。
ハッとした。締め付けられる心臓の鼓動が耳元で鳴っている。自分の考えたことに気づいて、顔は熱いのに、頭だけが冷水を浴びせられたように冷めている。
机の上、頭を抱えて項垂れた。
――俺、途遥くんのことが好きなんや。
恋だと気づくのは遅すぎた。縮めた短い距離がそのまま自分の首を締めあげていた。
