本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
専門学校の玄関を出て帰り道を歩く。家路につくには左に曲がらないと行けない大通りの交差点を真っ直ぐ通り越してドラッグストアの横道に入れば、細い道路の両端に住宅がせせこましく詰め込まれている。辺りには換気扇から漏れる夕飯の匂いが薄らと漂っていて、胃が刺激される。
早歩きで住宅街を突き進んでいくと、いい匂いはどんどん強くなる。庭にバスケットゴールのある家を曲がれば、治のバイト先である弁当屋“さん吉”だ。
裏口から入ると店長がいた。
「あ、治くん! お疲れさん」
「お疲れさまです」
店長の脇をすり抜けて、従業員特権で取り置きしてもらっているミニ弁を持って控え室のテーブルに座る。
「いただきます……あ、店長、途遥くんもう来てます?」
「おん、今揚げ物やっとる」
その返事に頬が緩んだ。
仲堂途遥は治より3つ上のバイト先の先輩だ。物腰柔らかでおっとりした性格をしている。雰囲気は草食系男子だが、顔立ちは派手でおばちゃん客から人気があった。
「治、おつかれ」
「おつかれ途遥くん」
タイムカードを切って厨房に入ればフライヤーの前に立つ途遥の後ろ姿があった。唐揚げを揚げている途遥はこちらをチラリと見て、挨拶を返してくれた。
「途遥くん、今日もかっこええな」
「もー、汗まみれで恥ずかしいから今はやめて」
ははは、と笑って誤魔化した。
嘘じゃない。汗の浮かんだ顏 は清涼感さえ感じる。腕で汗を拭う動作も様になっている。治は見蕩れたくなる気持ちを抑えて副菜作りに取り掛かった。
これももう慣れた作業だ。最初の頃と違って迷うことは無い。
着々と準備を進めていけばあっという間に夕飯時に差し掛かる。電話注文を取りに来た主婦を皮切りに、続々と客がやってきた。手を止める暇がないほど忙しい。
バレーを辞めた今、治はこのバイトに精を出している。
─────────────────────
お疲れ様でしたー!
店長に声をかけて店を出た。すっかり暗い帰り道を途遥と連れ立って歩く。
「今日とんかつ多かったね」
「せやな。とんかつ切りすぎてうっかりメンチも縦に切ってまうとこやったわ」
「それ、やったことある。サイズ違うのに揚げ物だから見間違えちゃうんだよね」
未遂でよかったね。
数cm下から上目遣いで笑いかけられると心臓がドキドキした。大通りのライトに照らされる自分の顔が赤くないか心配になる。
「途遥くん明日もシフト入っとるん?」
「ううん、明日明後日は休み。治は?」
「俺も明日は休み。明後日が出やな」
「そっか、じゃあ次被るのは明後日以降だね」
昨日今日と被って、3回連続はなかった。また会えなくなる寂しさが、また自分にズルをさせる。
「そうなんや。俺、途遥くんと一緒なんが1番好きなんやけどなぁ」
最近、さりげなく本音を混ぜて吐き出すズルを覚えた。軽口風に言えば、いくらでも茶化して取り返しがつくと思った。そうでもしないと、途遥への気持ちが溢れて苦しかった。
治の言葉に途遥は嬉しそうに返した。
「僕も治とが1番好きだよ。他の人がヤダってわけじゃないけど……治がいいな」
「……っ」
その返事に、声が詰まった。混ぜ込んだ気持ちの方に答えられたのかと思った。だが、途遥に気づいているような素振りはない。後輩に懐かれて嬉しいだけのようだった。
「はは、両思いやんなぁ」
絞り出した声を震えさせる訳にはいかない。
言えや、言ってまえ。いやや、途遥に嫌われたない。葛藤を押し殺して平気なフリをした。
それからゲームの話をして、話題が移って途遥の大学の学食の話、治が実習で作った料理の話をした。
2人の分かれ道についたとき、じゃあまた、と手を振って別れた。
寝る前、侑のいない1人の部屋で途遥の言葉を思い出す。
――僕も治とが1番好きだよ。
そう言われて幸せなはずなのに、胸が痛くて裂けそうだった。
途遥くんは俺のことただ仲のええ後輩と思うとる。俺だけが途遥くんを変な目で見とる。
人を好きになって、自分が幸福感と罪悪感の狭間で悩んだりするなんて考えもしなかった。侑がいたら酸欠になるほど笑うだろう。
好きになったのが途遥だったからだ。
柔らく笑う優しい彼に幻滅されるのが恐ろしい。
2段ベットの下の段で月明かりから隠れるように布団を深く被った。
どうしようもなく、治は仲堂途遥に恋をしていた。
早歩きで住宅街を突き進んでいくと、いい匂いはどんどん強くなる。庭にバスケットゴールのある家を曲がれば、治のバイト先である弁当屋“さん吉”だ。
裏口から入ると店長がいた。
「あ、治くん! お疲れさん」
「お疲れさまです」
店長の脇をすり抜けて、従業員特権で取り置きしてもらっているミニ弁を持って控え室のテーブルに座る。
「いただきます……あ、店長、途遥くんもう来てます?」
「おん、今揚げ物やっとる」
その返事に頬が緩んだ。
仲堂途遥は治より3つ上のバイト先の先輩だ。物腰柔らかでおっとりした性格をしている。雰囲気は草食系男子だが、顔立ちは派手でおばちゃん客から人気があった。
「治、おつかれ」
「おつかれ途遥くん」
タイムカードを切って厨房に入ればフライヤーの前に立つ途遥の後ろ姿があった。唐揚げを揚げている途遥はこちらをチラリと見て、挨拶を返してくれた。
「途遥くん、今日もかっこええな」
「もー、汗まみれで恥ずかしいから今はやめて」
ははは、と笑って誤魔化した。
嘘じゃない。汗の浮かんだ
これももう慣れた作業だ。最初の頃と違って迷うことは無い。
着々と準備を進めていけばあっという間に夕飯時に差し掛かる。電話注文を取りに来た主婦を皮切りに、続々と客がやってきた。手を止める暇がないほど忙しい。
バレーを辞めた今、治はこのバイトに精を出している。
─────────────────────
お疲れ様でしたー!
店長に声をかけて店を出た。すっかり暗い帰り道を途遥と連れ立って歩く。
「今日とんかつ多かったね」
「せやな。とんかつ切りすぎてうっかりメンチも縦に切ってまうとこやったわ」
「それ、やったことある。サイズ違うのに揚げ物だから見間違えちゃうんだよね」
未遂でよかったね。
数cm下から上目遣いで笑いかけられると心臓がドキドキした。大通りのライトに照らされる自分の顔が赤くないか心配になる。
「途遥くん明日もシフト入っとるん?」
「ううん、明日明後日は休み。治は?」
「俺も明日は休み。明後日が出やな」
「そっか、じゃあ次被るのは明後日以降だね」
昨日今日と被って、3回連続はなかった。また会えなくなる寂しさが、また自分にズルをさせる。
「そうなんや。俺、途遥くんと一緒なんが1番好きなんやけどなぁ」
最近、さりげなく本音を混ぜて吐き出すズルを覚えた。軽口風に言えば、いくらでも茶化して取り返しがつくと思った。そうでもしないと、途遥への気持ちが溢れて苦しかった。
治の言葉に途遥は嬉しそうに返した。
「僕も治とが1番好きだよ。他の人がヤダってわけじゃないけど……治がいいな」
「……っ」
その返事に、声が詰まった。混ぜ込んだ気持ちの方に答えられたのかと思った。だが、途遥に気づいているような素振りはない。後輩に懐かれて嬉しいだけのようだった。
「はは、両思いやんなぁ」
絞り出した声を震えさせる訳にはいかない。
言えや、言ってまえ。いやや、途遥に嫌われたない。葛藤を押し殺して平気なフリをした。
それからゲームの話をして、話題が移って途遥の大学の学食の話、治が実習で作った料理の話をした。
2人の分かれ道についたとき、じゃあまた、と手を振って別れた。
寝る前、侑のいない1人の部屋で途遥の言葉を思い出す。
――僕も治とが1番好きだよ。
そう言われて幸せなはずなのに、胸が痛くて裂けそうだった。
途遥くんは俺のことただ仲のええ後輩と思うとる。俺だけが途遥くんを変な目で見とる。
人を好きになって、自分が幸福感と罪悪感の狭間で悩んだりするなんて考えもしなかった。侑がいたら酸欠になるほど笑うだろう。
好きになったのが途遥だったからだ。
柔らく笑う優しい彼に幻滅されるのが恐ろしい。
2段ベットの下の段で月明かりから隠れるように布団を深く被った。
どうしようもなく、治は仲堂途遥に恋をしていた。
1/7ページ
