HQ短編
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冷房の効いた部屋。低いテーブルで問題を解いていた途遥が消しゴムを落とした。ちらりと目線を向けた侑は屈んだ途遥の胸元から見えるはずのないタグを見た。 途遥は午前中墓参りに行っていたらしい。つまり、Tシャツを前後逆にしたまま外に出ていたということで。
いつもの無頓着に、侑は呆れも感じなかった。
仲堂途遥は興味の有る無いが分かりやすすぎる。どうでもいいことにはとことん適当で、本人にとって大事なことにはやたらと真剣なのだ。
現在進行形でシャツを間違えているように、靴下がバラバラ、練習着のズボンが反対なんて日常茶飯事。試合の相手が弱い時は学校名ごと間違えている。人の名前だって平気で間違えて話しかけたりもする。話さえも聞いてるようで聞いていないことなんてざらにある。
そうかと思えば、バレーには侑と同じくらいの熱量で取り組んでいた。稲荷崎に来たのもバレー推薦だし、同じリベロの先輩だからと赤木に熱心に師事している。好物のミニトマトに至っては1人で4種類も家庭菜園している。コツコツ貯めた小遣いで庭の土の入れ替えまで行い、肥料にまでこだわる始末。
途遥はとにかく、不思議な男だった。
侑は途遥の首元を引っ張った。
「なんや?」
「なんや? とちゃうわ。気づきぃや」
「気づけるか。家庭教師とちゃうねん。侑の進捗をいちいち見てられるか。……で、どこが分からん?」
宿題の話だと思っている途遥に、侑はついに呆れた。
「アホ。一生反対に着とけ」
侑が引っ張ってよれた首元を直した途遥は呟いた。
「逆やん」
恥ずかしがるでもなく焦るでもなく、真顔でTシャツを着直した。本気で逆だった、としか思っていなかった。
侑にはこのアホが学年トップ10に入る秀才である実感が全く湧かない。今日のように勉強を見てもらうことも多いし、高得点しか書かれていないテスト用紙も見たこともある。成績も自分より圧倒的に良い。頭が良いことを知っているはずなのに、過去の記憶がバグにしか感じられなかった。
侑は途遥を無視して再び問題に顔を落とした。
無言の室内には冷房の風と時計の秒針が響いている。
どれくらい時間が経ったのか。途遥がどこをやっているのか気になった侑が横を見ると、途遥は数Ⅱから古典の宿題に移っていた。
「ずっこい! 俺数学しか持ってきてへんのに!」
「だって終わってんもん」
余裕たっぷりな途遥にむかっ腹が立った。
両面3枚のうち、侑はまだ2枚目の表だ。同じタイミングでスタートしたというのに、丸々1枚分の差がついているところに地頭の差を感じて、更にムカついた。
「途遥、写させてや」
可愛い子ぶった侑のおねだりを途遥は冷たく切り捨てた。
「やってもええけど、北さんにチクるからな」
「最悪やん、恋人売る気か!」
「なんとでも言うたれや。いくら侑でも俺の努力をかすめ取られてたまるか」
ふん、と鼻を鳴らして、途遥は古典のテキストにかかってしまった。
途遥の融通の効かないところは美徳でもあり欠点でもある。侑にとってはそれが好きな時もあるし嫌いな時もあった。今回は後者だ。
侑は「こいつなんやねん」と思いながら、またプリントに向き合った。
やっと3枚目の裏に突入して、侑は顔を顰めた。
――チャレンジ問題とかほんま要らん。最後まで基礎問題でええやんか。
端から端まで意味不明な数式だ。さっきまでの練習問題から急に難易度が上がった。問題の答えは配られていない。すっ飛ばしたかったが、次のテストでここから問題を出すと明言されている。ただでさえ危うい数Ⅱだ。取れる問題を落としたくない。
侑は仕方なく途遥にたずねた。
「途遥」
「ん」
「最後のやつ分からん。なんやこれ」
ゆっくり顔を上げた途遥は侑のプリントを覗き込んだ。
「どの辺がわからん?」
「なんもかも」
投げやりな侑を気にせず、途遥は続けた。
「この式はこのままやと解けん。この部分が変わるんやけど、どう変えとるか分かる?」
「分からん」
侑が首を振ると、途遥は余白に薄い字で計算式を書き出した。細々と噛み砕いて解説する途遥は真面目な表情だ。その横顔を侑はじっと眺めた。
付き合っているというのに、今日はまだ恋人らしいことを一切していない。予定では部屋に入って早々に睦み合うはずだったのに、実際はつまらない宿題に精を出している。
夏休みの合間、貴重な1日オフの日に宿題を一緒にやろうと誘ったのは建前で、部活漬けで触れ合えない鬱憤を晴らすべく思い切りイチャイチャしたかった。ウキウキしながら部屋に入り、途遥に腕を絡めるも、途遥はベタベタと張り付く侑を退かしてプリントを広げてしまった。侑の誘いを額面通りに受け取っていたのである。
そんなん後でええやん、と不服な侑に、後で終わらんって泣きべそかいても知らんからな、と途遥は吐き捨てた。バカ真面目なところも嫌いじゃないが、途遥のケチになんだかその気が失せてしまい、粛々と宿題を消化していたのだ。
途遥はさっさと先に進めているが、侑はこれさえ終われば手持ち無沙汰になる。途遥は侑を構い出すだろう。最終問題を前にして、侑には失ったそ“その気”が戻ってきた。
話し続ける途遥に擦り寄り、ぎゅっと抱きついた。
「ちゅうしよ」
「先にこっち解き。これだけやろ」
シャーペンを持たされても動かずにいたら、諦めた途遥が自分のプリントを見せてきた。さっきは断ってきたのに、写していいらしい。侑は笑って雑に答えを書いた。
「終わった」
口を開くと同時に頭に手を回されて抑えられた。勢い余って歯がカチリと音を立てた。貪った口内は炭酸で甘かった。
侑の方から体重をかけると、途遥は呆気なく後ろに倒れた。密着したまま上に乗ると途遥が呻いた。
「重いんやけど」
「昨日着てた俺のTシャツ、何色やった?」
「聞けや。……オレンジ」
「なんて書いとった?」
「胸のところ、黒でハッピーボーイって」
「サムのは?」
「知らん。急になんや」
侑のシャツは覚えていても、治は覚えていない。その答えに侑は満足気に笑った。
「ほな、昨日お前がもろた手紙は誰からなん?」
なんてことの無いような明るい調子で聞いた。
途遥はその質問に黙った。胸にくっつけた侑の耳には途遥の鼓動が変わらぬリズムで動いているのが聞こえていた。
「……監督、やな」
「ボケてんのか舐めとんのか、どっち?」
「ちゃんと答えてんで」
上半身を持ち上げて、侑は途遥を見下ろした。
「シラ切りなや。自販機の前でショートカットの女から手紙もろてたやろ」
侑の鋭い眼差しを受けても途遥はキョトンと表情で首を傾げていた。
「それほんまに俺のことなん? 俺は監督からプリントもろたことしか覚えてへんけど」
「俺が途遥を間違えるわけないやろ」
「……侑が言うんなら、まぁ、そうなんやろな。全然覚えてへんけど」
練習しんど過ぎて記憶飛んどるわ、と途遥は言った。脳天気な途遥の態度に侑は釣り上げた眦を下げ、再び途遥の胸に倒れ込んだ。
「で、どうするん」
「何が」
「どうせラブレターやろ、それ。返事、せぇへんの?」
「せん。覚えてへんし、手紙がどこにあるか知らんし」
心底興味が無さそうだった。探す気のない途遥の代わりに侑が立ち上がって部屋の端に置いてあるエナメルをガサゴソとあさり出した。
途遥の性格から考えて、絶対にエナメルに突っ込んであると考えていた。
「あった」
侑の指先が摘み上げたのは、ぐちゃぐちゃになった淡いピンクの封筒だった。途遥に差し出すと、シワの隙間に挟まっていたゴミが床に落ちた。
「きったなっ!」
途遥は顔を歪めた。侑がテーブルに置くと嫌そうな顔をした。
「捨ててええよ」
「お前も大概クズやんな」
侑はクシャクシャになった手紙を開いて読み上げた。便箋2枚分の内容は、要するにバレーをしている途遥がかっこいいから好きになった、付き合って欲しい、返事を待っているということだ。差出人は他クラスの女子らしく、侑も知らなかった。
「手紙あったし、差出人も分かったし、どないすんの」
「シカトしたい。この人知らんし。マジで誰やねん」
手紙には目もくれず、途遥は後ろ手をついてだるそうに天井を見上げた。
「可哀想やと思わへんの」
同情的な侑の声に、途遥は目線を侑に向けた。
「はぁ? どこが」
「やって、今どき手紙っていじらしいやん。渡す時なんて真っ赤な顔して、しかも結構可愛かったで」
途遥が手紙を受け取ったことを責めていたような態度が一変、まるで相手の味方をするような口ぶりだった。
侑は途遥を試していた。手紙を受けとったことに本気で腹を立ててなんかいないし、差出人の女に同情なんか一切していない。ただ、途遥の反応が見たかっただけだ。それをダシに、本来の目的を果たしてやろうという目論見だった。
途遥は無表情の侑を見つめて薄く笑った。侑の魂胆も見抜けない愚鈍なら、途遥は恋人の座に座ってなどいない。
「侑、俺はそんなアホやないで。正解は分かっとる」
途遥はゴミ箱を引き寄せると、手紙を手に取ってビリビリに破り始めた。
「俺には侑っちゅう最高の恋人がおる。侑以外に興味なんか毛ほども無い。せやから、こういうんむっちゃ迷惑やねん」
小さく小さく、それ以上ちぎれないほどに細切れにしていく。
「ハッキリ断るべきなんやろうな。俺には恋人がおるから、希望なんか無い、諦めろって」
紙くずとなった紙片がヒラヒラとゴミ箱に積もっていく。
「けど、俺は返事返すんも嫌や。接点すら作りたない」
封筒すらビリビリに割いて、可愛らしいラブレターは跡形もなくなった。
途遥は手を払って、侑と目を合わせた。
「侑は俺にどうして欲しいん?」
侑は上機嫌にニンマリと笑って答えた。
「シカトしてや」
素直に頷いた途遥の唇に、侑が噛み付いた。
いつもの無頓着に、侑は呆れも感じなかった。
仲堂途遥は興味の有る無いが分かりやすすぎる。どうでもいいことにはとことん適当で、本人にとって大事なことにはやたらと真剣なのだ。
現在進行形でシャツを間違えているように、靴下がバラバラ、練習着のズボンが反対なんて日常茶飯事。試合の相手が弱い時は学校名ごと間違えている。人の名前だって平気で間違えて話しかけたりもする。話さえも聞いてるようで聞いていないことなんてざらにある。
そうかと思えば、バレーには侑と同じくらいの熱量で取り組んでいた。稲荷崎に来たのもバレー推薦だし、同じリベロの先輩だからと赤木に熱心に師事している。好物のミニトマトに至っては1人で4種類も家庭菜園している。コツコツ貯めた小遣いで庭の土の入れ替えまで行い、肥料にまでこだわる始末。
途遥はとにかく、不思議な男だった。
侑は途遥の首元を引っ張った。
「なんや?」
「なんや? とちゃうわ。気づきぃや」
「気づけるか。家庭教師とちゃうねん。侑の進捗をいちいち見てられるか。……で、どこが分からん?」
宿題の話だと思っている途遥に、侑はついに呆れた。
「アホ。一生反対に着とけ」
侑が引っ張ってよれた首元を直した途遥は呟いた。
「逆やん」
恥ずかしがるでもなく焦るでもなく、真顔でTシャツを着直した。本気で逆だった、としか思っていなかった。
侑にはこのアホが学年トップ10に入る秀才である実感が全く湧かない。今日のように勉強を見てもらうことも多いし、高得点しか書かれていないテスト用紙も見たこともある。成績も自分より圧倒的に良い。頭が良いことを知っているはずなのに、過去の記憶がバグにしか感じられなかった。
侑は途遥を無視して再び問題に顔を落とした。
無言の室内には冷房の風と時計の秒針が響いている。
どれくらい時間が経ったのか。途遥がどこをやっているのか気になった侑が横を見ると、途遥は数Ⅱから古典の宿題に移っていた。
「ずっこい! 俺数学しか持ってきてへんのに!」
「だって終わってんもん」
余裕たっぷりな途遥にむかっ腹が立った。
両面3枚のうち、侑はまだ2枚目の表だ。同じタイミングでスタートしたというのに、丸々1枚分の差がついているところに地頭の差を感じて、更にムカついた。
「途遥、写させてや」
可愛い子ぶった侑のおねだりを途遥は冷たく切り捨てた。
「やってもええけど、北さんにチクるからな」
「最悪やん、恋人売る気か!」
「なんとでも言うたれや。いくら侑でも俺の努力をかすめ取られてたまるか」
ふん、と鼻を鳴らして、途遥は古典のテキストにかかってしまった。
途遥の融通の効かないところは美徳でもあり欠点でもある。侑にとってはそれが好きな時もあるし嫌いな時もあった。今回は後者だ。
侑は「こいつなんやねん」と思いながら、またプリントに向き合った。
やっと3枚目の裏に突入して、侑は顔を顰めた。
――チャレンジ問題とかほんま要らん。最後まで基礎問題でええやんか。
端から端まで意味不明な数式だ。さっきまでの練習問題から急に難易度が上がった。問題の答えは配られていない。すっ飛ばしたかったが、次のテストでここから問題を出すと明言されている。ただでさえ危うい数Ⅱだ。取れる問題を落としたくない。
侑は仕方なく途遥にたずねた。
「途遥」
「ん」
「最後のやつ分からん。なんやこれ」
ゆっくり顔を上げた途遥は侑のプリントを覗き込んだ。
「どの辺がわからん?」
「なんもかも」
投げやりな侑を気にせず、途遥は続けた。
「この式はこのままやと解けん。この部分が変わるんやけど、どう変えとるか分かる?」
「分からん」
侑が首を振ると、途遥は余白に薄い字で計算式を書き出した。細々と噛み砕いて解説する途遥は真面目な表情だ。その横顔を侑はじっと眺めた。
付き合っているというのに、今日はまだ恋人らしいことを一切していない。予定では部屋に入って早々に睦み合うはずだったのに、実際はつまらない宿題に精を出している。
夏休みの合間、貴重な1日オフの日に宿題を一緒にやろうと誘ったのは建前で、部活漬けで触れ合えない鬱憤を晴らすべく思い切りイチャイチャしたかった。ウキウキしながら部屋に入り、途遥に腕を絡めるも、途遥はベタベタと張り付く侑を退かしてプリントを広げてしまった。侑の誘いを額面通りに受け取っていたのである。
そんなん後でええやん、と不服な侑に、後で終わらんって泣きべそかいても知らんからな、と途遥は吐き捨てた。バカ真面目なところも嫌いじゃないが、途遥のケチになんだかその気が失せてしまい、粛々と宿題を消化していたのだ。
途遥はさっさと先に進めているが、侑はこれさえ終われば手持ち無沙汰になる。途遥は侑を構い出すだろう。最終問題を前にして、侑には失ったそ“その気”が戻ってきた。
話し続ける途遥に擦り寄り、ぎゅっと抱きついた。
「ちゅうしよ」
「先にこっち解き。これだけやろ」
シャーペンを持たされても動かずにいたら、諦めた途遥が自分のプリントを見せてきた。さっきは断ってきたのに、写していいらしい。侑は笑って雑に答えを書いた。
「終わった」
口を開くと同時に頭に手を回されて抑えられた。勢い余って歯がカチリと音を立てた。貪った口内は炭酸で甘かった。
侑の方から体重をかけると、途遥は呆気なく後ろに倒れた。密着したまま上に乗ると途遥が呻いた。
「重いんやけど」
「昨日着てた俺のTシャツ、何色やった?」
「聞けや。……オレンジ」
「なんて書いとった?」
「胸のところ、黒でハッピーボーイって」
「サムのは?」
「知らん。急になんや」
侑のシャツは覚えていても、治は覚えていない。その答えに侑は満足気に笑った。
「ほな、昨日お前がもろた手紙は誰からなん?」
なんてことの無いような明るい調子で聞いた。
途遥はその質問に黙った。胸にくっつけた侑の耳には途遥の鼓動が変わらぬリズムで動いているのが聞こえていた。
「……監督、やな」
「ボケてんのか舐めとんのか、どっち?」
「ちゃんと答えてんで」
上半身を持ち上げて、侑は途遥を見下ろした。
「シラ切りなや。自販機の前でショートカットの女から手紙もろてたやろ」
侑の鋭い眼差しを受けても途遥はキョトンと表情で首を傾げていた。
「それほんまに俺のことなん? 俺は監督からプリントもろたことしか覚えてへんけど」
「俺が途遥を間違えるわけないやろ」
「……侑が言うんなら、まぁ、そうなんやろな。全然覚えてへんけど」
練習しんど過ぎて記憶飛んどるわ、と途遥は言った。脳天気な途遥の態度に侑は釣り上げた眦を下げ、再び途遥の胸に倒れ込んだ。
「で、どうするん」
「何が」
「どうせラブレターやろ、それ。返事、せぇへんの?」
「せん。覚えてへんし、手紙がどこにあるか知らんし」
心底興味が無さそうだった。探す気のない途遥の代わりに侑が立ち上がって部屋の端に置いてあるエナメルをガサゴソとあさり出した。
途遥の性格から考えて、絶対にエナメルに突っ込んであると考えていた。
「あった」
侑の指先が摘み上げたのは、ぐちゃぐちゃになった淡いピンクの封筒だった。途遥に差し出すと、シワの隙間に挟まっていたゴミが床に落ちた。
「きったなっ!」
途遥は顔を歪めた。侑がテーブルに置くと嫌そうな顔をした。
「捨ててええよ」
「お前も大概クズやんな」
侑はクシャクシャになった手紙を開いて読み上げた。便箋2枚分の内容は、要するにバレーをしている途遥がかっこいいから好きになった、付き合って欲しい、返事を待っているということだ。差出人は他クラスの女子らしく、侑も知らなかった。
「手紙あったし、差出人も分かったし、どないすんの」
「シカトしたい。この人知らんし。マジで誰やねん」
手紙には目もくれず、途遥は後ろ手をついてだるそうに天井を見上げた。
「可哀想やと思わへんの」
同情的な侑の声に、途遥は目線を侑に向けた。
「はぁ? どこが」
「やって、今どき手紙っていじらしいやん。渡す時なんて真っ赤な顔して、しかも結構可愛かったで」
途遥が手紙を受け取ったことを責めていたような態度が一変、まるで相手の味方をするような口ぶりだった。
侑は途遥を試していた。手紙を受けとったことに本気で腹を立ててなんかいないし、差出人の女に同情なんか一切していない。ただ、途遥の反応が見たかっただけだ。それをダシに、本来の目的を果たしてやろうという目論見だった。
途遥は無表情の侑を見つめて薄く笑った。侑の魂胆も見抜けない愚鈍なら、途遥は恋人の座に座ってなどいない。
「侑、俺はそんなアホやないで。正解は分かっとる」
途遥はゴミ箱を引き寄せると、手紙を手に取ってビリビリに破り始めた。
「俺には侑っちゅう最高の恋人がおる。侑以外に興味なんか毛ほども無い。せやから、こういうんむっちゃ迷惑やねん」
小さく小さく、それ以上ちぎれないほどに細切れにしていく。
「ハッキリ断るべきなんやろうな。俺には恋人がおるから、希望なんか無い、諦めろって」
紙くずとなった紙片がヒラヒラとゴミ箱に積もっていく。
「けど、俺は返事返すんも嫌や。接点すら作りたない」
封筒すらビリビリに割いて、可愛らしいラブレターは跡形もなくなった。
途遥は手を払って、侑と目を合わせた。
「侑は俺にどうして欲しいん?」
侑は上機嫌にニンマリと笑って答えた。
「シカトしてや」
素直に頷いた途遥の唇に、侑が噛み付いた。
