HQ短編
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夢を見た。
むせ返る青臭い匂いに囲まれ、ギラつく日差しの中をめいっぱい駆けている。虫取りに夢中になって一人で先に行ってしまう弟を止めようと追いかけていた。
かき分けた自分より高い背丈の草がチクチクと痛い。ビッシリかいた汗で体がベタついて気持ち悪い。けれど、姉の務めを果たそうと小さい足を動かす。
息が上がるほど走ったのに、足の早い弟との距離は縮まらず、ついにはその背中は見えなくなってしまった。私は弟の名前を呼びながら前に進み続けた。
突然、草をかき分ける手が宙をかいた。よろけた足が小石を蹴飛ばす。転げ落ちたその石は急な斜面を転がり落ちていった。石の行先、砂利の地面に寝ていた弟は頭から血を流していた。
ピクリともしない弟を、私は見つめたまま立ちすくんでいた。頭が真っ白になって、火照っていた体が一瞬で冷めた。頭も体も、何もかもが動かせなかった。
どれくらいそうしていたのか分からない。急に、私をすっぽりと覆う大きな影が差した。それに気づいた私はゆっくりと顔を上げた。影の持ち主である和服の大男が私を見下ろしていた。音も立てずに現れた男は話しかけてきた。
「どないしたん?」
「おと、弟が、下、落ちちゃって、頭、血が出てて」
指を指すと、男は下を覗き込んで呟いた。
「あぁ、ほんまや」
「はやく助けないとって、けど、どうしたらいいか分かんなくて」
大人の人なら助けてくれる。そう考えた私は縋る思いで男を見上げた。男は呑気に顎に手をやっていた。
「俺と契約してくれたら治したんで」
「けいやく?」
「約束ってことや」
「約束したら、弟を助けてくれますか?」
「おん」
ニコニコと笑う男に、私は答えた。
「けいやくします。だから、弟を治してください」
─────────────────────
目が覚めた。
ベッドから抜け出て、分厚い遮光カーテンを開けた。室内が一気に明るくなる。ギラギラとした太陽が、夢と同じように地面を焼いていた。久しぶりに懐かしい夢を見た。
デジタル時計を見れれば、チェックアウトまで1時間半ほど残っていた。朝食までに起きれないことを見越してビジネスホテルに泊まったのは正解だった。
私はふかふかのベッドに腰掛けた。目を閉じて、昨日までを思い出す。この1ヶ月の間に美味しいご飯はたくさん食べた。お高いホテルだって泊まった。行きたかった場所にも行って、見たかった景色も見た。手持ち金を全て使い切る贅沢な旅も、今日で終わり。
回想に耽っていると、カードキーでドアを開ける音と共に大柄な男が入ってきた。手にコンビニの袋を持っている。一番近いコンビニは200m先のはず。猛暑の中、そのまで買いに行ったというのに、汗ひとつかいていなかった。
「起きとったんか」
手に持った袋からカップラーメンを取り出して、備え付けのポットでお湯を沸かす準備をしている。この男こそ夢に出てきた和服の大男、侑だ。死にかけの弟を救い、契約と称して私に取り憑いてから15年。その奇妙な存在は常に私と共にあった。
「私の分は?」
「ほれ」
見せつけられたのは私の好きな味。
「分かってるじゃん」
「買ってこんかったら俺の横取りするやろ」
「する。……どうしたの。わざわざ買いに行くなんて」
「ええもん食いすぎて逆に恋しくなってん。ここで食わんともう食べるチャンスないやん」
「あの辺近くにコンビニないもんね」
隣に座った侑を気にもとめず、ポットをぼうっと眺めた。この後は新幹線に乗って実家に帰る。家族に最期 の挨拶をしないといけない。盆の連休で父は家にいるし、一人暮らしの弟も帰省しているはずだ。母は送り付けた冷蔵庫を喜んでいるだろうか。
家族の顔を思い出していると、横から伸びてきた腕が私をすっぽりと包んだ。温かくも冷たくもない、不思議な体温が伝わってくる。
「今更“無し”はなしや」
脅すような低い声だった。
「言われなくても。冷蔵庫、喜んでくれるかなって考えてただけだよ」
カチッと軽い音がした。まとわりつく侑をひっぺがして、インスタントラーメンにお湯を注いだ。あとは3分待つだけだ。
「そら喜んどるんやろ。こーんなデッカイ最新式のやつ送ってんから。おかんに俺に感謝せぇ言うといてや」
「お母さん侑の存在知らないし。それに、侑より私に感謝すべきでしょ」
「いーや、俺にやろ。俺がお前のこと連れていかんかったら、冷蔵庫貰えてへんからな」
ニヤニヤと笑う侑に捕らえられ、膝の上に横向きに座らせられた。力の差は歴然としている。こういう時は大人しくされるがままにするしかない。胸に凭れてみても、脈打つ鼓動は聞こえなかった。
「サムの泡吹いて驚く顔が楽しみや。あいつが何を出してこようと、珍しいもん拾いは人間を嫁に拾ってきた俺の圧勝やからな」
「勝負の前にキタさんに怒られるんじゃないの? 15年も音信不通、しかも無断で人間持ってくるなんて」
片割れだと言うオサムに勝つことしか考えていなかったのか、キタさんの名前を出したら顔が青くなった。
「……そん時はそん時や」
キタさんとやらは侑にとって相当怖い上司らしく、思い出す度に青ざめている。私も今日の0時過ぎにはその人に会うことになるのだろうが、果たしてなんと言われるだろうか。気性の荒い人ではないらしいか命の危機に瀕することはないだろうけれど、侑が震え上がる正論パンチはちょっと怖い。
「ねぇ、あっちの世界にはどんなものがあるの?」
「んー、モノはこっちの方が溢れとるけど、向こうも同じくらい都会やで。現世の情報が漂流してくるからな、妖の世界もアップデートされんねん。住人も、みんな人間に化けて生活しとるしな。その方が便利やから」
「ふぅん。テレビとかゲームもある?」
「こっちとは微妙に仕様がちゃうけど、あるにはある」
「現代って感じするね。それなら暮らしていけそう。洗濯板で洗って、釜でご飯炊いて、とか、ザ昔話みたいだったらどうしようかと思った」
生活に馴染めるかどうかが心配だったのだ。現代の便利さに慣れた現代人 が前時代的な生活を送れる自信はない。安心した私を見て、侑はキョトンとした顔をした。
「思ったより乗り気やん。もっと未練とかないん?」
かちんときて、頬をつねった。
「いだっ!」
「20歳になったら向こうに連れていきます、って長年聞かされ続けたら覚悟だって決まるっての」
つねる手を離して、空元気に紛れた不安に揺れる瞳に向き合った。
「私はね、やり残しも後悔もないように今まで生きてきた。行きたい高校に行って、バレーで県大会出場して、やってみたかった仕事に就いた。したいことは全部したよ。だから、もう大丈夫」
「契約やから?」
「違う。侑が好きだから一緒にいるの」
「ほんま?」
念押しに腹が立って、再び手が伸びてしまった。
「恋人の覚悟が信じられない? 四六時中一緒にいるくせに、私の何を見てきたのよ」
「いだだたッ! すんません!」
体温も鼓動も匂いも人とは違うのに、痛覚だけはあるのが不思議でしょうがない。
「暴力反対や! ……昔はあないに小さかったのに、こないにデカなってもうて」
よよよ、と泣き真似をする侑のふざけた態度に、もう一度とあげた手は掴まれてしまった。
「最初は治との勝負に勝ちたかっただけやってん。出会った時、お前はまだ5つやったから、7つになるまで待つつもりで取り憑いただけのに」
ぐっ、と寄せられて、頭の重さが肩にのしかかる。
「親から離れさせるのが気の毒になってきてな、少し待ったろって思ったのがいけへんかった」
静かに話すそれは、告解のようだった。
「俺が錦花を好きになってしもて、離したくなくなってしもた。俺らと人間がどれだけ遠い存在なのか、分かっとったはずやのに……」
その言葉に、私は目を伏せた。
妖 と人間 を隔てるもの。それは寿命。妖と人が恋に落ちれば、必ず現れる障害。解決するには、妖が人を諦めるか、人が人を捨てる かのどちらかしかない。
それでも、限りある命を持つ人が悠久を生きる妖と同じ時間を持つことがどれだけ苦痛なのか知っていても、私は侑を選んだ。侑を1人にさせたくなかったし、侑も私を諦めたくないと言ってくれた。決めるには十分だった。
侑の頭をそっと撫で付ける。手触りのいい髪が指の間を抜けていく。
「せやけど、お前は応えてくれた。現世の家族も仕事も、なにもかも投げ打って俺を選んだ。俺を選んでくれたことが、今になって嬉しくてしゃあないんや」
すんっ、鼻をすする音がして、涙声で体を擦り付けてきた。
「……ふ、んっふふ、ふふふ」
そのあまりのおかしさに堪えきれず、つい笑いが吹き出した。
「ヒトが感傷に浸っとる時に笑うな」
「だって、ふっ、侑が、しょげてるから、面白くて」
あの傲岸不遜でやかましい侑が、片割れと現世でどちらがより珍しいものを拾えるかと競走し、私を連れていこうとした横暴な妖が、しおらしくしている。
ヒィヒィ笑っていると頬を片手で鷲掴まれた。
「ひゃひふんの!」
「お返しや。おーおー、変な顔やなぁ」
調子の戻った侑はグリグリと頬を揉んでくる。痛くないけど、変な顔を見られるのが嫌で指を引き離した。あっさり離れた指を手で包んで、侑に安心させるように言い聞かせる。
「侑、私は幸せだよ。好きな人と、侑と居られるのなら、それ以上の幸福はないよ」
「……さよか」
目を見開いて、優しく笑んだ侑の噛み付くようなキスを受け入れた。
「俺が、もっと幸せにしたるから。せやから、この先もずっと俺とおってくれ」
「うん。ずっといるよ」
愛する人が一緒なら、悠久の時を過ごしたって怖くない。
侑も覚悟が決まったところで時計を見ると、とうに3分を過ぎていた。
「あ、ヤバ、麺伸びてるかも」
「あかん、はよ食べな」
2人して焦って、とっくに3分を過ぎたカップラーメンに手を伸ばした。
むせ返る青臭い匂いに囲まれ、ギラつく日差しの中をめいっぱい駆けている。虫取りに夢中になって一人で先に行ってしまう弟を止めようと追いかけていた。
かき分けた自分より高い背丈の草がチクチクと痛い。ビッシリかいた汗で体がベタついて気持ち悪い。けれど、姉の務めを果たそうと小さい足を動かす。
息が上がるほど走ったのに、足の早い弟との距離は縮まらず、ついにはその背中は見えなくなってしまった。私は弟の名前を呼びながら前に進み続けた。
突然、草をかき分ける手が宙をかいた。よろけた足が小石を蹴飛ばす。転げ落ちたその石は急な斜面を転がり落ちていった。石の行先、砂利の地面に寝ていた弟は頭から血を流していた。
ピクリともしない弟を、私は見つめたまま立ちすくんでいた。頭が真っ白になって、火照っていた体が一瞬で冷めた。頭も体も、何もかもが動かせなかった。
どれくらいそうしていたのか分からない。急に、私をすっぽりと覆う大きな影が差した。それに気づいた私はゆっくりと顔を上げた。影の持ち主である和服の大男が私を見下ろしていた。音も立てずに現れた男は話しかけてきた。
「どないしたん?」
「おと、弟が、下、落ちちゃって、頭、血が出てて」
指を指すと、男は下を覗き込んで呟いた。
「あぁ、ほんまや」
「はやく助けないとって、けど、どうしたらいいか分かんなくて」
大人の人なら助けてくれる。そう考えた私は縋る思いで男を見上げた。男は呑気に顎に手をやっていた。
「俺と契約してくれたら治したんで」
「けいやく?」
「約束ってことや」
「約束したら、弟を助けてくれますか?」
「おん」
ニコニコと笑う男に、私は答えた。
「けいやくします。だから、弟を治してください」
─────────────────────
目が覚めた。
ベッドから抜け出て、分厚い遮光カーテンを開けた。室内が一気に明るくなる。ギラギラとした太陽が、夢と同じように地面を焼いていた。久しぶりに懐かしい夢を見た。
デジタル時計を見れれば、チェックアウトまで1時間半ほど残っていた。朝食までに起きれないことを見越してビジネスホテルに泊まったのは正解だった。
私はふかふかのベッドに腰掛けた。目を閉じて、昨日までを思い出す。この1ヶ月の間に美味しいご飯はたくさん食べた。お高いホテルだって泊まった。行きたかった場所にも行って、見たかった景色も見た。手持ち金を全て使い切る贅沢な旅も、今日で終わり。
回想に耽っていると、カードキーでドアを開ける音と共に大柄な男が入ってきた。手にコンビニの袋を持っている。一番近いコンビニは200m先のはず。猛暑の中、そのまで買いに行ったというのに、汗ひとつかいていなかった。
「起きとったんか」
手に持った袋からカップラーメンを取り出して、備え付けのポットでお湯を沸かす準備をしている。この男こそ夢に出てきた和服の大男、侑だ。死にかけの弟を救い、契約と称して私に取り憑いてから15年。その奇妙な存在は常に私と共にあった。
「私の分は?」
「ほれ」
見せつけられたのは私の好きな味。
「分かってるじゃん」
「買ってこんかったら俺の横取りするやろ」
「する。……どうしたの。わざわざ買いに行くなんて」
「ええもん食いすぎて逆に恋しくなってん。ここで食わんともう食べるチャンスないやん」
「あの辺近くにコンビニないもんね」
隣に座った侑を気にもとめず、ポットをぼうっと眺めた。この後は新幹線に乗って実家に帰る。家族に
家族の顔を思い出していると、横から伸びてきた腕が私をすっぽりと包んだ。温かくも冷たくもない、不思議な体温が伝わってくる。
「今更“無し”はなしや」
脅すような低い声だった。
「言われなくても。冷蔵庫、喜んでくれるかなって考えてただけだよ」
カチッと軽い音がした。まとわりつく侑をひっぺがして、インスタントラーメンにお湯を注いだ。あとは3分待つだけだ。
「そら喜んどるんやろ。こーんなデッカイ最新式のやつ送ってんから。おかんに俺に感謝せぇ言うといてや」
「お母さん侑の存在知らないし。それに、侑より私に感謝すべきでしょ」
「いーや、俺にやろ。俺がお前のこと連れていかんかったら、冷蔵庫貰えてへんからな」
ニヤニヤと笑う侑に捕らえられ、膝の上に横向きに座らせられた。力の差は歴然としている。こういう時は大人しくされるがままにするしかない。胸に凭れてみても、脈打つ鼓動は聞こえなかった。
「サムの泡吹いて驚く顔が楽しみや。あいつが何を出してこようと、珍しいもん拾いは人間を嫁に拾ってきた俺の圧勝やからな」
「勝負の前にキタさんに怒られるんじゃないの? 15年も音信不通、しかも無断で人間持ってくるなんて」
片割れだと言うオサムに勝つことしか考えていなかったのか、キタさんの名前を出したら顔が青くなった。
「……そん時はそん時や」
キタさんとやらは侑にとって相当怖い上司らしく、思い出す度に青ざめている。私も今日の0時過ぎにはその人に会うことになるのだろうが、果たしてなんと言われるだろうか。気性の荒い人ではないらしいか命の危機に瀕することはないだろうけれど、侑が震え上がる正論パンチはちょっと怖い。
「ねぇ、あっちの世界にはどんなものがあるの?」
「んー、モノはこっちの方が溢れとるけど、向こうも同じくらい都会やで。現世の情報が漂流してくるからな、妖の世界もアップデートされんねん。住人も、みんな人間に化けて生活しとるしな。その方が便利やから」
「ふぅん。テレビとかゲームもある?」
「こっちとは微妙に仕様がちゃうけど、あるにはある」
「現代って感じするね。それなら暮らしていけそう。洗濯板で洗って、釜でご飯炊いて、とか、ザ昔話みたいだったらどうしようかと思った」
生活に馴染めるかどうかが心配だったのだ。現代の便利さに慣れた
「思ったより乗り気やん。もっと未練とかないん?」
かちんときて、頬をつねった。
「いだっ!」
「20歳になったら向こうに連れていきます、って長年聞かされ続けたら覚悟だって決まるっての」
つねる手を離して、空元気に紛れた不安に揺れる瞳に向き合った。
「私はね、やり残しも後悔もないように今まで生きてきた。行きたい高校に行って、バレーで県大会出場して、やってみたかった仕事に就いた。したいことは全部したよ。だから、もう大丈夫」
「契約やから?」
「違う。侑が好きだから一緒にいるの」
「ほんま?」
念押しに腹が立って、再び手が伸びてしまった。
「恋人の覚悟が信じられない? 四六時中一緒にいるくせに、私の何を見てきたのよ」
「いだだたッ! すんません!」
体温も鼓動も匂いも人とは違うのに、痛覚だけはあるのが不思議でしょうがない。
「暴力反対や! ……昔はあないに小さかったのに、こないにデカなってもうて」
よよよ、と泣き真似をする侑のふざけた態度に、もう一度とあげた手は掴まれてしまった。
「最初は治との勝負に勝ちたかっただけやってん。出会った時、お前はまだ5つやったから、7つになるまで待つつもりで取り憑いただけのに」
ぐっ、と寄せられて、頭の重さが肩にのしかかる。
「親から離れさせるのが気の毒になってきてな、少し待ったろって思ったのがいけへんかった」
静かに話すそれは、告解のようだった。
「俺が錦花を好きになってしもて、離したくなくなってしもた。俺らと人間がどれだけ遠い存在なのか、分かっとったはずやのに……」
その言葉に、私は目を伏せた。
それでも、限りある命を持つ人が悠久を生きる妖と同じ時間を持つことがどれだけ苦痛なのか知っていても、私は侑を選んだ。侑を1人にさせたくなかったし、侑も私を諦めたくないと言ってくれた。決めるには十分だった。
侑の頭をそっと撫で付ける。手触りのいい髪が指の間を抜けていく。
「せやけど、お前は応えてくれた。現世の家族も仕事も、なにもかも投げ打って俺を選んだ。俺を選んでくれたことが、今になって嬉しくてしゃあないんや」
すんっ、鼻をすする音がして、涙声で体を擦り付けてきた。
「……ふ、んっふふ、ふふふ」
そのあまりのおかしさに堪えきれず、つい笑いが吹き出した。
「ヒトが感傷に浸っとる時に笑うな」
「だって、ふっ、侑が、しょげてるから、面白くて」
あの傲岸不遜でやかましい侑が、片割れと現世でどちらがより珍しいものを拾えるかと競走し、私を連れていこうとした横暴な妖が、しおらしくしている。
ヒィヒィ笑っていると頬を片手で鷲掴まれた。
「ひゃひふんの!」
「お返しや。おーおー、変な顔やなぁ」
調子の戻った侑はグリグリと頬を揉んでくる。痛くないけど、変な顔を見られるのが嫌で指を引き離した。あっさり離れた指を手で包んで、侑に安心させるように言い聞かせる。
「侑、私は幸せだよ。好きな人と、侑と居られるのなら、それ以上の幸福はないよ」
「……さよか」
目を見開いて、優しく笑んだ侑の噛み付くようなキスを受け入れた。
「俺が、もっと幸せにしたるから。せやから、この先もずっと俺とおってくれ」
「うん。ずっといるよ」
愛する人が一緒なら、悠久の時を過ごしたって怖くない。
侑も覚悟が決まったところで時計を見ると、とうに3分を過ぎていた。
「あ、ヤバ、麺伸びてるかも」
「あかん、はよ食べな」
2人して焦って、とっくに3分を過ぎたカップラーメンに手を伸ばした。
