HQ短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「英太くん英太くん、この前のデートの写真見せて」
「おう、いいぜ」
――クソッ、始まりやがった。
後ろで着替えていた白布は内心悪態をついた。
バレー部のマネと瀬見は付き合っているが、部活中はお互い選手とマネージャーに徹している。周りもそんな2人の気持ちを汲んで大っぴらに話は振らないという暗黙の了解を守っている。ただし、少人数でいる時は例外だった。
部室には天童と瀬見、白布の3人だけだ。ダル絡みの矛先がいつこっちに向けられるか。こんなことに気を張るのもウンザリして白布は空気になりきった。
この前のOB戦で言われたやつ試してみるか。太一に声掛けねぇと。そういえば五色がストレート褒められてたな。調子乗ってたら釘さしとかねぇと。あとは……。
気配を消してドアに近づく。あと3歩のところで天童の首がぐるりと動いた。間に合わなかった。
「ちょっと賢二郎! 知らん顔してないで一緒に見ようよ〜。気になるデショ?」
「結構です気にならないです見たくないです」
「なんだと!」
肩を組まれて逃亡を阻止される。そのまま引きずり戻されて強引に写真を見せられた。こうなってしまうと相手をするまで抵抗しても無駄だった。
「ほらほら、これとかラブラブだよ」
「見せないでください生々しい」
「健全なツーショットだよ!」
かぁいくねー、と怒られたってこれが正直な感想だ。身近な人間の恋愛を見せられて気まずいこっちの身にもなってほしい。
渋々見た写真の中でマネと瀬見は並んで手を繋いでピースしている。瀬見の服はドクロの入った黒い革ジャンとダメージジーンズで言わずもがな酷い。だが、マネは白いトップスとミントグリーンのスカートを着ている。
あまりにも対照的なファッションだ。このカップルが歩いていたら2度見するだろう。主に瀬見のせいで。
「瀬見さん、デートの時もその服着てるんですか。仲堂さんを大事にした方がいいですよ。クソダサファッションを受け入れてくれる人なんてこの先一生現れないでしょうから」
「当たり前だろ、大事にしてるわ。それと、残念だったな。あいつは俺の服、似合ってるって褒めてくれるんだぞ」
「気をつかわれてるだけですよ。そうですよね、天童さん」
てっきり乗ってくると思った天童は首を捻って唸った。
「……うーん? どうかなぁ。錦花ちゃんが英太くんの私服をバカにしてるところ見たことないね」
「本当ですか?」
「だろ! やっぱ分かってくれてんだよ」
瀬見は快闊に笑ったが白布は解せなかった。
同じバレー部である天童の前では瀬見 の悪口が言えなかっただけなのでは?
言おうとした瞬間、ドアが開いた。
「白布は居るか?」
入ってきたのは牛島だった。
「牛島さん! どうしました?」
「トスをあげてくれ。スパイク練習に入る」
「分かりました」
天童を退かした白布は先輩2人を置いてさっさと牛島を追った。
♢
バレーから離れるとあの会話が蘇ってきた。
仲堂は果たして瀬見のセンスをいいと思ってるのか。仲堂の私服はいたって普通だった。なら、なぜ瀬見の服を褒めるのか。本当にあのファッションが好きなのか?
白布はこんなことで悩むなんて癪だった。
くだらない疑問を解決するチャンスはわりと早くやってきた。
いつも買っている食堂の自販機が故障中だったので仕方なく中庭の方に行くと仲堂の姿があった。
「仲堂さん、どうも」
「あ、白布! いいところに来た。コーヒー飲める? 奢ってあげるよ」
はい、と渡されたのは微糖の缶コーヒー。食堂の方には置いていない銘柄だった。
「飲めますけど、急になんですか」
「カフェオレ押したらそれが出てきてさ、コーヒー飲めないからどうしようか迷ってたんだ。そしたらちょうどよく白布が来たから……。押し付けてごめんね。でもそれ他のやつよりちょっと高いから許して」
「まぁ、いいですけど」
ちょうどいいのはこちらもだった。今ここに居るのは自分たちだけ。真実を聞くには都合が良かった。
ココアでいっか、と呑気にボタンを押している仲堂に白布は質問をぶつけた。
「仲堂さんって瀬見さんのどこが好きなんですか?」
仲堂は不意をつかれた顔をしている。
「どうしたの、白布がそんなこと聞いてくるなんて。先輩の弱みを握ろうとしてる?」
らしくない質問をしている自覚はあるがそう取られるのは不服だ。
「俺の事なんだと思ってるんですか。……別に、ちょっと気になっただけです」
「そっか。……好きなところ、ねぇ。カッコイイ、優しい、男前、自分のプレーを貫き通す芯が強いところ、面倒見がいい、ワガママ言っても笑って許してくれる、とかかな。他にもいっぱいあるよ」
指折り数える中に服装への言及はない。
「服装は? よく褒めてくれると瀬見さんは言っていましたが」
「服は……個性的だよね。こだわり強いなって思う時もあるけど、元がいいから似合ってるよね」
「いえ、瀬見さんの服が好きかどうかで答えてください」
キッパリと二者択一を迫ると歯切れが悪くなった。
「えぇー、それは……」
褒めてはいても好きと明言することはできないのか。
それもそうだ。瀬見以外の前であのファッションを好きだと言えばたちまち笑われるだろう。そのくらい瀬見のヤバさは有名だ。
もう決定だろう。
「やっぱり、瀬見さんに気をつかってるんですね」
「……気づかれちゃったかぁ。そこまで突っ込んで聞かれたの初めてだよ。それにしても珍しいね、白布が英太のこと心配してるなんて。槍でも降るんかな」
「やめてください、してないです」
これでスッキリした。やはりマネの広い心で瀬見が甘やかされているだけだった。
用は済んだ。教室に帰ろう。
これで失礼します、という前に仲堂が口を開いた。
「知っちゃったならしょうがない。私たちカップルを案じている白布には特別に真実を話してあげよう」
言葉の裏に圧力があった。纏う空気の変化に後輩の白布は黙って聞くしかなかった。
「本当に1番好きなところはね、服がダサいところなの。英太はどうしたってかっこいいから色んな女の子にモテるんだよね。特にバレーしてる時に惚れる子は多いよ」
ココアを一口飲んでから、仲堂は続けた。
「でもさ、その女の子たちは英太の私服を見るとみーんな冷めて離れてくの。当然だよ。見た目がかっこいいから寄ってきたのに、私服がかっこよくないんだから。……だから、ずっとあのファッションでいて欲しい。英太の隣は私だけでいいの。そのために似合ってるねって褒めてるんだ」
ほの暗い微笑みは瀬見ですら見たことないだろう。
肌で感じる独占欲と嫉妬に冷や汗が伝った。
「ま、バレー部のみんなに散々言われてるのに変える気ないみたいだから、私がこんなことしてもあんまり意味無いかもだけど」
ココアを飲み干すと何も無かったかのようにニコっと笑い、見慣れたマネージャーに戻った。
「絶対内緒ね、特に英太と天童には」
そう言い残して空き缶を捨てると去っていった。
白布は無意識に詰めていた息を吐いた。
――とんだやぶ蛇になった。
元はと言えば瀬見のせいだ。
♢
「仲堂、家でアヒル飼ってるってマジ?」
「マジ。すげぇグワグワ鳴いてた。動画あるぞ」
――チッ、またかよ。
既視感のある状況だった。前回と違うのは、相手が山形であることだ。背後でマネの家で撮ったであろうアヒルの鳴き声がしている。動画内でマネに話しかけている瀬見の声がデレデレで気色悪い。
前回より素早く着替えると白布は瀬見に声をかけた。
「瀬見さんはずいぶんな幸せ者ですね」
「お、おう、ありがとな。……なんかお前が言うと含みがあるな」
「先、行ってます」
あれだけ好かれていのだから幸せ者だろう。やぶ蛇してまで瀬見が愛されていることを探ってきたんだから。
もう関わるのは懲り懲りだ。このカップルのことはさっさと忘れよう。
心に決めて白布はそそくさと部室を出ていった。
「おう、いいぜ」
――クソッ、始まりやがった。
後ろで着替えていた白布は内心悪態をついた。
バレー部のマネと瀬見は付き合っているが、部活中はお互い選手とマネージャーに徹している。周りもそんな2人の気持ちを汲んで大っぴらに話は振らないという暗黙の了解を守っている。ただし、少人数でいる時は例外だった。
部室には天童と瀬見、白布の3人だけだ。ダル絡みの矛先がいつこっちに向けられるか。こんなことに気を張るのもウンザリして白布は空気になりきった。
この前のOB戦で言われたやつ試してみるか。太一に声掛けねぇと。そういえば五色がストレート褒められてたな。調子乗ってたら釘さしとかねぇと。あとは……。
気配を消してドアに近づく。あと3歩のところで天童の首がぐるりと動いた。間に合わなかった。
「ちょっと賢二郎! 知らん顔してないで一緒に見ようよ〜。気になるデショ?」
「結構です気にならないです見たくないです」
「なんだと!」
肩を組まれて逃亡を阻止される。そのまま引きずり戻されて強引に写真を見せられた。こうなってしまうと相手をするまで抵抗しても無駄だった。
「ほらほら、これとかラブラブだよ」
「見せないでください生々しい」
「健全なツーショットだよ!」
かぁいくねー、と怒られたってこれが正直な感想だ。身近な人間の恋愛を見せられて気まずいこっちの身にもなってほしい。
渋々見た写真の中でマネと瀬見は並んで手を繋いでピースしている。瀬見の服はドクロの入った黒い革ジャンとダメージジーンズで言わずもがな酷い。だが、マネは白いトップスとミントグリーンのスカートを着ている。
あまりにも対照的なファッションだ。このカップルが歩いていたら2度見するだろう。主に瀬見のせいで。
「瀬見さん、デートの時もその服着てるんですか。仲堂さんを大事にした方がいいですよ。クソダサファッションを受け入れてくれる人なんてこの先一生現れないでしょうから」
「当たり前だろ、大事にしてるわ。それと、残念だったな。あいつは俺の服、似合ってるって褒めてくれるんだぞ」
「気をつかわれてるだけですよ。そうですよね、天童さん」
てっきり乗ってくると思った天童は首を捻って唸った。
「……うーん? どうかなぁ。錦花ちゃんが英太くんの私服をバカにしてるところ見たことないね」
「本当ですか?」
「だろ! やっぱ分かってくれてんだよ」
瀬見は快闊に笑ったが白布は解せなかった。
同じバレー部である天童の前では
言おうとした瞬間、ドアが開いた。
「白布は居るか?」
入ってきたのは牛島だった。
「牛島さん! どうしました?」
「トスをあげてくれ。スパイク練習に入る」
「分かりました」
天童を退かした白布は先輩2人を置いてさっさと牛島を追った。
♢
バレーから離れるとあの会話が蘇ってきた。
仲堂は果たして瀬見のセンスをいいと思ってるのか。仲堂の私服はいたって普通だった。なら、なぜ瀬見の服を褒めるのか。本当にあのファッションが好きなのか?
白布はこんなことで悩むなんて癪だった。
くだらない疑問を解決するチャンスはわりと早くやってきた。
いつも買っている食堂の自販機が故障中だったので仕方なく中庭の方に行くと仲堂の姿があった。
「仲堂さん、どうも」
「あ、白布! いいところに来た。コーヒー飲める? 奢ってあげるよ」
はい、と渡されたのは微糖の缶コーヒー。食堂の方には置いていない銘柄だった。
「飲めますけど、急になんですか」
「カフェオレ押したらそれが出てきてさ、コーヒー飲めないからどうしようか迷ってたんだ。そしたらちょうどよく白布が来たから……。押し付けてごめんね。でもそれ他のやつよりちょっと高いから許して」
「まぁ、いいですけど」
ちょうどいいのはこちらもだった。今ここに居るのは自分たちだけ。真実を聞くには都合が良かった。
ココアでいっか、と呑気にボタンを押している仲堂に白布は質問をぶつけた。
「仲堂さんって瀬見さんのどこが好きなんですか?」
仲堂は不意をつかれた顔をしている。
「どうしたの、白布がそんなこと聞いてくるなんて。先輩の弱みを握ろうとしてる?」
らしくない質問をしている自覚はあるがそう取られるのは不服だ。
「俺の事なんだと思ってるんですか。……別に、ちょっと気になっただけです」
「そっか。……好きなところ、ねぇ。カッコイイ、優しい、男前、自分のプレーを貫き通す芯が強いところ、面倒見がいい、ワガママ言っても笑って許してくれる、とかかな。他にもいっぱいあるよ」
指折り数える中に服装への言及はない。
「服装は? よく褒めてくれると瀬見さんは言っていましたが」
「服は……個性的だよね。こだわり強いなって思う時もあるけど、元がいいから似合ってるよね」
「いえ、瀬見さんの服が好きかどうかで答えてください」
キッパリと二者択一を迫ると歯切れが悪くなった。
「えぇー、それは……」
褒めてはいても好きと明言することはできないのか。
それもそうだ。瀬見以外の前であのファッションを好きだと言えばたちまち笑われるだろう。そのくらい瀬見のヤバさは有名だ。
もう決定だろう。
「やっぱり、瀬見さんに気をつかってるんですね」
「……気づかれちゃったかぁ。そこまで突っ込んで聞かれたの初めてだよ。それにしても珍しいね、白布が英太のこと心配してるなんて。槍でも降るんかな」
「やめてください、してないです」
これでスッキリした。やはりマネの広い心で瀬見が甘やかされているだけだった。
用は済んだ。教室に帰ろう。
これで失礼します、という前に仲堂が口を開いた。
「知っちゃったならしょうがない。私たちカップルを案じている白布には特別に真実を話してあげよう」
言葉の裏に圧力があった。纏う空気の変化に後輩の白布は黙って聞くしかなかった。
「本当に1番好きなところはね、服がダサいところなの。英太はどうしたってかっこいいから色んな女の子にモテるんだよね。特にバレーしてる時に惚れる子は多いよ」
ココアを一口飲んでから、仲堂は続けた。
「でもさ、その女の子たちは英太の私服を見るとみーんな冷めて離れてくの。当然だよ。見た目がかっこいいから寄ってきたのに、私服がかっこよくないんだから。……だから、ずっとあのファッションでいて欲しい。英太の隣は私だけでいいの。そのために似合ってるねって褒めてるんだ」
ほの暗い微笑みは瀬見ですら見たことないだろう。
肌で感じる独占欲と嫉妬に冷や汗が伝った。
「ま、バレー部のみんなに散々言われてるのに変える気ないみたいだから、私がこんなことしてもあんまり意味無いかもだけど」
ココアを飲み干すと何も無かったかのようにニコっと笑い、見慣れたマネージャーに戻った。
「絶対内緒ね、特に英太と天童には」
そう言い残して空き缶を捨てると去っていった。
白布は無意識に詰めていた息を吐いた。
――とんだやぶ蛇になった。
元はと言えば瀬見のせいだ。
♢
「仲堂、家でアヒル飼ってるってマジ?」
「マジ。すげぇグワグワ鳴いてた。動画あるぞ」
――チッ、またかよ。
既視感のある状況だった。前回と違うのは、相手が山形であることだ。背後でマネの家で撮ったであろうアヒルの鳴き声がしている。動画内でマネに話しかけている瀬見の声がデレデレで気色悪い。
前回より素早く着替えると白布は瀬見に声をかけた。
「瀬見さんはずいぶんな幸せ者ですね」
「お、おう、ありがとな。……なんかお前が言うと含みがあるな」
「先、行ってます」
あれだけ好かれていのだから幸せ者だろう。やぶ蛇してまで瀬見が愛されていることを探ってきたんだから。
もう関わるのは懲り懲りだ。このカップルのことはさっさと忘れよう。
心に決めて白布はそそくさと部室を出ていった。
