HQ短編
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おにぎり宮において、おにぎり屋の基本中の基本である米の支度は治が必ず行っている。私も治を支えてきてしばらく経つけれど、この作業を頼まれたことは1度もない。それでも不満はなく、寧ろ当然だと思う。1番大事なところは人に任せない、責任感があるところも好きだ。とはいえ、全く手伝わないわけでもなく、今日は米袋を奥から持ってきて欲しいと頼まれた。
「すまん、重いよな。これ終わったらすぐ手伝うから」
「大丈夫! 頑張る!」
結構重いけど、このくらいできないと若いのに衰えてることになっちゃう。気合十分に腰を入れて目の前にある米袋を持ち上げた……のに。
「へぁっ! ……あ、あれ? なんで」
重いと思ってだき抱えるように持ち上げたそれは、まるで紙風船のようにすんなり持ち上がってしまった。
え、嘘、なんで? いつも重いのに。中身が入ってない? そんなはずは……。
混乱した頭で抱えている袋を見ると、米袋の底からザアザアと滝のように米が流れ出ていた。認識した途端、足元に米粒が落ちる感覚が伝わってきた。
「あっ、え、え? やだ、うそ、とまって!」
どうしようどうしようどうしよう!!
パニックのままに米袋の底を塞ぐために米の滝に手を突っ込んでも何も手に当たらない。まるでもともと底が無かったように米は溢れだしてくる。
あ、ひっくり返そう! 逆にすればとまるはず。
名案が閃いて紙袋の上下を逆さまにしてみる。それでも米は出てきた。噴水が湧き出るように、上に向かって米が湧いていた。
「なんで、とまって、とまってよ」
どんどんお米が、零れていく。米の勢いは逆さまにしたことで増したのか、米袋からまるで人工降雪機のように噴射されている。狭い倉庫の中は、既に錦花の膝まで米で埋まっていた。
「錦花? 錦花!! どないしたんや!!」
「おさっ、おさむ!」
「なんやこれ……。とにかくそこから離れぇ!」
駆けつけた治に近寄りたくても、埋まった足が動かせなかった。
「どうしよう! 足が抜けない」
力を入れてもビクともしない足元に、このまま全身が埋まってしまうかもしれない恐怖が込み上げてきた。ジワジワと涙が浮かんでくる。
「手ぇ出し! 引っ張るから」
倉庫の外から治が手を伸ばす。その手を掴むと、強い力で引っ張られた。ようやく足が抜けて、治の胸に倒れ込む。
「大丈夫か?」
「うん、私は平気。治、ごめん、お米が……」
「気にせんでええ、俺が何とかする。錦花は向こうで待っとって」
米は既に倉庫から溢れだしている。米のスピードは確実に増していた。このままでは店を飲み込むのも時間の問題だろう。
私を安心させようとしてくれてるのかそっと背中を撫でられて、店に向かって背中を押された。前につんのめって倉庫から離される。後ろを向くと、治はひとりで米の中に向かっていった。
「治、ダメ! 行っちゃダメ!」
遂に米は倉庫を埋めつくしていた。出入口から吹き出す米をかき分けて、広い背中は進んでいく。必死に止めても、最愛の人の姿はあっという間に白に覆われて見えなくなった。
「あ、あぁ……」
治が、いなくなっちゃった。
胸の奥がぽっかり空いた様な悲しみが全身に広がる。それでも、逃げて助けを呼ばなきゃ、治を早く助けないと。
喪失感を焦りに変えて店の扉の前にまで辿りつく。早く店の外に出て、誰か人を呼んで、そう思って扉に手をかけた。
「なんでっ! 開かない!!」
引き戸を力いっぱい引いても、扉は動かない。鍵は閉まってないのに、くっついたまま微動だにしない。
「助けて!」
店の出入口はもうここしかない。拳を叩きつけたガラスも割れる気配は無かった。
気づけば、足元どころか腰まで米に埋もれていた。店の半分以上が米に侵食されていた。
「……っ、ごめっ、ごめんなさ、い」
堪えていた涙が目からこぼれ落ちた。手で顔を覆って俯く。
私のせいだ。私が米袋を持ち上げたからこんなことになってしまった。北さんの大事なお米なのに。
「……きたっ、きたさんっ、おこめっ、こぼしちゃって……はっ、……ごめんなざい」
「おさむっ、……たすけられなくてごめん……」
自分も米で埋まっていく中、ひたすら泣きながら謝まることしかできなかった。
♢
「ぅ……ごめ、なさ……っ、ごめ……」
小さな声で意識が浮上した。目を開けた先はまだ暗く、枕元のデジタル時計時間を光らせて確認すると午前3時を回ったところだった。
「ふぁ、……どーしたん錦花?」
欠伸をひとつして、こちらに背を向けて横向きに隣で寝ている錦花を覗き込む。触れた肩はなぜか小刻みに震えていた。
「錦花? ……え、泣いとる!」
びっくりして、思わず大声が出た。
月明かりに照らされた顔は眉を顰めていて、閉じた瞳から零れた大粒の涙が枕に伝い落ちている。よくよく聞けば、小さな声はしきりにごめんなさいと言っていた。
「錦花! どないしたん! 起きてや!」
肩を掴んで揺する。夢の中の出来事でも、錦花が悲しんでいるのが嫌で、早く起こしたかった。声をかけ続ければ目が覚めてきたのか、おさむ……? とさっきまでの寝言よりはハッキリした声が返ってきた。
「あ、れ? お米は……」
「起こしてすまんな。けど、錦花が泣いとったから心配になってもうて」
「泣いて……?」
「おん、ごめんなさいって泣きながら寝てたで」
「あ……そう、なの」
錦花が体を起こして、向かい合った。そっと近づいて、涙を袖で優しく拭ってやる。寝たまま泣いていたのがよっぽど恥ずかしかったのか、目は合わせてくれなかった。
「泣くなんてよっぽど悲しい夢見たんやな。どんな夢だったん?」
「お店で治にちゃんと米持ってきてって頼まれて……」
言葉をつまらせながら、寝ぼけ頭で一生懸命に話す内容は夢らしく突拍子もない話で、とうとう笑いが堪えられなかった。
「あっはっはっ! なんやそれ! はー、笑いすぎて腹痛い」
「笑わないでよ、本気で悲しかったんだから。北さんにも申し訳ないし」
「持ち上げた米袋から米が無限に出てきて、俺も店も全部飲み込まれてしもたんやもんな。そら怖かったなぁ」
細い身体を抱きしめてやれば錦花も素直に抱き締め返してきた。肩のあたりに頭を押し付けられている。
「夢の中の俺、ちゃんと錦花のこと守っとったんやな」
「現実の治も守ってくれる?」
「当たり前や。俺の一等大事なもんやぞ」
「ん……ありがと」
照れとる。そのまま背中を撫でてやれば、ふぁ、と錦花からも欠伸が聞こえた。
「まだ3時やから、もっかい寝よか」
「3時……中途半端な時間に起こしてごめん」
「かまわへん。明日……もう今日か。店休日やし、たまには昼まで寝ててもええやろ」
抱きしめたまま布団に戻って、更に引き寄せる。甘えたように全身ピタリと張り付く錦花。愛おしくてたまらない気持ちが込み上げてくる。悪夢様々やな。
「な、錦花」
「ん?」
「泣くほど米と俺が大事なんやろ? 嬉しいわ。ありがとな」
錦花は真っ赤な顔で早く寝て、と胸に顔を隠してしまった。決まりや、明日はうんと可愛がる。そう決めて暖かい体温を抱きしめた。
「すまん、重いよな。これ終わったらすぐ手伝うから」
「大丈夫! 頑張る!」
結構重いけど、このくらいできないと若いのに衰えてることになっちゃう。気合十分に腰を入れて目の前にある米袋を持ち上げた……のに。
「へぁっ! ……あ、あれ? なんで」
重いと思ってだき抱えるように持ち上げたそれは、まるで紙風船のようにすんなり持ち上がってしまった。
え、嘘、なんで? いつも重いのに。中身が入ってない? そんなはずは……。
混乱した頭で抱えている袋を見ると、米袋の底からザアザアと滝のように米が流れ出ていた。認識した途端、足元に米粒が落ちる感覚が伝わってきた。
「あっ、え、え? やだ、うそ、とまって!」
どうしようどうしようどうしよう!!
パニックのままに米袋の底を塞ぐために米の滝に手を突っ込んでも何も手に当たらない。まるでもともと底が無かったように米は溢れだしてくる。
あ、ひっくり返そう! 逆にすればとまるはず。
名案が閃いて紙袋の上下を逆さまにしてみる。それでも米は出てきた。噴水が湧き出るように、上に向かって米が湧いていた。
「なんで、とまって、とまってよ」
どんどんお米が、零れていく。米の勢いは逆さまにしたことで増したのか、米袋からまるで人工降雪機のように噴射されている。狭い倉庫の中は、既に錦花の膝まで米で埋まっていた。
「錦花? 錦花!! どないしたんや!!」
「おさっ、おさむ!」
「なんやこれ……。とにかくそこから離れぇ!」
駆けつけた治に近寄りたくても、埋まった足が動かせなかった。
「どうしよう! 足が抜けない」
力を入れてもビクともしない足元に、このまま全身が埋まってしまうかもしれない恐怖が込み上げてきた。ジワジワと涙が浮かんでくる。
「手ぇ出し! 引っ張るから」
倉庫の外から治が手を伸ばす。その手を掴むと、強い力で引っ張られた。ようやく足が抜けて、治の胸に倒れ込む。
「大丈夫か?」
「うん、私は平気。治、ごめん、お米が……」
「気にせんでええ、俺が何とかする。錦花は向こうで待っとって」
米は既に倉庫から溢れだしている。米のスピードは確実に増していた。このままでは店を飲み込むのも時間の問題だろう。
私を安心させようとしてくれてるのかそっと背中を撫でられて、店に向かって背中を押された。前につんのめって倉庫から離される。後ろを向くと、治はひとりで米の中に向かっていった。
「治、ダメ! 行っちゃダメ!」
遂に米は倉庫を埋めつくしていた。出入口から吹き出す米をかき分けて、広い背中は進んでいく。必死に止めても、最愛の人の姿はあっという間に白に覆われて見えなくなった。
「あ、あぁ……」
治が、いなくなっちゃった。
胸の奥がぽっかり空いた様な悲しみが全身に広がる。それでも、逃げて助けを呼ばなきゃ、治を早く助けないと。
喪失感を焦りに変えて店の扉の前にまで辿りつく。早く店の外に出て、誰か人を呼んで、そう思って扉に手をかけた。
「なんでっ! 開かない!!」
引き戸を力いっぱい引いても、扉は動かない。鍵は閉まってないのに、くっついたまま微動だにしない。
「助けて!」
店の出入口はもうここしかない。拳を叩きつけたガラスも割れる気配は無かった。
気づけば、足元どころか腰まで米に埋もれていた。店の半分以上が米に侵食されていた。
「……っ、ごめっ、ごめんなさ、い」
堪えていた涙が目からこぼれ落ちた。手で顔を覆って俯く。
私のせいだ。私が米袋を持ち上げたからこんなことになってしまった。北さんの大事なお米なのに。
「……きたっ、きたさんっ、おこめっ、こぼしちゃって……はっ、……ごめんなざい」
「おさむっ、……たすけられなくてごめん……」
自分も米で埋まっていく中、ひたすら泣きながら謝まることしかできなかった。
♢
「ぅ……ごめ、なさ……っ、ごめ……」
小さな声で意識が浮上した。目を開けた先はまだ暗く、枕元のデジタル時計時間を光らせて確認すると午前3時を回ったところだった。
「ふぁ、……どーしたん錦花?」
欠伸をひとつして、こちらに背を向けて横向きに隣で寝ている錦花を覗き込む。触れた肩はなぜか小刻みに震えていた。
「錦花? ……え、泣いとる!」
びっくりして、思わず大声が出た。
月明かりに照らされた顔は眉を顰めていて、閉じた瞳から零れた大粒の涙が枕に伝い落ちている。よくよく聞けば、小さな声はしきりにごめんなさいと言っていた。
「錦花! どないしたん! 起きてや!」
肩を掴んで揺する。夢の中の出来事でも、錦花が悲しんでいるのが嫌で、早く起こしたかった。声をかけ続ければ目が覚めてきたのか、おさむ……? とさっきまでの寝言よりはハッキリした声が返ってきた。
「あ、れ? お米は……」
「起こしてすまんな。けど、錦花が泣いとったから心配になってもうて」
「泣いて……?」
「おん、ごめんなさいって泣きながら寝てたで」
「あ……そう、なの」
錦花が体を起こして、向かい合った。そっと近づいて、涙を袖で優しく拭ってやる。寝たまま泣いていたのがよっぽど恥ずかしかったのか、目は合わせてくれなかった。
「泣くなんてよっぽど悲しい夢見たんやな。どんな夢だったん?」
「お店で治にちゃんと米持ってきてって頼まれて……」
言葉をつまらせながら、寝ぼけ頭で一生懸命に話す内容は夢らしく突拍子もない話で、とうとう笑いが堪えられなかった。
「あっはっはっ! なんやそれ! はー、笑いすぎて腹痛い」
「笑わないでよ、本気で悲しかったんだから。北さんにも申し訳ないし」
「持ち上げた米袋から米が無限に出てきて、俺も店も全部飲み込まれてしもたんやもんな。そら怖かったなぁ」
細い身体を抱きしめてやれば錦花も素直に抱き締め返してきた。肩のあたりに頭を押し付けられている。
「夢の中の俺、ちゃんと錦花のこと守っとったんやな」
「現実の治も守ってくれる?」
「当たり前や。俺の一等大事なもんやぞ」
「ん……ありがと」
照れとる。そのまま背中を撫でてやれば、ふぁ、と錦花からも欠伸が聞こえた。
「まだ3時やから、もっかい寝よか」
「3時……中途半端な時間に起こしてごめん」
「かまわへん。明日……もう今日か。店休日やし、たまには昼まで寝ててもええやろ」
抱きしめたまま布団に戻って、更に引き寄せる。甘えたように全身ピタリと張り付く錦花。愛おしくてたまらない気持ちが込み上げてくる。悪夢様々やな。
「な、錦花」
「ん?」
「泣くほど米と俺が大事なんやろ? 嬉しいわ。ありがとな」
錦花は真っ赤な顔で早く寝て、と胸に顔を隠してしまった。決まりや、明日はうんと可愛がる。そう決めて暖かい体温を抱きしめた。
