HQ短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
月曜日の朝、日の差し込む廊下を白布は川西と並んで歩いていた。川西は白布に、今日のオフは靴下を買いに行くと言う。穴の空いていないものがひとつも無いから、今日買いに行かないと履く靴下がないらしい。白布はバカじゃねぇの、と冷めた目で聞いていた。同室である白布は川西が靴下に穴が空いては捨てて、買い足すのを後回しにしていたのを知っているから自業自得だと鼻で笑った。
2年の教室に向かう人の流れは疎らで、話の途中で教室に着いた。白布はそのまま川西と別れて教室に入った。
白布の隣の席には既に錦花がいて、白布が来たことに気づいて携帯画面から顔を上げた。
「白布、おはよ」
「はよ」
いつも通りの素っ気ない挨拶を返し、鞄から教科書やらを取り出しながら隣を盗み見る。携帯を見つめる横顔は心做 しか元気がない。昨日は家族と日帰り温泉に行っていたはず。金曜日に声を弾ませて楽しみにしていたから、てっきり朝から上機嫌で飯の話でもしてくると踏んでいたのに。
「昨日温泉行ってきたんだろ、どうだった」
「……あ、えっとね、凄く良かった。お風呂の種類が多くてね、露天風呂以外にも炭酸風呂に薬湯 、季節だからか、ゆず湯もあって、全部入っちゃった。ご飯も……食べきれないくらい種類があって、全部美味しかったよ」
「ふーん、よかったな」
ご飯の写真撮ったんだ、と携帯を見せられる。感想に嘘は無いだろうが、なにかを誤魔化してる感じがした。具体的に言うと、いつもよりうるさくない。
白布の感じた違和感は当たっていたようで、一日中錦花は呆けた顔をして、時折動きが止まっては弾かれたように動き出すのを繰り返していた。
「ありがとうございます、助かりました」
「……ちょっとこい」
「え」
6限目の板書しそびれた部分を白布に写させてもらっていた錦花はノートを返すとその腕を白布に掴まれた。
そのまま立ち上がると引っ張るように早歩きで教室の外に連れ出された。
「ちょ、白布、どこ行くの! 部活は?」
「今日はオフ」
ずんずんと前を行く白布の顔は見えない。腕を掴まれている姿を誰かに見られたら誤解される……。錦花は青ざめたが、幸いにもすれ違う人はいなかった。
着いたのはいかにも移動教室でしか使っていないような、埃っぽい教室だった。
向き直った白布の顔は真剣だった。
「何があった?」
「……なんのこと? 何も無いよ。いつも通りだよ」
「それで誤魔化せてると思ってんのか」
錦花がへらっと笑えば白布の眉間に皺がよった。
「お前は、いつもだったらもっとうるさいだろ。なのに、今日は明らかに大人しいし、ずっと上の空だ。様子がおかしいことくらい、気づかないわけねぇだろ。……言えよ」
錦花の手首を掴む手に力が籠る。
「……それとも、俺には言えないようなことなのか」
絞り出されたような、苦々しい声だった。
あまりにも心配そうな、剣呑な表情を見た錦花は息を飲んだ。
「……言っててもいいけど、笑わない?」
「ああ」
「本当に? 怒らない? 呆れない?」
「ない、早く言え」
「……実はね、ただ落ち込んでただけなの」
錦花の話によると、温泉街を家族と見て回っていたら、どこもかしこもカップルだらけなことに気づき、彼らが恋人繋ぎで歩く姿を見て、自分は華の女子高生なのに彼氏の1人もいないのか、と悲しくなったらしい。
眉を下げながら、不貞腐れたようにつらつらと口を割り始めた。
「夕食の時が1番ショックだった。隣の席のカップルが並んで座ってあーんし合ってるんだよ。それを見て両親も同じことやり出してさ。弟も調子に乗って俺らもやろ、ってやらされるし。どうして彼氏じゃなくて弟にこんな事してるんだろうって。もう虚しくて虚しくて……」
「今まで彼氏欲しいって思ったことなかったけど、目の前で幸せそうにされたらさ、羨ましくなっちゃうじゃん。なんで私は彼氏いないの! って考えたら虚無感でいっぱいになっちゃって。今日もずっとその事考えてた」
昨日から続く負の感情を全部言いきると、錦花は馬鹿馬鹿しい話をしてしまった気がして顔を伏せた。
お互い無言のあと、白布からはぁ、とため息が聞こえた。
錦花の肩が跳ねた。
呆れられてる。……ていうか、さっきの話だと周りに踊らされて彼氏欲しがる尻軽女みたいじゃん。遅れて焦りがやってきて、白布にとんだ誤解を与えた気がしてきた。
「いや、違うから。彼氏が欲しいっていうのは、好きな人と一緒にいるのが幸せそうで羨ましいなって話で、誰でもいい訳じゃないから! ちゃんと私の事が好きな人で私の知ってる人だといいなっていう理想はあるから、決して尻軽とかではないから!」
釈明しても下を向いたまま反応のない白布に、顔が青ざめるを通り越して真っ白になりそうだった。上げた視線を下に戻すと掴まれたままの手が目に入った。そういえば、ここに来てからずっとこのままだ。離したら逃げると思われていたのかもしれない。
あの白布が、あんなに真面目な顔で心配してくれてたのに、いざ問いただせば彼氏欲しいなんて、ろくでもない内容。……絶対怒ってる。
急に、掴まれている腕をぐっと引かれた。
前を向け、という無言の意思表示。怒られる恐怖を押し殺して、恐る恐る斜め下を見ていた視線を上げる。正面には口を結んだ怖い顔の白布。きっと、無駄に心配させてんじゃねーよ、と怒声が飛んでくる。そう思って身構えたのに、聞こえた声は怒声ではなかった。
「……彼氏にするなら、お前のことが好きで、知ってるやつがいいんだな?」
念を押されるように低い声で聞かれる。
想像と違う返事に戸惑うが、返事を返す。
「う、うん」
「……1人だけ、いる」
そんなことを言われたら、目を逸らせなかった。白布の怖い顔は、緊張を押し殺すみたいな鋭い目つきで、耳はさっきまでと違って赤い。
急に変わった雰囲気にバクバクと心臓がうるさいくらい跳ねる。この展開にドキドキしないほど鈍感じゃない。
白布の続きを無言で待てば、またも予想外の言葉が出てきた。
「今すぐ選べ。俺と付き合うか、それとも、ここで俺を振ってこの先一生彼氏ができないのか、どっちか選べ」
「……選べ?」
とんでもない言葉が出てきてトキメキが半減した。
「え、待って。なんなのその二択!? 一生できないって、決めつけ酷くない? そんなのわかんないじゃん」
「俺が全力で邪魔するから一生できない」
「この横暴! ……これでも、急に言われてびっくりしてるんだけど。白布、全然そんな素振りみせなかったじゃん、せめて聞かせてよ、どこが好きとか」
口に出した瞬間、眼光の鋭さが増した。うわ、だめだ、このツンデレ男にそれは聞けない。そんな小っ恥ずかしいこと言えるかって背後に文字が見える。
「じゃあいつから?」
「……1年のインハイで、お前が見に来てたときから」
「長っ! え、そんな前から私のこと好きだったの……。全然わかんなかった」
「お前が恋愛は面倒だって言ってたんだろうが」
「……そんなこと言ったっけ?」
「2年に上がってすぐ、自分で言っただろ。覚えてないのかよ」
「えぇ……言ったっけ?」
よくよく思い返してみると、それらしい出来事があった。2年に上がってすぐ、他校の友達が彼氏に浮気されてて拗れにこじれており、その愚痴を聞かされたという話を白布にした流れでそんなことを口走った気がする。言ったかも、と曖昧に口にすれば舌打ちが返ってきた。
「私がそんなこと言ってたから、好きなのがバレないように隠してたってこと?」
「うるせぇ」
図星らしく、バッサリと切り捨てられた。
「で、どっちなんだよ」
急かされるけれど、私としては返答を出す前にちゃんと聞きたい言葉があった。
「好きなら、ちゃんと言って」
「は?」
「あれは脅しという名の告白で、まだちゃんとした言葉で好きって聞いてない。さっきの質問はいつから好きだったのって聞いただけだからノーカン!」
意地悪くそういえば、マジでなんなんだみたいな顔をされた。けど、ここで引く訳には行かない。たかが一言、だけど誤魔化して欲しくない。
数秒の間を置いて、目を合わせた白布に告げられる。
「錦花好きだ」
バレーをしてる時みたいな、真正直な言葉。あの白布からそんなセリフが出てくるなんて驚きと恥ずかしさで一気に顔が赤くなった。
好き、なんて一言ですっかりその気になっちゃうのは、決して私がチョロすぎるわけじゃない。これは白布のせい。らしくないのが悪いんだ。
「何とか言えよ」
「……ふつつかものですが、よろしくお願いします」
満足したのか、ふん、と鼻を鳴らすと帰るぞ、と腕を引かれる。2人して顔が赤いまま教室を出た瞬間、ずっと掴まれていた手はするりと恋人繋ぎにかえられた。
2年の教室に向かう人の流れは疎らで、話の途中で教室に着いた。白布はそのまま川西と別れて教室に入った。
白布の隣の席には既に錦花がいて、白布が来たことに気づいて携帯画面から顔を上げた。
「白布、おはよ」
「はよ」
いつも通りの素っ気ない挨拶を返し、鞄から教科書やらを取り出しながら隣を盗み見る。携帯を見つめる横顔は
「昨日温泉行ってきたんだろ、どうだった」
「……あ、えっとね、凄く良かった。お風呂の種類が多くてね、露天風呂以外にも炭酸風呂に
「ふーん、よかったな」
ご飯の写真撮ったんだ、と携帯を見せられる。感想に嘘は無いだろうが、なにかを誤魔化してる感じがした。具体的に言うと、いつもよりうるさくない。
白布の感じた違和感は当たっていたようで、一日中錦花は呆けた顔をして、時折動きが止まっては弾かれたように動き出すのを繰り返していた。
「ありがとうございます、助かりました」
「……ちょっとこい」
「え」
6限目の板書しそびれた部分を白布に写させてもらっていた錦花はノートを返すとその腕を白布に掴まれた。
そのまま立ち上がると引っ張るように早歩きで教室の外に連れ出された。
「ちょ、白布、どこ行くの! 部活は?」
「今日はオフ」
ずんずんと前を行く白布の顔は見えない。腕を掴まれている姿を誰かに見られたら誤解される……。錦花は青ざめたが、幸いにもすれ違う人はいなかった。
着いたのはいかにも移動教室でしか使っていないような、埃っぽい教室だった。
向き直った白布の顔は真剣だった。
「何があった?」
「……なんのこと? 何も無いよ。いつも通りだよ」
「それで誤魔化せてると思ってんのか」
錦花がへらっと笑えば白布の眉間に皺がよった。
「お前は、いつもだったらもっとうるさいだろ。なのに、今日は明らかに大人しいし、ずっと上の空だ。様子がおかしいことくらい、気づかないわけねぇだろ。……言えよ」
錦花の手首を掴む手に力が籠る。
「……それとも、俺には言えないようなことなのか」
絞り出されたような、苦々しい声だった。
あまりにも心配そうな、剣呑な表情を見た錦花は息を飲んだ。
「……言っててもいいけど、笑わない?」
「ああ」
「本当に? 怒らない? 呆れない?」
「ない、早く言え」
「……実はね、ただ落ち込んでただけなの」
錦花の話によると、温泉街を家族と見て回っていたら、どこもかしこもカップルだらけなことに気づき、彼らが恋人繋ぎで歩く姿を見て、自分は華の女子高生なのに彼氏の1人もいないのか、と悲しくなったらしい。
眉を下げながら、不貞腐れたようにつらつらと口を割り始めた。
「夕食の時が1番ショックだった。隣の席のカップルが並んで座ってあーんし合ってるんだよ。それを見て両親も同じことやり出してさ。弟も調子に乗って俺らもやろ、ってやらされるし。どうして彼氏じゃなくて弟にこんな事してるんだろうって。もう虚しくて虚しくて……」
「今まで彼氏欲しいって思ったことなかったけど、目の前で幸せそうにされたらさ、羨ましくなっちゃうじゃん。なんで私は彼氏いないの! って考えたら虚無感でいっぱいになっちゃって。今日もずっとその事考えてた」
昨日から続く負の感情を全部言いきると、錦花は馬鹿馬鹿しい話をしてしまった気がして顔を伏せた。
お互い無言のあと、白布からはぁ、とため息が聞こえた。
錦花の肩が跳ねた。
呆れられてる。……ていうか、さっきの話だと周りに踊らされて彼氏欲しがる尻軽女みたいじゃん。遅れて焦りがやってきて、白布にとんだ誤解を与えた気がしてきた。
「いや、違うから。彼氏が欲しいっていうのは、好きな人と一緒にいるのが幸せそうで羨ましいなって話で、誰でもいい訳じゃないから! ちゃんと私の事が好きな人で私の知ってる人だといいなっていう理想はあるから、決して尻軽とかではないから!」
釈明しても下を向いたまま反応のない白布に、顔が青ざめるを通り越して真っ白になりそうだった。上げた視線を下に戻すと掴まれたままの手が目に入った。そういえば、ここに来てからずっとこのままだ。離したら逃げると思われていたのかもしれない。
あの白布が、あんなに真面目な顔で心配してくれてたのに、いざ問いただせば彼氏欲しいなんて、ろくでもない内容。……絶対怒ってる。
急に、掴まれている腕をぐっと引かれた。
前を向け、という無言の意思表示。怒られる恐怖を押し殺して、恐る恐る斜め下を見ていた視線を上げる。正面には口を結んだ怖い顔の白布。きっと、無駄に心配させてんじゃねーよ、と怒声が飛んでくる。そう思って身構えたのに、聞こえた声は怒声ではなかった。
「……彼氏にするなら、お前のことが好きで、知ってるやつがいいんだな?」
念を押されるように低い声で聞かれる。
想像と違う返事に戸惑うが、返事を返す。
「う、うん」
「……1人だけ、いる」
そんなことを言われたら、目を逸らせなかった。白布の怖い顔は、緊張を押し殺すみたいな鋭い目つきで、耳はさっきまでと違って赤い。
急に変わった雰囲気にバクバクと心臓がうるさいくらい跳ねる。この展開にドキドキしないほど鈍感じゃない。
白布の続きを無言で待てば、またも予想外の言葉が出てきた。
「今すぐ選べ。俺と付き合うか、それとも、ここで俺を振ってこの先一生彼氏ができないのか、どっちか選べ」
「……選べ?」
とんでもない言葉が出てきてトキメキが半減した。
「え、待って。なんなのその二択!? 一生できないって、決めつけ酷くない? そんなのわかんないじゃん」
「俺が全力で邪魔するから一生できない」
「この横暴! ……これでも、急に言われてびっくりしてるんだけど。白布、全然そんな素振りみせなかったじゃん、せめて聞かせてよ、どこが好きとか」
口に出した瞬間、眼光の鋭さが増した。うわ、だめだ、このツンデレ男にそれは聞けない。そんな小っ恥ずかしいこと言えるかって背後に文字が見える。
「じゃあいつから?」
「……1年のインハイで、お前が見に来てたときから」
「長っ! え、そんな前から私のこと好きだったの……。全然わかんなかった」
「お前が恋愛は面倒だって言ってたんだろうが」
「……そんなこと言ったっけ?」
「2年に上がってすぐ、自分で言っただろ。覚えてないのかよ」
「えぇ……言ったっけ?」
よくよく思い返してみると、それらしい出来事があった。2年に上がってすぐ、他校の友達が彼氏に浮気されてて拗れにこじれており、その愚痴を聞かされたという話を白布にした流れでそんなことを口走った気がする。言ったかも、と曖昧に口にすれば舌打ちが返ってきた。
「私がそんなこと言ってたから、好きなのがバレないように隠してたってこと?」
「うるせぇ」
図星らしく、バッサリと切り捨てられた。
「で、どっちなんだよ」
急かされるけれど、私としては返答を出す前にちゃんと聞きたい言葉があった。
「好きなら、ちゃんと言って」
「は?」
「あれは脅しという名の告白で、まだちゃんとした言葉で好きって聞いてない。さっきの質問はいつから好きだったのって聞いただけだからノーカン!」
意地悪くそういえば、マジでなんなんだみたいな顔をされた。けど、ここで引く訳には行かない。たかが一言、だけど誤魔化して欲しくない。
数秒の間を置いて、目を合わせた白布に告げられる。
「錦花好きだ」
バレーをしてる時みたいな、真正直な言葉。あの白布からそんなセリフが出てくるなんて驚きと恥ずかしさで一気に顔が赤くなった。
好き、なんて一言ですっかりその気になっちゃうのは、決して私がチョロすぎるわけじゃない。これは白布のせい。らしくないのが悪いんだ。
「何とか言えよ」
「……ふつつかものですが、よろしくお願いします」
満足したのか、ふん、と鼻を鳴らすと帰るぞ、と腕を引かれる。2人して顔が赤いまま教室を出た瞬間、ずっと掴まれていた手はするりと恋人繋ぎにかえられた。
