短編
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「侑、ワインどれ飲みたい?」
夕食後の食器を洗ってくれている侑に声をかけた。
「んー、なんでもええよ」
「じゃあ、みかんにするね」
みかんのイラストの描かれたオレンジ色のワインを箱から出してテーブルに置いた。食器棚からはワイングラスをふたつ持ってくる。あまり使わないそれは新品の姿のままだ。平皿も出して、この日のために買った少しお高いおつまみを乗せた。
私はお酒に強くないからあまり飲まないし、侑は仕事絡みの外飲みが主だから、2人きりでの宅飲みは久々だった。
なぜこうなったのかというと、たまたま応募したスーパーの懸賞でワインの飲み比べセットが当たったからだ。3日前に届いた時は応募したことすら忘れていて、詐欺かと疑ってしまった。中身はフルーツワインの3本セットで、こういうものは買ったことがないから嬉しかった。
食器を洗っていた侑が戻ってきた。
ワインの栓を開けてグラスに注げば、ふわりとみかんの香りが漂う。既に香りが美味しそうだ。
「それじゃ、かんぱーい」
「かんぱーい」
1口飲んで、濃いみかんの味が口全体に広がる。
「ん! すっごいみかんだ! 美味しい! 全然お酒っぽくない」
「酒っちゅーよりみかんジュースやな。美味い」
侑はアルコールに強いので余計にジュースに感じるだろうが、喜んでいるようでなにより。
これならきっと残りのりんごとメロンも美味しいだろう。
おつまみのチョコを1つ食べる。カカオのビターな苦味がみかんの甘さをリセットしてくれる。そこにワインを流し込めば、お酒とチョコの無限ループの完成。
「そのチョコいっつも食べとるやん。飽きひん?」
「いつもじゃない。高いからたまにしか食べてないし」
「そのたまにで毎回食うとるやん」
「これが1番好きなの」
「そんなにか。……ほなら明日一緒に出かけよか。いくらでも買ぉたるわ」
「え、いいの! やった! ……んふふ、1ヶ月ぶりのデートだ。侑がすっぱ抜かれてから全然デート出来なかったからね」
「その件についてはほんまにすんませんでした」
お酒とつまみに舌鼓をうちながら侑とあれこれ話していると、流しっぱなしにしていたテレビの番組が切り替わり動物番組になった。
『お次のネコちゃんは三毛猫のおもちちゃん。ご主人のお膝の上でゴロゴロタイム……んん、あれ〜? 様子が変だぞ?』
何気なく視線がテレビに吸い込まれた。
画面では三毛猫が飼い主の太ももの上にすっぽり収まっている。ワシワシと撫でられてご満悦かと思いきや、不満げなイカ耳。うにゃうにゃと零す文句にごめんと謝る飼い主。どうやらご所望だったのはブラッシングだったらしい。
そんなのを眺めていたら、口から声が出ていた。
「ぽん」
「どしたん、もう酔っとるん?」
「酔ってないよ。あと呼んだのは侑じゃない」
「それは分かっとるわ。ぽん? って何」
「昔飼ってた猫。今テレビに映ってた子、凄く似てたから思わず呼んじゃった」
「あー、思い出した。そういえば猫飼ぉたことあるって言うてたな」
グラスの中身を飲み干して、オカワリを注ぐ。
中学2年生まで飼っていた三毛猫のぽん。小さい時に公園で弱っていたのを見つけて家に拾って帰った。警戒心が強くて、最初は触ることすら出来なかったけど、一生懸命お世話したら懐いてくれるようになった。
「懐かしいなぁ。公園で拾ってきた子でね、たくさん可愛がってた。ケツドラム大好きで、寄ってきても頭じゃなくてケツ向けてくるんだよ〜」
「こら、女の子がケツ言うたらあかん」
そのお叱りはアルコールでぽわつく脳に効かない。何年の付き合いだと思ってんの。
「ぽん、ほんとにすっごい可愛かったんだよ。私にしか懐かない……忠誠心? が強いところも大好きだった」
「猫に忠誠心なんかあるかい」
侑はそう言っているが、私は私にしか懐かないところに特別感を感じていて嬉しかったのだ。お世話した分の愛情が伝わってるって信じてた。
ちょっと寂しくなってきて、またワインを煽る。
アルコールが回ったのか顔が熱くなってきた。お行儀が悪いけれどテーブルに頬をくっつける。ひんやりして気持ちいい。
「ぽんのおケツまた叩きたいなぁ」
「そこは撫でたいやないんか」
「ケツ向けて寄ってくるって言ったじゃん。撫でるよりも叩かれる方が好きだったみたい。叩くの楽しいよ。ゴロゴロ言ってて可愛いし。癒される。ずっと触っていたくなる」
侑が身を乗り出して私の頭を撫でてくる。
「ペット飼うか? 俺は錦花が飼いたいならええけど」
「ううん、いい。ペットは飼わない。今は自分達人間のお世話で手一杯だから」
「……それもそうなや。そこまで余裕ないもんな」
侑の納得したような微妙そうな声が返ってくる。同棲して分かったことだが、お互い仕事している身で家事を回すの大変すぎる。そこにペットのお世話が入り込む余地は無い。
「ほんなら、ぽんのかわりに侑くん撫でてええよ」
侑はテーブルから立ち上がってこちら側にきた。
私の前にしゃがんでお腹に顔を擦り付けている。侑の腕は後ろに回って抱きしめるように腰をホールドされた。お風呂に入ったから侑の髪からシャンプーの匂いがする。
「ほれ、遠慮せんと撫でや」
グリグリと腹に顔を埋めて主張されるが、さっきも言った通り私は撫でたいんじゃない、叩きたいんだ。
「ヤダ! ケツドラムがいい」
「へ? なんて??」
腰に手を回されたまま立ち上がる。急に動いた私に侑は仰け反って離れたが、流石の体幹でよろけることはなかった。手を取ってソファに向かう。
「ちょ、手ぇ熱っ! この酔っ払い、飲みすぎや」
「後で水飲むから」
ソファに座って、私の足の上に侑をうつ伏せになるように寝かせる。自分の太ももの上に侑のケツがくるようにモゾモゾ動いて調節する。
「え!? ちょ!? え!? 錦花!? 侑くんJrが大変な位置にあるんやけど!?」
「うるさぁい」
ケツを一発引っぱたく。うーん、叩き心地が悪い。スウェットが悪いのか。厚みのあるいい素材だから音が吸収されてしまう。どうせならスパンといきたい。よし、脱がすか。スウェットズボンのゴムに手をかけると慌てた侑に阻止される。
「それはあかん! あかんあかん! いや俺はあかんくないけど! 錦花はええんか!?」
「しつこいなぁ」
「ほんまにお前はそれでええんか!」
真っ赤な顔をして慌てふためきまだ食い下がる。
「ええの! 脱がなきゃいい音しないじゃん」
「こいつ……後で文句言っても知らんからな」
「そんなに確認しなくても、猫と人間が違うことくらい分かってますぅ」
「そっちやないわ」
抵抗が無くなったのでズボンを膝まで下ろす。逞しい太ももとむっちりした尻が顕 になる。プロスポーツ選手の素晴らしい筋肉、絶景だな。あ、侑、昨日洗濯したパンツ履いてる。なんで洗ったやつをまた履くんだろう。まぁいいや。遠慮なく叩かせて貰おう。
「叩けボ〜ンゴ 響けサ〜ンバ」
「そのリズムで叩くん!?」
何言ってんの、ケツドラムって言ったらこれでしょ。
♢
「ふぅー……んふふ」
満足した。達成感すら感じる。なんだか楽しくなっちゃって気分良くリズミカルに侑のケツを叩いていた。たまに強く叩くとスパンッといい音がするのも良かった。ちょっと手が痛い。ジンジンして熱い。いや、手どころか全身が熱くてしょうがない。動いて酔いが回りすぎているかも。早く水が飲みたい。
「……終わったか?」
最初の抵抗は嘘のように大人しくなった侑がうつ伏せのまま顔も上げずに聞いてくる。声に覇気がない。途中からヤケに侑が腰を動かすから私も太ももの位置を微調整していたが、あれは痛いから叩く位置を変えろ、ということだったのかも。
「うん。楽しかった。侑、ありがとね。あと、ごめん。やり過ぎたかも。痛かった?」
散々叩いた尻を労わるように撫でれば何故か堪えるような声が返ってきた。
「……いや、ケツは 痛ないで」
「そう? よかった。スウェット戻すね」
膝で止まっているスウェットパンツを戻そうと上に引っ張る。だが、太ももを通過してから何かが引っかかって上に上がらない。仕方ないので自分の太ももで侑の腰を持ち上げてスウェットを上げようとする。
「んん?」
太ももにあたる硬い感触。あれ、おかしいな、ベルト? ……いやいや、してるはずないじゃん。だってパンツしか履いてないもん。え、じゃあこれ は……。
それ が何なのか理解したとたん、火照っていた頭が一瞬で冷えた。
「私っ、水飲んでくる!」
「逃がさんで」
立ち上がろうとした私よりも先に、横たわっていた筈の侑が目にも止まらぬ速さで起き上がって私の上にのしかかってくる。膝の上に座られて、両手をガッツリ掴まれて、逃走経路は塞がれた。
「錦花は充分楽しんだやろ? 次は俺も楽しませてもらおか」
見上げた顔はいつも夜に見る顔で。私を征服せんばかりのギラついた目は逸らすな、と雄弁に語っている。1回冷めた頭の熱がまた戻ってきた。きっと全身真っ赤になっているだろう。
「いや、なんで、そんな元気いっぱい……? お酒入ってるのに……」
「錦花が勝手にハイペースで飲んでただけで、俺そんな飲んでへんし。そもそも、あんなジュース飲んだうちに入らんわ」
マズイ、このままだと一方的に取って食われる。
「私、お酒入ってるから早く寝たいな。それに、明日デートじゃん。楽しみだから万全の体制で行きたいっていうか」
「錦花、俺は再三確認したで。ええって言うたのは錦花やからな。今更いちゃもん言われても聞かれへん」
「うぐっ」
あのしつこい確認はそういう意味だったのか!
精神的な誘導は無理だ、かくなる上は物理的脱出のみ……!
「ね、侑、水飲みたい」
「ああ、せやな。水飲まな」
これで隙ができる、と思ったら大間違いだった。
侑が上から退いて、ソファに押し付けるように掴まれていた両手を片手で一纏めにされてまた拘束された。右側に両手を押し付けられているので右向きになる。立ち上がった侑は中途半端なスウェットを上まで引き上げると、その手で私の腰を掴んで持ち上げた。手の拘束が外れて、浮遊感の恐怖から目をつむって侑にしがみついた。
恐る恐る目を開く。え、抱き上げられてる……。
侑はそのまま冷蔵庫まで歩くと500mlのペットボトルを2本取り出して持たされる。……これ、部屋から絶対出れないやつだ。
「侑、自分で歩くから下ろして」
「下ろしたら100%逃げるやろ、お見通しやで」
「ヤダナ、ニゲナイヨ」
「大人しく観念せぇ」
最後の抵抗虚しく、寝室の前にきてしまった。
「……明日のデート、楽しみだったのに」
「起きられへんかったらまた別の日に行こか」
「そこは起きられるように手加減するところじゃないの?」
「その選択肢は無いな」
撃沈、完敗。ごめん、明日の私。デートはまた今度。
諦めて首に抱きつく。くっついたところが焼けるように熱い。熱が回っているのは侑もだった。
「優しくしてね」
「ゼンショしますぅ。ふっふ、ちゃあんとたっぷり可愛がったる」
翌日、布団から動けない私のご機嫌取りに走る侑の姿がそこにあった。
夕食後の食器を洗ってくれている侑に声をかけた。
「んー、なんでもええよ」
「じゃあ、みかんにするね」
みかんのイラストの描かれたオレンジ色のワインを箱から出してテーブルに置いた。食器棚からはワイングラスをふたつ持ってくる。あまり使わないそれは新品の姿のままだ。平皿も出して、この日のために買った少しお高いおつまみを乗せた。
私はお酒に強くないからあまり飲まないし、侑は仕事絡みの外飲みが主だから、2人きりでの宅飲みは久々だった。
なぜこうなったのかというと、たまたま応募したスーパーの懸賞でワインの飲み比べセットが当たったからだ。3日前に届いた時は応募したことすら忘れていて、詐欺かと疑ってしまった。中身はフルーツワインの3本セットで、こういうものは買ったことがないから嬉しかった。
食器を洗っていた侑が戻ってきた。
ワインの栓を開けてグラスに注げば、ふわりとみかんの香りが漂う。既に香りが美味しそうだ。
「それじゃ、かんぱーい」
「かんぱーい」
1口飲んで、濃いみかんの味が口全体に広がる。
「ん! すっごいみかんだ! 美味しい! 全然お酒っぽくない」
「酒っちゅーよりみかんジュースやな。美味い」
侑はアルコールに強いので余計にジュースに感じるだろうが、喜んでいるようでなにより。
これならきっと残りのりんごとメロンも美味しいだろう。
おつまみのチョコを1つ食べる。カカオのビターな苦味がみかんの甘さをリセットしてくれる。そこにワインを流し込めば、お酒とチョコの無限ループの完成。
「そのチョコいっつも食べとるやん。飽きひん?」
「いつもじゃない。高いからたまにしか食べてないし」
「そのたまにで毎回食うとるやん」
「これが1番好きなの」
「そんなにか。……ほなら明日一緒に出かけよか。いくらでも買ぉたるわ」
「え、いいの! やった! ……んふふ、1ヶ月ぶりのデートだ。侑がすっぱ抜かれてから全然デート出来なかったからね」
「その件についてはほんまにすんませんでした」
お酒とつまみに舌鼓をうちながら侑とあれこれ話していると、流しっぱなしにしていたテレビの番組が切り替わり動物番組になった。
『お次のネコちゃんは三毛猫のおもちちゃん。ご主人のお膝の上でゴロゴロタイム……んん、あれ〜? 様子が変だぞ?』
何気なく視線がテレビに吸い込まれた。
画面では三毛猫が飼い主の太ももの上にすっぽり収まっている。ワシワシと撫でられてご満悦かと思いきや、不満げなイカ耳。うにゃうにゃと零す文句にごめんと謝る飼い主。どうやらご所望だったのはブラッシングだったらしい。
そんなのを眺めていたら、口から声が出ていた。
「ぽん」
「どしたん、もう酔っとるん?」
「酔ってないよ。あと呼んだのは侑じゃない」
「それは分かっとるわ。ぽん? って何」
「昔飼ってた猫。今テレビに映ってた子、凄く似てたから思わず呼んじゃった」
「あー、思い出した。そういえば猫飼ぉたことあるって言うてたな」
グラスの中身を飲み干して、オカワリを注ぐ。
中学2年生まで飼っていた三毛猫のぽん。小さい時に公園で弱っていたのを見つけて家に拾って帰った。警戒心が強くて、最初は触ることすら出来なかったけど、一生懸命お世話したら懐いてくれるようになった。
「懐かしいなぁ。公園で拾ってきた子でね、たくさん可愛がってた。ケツドラム大好きで、寄ってきても頭じゃなくてケツ向けてくるんだよ〜」
「こら、女の子がケツ言うたらあかん」
そのお叱りはアルコールでぽわつく脳に効かない。何年の付き合いだと思ってんの。
「ぽん、ほんとにすっごい可愛かったんだよ。私にしか懐かない……忠誠心? が強いところも大好きだった」
「猫に忠誠心なんかあるかい」
侑はそう言っているが、私は私にしか懐かないところに特別感を感じていて嬉しかったのだ。お世話した分の愛情が伝わってるって信じてた。
ちょっと寂しくなってきて、またワインを煽る。
アルコールが回ったのか顔が熱くなってきた。お行儀が悪いけれどテーブルに頬をくっつける。ひんやりして気持ちいい。
「ぽんのおケツまた叩きたいなぁ」
「そこは撫でたいやないんか」
「ケツ向けて寄ってくるって言ったじゃん。撫でるよりも叩かれる方が好きだったみたい。叩くの楽しいよ。ゴロゴロ言ってて可愛いし。癒される。ずっと触っていたくなる」
侑が身を乗り出して私の頭を撫でてくる。
「ペット飼うか? 俺は錦花が飼いたいならええけど」
「ううん、いい。ペットは飼わない。今は自分達人間のお世話で手一杯だから」
「……それもそうなや。そこまで余裕ないもんな」
侑の納得したような微妙そうな声が返ってくる。同棲して分かったことだが、お互い仕事している身で家事を回すの大変すぎる。そこにペットのお世話が入り込む余地は無い。
「ほんなら、ぽんのかわりに侑くん撫でてええよ」
侑はテーブルから立ち上がってこちら側にきた。
私の前にしゃがんでお腹に顔を擦り付けている。侑の腕は後ろに回って抱きしめるように腰をホールドされた。お風呂に入ったから侑の髪からシャンプーの匂いがする。
「ほれ、遠慮せんと撫でや」
グリグリと腹に顔を埋めて主張されるが、さっきも言った通り私は撫でたいんじゃない、叩きたいんだ。
「ヤダ! ケツドラムがいい」
「へ? なんて??」
腰に手を回されたまま立ち上がる。急に動いた私に侑は仰け反って離れたが、流石の体幹でよろけることはなかった。手を取ってソファに向かう。
「ちょ、手ぇ熱っ! この酔っ払い、飲みすぎや」
「後で水飲むから」
ソファに座って、私の足の上に侑をうつ伏せになるように寝かせる。自分の太ももの上に侑のケツがくるようにモゾモゾ動いて調節する。
「え!? ちょ!? え!? 錦花!? 侑くんJrが大変な位置にあるんやけど!?」
「うるさぁい」
ケツを一発引っぱたく。うーん、叩き心地が悪い。スウェットが悪いのか。厚みのあるいい素材だから音が吸収されてしまう。どうせならスパンといきたい。よし、脱がすか。スウェットズボンのゴムに手をかけると慌てた侑に阻止される。
「それはあかん! あかんあかん! いや俺はあかんくないけど! 錦花はええんか!?」
「しつこいなぁ」
「ほんまにお前はそれでええんか!」
真っ赤な顔をして慌てふためきまだ食い下がる。
「ええの! 脱がなきゃいい音しないじゃん」
「こいつ……後で文句言っても知らんからな」
「そんなに確認しなくても、猫と人間が違うことくらい分かってますぅ」
「そっちやないわ」
抵抗が無くなったのでズボンを膝まで下ろす。逞しい太ももとむっちりした尻が
「叩けボ〜ンゴ 響けサ〜ンバ」
「そのリズムで叩くん!?」
何言ってんの、ケツドラムって言ったらこれでしょ。
♢
「ふぅー……んふふ」
満足した。達成感すら感じる。なんだか楽しくなっちゃって気分良くリズミカルに侑のケツを叩いていた。たまに強く叩くとスパンッといい音がするのも良かった。ちょっと手が痛い。ジンジンして熱い。いや、手どころか全身が熱くてしょうがない。動いて酔いが回りすぎているかも。早く水が飲みたい。
「……終わったか?」
最初の抵抗は嘘のように大人しくなった侑がうつ伏せのまま顔も上げずに聞いてくる。声に覇気がない。途中からヤケに侑が腰を動かすから私も太ももの位置を微調整していたが、あれは痛いから叩く位置を変えろ、ということだったのかも。
「うん。楽しかった。侑、ありがとね。あと、ごめん。やり過ぎたかも。痛かった?」
散々叩いた尻を労わるように撫でれば何故か堪えるような声が返ってきた。
「……いや、ケツ
「そう? よかった。スウェット戻すね」
膝で止まっているスウェットパンツを戻そうと上に引っ張る。だが、太ももを通過してから何かが引っかかって上に上がらない。仕方ないので自分の太ももで侑の腰を持ち上げてスウェットを上げようとする。
「んん?」
太ももにあたる硬い感触。あれ、おかしいな、ベルト? ……いやいや、してるはずないじゃん。だってパンツしか履いてないもん。え、じゃあ
「私っ、水飲んでくる!」
「逃がさんで」
立ち上がろうとした私よりも先に、横たわっていた筈の侑が目にも止まらぬ速さで起き上がって私の上にのしかかってくる。膝の上に座られて、両手をガッツリ掴まれて、逃走経路は塞がれた。
「錦花は充分楽しんだやろ? 次は俺も楽しませてもらおか」
見上げた顔はいつも夜に見る顔で。私を征服せんばかりのギラついた目は逸らすな、と雄弁に語っている。1回冷めた頭の熱がまた戻ってきた。きっと全身真っ赤になっているだろう。
「いや、なんで、そんな元気いっぱい……? お酒入ってるのに……」
「錦花が勝手にハイペースで飲んでただけで、俺そんな飲んでへんし。そもそも、あんなジュース飲んだうちに入らんわ」
マズイ、このままだと一方的に取って食われる。
「私、お酒入ってるから早く寝たいな。それに、明日デートじゃん。楽しみだから万全の体制で行きたいっていうか」
「錦花、俺は再三確認したで。ええって言うたのは錦花やからな。今更いちゃもん言われても聞かれへん」
「うぐっ」
あのしつこい確認はそういう意味だったのか!
精神的な誘導は無理だ、かくなる上は物理的脱出のみ……!
「ね、侑、水飲みたい」
「ああ、せやな。水飲まな」
これで隙ができる、と思ったら大間違いだった。
侑が上から退いて、ソファに押し付けるように掴まれていた両手を片手で一纏めにされてまた拘束された。右側に両手を押し付けられているので右向きになる。立ち上がった侑は中途半端なスウェットを上まで引き上げると、その手で私の腰を掴んで持ち上げた。手の拘束が外れて、浮遊感の恐怖から目をつむって侑にしがみついた。
恐る恐る目を開く。え、抱き上げられてる……。
侑はそのまま冷蔵庫まで歩くと500mlのペットボトルを2本取り出して持たされる。……これ、部屋から絶対出れないやつだ。
「侑、自分で歩くから下ろして」
「下ろしたら100%逃げるやろ、お見通しやで」
「ヤダナ、ニゲナイヨ」
「大人しく観念せぇ」
最後の抵抗虚しく、寝室の前にきてしまった。
「……明日のデート、楽しみだったのに」
「起きられへんかったらまた別の日に行こか」
「そこは起きられるように手加減するところじゃないの?」
「その選択肢は無いな」
撃沈、完敗。ごめん、明日の私。デートはまた今度。
諦めて首に抱きつく。くっついたところが焼けるように熱い。熱が回っているのは侑もだった。
「優しくしてね」
「ゼンショしますぅ。ふっふ、ちゃあんとたっぷり可愛がったる」
翌日、布団から動けない私のご機嫌取りに走る侑の姿がそこにあった。
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