錦上添花
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部室への道を踏み鳴らす足音が反響している。苛立ちを隠さない侑を注意することなく、治は隣を歩く。いつもよりだいぶ早いからか、まだ3年すらいなかった。居るとしたら北くらいだろう。
「ついてこんでええ言うとるのに」
「なんかあったら困るやろ。お前人でなしなんやから」
「なんで俺が危害を加える前提やねん。わざわざ呼び出す向こうの方が怪しいやろ」
侑は昨日、家に帰ると治から付箋を渡された。何コレと聞くとマネージャーから渡されたと言う。内容は明日の朝、部室に早く来いという呼び出し。侑は当然無視しようとしたが、治に説得されて渋々従った。
「あいつ、まだここに居たいんです〜とか泣き落としでもしてくるんやろか。そんなんされても認めんけどや」
「そんなタイプちゃうやろ」
「治 も騙されとるな。ああいう自分、男に興味ありませんって顔してる奴ほど男に執着しとんねん。俺には分かる」
治は侑にバレないようにため息をついた。毛嫌いするばかりでまともに会話したことも無い侑が的外れな予想ばかり立てているので呆れていた。
部室の扉の前に来た。
侑が無言でドアノブに手をかけて開けようとする。それを治が制止した。
「おい、もうちょいためらいとかないんか」
「治 ビビっとるん? ダサッ」
「……そんなんちゃうわ」
侑がノブに手をかけた瞬間、何かあるような気がして止めてしまった。昨日の様子といい、この呼び出しといい、悪い予感がした。侑に忠告しようとしたが、煽られたことにムカついて飲み込む。
「なんやねん……開けるで」
ドアノブを捻って部室のドアを開ける。
部室の窓が目に映った瞬間、侑の顎に衝撃が走った。
♢
侑 が部室に入った瞬間、後ろに倒れてきた。ギョッとして咄嗟に受け止める。力の入っていない体は重たかった。支えきれずにズルズルとしゃがみこむ。
「重ッ……! おい侑 ! 自分で立てや!」
「あ、治いたの」
侑 越しに声が聞こえた。巨体をどかした正面には仲堂さんがしゃがんでこちらを見ていた。
「……は!? なにッ」
「黙れ。北さんに気づかれる」
頬を鷲掴まれて咄嗟に出た大声を止められた。潜められた声には怒気が篭っていて、こちらを睨む眼光は整った顔だけに迫力がある。
「……侑 に何したん?」
こちらも声を潜めて問えば、一言だけ返ってきた。
「顎に一撃いれただけ」
いれただけ、て。
仲堂さんはしれっと言い放ち侑 の足を掴んで引きずろうとしている。
「おっも! やっぱ無理か……治、上の方持って。私足持つから」
「……これ死んでへんよな?」
「気絶してるだけでしょ」
早くしないと、と急かす仲堂さんに言われるがまま侑の脇に手を通して持ち上げ、言われるがままに体育館裏へ向かう。
だんだん、一撃で侑 を伸してもあっけらかんとした態度の仲堂さんが恐ろしくなってきた。女子1人にビビるなんてダサいと思う。気持ちを誤魔化したくて、口が回った。
「仲堂さんて元ヤンやったりする?」
「しない」
「その割には手馴れへん?」
「イメトレは完璧だったからね」
「……侑 をどないすんねん」
「んー……」
何て返ってくるんやろ。
暴力沙汰は回避しなければならない。力ずくになったとしても体格的には勝てる。だがこちらは選手であり、資本となる体自体が弱点と言える。この感じからして、抵抗に手段は選ばなそうであった。
骨とか折られて体壊すんだけはマズイ……。
手汗を拭くように、掴む手に力を込めた。
その緊張を裂くかのように第三者の声が響いた。
「何しとるんや」
その声で先導していた仲堂の動きが止まった。
声の主、北さんが目を見開いて凝視している。
タイムオーバー、と小さな呟きが聞こえた。
「ついてこんでええ言うとるのに」
「なんかあったら困るやろ。お前人でなしなんやから」
「なんで俺が危害を加える前提やねん。わざわざ呼び出す向こうの方が怪しいやろ」
侑は昨日、家に帰ると治から付箋を渡された。何コレと聞くとマネージャーから渡されたと言う。内容は明日の朝、部室に早く来いという呼び出し。侑は当然無視しようとしたが、治に説得されて渋々従った。
「あいつ、まだここに居たいんです〜とか泣き落としでもしてくるんやろか。そんなんされても認めんけどや」
「そんなタイプちゃうやろ」
「
治は侑にバレないようにため息をついた。毛嫌いするばかりでまともに会話したことも無い侑が的外れな予想ばかり立てているので呆れていた。
部室の扉の前に来た。
侑が無言でドアノブに手をかけて開けようとする。それを治が制止した。
「おい、もうちょいためらいとかないんか」
「
「……そんなんちゃうわ」
侑がノブに手をかけた瞬間、何かあるような気がして止めてしまった。昨日の様子といい、この呼び出しといい、悪い予感がした。侑に忠告しようとしたが、煽られたことにムカついて飲み込む。
「なんやねん……開けるで」
ドアノブを捻って部室のドアを開ける。
部室の窓が目に映った瞬間、侑の顎に衝撃が走った。
♢
「重ッ……! おい
「あ、治いたの」
「……は!? なにッ」
「黙れ。北さんに気づかれる」
頬を鷲掴まれて咄嗟に出た大声を止められた。潜められた声には怒気が篭っていて、こちらを睨む眼光は整った顔だけに迫力がある。
「……
こちらも声を潜めて問えば、一言だけ返ってきた。
「顎に一撃いれただけ」
いれただけ、て。
仲堂さんはしれっと言い放ち
「おっも! やっぱ無理か……治、上の方持って。私足持つから」
「……これ死んでへんよな?」
「気絶してるだけでしょ」
早くしないと、と急かす仲堂さんに言われるがまま侑の脇に手を通して持ち上げ、言われるがままに体育館裏へ向かう。
だんだん、一撃で
「仲堂さんて元ヤンやったりする?」
「しない」
「その割には手馴れへん?」
「イメトレは完璧だったからね」
「……
「んー……」
何て返ってくるんやろ。
暴力沙汰は回避しなければならない。力ずくになったとしても体格的には勝てる。だがこちらは選手であり、資本となる体自体が弱点と言える。この感じからして、抵抗に手段は選ばなそうであった。
骨とか折られて体壊すんだけはマズイ……。
手汗を拭くように、掴む手に力を込めた。
その緊張を裂くかのように第三者の声が響いた。
「何しとるんや」
その声で先導していた仲堂の動きが止まった。
声の主、北さんが目を見開いて凝視している。
タイムオーバー、と小さな呟きが聞こえた。
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