錦上添花
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オーバーワークや、休めと北から宣告されてしまえば、コートに立っていることはできない。強すぎる眼力に屈して渋々コートから出れば、サムがこっちを見て鼻で笑ったのが見えた。このクソサム。
錦花の近くで腰を下ろしてコートを見つめても、うずうずとした気持ちは収まるどころか増すだけだ。
横の錦花が動くと同時に体育館の扉が開く音がした。後ろを向くと、引退した3年のベンチセッターだった男が来ている。会話は聞こえなかったが、先輩が引っ込むと錦花は靴を履き替えて体育館から出ていった。
ポンコツがなんの用や。
柄にもなく気にかかって、ワンテンポ遅れて錦花の跡を付けた。
体育館を裏手に回った行き止まりで、前を行く錦花の足音は止まった。同じく足を止め、バレないように体育館の角で息を潜める。死角からチラリと覗くと、錦花は先輩と対峙していた。
「忙しいとこ呼び出してすまんな」
「まぁ、ちょっとの間なら」
「すぐ済むから……ふぅ」
気味の悪い変な間とため息。ここまでお膳立てされてれば誰でも気づく。
「俺、仲堂のことが好きや。付き合ぉてほし」
「無理です」
「ブッ」
ダッッッサ。
思わず吹きそうになって口を抑えた。
告白しよった! ほんで振られとるし!
「いや……いやいや、早い早い! 断るん早いって。もうちょい考えてみてや。せめて友達からとかあるやん、な? そらな、元選手とマネージャーが付き合ぉとるのは周りに気まずいとか、来年俺大学生やしすれ違ってなかなか会えなくなくなるかもとか、心配なこととかあるやろけど、そこら辺は大丈夫やから、不安になんかさせんって!」
「違います。先輩、侑の悪口めちゃくちゃ言いまくってた所がマジで受け付けないんで付き合うとか無理です」
「ッ……?」
不意にでてきた自分の名前に心臓が跳ね上がった。
「後輩のくせに調子乗ってるだとか、尾白先輩に贔屓されててたからスタメンになれただとか。色々言ってたこと、知ってますんで」
錦花は、先輩にズケズケと言い放つ。怖いもの知らずの物言いに、こっちがヒヤヒヤする。思わず顔を手で覆う。長いため息がでた。
涼しい顔して中身チンピラやし、プライド高いし、暴力女やし、どう考えても‘’ナシ”なんか。せやけど、そんなんされたら、あかん。……めっちゃグッときてまうやん。
「っ……なんやねんお前! ふざけんなよっ!」
こっちが悶えてる間に先輩は怒り狂ったらしく、怒鳴り声が響いた。
「東京もんのブスが! 調子乗ってんちゃうぞ!」
告ったのお前やろが。
クソっ、と悪態が聞こえ、砂利を踏む足音がした。こっちに来られるとバレる。焦って覗いた先、錦花の目の前に迫った男が腕を上げた。それを見た体は勝手に飛び出していた。
「あれー、何してはるんです?」
固まってこっちを見た先輩はバツの悪そうな顔をし、錦花は嫌そうに眉をしかめた。
「告白ですか?」
手なんか出せないように、錦花の肩を組んだ。初めて触ったその細さに喉が鳴った。
「こんな事故物件、やめた方がええですよ。むっちゃ短期やし、暴力的やし、口悪いし、見た目だけですよ」
わざと貶した言い方に錦花が引き剥がしにかかってきたが、暴れられないようにぐっと力を込めた。
「せやから、ほか当たった方がええですって。ね?」
お前なんかが傷つけてええもんやない。
思いっきり睨みつけると真っ青になった先輩はよろよろと逃げ去った。最後までダサい男やな。
「ちょっと、退いて」
助けてやったというのに、心底迷惑げな錦花。普通なら怖い目にあったと怯えて、助けられたことに安心しそうなものを、こいつはどこまでもふてぶてしい。
「んー」
「んー、じゃない、邪魔。退け。戻りたいんだって」
「驚いたりとかしないんか?」
「別に。覗いてたんでしょ? わざとらしいタイミングで出てきたんだから分かるよ」
気づいたりしないんやろか。こんなに近くにおって、違和感もなんもないんやろか。
「そっちちゃうわ」
「は、どれ? 殴ろうとしてきたところ? 驚かないよ、見え見えだったし。騒いで進路潰してやろうとまで考えてたんだから」
「お前なぁ、恐怖心とかないんか」
なんも、ないんか。俺はこんなにドキドキさせられとんのに。
「ねぇ、邪魔なんだけど」
それらしい反応はひとつも見せずに、俺からしたら小学生に押されているくらいの抵抗を続ける錦花。脈ナシどころか脈ってなんですかって感じやん。
じっと見つめていると錦花の抵抗がいきなり止まった。固まったように停止し、錦花は不意に顔をあげてきた。
目が、合った。瞳の色がくっきり見えるほどに。錦花の白かった肌が一瞬で朱色に染まる。
もっと見たい、そう思う前に顔は逸らされた。
「あつむ、助かった、ありがと。大丈夫、だから退いて」
覇気のない、たどたどしい言葉。
衝撃のあまり言われるがまま離した体から錦花サッとすり抜けてしまう。
「先、戻るから」
そのままスタスタと行ってしまい、裏庭にただ一人残される。静寂の中、蘇る錦花の表情にじわじわと顔が赤くなっていく。
10分にも満たない出来事であんな女に惚れるなんて、認めたくない。それでも、自分を庇って毅然と歯向かう姿、余裕の崩れた赤い顔に動悸がする。それが答えだった。
「……どないしてやろうか」
練習できないとはいえ、自分も戻らないとサムにサボりだとからかわれる。分かっていても動けずに少しの間佇んでいた。
錦花の近くで腰を下ろしてコートを見つめても、うずうずとした気持ちは収まるどころか増すだけだ。
横の錦花が動くと同時に体育館の扉が開く音がした。後ろを向くと、引退した3年のベンチセッターだった男が来ている。会話は聞こえなかったが、先輩が引っ込むと錦花は靴を履き替えて体育館から出ていった。
ポンコツがなんの用や。
柄にもなく気にかかって、ワンテンポ遅れて錦花の跡を付けた。
体育館を裏手に回った行き止まりで、前を行く錦花の足音は止まった。同じく足を止め、バレないように体育館の角で息を潜める。死角からチラリと覗くと、錦花は先輩と対峙していた。
「忙しいとこ呼び出してすまんな」
「まぁ、ちょっとの間なら」
「すぐ済むから……ふぅ」
気味の悪い変な間とため息。ここまでお膳立てされてれば誰でも気づく。
「俺、仲堂のことが好きや。付き合ぉてほし」
「無理です」
「ブッ」
ダッッッサ。
思わず吹きそうになって口を抑えた。
告白しよった! ほんで振られとるし!
「いや……いやいや、早い早い! 断るん早いって。もうちょい考えてみてや。せめて友達からとかあるやん、な? そらな、元選手とマネージャーが付き合ぉとるのは周りに気まずいとか、来年俺大学生やしすれ違ってなかなか会えなくなくなるかもとか、心配なこととかあるやろけど、そこら辺は大丈夫やから、不安になんかさせんって!」
「違います。先輩、侑の悪口めちゃくちゃ言いまくってた所がマジで受け付けないんで付き合うとか無理です」
「ッ……?」
不意にでてきた自分の名前に心臓が跳ね上がった。
「後輩のくせに調子乗ってるだとか、尾白先輩に贔屓されててたからスタメンになれただとか。色々言ってたこと、知ってますんで」
錦花は、先輩にズケズケと言い放つ。怖いもの知らずの物言いに、こっちがヒヤヒヤする。思わず顔を手で覆う。長いため息がでた。
涼しい顔して中身チンピラやし、プライド高いし、暴力女やし、どう考えても‘’ナシ”なんか。せやけど、そんなんされたら、あかん。……めっちゃグッときてまうやん。
「っ……なんやねんお前! ふざけんなよっ!」
こっちが悶えてる間に先輩は怒り狂ったらしく、怒鳴り声が響いた。
「東京もんのブスが! 調子乗ってんちゃうぞ!」
告ったのお前やろが。
クソっ、と悪態が聞こえ、砂利を踏む足音がした。こっちに来られるとバレる。焦って覗いた先、錦花の目の前に迫った男が腕を上げた。それを見た体は勝手に飛び出していた。
「あれー、何してはるんです?」
固まってこっちを見た先輩はバツの悪そうな顔をし、錦花は嫌そうに眉をしかめた。
「告白ですか?」
手なんか出せないように、錦花の肩を組んだ。初めて触ったその細さに喉が鳴った。
「こんな事故物件、やめた方がええですよ。むっちゃ短期やし、暴力的やし、口悪いし、見た目だけですよ」
わざと貶した言い方に錦花が引き剥がしにかかってきたが、暴れられないようにぐっと力を込めた。
「せやから、ほか当たった方がええですって。ね?」
お前なんかが傷つけてええもんやない。
思いっきり睨みつけると真っ青になった先輩はよろよろと逃げ去った。最後までダサい男やな。
「ちょっと、退いて」
助けてやったというのに、心底迷惑げな錦花。普通なら怖い目にあったと怯えて、助けられたことに安心しそうなものを、こいつはどこまでもふてぶてしい。
「んー」
「んー、じゃない、邪魔。退け。戻りたいんだって」
「驚いたりとかしないんか?」
「別に。覗いてたんでしょ? わざとらしいタイミングで出てきたんだから分かるよ」
気づいたりしないんやろか。こんなに近くにおって、違和感もなんもないんやろか。
「そっちちゃうわ」
「は、どれ? 殴ろうとしてきたところ? 驚かないよ、見え見えだったし。騒いで進路潰してやろうとまで考えてたんだから」
「お前なぁ、恐怖心とかないんか」
なんも、ないんか。俺はこんなにドキドキさせられとんのに。
「ねぇ、邪魔なんだけど」
それらしい反応はひとつも見せずに、俺からしたら小学生に押されているくらいの抵抗を続ける錦花。脈ナシどころか脈ってなんですかって感じやん。
じっと見つめていると錦花の抵抗がいきなり止まった。固まったように停止し、錦花は不意に顔をあげてきた。
目が、合った。瞳の色がくっきり見えるほどに。錦花の白かった肌が一瞬で朱色に染まる。
もっと見たい、そう思う前に顔は逸らされた。
「あつむ、助かった、ありがと。大丈夫、だから退いて」
覇気のない、たどたどしい言葉。
衝撃のあまり言われるがまま離した体から錦花サッとすり抜けてしまう。
「先、戻るから」
そのままスタスタと行ってしまい、裏庭にただ一人残される。静寂の中、蘇る錦花の表情にじわじわと顔が赤くなっていく。
10分にも満たない出来事であんな女に惚れるなんて、認めたくない。それでも、自分を庇って毅然と歯向かう姿、余裕の崩れた赤い顔に動悸がする。それが答えだった。
「……どないしてやろうか」
練習できないとはいえ、自分も戻らないとサムにサボりだとからかわれる。分かっていても動けずに少しの間佇んでいた。
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