錦上添花
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猛暑の中で行われた8月のインターハイ。
先輩達は素晴らしい結果を残した。それに当てられて後輩たちもやる気十分。インハイ終了早々、鉄は熱いうちに打て、と言わんばかりにこれから体育館で他校との練習試合が始まる。
選手たちが準備をしながら士気を高めている一方で、私の機嫌は急転直下をキメていた。例えるなら、洗い忘れの熟成発酵したビブスを「すまん!」の一言で渡されたような。そのくらいのことが起きている。
「嬢ちゃん? やっぱ嬢ちゃんや! わぁ、ひっさしぶりやん! 懐かし〜。……あれ、でもなんでこっちおるん? 」
そう、私の横で喋りまくる捻挫くん、こと紀野がデカイ声で昔のあだ名を呼んでいるという最悪な事態が。
ここで再会するなんて想像できるか。固まっている私に紀野は尚も話しかけてくる。
「あれ、俺んこと忘れとる?紀野 や、紀野。きのっち。ほら、一緒に中学生倒したやん。戦友を忘れるん酷ない? 」
即刻他人のフリをしたいが誤魔化しようがない。答えない方がしつこそうだ。
「忘れてない忘れてない。覚えてるから」
不安げな顔がパァと明るくなった。犬か。
「よかったー! 嬢ちゃんに忘れられたら号泣してまうところやったわ。……んで、なんでここにおるん?」
「……家の都合でこっちに越してきた」
「えっ、おじさんとおばさん、離婚したん!?」
他校に来てもこれだけ素であるということは、内弁慶は直ったらしい。なのに、声のデカさとKYは変わらないようだ。
「してない。あの2人が離婚とかありえないし。てか、離婚以外にも引っ越す理由あるでしょ」
「あ、そうやんな。てっきり嬢ちゃんも俺ん家と同じなんかと思ってもうたわ」
そのあだ名で呼ぶのほんとやめて欲しい。新天地に浸透させたくない。
「いやぁ、稲荷崎か。遠いなぁ。俺んとこもっと北やから、次いつ会うか分からへんな。練習試合組めたんもたまたまやって聞いたし、今のうちにいっぱい喋ろーや」
「えぇ……」
後にしてくれ! ていうか、喋ってないで準備しなよ。こっちだって積もる話が無くはないけど、この状況で話したくない。
忙しいからまた後でね、と切り上げよう。言いかけた時、右から怒号が聞こえてきた。
「紀野ぉ! 茶ぁシバきにきたんちゃうんやぞ! アホ言うてへんで動きや! お前をシバくぞ!」
「ヒェッ、すんません!! あかん、先輩に怒られるから、またな!」
坊主頭の先輩による鶴の一声で紀野の肩が跳ねた。余程怖いのか、青ざめた顔で声の方向へ駆けていく。
「はぁ……」
その後ろ姿に長いため息がでる。紀野は別に嫌いじゃない。喋ってて面白いと思う。あのKYなところは昔から好かないけど。私のあだ名を「金持ちっぽくていいよね」とプラスに捉えて呼び方を直してくれないのだ。意味的にはマイナスなんだけど。本人が嫌がってるんだからやめろと何回も思った。
それにしても引っ越した旧友とエンカウントとは。世間は狭いというが、本当らしい。まぁ、元気そうでなにより。
嵐が去り、私だけが取り残された。
――さっきの会話だけ無かったことにならないかな。
周りがあの大声を聞いてなかったなんてありえない。絶対無理な願いは真横に立ったデカイ男が破壊した。
「“嬢ちゃん”、さっきの友達?」
そうだよな、隙を逃さず絡んでくるよな、角名は。
このうんざりした表情が見えないのかな。
「……あれが捻挫くんだよ。あいつ、中1の時に関西に引っ越してさ。それきりだったんだけど、たった今再会した」
「へぇ。偶然ってあるんだね」
ヘラヘラした顔は明らかに物言いたげだ。
「ねぇ、嬢ちゃんて……」
「角名。さっき油売りすぎちゃった分取り返さないとだから、私急ぐね。じゃ」
最後まで聞くことなくバインダーを取りにスタスタと歩いた。雑談ばかりしている暇はないのは事実だ。
ウォーミングアップが終われば試合が始まる。試合に集中してさっきのことなど忘れてしまえ。
紀野のいる高校は予選では当たらなかったものの、稲荷崎と練習試合を組めるくらいには手強い。レシーブに重きを置いていて、選手全員満遍なく玉を拾える。正面切っての力勝負には強いらしく、全体のオープン強打得点率は通常の2/3といったところだった。途中、交代で角名を入れてからは優位に立てるようになった。あの広い打点のスパイクには対応しきれないようだ。
試合は終了し、休憩を挟んで次はミニゲーム。紀野と話すタイミングは全くない。ここぞとばかりに詰め込まれるハードな対人にバテる選手たちを観察しながら、仕事を進めた。
「残念なんやけど、はよ帰らなあかんねん。高速が事故渋滞でとんでもない事になっとるから、迂回すんのに時間かかるんやって」
ミニゲームが終了し、紀野は至極残念そうに伝えに来た。
お喋りはまた今度な、と連絡先の交換だけして肩を落としたまま片付けに戻っていった。
ミニゲーム終盤に相手の監督たちが慌てた様子だったのは、それのせいか。
彼らはありがとうございました、と慇懃に挨拶をして素早くバスで去っていった。
「嬢ちゃん、あれ捻挫くんなんやって? おもろすぎやろ。ブロック決まったあとの雄叫びライオンキングかと思ったわ」
汗をタオルで拭きながら近寄ってきた治はナチュラルにあだ名で呼んできた。角名に聞いたのか、紀野の話をしてくる。
「ビブラート効いてて変だよね」
「あと、声がデカすぎて作戦筒抜けそうになって、なんべんもどつかれとった。嬢ちゃんも変やけど、その友達もみんな変なんか?」
1回スルーしたのにも関わらず果敢に攻めてくる。
「嬢ちゃん呼び、やめてくれる?」
北さんがいるからどつかないだけで命拾いしてるのは治なんだぞ。
その思いを込めて睨み上げると若干たじろいだ。そうそう、そのまま手をひけ。
「嬢ちゃんてガラやないやろ。せいぜいヤンキーかチンピラや」
今度は侑がやってきて値踏みするような目つきで見てきた。喧嘩なら買うよ。
「侑、それは可哀想やって。ほら、極道の娘みたいやって意味かもしれんやろ」
「それフォローになってなくない?」
銀も角名も流れに乗って集まってきた。話を広げるな。こんなことに気を取られてないで、反省会とかすることあるでしょ。
「社長の娘さんって可能性もあるんやないか?」
「私服がそれっぽいから呼ばれとる可能性もあるで」
北さん、尾白さんまでも止めるどころか加わってきた。こんなことに関心を持たないで欲しい。
――あの紀野 、医者行って声のボリューム半分にしてもらえばいいのに。
最悪を通り越して帰りたい。嫌な汗が背中に流れた。あだ名の由来は言いたくないが。
「それで、どれが正解なん?」
それでも、北さんに聞かれたら正直に答えるしかない。
「……どれも違います。そもそも、お嬢様、という意味で呼ばれてるんじゃないです」
「じゃあなんで嬢ちゃん?」
銀の素直な疑念が痛い。
「夏目漱石の坊ちゃんからきてます」
「坊ちゃん?」
分からないのか侑と治が首を傾げた。
「無鉄砲な主人公、坊ちゃんが教師になって色んなことに立ち向かう物語や」
北さんの解説で納得したのか怪しい。
「その坊ちゃんがどうしたん」
「小2の時の担任が、私のことをまるで坊ちゃん、いや、女だから嬢ちゃんだ、とクラスメイトの前で言ったんです。それからあだ名が嬢ちゃんになりました」
「仲堂が坊っちゃんみたいってそんなわけ……ない、やろ? 多分」
「アランくん、こいつが俺にしたこと忘れてへんよな?」
「ツムをノータイムで殴る女やで。坊ちゃんがどんなんか知らんけど、多分あっとるんや」
この双子、尾白さんに余計なこと言うなよ。
「業腹ですがその通りです。学校から飛び降りる、のくだりがまんま私だと笑われました」
「飛び降りる?」
「学校の2階から飛び降りました。当時、飛び降りる高さを競う競技が流行ってまして。ジャングルジムのてっぺんから飛び降りた記録を持っている男子に煽られたので、つい咄嗟に。下が花壇だったので骨折で済みました」
なるべく平静に簡潔に話したら、静まり返った。だから言いたくなかったんだ。下が花壇の柔らかい土なのは知ってた。死ぬことは無いだろうと踏む冷静さはあったが、それよりも短期の方が勝ってた。我ながらバカ。
「仲堂」
「はい」
「危ないことはしたらあかんで。挑発にのってもええ事なんかない。命は大事にし」
「……分かりました」
さすがに今やるほどの無鉄砲さはもうない。
尾白さんの苦笑いがちょっと堪えた。
体育館を出て、飛び回る虫を避けながら歩いた。双子はまだイジる気なのかしつこく話しかけてくる。
「「なー嬢ちゃん」」
「それで呼ばないでよ」
「ムテッポーは事実やろ。俺でもアレは無いわ」
「理由なんか気にせんと、お姫様っぽくて可愛ええって思っとけばええやん」
生き生きしてる侑と治ウザ。
「その無鉄砲の証だから嫌なんだよ。知ってて素直に喜べるか。もういい。お返しに侑はATM って呼ぶ。治はエクセルな。SUM 関数ってのがあるから」
「「はぁ!?」」
「ぷッ、ダサッ」
吹いた角名は双子に睨まれるも銀の肩を掴んでニヤっと笑った。
「俺らは錦花ちゃんって呼ぶから、変なあだ名で呼ばれてなよ。ね、銀」
「お、おう。俺は呼ばんで。……錦花」
笑顔引きつってるけど。巻き込まれて可哀想。
「角名ぁ、ズルいで! いの一番に弄りに行ったんお前やろ」
「うるさいよATM」
「そうやぞATM。近所迷惑や。錦花、俺は変なあだ名で呼ばんからな」
治の手のひら返し早。
「サムまで裏切りよって。……錦花分かったからATMはやめぇ、ほんまダサい」
3対1の劣勢を悟ったか、マジで嫌なのか侑は諦めたらしい。
――なぜ全員名前呼び。今まで通り苗字でよくね?
別にいっか。嬢ちゃん呼びじゃなければなんでもいいや。
先輩達は素晴らしい結果を残した。それに当てられて後輩たちもやる気十分。インハイ終了早々、鉄は熱いうちに打て、と言わんばかりにこれから体育館で他校との練習試合が始まる。
選手たちが準備をしながら士気を高めている一方で、私の機嫌は急転直下をキメていた。例えるなら、洗い忘れの熟成発酵したビブスを「すまん!」の一言で渡されたような。そのくらいのことが起きている。
「嬢ちゃん? やっぱ嬢ちゃんや! わぁ、ひっさしぶりやん! 懐かし〜。……あれ、でもなんでこっちおるん? 」
そう、私の横で喋りまくる捻挫くん、こと紀野がデカイ声で昔のあだ名を呼んでいるという最悪な事態が。
ここで再会するなんて想像できるか。固まっている私に紀野は尚も話しかけてくる。
「あれ、俺んこと忘れとる?
即刻他人のフリをしたいが誤魔化しようがない。答えない方がしつこそうだ。
「忘れてない忘れてない。覚えてるから」
不安げな顔がパァと明るくなった。犬か。
「よかったー! 嬢ちゃんに忘れられたら号泣してまうところやったわ。……んで、なんでここにおるん?」
「……家の都合でこっちに越してきた」
「えっ、おじさんとおばさん、離婚したん!?」
他校に来てもこれだけ素であるということは、内弁慶は直ったらしい。なのに、声のデカさとKYは変わらないようだ。
「してない。あの2人が離婚とかありえないし。てか、離婚以外にも引っ越す理由あるでしょ」
「あ、そうやんな。てっきり嬢ちゃんも俺ん家と同じなんかと思ってもうたわ」
そのあだ名で呼ぶのほんとやめて欲しい。新天地に浸透させたくない。
「いやぁ、稲荷崎か。遠いなぁ。俺んとこもっと北やから、次いつ会うか分からへんな。練習試合組めたんもたまたまやって聞いたし、今のうちにいっぱい喋ろーや」
「えぇ……」
後にしてくれ! ていうか、喋ってないで準備しなよ。こっちだって積もる話が無くはないけど、この状況で話したくない。
忙しいからまた後でね、と切り上げよう。言いかけた時、右から怒号が聞こえてきた。
「紀野ぉ! 茶ぁシバきにきたんちゃうんやぞ! アホ言うてへんで動きや! お前をシバくぞ!」
「ヒェッ、すんません!! あかん、先輩に怒られるから、またな!」
坊主頭の先輩による鶴の一声で紀野の肩が跳ねた。余程怖いのか、青ざめた顔で声の方向へ駆けていく。
「はぁ……」
その後ろ姿に長いため息がでる。紀野は別に嫌いじゃない。喋ってて面白いと思う。あのKYなところは昔から好かないけど。私のあだ名を「金持ちっぽくていいよね」とプラスに捉えて呼び方を直してくれないのだ。意味的にはマイナスなんだけど。本人が嫌がってるんだからやめろと何回も思った。
それにしても引っ越した旧友とエンカウントとは。世間は狭いというが、本当らしい。まぁ、元気そうでなにより。
嵐が去り、私だけが取り残された。
――さっきの会話だけ無かったことにならないかな。
周りがあの大声を聞いてなかったなんてありえない。絶対無理な願いは真横に立ったデカイ男が破壊した。
「“嬢ちゃん”、さっきの友達?」
そうだよな、隙を逃さず絡んでくるよな、角名は。
このうんざりした表情が見えないのかな。
「……あれが捻挫くんだよ。あいつ、中1の時に関西に引っ越してさ。それきりだったんだけど、たった今再会した」
「へぇ。偶然ってあるんだね」
ヘラヘラした顔は明らかに物言いたげだ。
「ねぇ、嬢ちゃんて……」
「角名。さっき油売りすぎちゃった分取り返さないとだから、私急ぐね。じゃ」
最後まで聞くことなくバインダーを取りにスタスタと歩いた。雑談ばかりしている暇はないのは事実だ。
ウォーミングアップが終われば試合が始まる。試合に集中してさっきのことなど忘れてしまえ。
紀野のいる高校は予選では当たらなかったものの、稲荷崎と練習試合を組めるくらいには手強い。レシーブに重きを置いていて、選手全員満遍なく玉を拾える。正面切っての力勝負には強いらしく、全体のオープン強打得点率は通常の2/3といったところだった。途中、交代で角名を入れてからは優位に立てるようになった。あの広い打点のスパイクには対応しきれないようだ。
試合は終了し、休憩を挟んで次はミニゲーム。紀野と話すタイミングは全くない。ここぞとばかりに詰め込まれるハードな対人にバテる選手たちを観察しながら、仕事を進めた。
「残念なんやけど、はよ帰らなあかんねん。高速が事故渋滞でとんでもない事になっとるから、迂回すんのに時間かかるんやって」
ミニゲームが終了し、紀野は至極残念そうに伝えに来た。
お喋りはまた今度な、と連絡先の交換だけして肩を落としたまま片付けに戻っていった。
ミニゲーム終盤に相手の監督たちが慌てた様子だったのは、それのせいか。
彼らはありがとうございました、と慇懃に挨拶をして素早くバスで去っていった。
「嬢ちゃん、あれ捻挫くんなんやって? おもろすぎやろ。ブロック決まったあとの雄叫びライオンキングかと思ったわ」
汗をタオルで拭きながら近寄ってきた治はナチュラルにあだ名で呼んできた。角名に聞いたのか、紀野の話をしてくる。
「ビブラート効いてて変だよね」
「あと、声がデカすぎて作戦筒抜けそうになって、なんべんもどつかれとった。嬢ちゃんも変やけど、その友達もみんな変なんか?」
1回スルーしたのにも関わらず果敢に攻めてくる。
「嬢ちゃん呼び、やめてくれる?」
北さんがいるからどつかないだけで命拾いしてるのは治なんだぞ。
その思いを込めて睨み上げると若干たじろいだ。そうそう、そのまま手をひけ。
「嬢ちゃんてガラやないやろ。せいぜいヤンキーかチンピラや」
今度は侑がやってきて値踏みするような目つきで見てきた。喧嘩なら買うよ。
「侑、それは可哀想やって。ほら、極道の娘みたいやって意味かもしれんやろ」
「それフォローになってなくない?」
銀も角名も流れに乗って集まってきた。話を広げるな。こんなことに気を取られてないで、反省会とかすることあるでしょ。
「社長の娘さんって可能性もあるんやないか?」
「私服がそれっぽいから呼ばれとる可能性もあるで」
北さん、尾白さんまでも止めるどころか加わってきた。こんなことに関心を持たないで欲しい。
――あの
最悪を通り越して帰りたい。嫌な汗が背中に流れた。あだ名の由来は言いたくないが。
「それで、どれが正解なん?」
それでも、北さんに聞かれたら正直に答えるしかない。
「……どれも違います。そもそも、お嬢様、という意味で呼ばれてるんじゃないです」
「じゃあなんで嬢ちゃん?」
銀の素直な疑念が痛い。
「夏目漱石の坊ちゃんからきてます」
「坊ちゃん?」
分からないのか侑と治が首を傾げた。
「無鉄砲な主人公、坊ちゃんが教師になって色んなことに立ち向かう物語や」
北さんの解説で納得したのか怪しい。
「その坊ちゃんがどうしたん」
「小2の時の担任が、私のことをまるで坊ちゃん、いや、女だから嬢ちゃんだ、とクラスメイトの前で言ったんです。それからあだ名が嬢ちゃんになりました」
「仲堂が坊っちゃんみたいってそんなわけ……ない、やろ? 多分」
「アランくん、こいつが俺にしたこと忘れてへんよな?」
「ツムをノータイムで殴る女やで。坊ちゃんがどんなんか知らんけど、多分あっとるんや」
この双子、尾白さんに余計なこと言うなよ。
「業腹ですがその通りです。学校から飛び降りる、のくだりがまんま私だと笑われました」
「飛び降りる?」
「学校の2階から飛び降りました。当時、飛び降りる高さを競う競技が流行ってまして。ジャングルジムのてっぺんから飛び降りた記録を持っている男子に煽られたので、つい咄嗟に。下が花壇だったので骨折で済みました」
なるべく平静に簡潔に話したら、静まり返った。だから言いたくなかったんだ。下が花壇の柔らかい土なのは知ってた。死ぬことは無いだろうと踏む冷静さはあったが、それよりも短期の方が勝ってた。我ながらバカ。
「仲堂」
「はい」
「危ないことはしたらあかんで。挑発にのってもええ事なんかない。命は大事にし」
「……分かりました」
さすがに今やるほどの無鉄砲さはもうない。
尾白さんの苦笑いがちょっと堪えた。
体育館を出て、飛び回る虫を避けながら歩いた。双子はまだイジる気なのかしつこく話しかけてくる。
「「なー嬢ちゃん」」
「それで呼ばないでよ」
「ムテッポーは事実やろ。俺でもアレは無いわ」
「理由なんか気にせんと、お姫様っぽくて可愛ええって思っとけばええやん」
生き生きしてる侑と治ウザ。
「その無鉄砲の証だから嫌なんだよ。知ってて素直に喜べるか。もういい。お返しに侑は
「「はぁ!?」」
「ぷッ、ダサッ」
吹いた角名は双子に睨まれるも銀の肩を掴んでニヤっと笑った。
「俺らは錦花ちゃんって呼ぶから、変なあだ名で呼ばれてなよ。ね、銀」
「お、おう。俺は呼ばんで。……錦花」
笑顔引きつってるけど。巻き込まれて可哀想。
「角名ぁ、ズルいで! いの一番に弄りに行ったんお前やろ」
「うるさいよATM」
「そうやぞATM。近所迷惑や。錦花、俺は変なあだ名で呼ばんからな」
治の手のひら返し早。
「サムまで裏切りよって。……錦花分かったからATMはやめぇ、ほんまダサい」
3対1の劣勢を悟ったか、マジで嫌なのか侑は諦めたらしい。
――なぜ全員名前呼び。今まで通り苗字でよくね?
別にいっか。嬢ちゃん呼びじゃなければなんでもいいや。
