錦上添花
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あの話の翌日から侑が軟化した。
刺々しい態度が一変、普通になった。体育館を歩き回っていても小言を言われず、選手に声をかけても睨まれず、頼まれ事を後回しにしても「分かった」と引き下がる。物を渡しても素直に受け取るし、あっちが渡して来る時も投げられることはなくなった。あの侑が不気味なまでに大人しい。
これはつまり、侑が戦意喪失したということだろう。
――勝った。私の完全勝利。
確信した勝利に酔いしれてご機嫌になっていたら侑から変な目で見られた。
部活がスムーズになってからしばらく。今日も今日とて夏休み秒読みの猛暑が校庭の砂を焼いている。エアコンの快適空間の中でいつも通りのお昼休み。ランチバックからスープジャーを取り出してフタを開ける。いただきます、と大根を頬張ると侑が机を叩いてこっちを指さした。
「お前季節考えろや! 夏やぞ!? 7月におでん食うなや、見てるこっちが暑いねん! しかもそれ3日目やろ!」
「「「(言った)」」」
「同じ鍋じゃない、一から作ったやつ。いいじゃん、冷房効いてて涼しいんだから」
「問題はそこちゃうねん」
侑はまた机を叩いた。夏におでんを食べるなというルールはないのだから、文句を言われる筋合いはない。煮物食べてるとでも思ってスルーすればいいのに。
「しょうがないじゃん。お母さんが遠出してて兄貴がご飯作ってるんだから。あと2日はこれだよ」
兄の存在は言ってなかったから、銀は驚いた顔をした。
「仲堂さんお兄さんおるんや。え、じゃあ、お兄さんおでんしか作れへんの?」
「いや、料理は出来るけど男飯って感じで学校に持っていきたくないから、煮るだけのおでん作ってもらってる」
「ほんなら自分でちゃんと作ればええやん」
ムスッとした侑。
「部活で朝夜早いからそんな時間ないし」
朝も夜もギリギリまで練習してるから片付け手伝うことも多いのに、よくも軽々しく言ってくれる。今日も北さんにドヤされればいいのに。
「でも毎日は飽きない?」
「お昼だけだし、おでんの素が毎回違うから実質別ものだよ。だから平気」
今日はチゲ風だ。角名に中身を見せたら1口くれ、と治に大根を横取りされた。別にいいけど。
「家ではお兄さんのご飯食べてるん?」
「うん」
あいつ、なんにでもニンニクとしょうが入れる脳みそ二郎系なんだよな。昨日はニンニクニラマシマシ餃子作ってたし。私は事前に頼んでた普通のやつ食べたけど。
はんぺんを噛むとじゅわりと辛味の効いた出汁が舌に広がる。二郎系にできない料理だと普通に作れるんだけどな。
「お兄さんどんな人なの?」
「3つ上で、今は大学生。写真見る?」
スマホのLINEを開く。いい感じに加工して、と送り付けられたまま無視していたボディビルダーばりのポーズ写真を見せると4人は口々にゴツイ、と言い出した。
「ゴッツ! プロレスでもやっとるんか」
「厳ついな。ほんでこれ何のポーズなんやろ」
「腕も足も太っといなぁ。この人の作る飯食ってみたいわ」
「錦花ちゃんとはあんまり似てないんだね。お兄さんはボディビルダーでも目指してるの?」
角名の疑問に思わず笑った。たしかに、この写真だとどう見てもボディビルダーにしか見えない。けど、実際は全く関係ない。
「ううん、小学校の先生」
「先生!? この見た目で!?」
物凄くびっくりした銀のツッコミが炸裂した。
「どう見ても体育会系やろ。この筋肉は何のために育てたんや」
治の疑いはもっともだ。
「高校の軽音楽部でギターやっててさ、安定して持つために筋トレ始めたらハマっちゃって、気づけばこうなってたんだって。あくまで趣味だから、職業にはしないんだってさ」
「そうなんや。チョークよりダンベルの方が似合う思うけどな」
「ああ、だから後ろにギターが写ってるんだ」
角名が拡大したところには青のエレキギターが写っている。
「これ弾く用なんか。武器やと思ったわ」
「それっぽく見えるけど狩猟笛じゃないから」
侑から見ても楽器じゃなくて武器に見えるんだ。ボケなんだろうけど。
「お前モンハン分かるんか」
「お下がりのカセットでやってたから」
「ほぉー意外やな」
こっちのセリフだよ。ゲームやる暇あるならトス練するわ、とか言いそうだったのに。バレー一辺倒のバレーバカではなかったのか。
あの時の侑はどうにも憎たらしかったが慣れてしまえばどうてことない。やかましいアホだ。バレーへの姿勢も認めなくもない。
敵 のない生活に内心喜色満面になりながら、チャイムがなるまで雑談に興じた。
刺々しい態度が一変、普通になった。体育館を歩き回っていても小言を言われず、選手に声をかけても睨まれず、頼まれ事を後回しにしても「分かった」と引き下がる。物を渡しても素直に受け取るし、あっちが渡して来る時も投げられることはなくなった。あの侑が不気味なまでに大人しい。
これはつまり、侑が戦意喪失したということだろう。
――勝った。私の完全勝利。
確信した勝利に酔いしれてご機嫌になっていたら侑から変な目で見られた。
部活がスムーズになってからしばらく。今日も今日とて夏休み秒読みの猛暑が校庭の砂を焼いている。エアコンの快適空間の中でいつも通りのお昼休み。ランチバックからスープジャーを取り出してフタを開ける。いただきます、と大根を頬張ると侑が机を叩いてこっちを指さした。
「お前季節考えろや! 夏やぞ!? 7月におでん食うなや、見てるこっちが暑いねん! しかもそれ3日目やろ!」
「「「(言った)」」」
「同じ鍋じゃない、一から作ったやつ。いいじゃん、冷房効いてて涼しいんだから」
「問題はそこちゃうねん」
侑はまた机を叩いた。夏におでんを食べるなというルールはないのだから、文句を言われる筋合いはない。煮物食べてるとでも思ってスルーすればいいのに。
「しょうがないじゃん。お母さんが遠出してて兄貴がご飯作ってるんだから。あと2日はこれだよ」
兄の存在は言ってなかったから、銀は驚いた顔をした。
「仲堂さんお兄さんおるんや。え、じゃあ、お兄さんおでんしか作れへんの?」
「いや、料理は出来るけど男飯って感じで学校に持っていきたくないから、煮るだけのおでん作ってもらってる」
「ほんなら自分でちゃんと作ればええやん」
ムスッとした侑。
「部活で朝夜早いからそんな時間ないし」
朝も夜もギリギリまで練習してるから片付け手伝うことも多いのに、よくも軽々しく言ってくれる。今日も北さんにドヤされればいいのに。
「でも毎日は飽きない?」
「お昼だけだし、おでんの素が毎回違うから実質別ものだよ。だから平気」
今日はチゲ風だ。角名に中身を見せたら1口くれ、と治に大根を横取りされた。別にいいけど。
「家ではお兄さんのご飯食べてるん?」
「うん」
あいつ、なんにでもニンニクとしょうが入れる脳みそ二郎系なんだよな。昨日はニンニクニラマシマシ餃子作ってたし。私は事前に頼んでた普通のやつ食べたけど。
はんぺんを噛むとじゅわりと辛味の効いた出汁が舌に広がる。二郎系にできない料理だと普通に作れるんだけどな。
「お兄さんどんな人なの?」
「3つ上で、今は大学生。写真見る?」
スマホのLINEを開く。いい感じに加工して、と送り付けられたまま無視していたボディビルダーばりのポーズ写真を見せると4人は口々にゴツイ、と言い出した。
「ゴッツ! プロレスでもやっとるんか」
「厳ついな。ほんでこれ何のポーズなんやろ」
「腕も足も太っといなぁ。この人の作る飯食ってみたいわ」
「錦花ちゃんとはあんまり似てないんだね。お兄さんはボディビルダーでも目指してるの?」
角名の疑問に思わず笑った。たしかに、この写真だとどう見てもボディビルダーにしか見えない。けど、実際は全く関係ない。
「ううん、小学校の先生」
「先生!? この見た目で!?」
物凄くびっくりした銀のツッコミが炸裂した。
「どう見ても体育会系やろ。この筋肉は何のために育てたんや」
治の疑いはもっともだ。
「高校の軽音楽部でギターやっててさ、安定して持つために筋トレ始めたらハマっちゃって、気づけばこうなってたんだって。あくまで趣味だから、職業にはしないんだってさ」
「そうなんや。チョークよりダンベルの方が似合う思うけどな」
「ああ、だから後ろにギターが写ってるんだ」
角名が拡大したところには青のエレキギターが写っている。
「これ弾く用なんか。武器やと思ったわ」
「それっぽく見えるけど狩猟笛じゃないから」
侑から見ても楽器じゃなくて武器に見えるんだ。ボケなんだろうけど。
「お前モンハン分かるんか」
「お下がりのカセットでやってたから」
「ほぉー意外やな」
こっちのセリフだよ。ゲームやる暇あるならトス練するわ、とか言いそうだったのに。バレー一辺倒のバレーバカではなかったのか。
あの時の侑はどうにも憎たらしかったが慣れてしまえばどうてことない。やかましいアホだ。バレーへの姿勢も認めなくもない。
