錦上添花
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「オッホホ!!」
冷房の効いた教室内に角名の笑い声が響く。奇妙な笑い声に他の生徒の視線が集まった。治は飯を頬張ったまま真顔。侑はぶすくれてそっぽを向いている。
「それで侑は大人しくここにおるんか」
苦笑いの銀島の視線の先には素知らぬ顔で唐揚げを頬張る錦花。
一悶着の張本人達を含むバレー部1年が同じ教室に集い、朝の顛末を話していた。
「…………」
「アランくんにも次に“マネ”が問題起こしたらヤバいから煽るなっちゅーて釘を刺されたんやって。北さんにも目ぇつけられてもうたし」
侑は不快そうに眉を顰めたまま無言を貫いている。代わりに返事をした治の話に銀島はへぇ、と気の抜けた声を漏らした。
銀島も角名も経緯には納得した。が、目の前で呑気にご飯を食べている仲堂が実力行使に出たのが信じられなかった。喧嘩腰の侑に対して常に喧嘩を買っているのは見ていたが、まさかそこまでとは。
「仲堂さんてホンマにヤンキーやないんよな?」
治はまだ疑っていた。大人しく生きてきた女子は侑を躊躇いもなく殴る度胸も北の眼力をものともしない胆力なぞ持ち合わせていない。仲堂がただの女子でないのはもう分かっていた。
錦花はなんでもないように涼しい顔をしている。
「違うってば。売られた喧嘩を買うだけだよ、舐められるの死ぬほど嫌いだから」
あっさり吐かれた言葉はヤンキーが言うセリフである。
「人はそれをヤンキー言うんやで」
みんなが思ったことを銀島が言った。
不良扱いにムッとしたのか、錦花は強めに言い返した。
「ヤンキーじゃないって。たしかに、スカートめくり常習犯のズボンを学年集会で下ろしたりとか、私のテストの点数バラしたやつが塾サボってること親にチクッたり、厨二病発症した激ウザ論破野郎を詰めたりとか色々してたけど……。それは全部報復だから」
「がっつりやり返しとんな」
「報復しとる時点で思考がヤンキーや」
治と銀島が即座にツッコんだ。
「ウケる。倒した奴は仲間にするの?」
「しないよ。もともと学年全員知り合いみたいなもんだし。だんだん周りもちょっかいかけてこなくなったから、今日みたいにやり返したのなんて小5の時に校長室で土下座して以来だし」
笑っていた角名の顔が凍った。双子も銀島も手が止まっている。
「土下座って、何したの?」
微妙そうな角名の表情。錦花は後悔した。
あー、口が滑った。東京の同級生 以外の人に話すのはマズいんだった。
「……いや、なんでも」
「おい、そこでやめるんはナシやろ」
適当に流そうとしたが、食い気味に治に咎められる。校長室で土下座なんて、一体何をやらかしたらそうなるのか。知りなくならないほうが変だ。
侑もこればかりは気になるのか錦花を横目で見ている。4つの視線が錦花に突き刺さる。
強い矢印に錦花は、遠い土地だからいっか、とバッサリ諦めた。
「話してもいいけど、これはご飯食べてる時にする話じゃないから、後でな」
♢
自主練を引き上げてボチボチ帰りだした頃。いち早く着替え終わった治にロッカールームの前で捕まった。
「で、なにがあったん?」
うわ覚えてたのかよ。あわよくばそのままスルーしようかと考えていた錦花の企みは治によって壊れた。
扉から角名、銀島、侑が出てきて追い込まれる。話さずには居られない状況になってしまった。
観念した錦花は仕方なく話し始めた。
「無闇矢鱈に人に喋んないでね。私の品性が疑われる」
観念した錦花は仕方なく話し始めた。
小5の時、小学生を狙って中学生がカツアゲしているという噂が流れた。近所の小学生がたまり場にしている神社の公園で、2人組の男子中学生が有り金を巻き上げているという。どちらも強面で体格がよく、大人に喋ったら家に行って殺す、と脅して従わせていたそうだ。
小学生から見た中学生はちょっとした大人だ。怖い人に脅されてしまえば無力な子供は黙って金を差し出して、大人に口を噤むしかない。卑劣なのは、気弱そうな子供ばかりを狙っていたことだ。律儀に脅しを守っていたことで、大人は事態を全く把握していなかった。
錦花がその存在を信じたのは、近くに住んでいた同級生が被害にあったからだ。本来お喋りなはずの同級生は、仲間に知らない友達を連れてこられて内弁慶が発動していたらしい。見事にカツアゲされた時に、ボソッと呟いた悪口を聞かれて指を捻られ、病院で診たら捻挫していたそうだ。
錦花は焦った。今は公園だけでも、いずれ範囲を拡大してくるかもしれない。もし遭遇して知らない奴に屈して金を巻上げられるなど、断じてあってはならない。
錦花は考えた。子供で結託しようにも、狙われるような弱いやつでは当てにならない。大人に真実を喋れ、と言っても、報復を怖がるだろう。実際、小学生にカツアゲするような倫理観のない獣ならばやるかもしれない。
熟考の末、結論を出した。獣の道理はすなわち力である、と。
錦花はイツメングループの4人と捻挫くんに声をかけた。実はイツメンの1人もカツアゲを食らっていたことが分かり、錦花の考えた作戦に賛同した。
「多分ね、みんな狂ってたよ。思いついた私もヤバいけど、賛成したみんなも緊張感と正義感と高揚感で狂ってたよ」
「そんなにヤバい作戦なんか」
ごくり、と銀島が喉を鳴らした。
作戦の準備はすぐに行われた。牛飼いの同級生に繋いでもらい、すぐにあるもの を集めた。
「待って、それって……」
角名が青ざめた。
「それだけじゃない。もっとエグい」
凄まじい匂いに嗚咽しながらも、錦花達はそれ を濁ったドブに運んだ。手袋、マスク、帽子、ゴーグル、服跳ね対策に被ったゴミ袋。完全防備でドブ水とそれ を練り合わせてペースト状の物体Xは生成された。
「涙と嗚咽と叫びの中で出来上がった物体Xを持って……」
「聞かんかったらよかった……」
「なんで平気な顔して語れるんや……」
ゲッソリした治と銀島。侑も引いている。
「私だって当時はしばらくご飯食べられなかったよ。もうやめる?」
「……いや、ここまで来たら最後まで聞くわ。吐きそうやけど」
「銀、こんな所でガッツ発揮しなくてもいいのに。ご飯食べられなくても知らないからね」
錦花達はカツアゲ公園に集まった。離れたところに捻挫くんを待機させて。
案の定、中学生は現れた。大量収穫でホクホク顔のそいつらに、現れた捻挫くんが物体Xを叩きつけた。凄まじい呻き声をあげて地面に転がる中学生。錦花達は持参の完全防備に着替えて、物体Xを藻掻く中学生に塗りつけた。服を捲ってズボンを脱がせ、体の隅々まで塗り尽くした。悪臭と不快な感触から逃れようとがむしゃらに動き回る様はまさに蛆虫。攻撃に加わらなかった捻挫くんがその様を笑いだした。釣られてみんな笑った。いけない事をしている罪悪感よりも、偉ぶった悪者を懲らしめる正義感と快感に酔っていた。塗るものがなくなって、のたうち回る獣を嘲笑いながら帰った。
「もちろん、やったの速攻バレたけどね。けど、カツアゲされてるところはバッチリ撮ってたし、証人なら何人もいたから喧嘩両成敗になった。ただ、あれのせいで中学生が強迫性障害になっちゃったんで、ケジメとして校長室で相手の親に土下座させられた。自分の子供がカツアゲしてたのと、小学生に復讐されたことに絶句してたよ。まぁ、親はまともだったから、こっちが悪いんでって納めてくれたけど」
元々素行が悪かったんだって。2年くらい後に、強迫性障害が治ってかえってまともな人間になったってあっちから報告されたよ。
錦花が語り終わった後、侑が聞いた。
「お前、サイコパスか?」
「違うけど。行動力が高いだけで正常だって医者が言ってた」
「精神科行ったことあるんかい」
「素で狂ってるじゃん」
矢継ぎ早に銀島と角名もツッコミをいれた。
錦花はあまりの酷い所業に事件の直後、母親に連れていかれた。結果は至って正常。ただプライドが高くて行動力も高いだけである。
「そんな言う? 昔の話だよ」
「せやけど今朝、気絶したツムの変顔ばらまこうとしてたやん」
「はぁ!? なんやそれ」
治の発言に呼び出しの真実を知らなかった侑が噛み付いた。
ガンくれる侑に錦花はしれっとした顔で答えた。
「物理的制裁はもうしないんだって。時代は社会的制裁だよ。SNSが普及してきたんだから。デジタルタトゥーのオマケ付きだよ? これなら一生苦しめられる」
侑は黙った。誰も言葉を発しなかった。
橙の暮れた道路にエンジン音だけが木霊した。
「ツムやったら糞まみれと変顔永遠に弄られるん、どっちがええん?」
「どっちもイヤに決まっとる。頭おかしいやろ、あの女」
帰宅後、治の質問に答えた侑の声に覇気はなかった。哀れなほど顔面が白い。
そらそうや、もう少しで自分が餌食になっとるところやったもんな。変顔も嫌やけど、物体Xを全身に塗りたくられるくらいなら死んだ方がマシや。
同情するでツム。喧嘩売る相手、間違えたな。
治は挙動不審な侑の姿を笑った。
冷房の効いた教室内に角名の笑い声が響く。奇妙な笑い声に他の生徒の視線が集まった。治は飯を頬張ったまま真顔。侑はぶすくれてそっぽを向いている。
「それで侑は大人しくここにおるんか」
苦笑いの銀島の視線の先には素知らぬ顔で唐揚げを頬張る錦花。
一悶着の張本人達を含むバレー部1年が同じ教室に集い、朝の顛末を話していた。
「…………」
「アランくんにも次に“マネ”が問題起こしたらヤバいから煽るなっちゅーて釘を刺されたんやって。北さんにも目ぇつけられてもうたし」
侑は不快そうに眉を顰めたまま無言を貫いている。代わりに返事をした治の話に銀島はへぇ、と気の抜けた声を漏らした。
銀島も角名も経緯には納得した。が、目の前で呑気にご飯を食べている仲堂が実力行使に出たのが信じられなかった。喧嘩腰の侑に対して常に喧嘩を買っているのは見ていたが、まさかそこまでとは。
「仲堂さんてホンマにヤンキーやないんよな?」
治はまだ疑っていた。大人しく生きてきた女子は侑を躊躇いもなく殴る度胸も北の眼力をものともしない胆力なぞ持ち合わせていない。仲堂がただの女子でないのはもう分かっていた。
錦花はなんでもないように涼しい顔をしている。
「違うってば。売られた喧嘩を買うだけだよ、舐められるの死ぬほど嫌いだから」
あっさり吐かれた言葉はヤンキーが言うセリフである。
「人はそれをヤンキー言うんやで」
みんなが思ったことを銀島が言った。
不良扱いにムッとしたのか、錦花は強めに言い返した。
「ヤンキーじゃないって。たしかに、スカートめくり常習犯のズボンを学年集会で下ろしたりとか、私のテストの点数バラしたやつが塾サボってること親にチクッたり、厨二病発症した激ウザ論破野郎を詰めたりとか色々してたけど……。それは全部報復だから」
「がっつりやり返しとんな」
「報復しとる時点で思考がヤンキーや」
治と銀島が即座にツッコんだ。
「ウケる。倒した奴は仲間にするの?」
「しないよ。もともと学年全員知り合いみたいなもんだし。だんだん周りもちょっかいかけてこなくなったから、今日みたいにやり返したのなんて小5の時に校長室で土下座して以来だし」
笑っていた角名の顔が凍った。双子も銀島も手が止まっている。
「土下座って、何したの?」
微妙そうな角名の表情。錦花は後悔した。
あー、口が滑った。
「……いや、なんでも」
「おい、そこでやめるんはナシやろ」
適当に流そうとしたが、食い気味に治に咎められる。校長室で土下座なんて、一体何をやらかしたらそうなるのか。知りなくならないほうが変だ。
侑もこればかりは気になるのか錦花を横目で見ている。4つの視線が錦花に突き刺さる。
強い矢印に錦花は、遠い土地だからいっか、とバッサリ諦めた。
「話してもいいけど、これはご飯食べてる時にする話じゃないから、後でな」
♢
自主練を引き上げてボチボチ帰りだした頃。いち早く着替え終わった治にロッカールームの前で捕まった。
「で、なにがあったん?」
うわ覚えてたのかよ。あわよくばそのままスルーしようかと考えていた錦花の企みは治によって壊れた。
扉から角名、銀島、侑が出てきて追い込まれる。話さずには居られない状況になってしまった。
観念した錦花は仕方なく話し始めた。
「無闇矢鱈に人に喋んないでね。私の品性が疑われる」
観念した錦花は仕方なく話し始めた。
小5の時、小学生を狙って中学生がカツアゲしているという噂が流れた。近所の小学生がたまり場にしている神社の公園で、2人組の男子中学生が有り金を巻き上げているという。どちらも強面で体格がよく、大人に喋ったら家に行って殺す、と脅して従わせていたそうだ。
小学生から見た中学生はちょっとした大人だ。怖い人に脅されてしまえば無力な子供は黙って金を差し出して、大人に口を噤むしかない。卑劣なのは、気弱そうな子供ばかりを狙っていたことだ。律儀に脅しを守っていたことで、大人は事態を全く把握していなかった。
錦花がその存在を信じたのは、近くに住んでいた同級生が被害にあったからだ。本来お喋りなはずの同級生は、仲間に知らない友達を連れてこられて内弁慶が発動していたらしい。見事にカツアゲされた時に、ボソッと呟いた悪口を聞かれて指を捻られ、病院で診たら捻挫していたそうだ。
錦花は焦った。今は公園だけでも、いずれ範囲を拡大してくるかもしれない。もし遭遇して知らない奴に屈して金を巻上げられるなど、断じてあってはならない。
錦花は考えた。子供で結託しようにも、狙われるような弱いやつでは当てにならない。大人に真実を喋れ、と言っても、報復を怖がるだろう。実際、小学生にカツアゲするような倫理観のない獣ならばやるかもしれない。
熟考の末、結論を出した。獣の道理はすなわち力である、と。
錦花はイツメングループの4人と捻挫くんに声をかけた。実はイツメンの1人もカツアゲを食らっていたことが分かり、錦花の考えた作戦に賛同した。
「多分ね、みんな狂ってたよ。思いついた私もヤバいけど、賛成したみんなも緊張感と正義感と高揚感で狂ってたよ」
「そんなにヤバい作戦なんか」
ごくり、と銀島が喉を鳴らした。
作戦の準備はすぐに行われた。牛飼いの同級生に繋いでもらい、すぐに
「待って、それって……」
角名が青ざめた。
「それだけじゃない。もっとエグい」
凄まじい匂いに嗚咽しながらも、錦花達は
「涙と嗚咽と叫びの中で出来上がった物体Xを持って……」
「聞かんかったらよかった……」
「なんで平気な顔して語れるんや……」
ゲッソリした治と銀島。侑も引いている。
「私だって当時はしばらくご飯食べられなかったよ。もうやめる?」
「……いや、ここまで来たら最後まで聞くわ。吐きそうやけど」
「銀、こんな所でガッツ発揮しなくてもいいのに。ご飯食べられなくても知らないからね」
錦花達はカツアゲ公園に集まった。離れたところに捻挫くんを待機させて。
案の定、中学生は現れた。大量収穫でホクホク顔のそいつらに、現れた捻挫くんが物体Xを叩きつけた。凄まじい呻き声をあげて地面に転がる中学生。錦花達は持参の完全防備に着替えて、物体Xを藻掻く中学生に塗りつけた。服を捲ってズボンを脱がせ、体の隅々まで塗り尽くした。悪臭と不快な感触から逃れようとがむしゃらに動き回る様はまさに蛆虫。攻撃に加わらなかった捻挫くんがその様を笑いだした。釣られてみんな笑った。いけない事をしている罪悪感よりも、偉ぶった悪者を懲らしめる正義感と快感に酔っていた。塗るものがなくなって、のたうち回る獣を嘲笑いながら帰った。
「もちろん、やったの速攻バレたけどね。けど、カツアゲされてるところはバッチリ撮ってたし、証人なら何人もいたから喧嘩両成敗になった。ただ、あれのせいで中学生が強迫性障害になっちゃったんで、ケジメとして校長室で相手の親に土下座させられた。自分の子供がカツアゲしてたのと、小学生に復讐されたことに絶句してたよ。まぁ、親はまともだったから、こっちが悪いんでって納めてくれたけど」
元々素行が悪かったんだって。2年くらい後に、強迫性障害が治ってかえってまともな人間になったってあっちから報告されたよ。
錦花が語り終わった後、侑が聞いた。
「お前、サイコパスか?」
「違うけど。行動力が高いだけで正常だって医者が言ってた」
「精神科行ったことあるんかい」
「素で狂ってるじゃん」
矢継ぎ早に銀島と角名もツッコミをいれた。
錦花はあまりの酷い所業に事件の直後、母親に連れていかれた。結果は至って正常。ただプライドが高くて行動力も高いだけである。
「そんな言う? 昔の話だよ」
「せやけど今朝、気絶したツムの変顔ばらまこうとしてたやん」
「はぁ!? なんやそれ」
治の発言に呼び出しの真実を知らなかった侑が噛み付いた。
ガンくれる侑に錦花はしれっとした顔で答えた。
「物理的制裁はもうしないんだって。時代は社会的制裁だよ。SNSが普及してきたんだから。デジタルタトゥーのオマケ付きだよ? これなら一生苦しめられる」
侑は黙った。誰も言葉を発しなかった。
橙の暮れた道路にエンジン音だけが木霊した。
「ツムやったら糞まみれと変顔永遠に弄られるん、どっちがええん?」
「どっちもイヤに決まっとる。頭おかしいやろ、あの女」
帰宅後、治の質問に答えた侑の声に覇気はなかった。哀れなほど顔面が白い。
そらそうや、もう少しで自分が餌食になっとるところやったもんな。変顔も嫌やけど、物体Xを全身に塗りたくられるくらいなら死んだ方がマシや。
同情するでツム。喧嘩売る相手、間違えたな。
治は挙動不審な侑の姿を笑った。
