本編
ホームルームで配られた紙を見ながら一人体育館を目指して廊下を歩く。周りの新一年生は誰もがグループを組んで話しながら集団移動をしている。それを無視してかまうことなく知らない廊下を適当に進む。軽音楽部や吹奏楽部の演奏スケジュールが書かれたその紙は体育館への行き方なんて書かれていない。ただ、バンド名が面白いので眺めているだけだ。
「”はまっちゃん”てバンド名、海の家みたい。次が”シーサーペント”だから余計にそう見える。このスケジュール考えたやつ狙ってやったのかな」
仲堂錦花 は嘲笑交じりに呟いた。
♢
読み終えた紙をポケットにしまい、外へ伸びたコンクリの道を歩いていけば、熱気の入った声の聞こえる体育館が見えた。今日の気温は暖かく、空の青さと相まって青春感に溢れている。何かが始まる予感に胸を躍らせる場面だが、錦花は全く動じなかった。ただ、半年前までいた中学の体育館よりも新しくて立派な体育館を見て、自分のいたところは東京のくせに都会感ゼロの超田舎であったことを再確認しただけである。
ためらいもなく入口を抜ければ男子のバレー部が試合をしている最中だった。気になって目を向ければ、金髪の男がサーブを打つ瞬間だった。
ジャンプサーブは強烈な音がした。
レシーブした小柄な人はそれをAパスであげる。
長身の人がトスを上げる。
B。 瞬間的にそう思った。でも多分捕まる。相手ブロックもう反応してるし。
外国人ぽい人が飛んで腕を振るう。
予想が当たることはなかった。2枚ブロックを正面からぶち抜いたから。
「キャーーーー!!」
隣から聞こえた大音量の歓声で我に返った。稲荷崎の部活は強いと知ってて入学したが、生で見ると気迫が凄い。本気じゃないやつお断り、と空気が語っている。男子でこれなら、女子も相当本格的なはず。中学の弱小バレーでそこそこ上手かったから何とかなるだろって思ってたけど、これは本気 で頑張らないと三年間ベンチにすらなれませんでした、が発生する。それはプライド的に最悪。絶対許せない。
女バレを探そうと思ったけれど、もしかしてこの黄色い声の集団がそうなのかもしれない。マネージャー希望者がこんなに居るとは思えない。しれっと混じって試合の続きを見る。
動き的にさっきの外国人ぽい人がいる、ビブス来てる方が2年か3年。相手は1年て感じがする。あんなに動けるんだから、中学で成績残して推薦できてるんだろう。センター分けの人が打ったエグい体幹のスパイクはレシーブの腕を弾いてそのまま床に落ちた。
「あの、ちょっといいですか」
関西弁のイントネーションが真横から聞こえてきた。右を見れば、3人の女子が愛想笑いでこっちを見ている。
「ここ、男バレのマネージャー希望者のところなんで」
真ん中の子が半笑いで言う。
「ああ、そうなんですか」
そう返せば3人は顔を合わせてくすくすと笑いだした。標準語が面白いのだろう。
「いやな、めっちゃデカイから、絶対バレーやる方だなって思ってん。やから、ここおるん間違うとるなって、声掛けてあげたんよ」
右の子が明らかに悪意ありげに言ってくる。左の子もどう見ても選手側やもんな、なんて同調している。
嘲笑を含んだお節介からは経験者っぽいから採用されそう、早めに脱落させたいって意図が見え見え。3人でけしかければ消えるって舐められてるのが、最高に腹立たしい。
―決めた。さっきの覚悟は前言撤回。このメス共を蹴り落として男バレのマネージャーやろ。
「間違ってないけど。中学はバレーやってたけど、今はマネージャーやりたいから。だから、間違ってないけど」
上から思いっきり圧をかける。言い返されるとは思ってなかったらしい。恨めしそうな目でごにょごにょ言っている。が、こっちも引く気は無い。
冷戦状態を続けていたら、監督らしき人が来た。
「説明始めるから、マネージャー希望者は集まってくれ」
女子たちが一斉に声の方を向く。監督は黒須と名乗り、男バレにおけるマネージャーの支えの必要性を説いて、詳しい説明は後ろに連れていた白い髪の人に代わった。
「2年の北信介です。具体的な内容について説明するんで、分からんところあったら聞いてください」
厳粛な空気を纏った北さんは業務内容を一つ一つ丁寧に話していく。経験者のアドバンテージで、なんとなく想像がついた。ポケットにしまっていた演奏スケジュールをメモ用紙代わりにして、念の為持っていたペンで要点をまとめる。例の3人は聞いているだけ。メモをとる行為には、相手に聞いている姿勢を顕示する意味があることを知らないらしい。実際にやっているところを見るために移動している間も、選手の方をよそ見したりはしない。北さんがついてきてるか確認する素振りでこちらを観察している可能性も考慮しているから。他の人たちはもちろん男達に視線が釘付けである。
一通りまわり終わって元の位置に戻ってきた。途中、紙のスペースが足りなくなって「紙ください」って言ったら、北さんに随分熱心やな、と声をかけられた。女の群れに睨まれたが、ミーハー共に恨まれる筋合いは無い。
「説明は以上です。…せやな、この後休憩挟んだらまた始まるんで、ちょっとやってみよか。人数が多いんで、何人かに別れて仕事をしてもらいます」
そう言って北さんは女の群れを3分割し、それぞれに仕事を与え、私はドリンク係に入れられた。
空ボトルを持って粉を準備して水を入れて混ぜる。やったことのある作業が懐かしい。一緒になった2人のやる気のなさに対するムカつきが添えられているけれど。私の後ろをついてきて、のそのそと動きを真似るだけ。メモ見せてって頼まれても見せる気ないけど、これはこれで癪に障る。
あとは持っていくだけ、になったら、ようやく向こうが口を開いた。
「出来たから渡してくるね」
そう言って逃げるように去っていく2人。
「は?」
「うわ」
腹の底から沸き上がる不快感がそのまま出た。それに重なるように、男の声がした。
「ほぼ人にやらせておいて配るのだけは自分でやるとか、ヤバ」
そっちを向けば、そこに居たのはエグい体幹でスパイクを打つセンター分けのMBだった。隠れてみていたらしい。ニヤついた細い目を隠そうともせずに近寄ってきた。
「サボってる?」
「今は休憩。そのうち面白い事が起きるんだけど、近くにいるとめんどくさいから、ちょっと離れてただけ。そしたら見ちゃったんだよね」
「ドリンク今持ってかれたけど」
「後で摂るから平気。…関西弁じゃないんだね」
「東京にいたんだけどね、家の都合でこっちに越してきた。そっちも関西弁じゃないね。でも、標準語じゃない感じする」
「うん。愛知から推薦で来たからね」
「へぇ」
使ったものを片しながら、名前も名乗らないやつと県外民トークを始める。戻しに行こうと歩き出せば、なぜかついてきた。
「はいこれ」
「ありがと…そろそろかな」
「何が?」
「見てればわかるよ」
体育館内に戻ってドリンクを持ってきて渡してやる。指をさした方向につられて視線を向ければ、女子2人に囲まれた金髪がいた。
「うっっっっさいわ!!やかまし豚!!」
金髪の大声が響き渡る。突然の大声に女子は固まっている。体育館全体の動きが止まった。
「俺の邪魔すんやな!!お前らなんかおらんくても何も問題ないわ!!居る方が邪魔やねん!!」
鬼の形相で凄む金髪は動かない2人を置いて監督の方へ向かう。
「オッホホ」
横を見ればセンター分けMBが笑いながらカメラを向けている。北さんが視界の端にいなければ私も指をさして笑っていた。私を睨んだ報復を受けていると思えば非常に気分がいい。アイツらがやらかした事でマネージャー採用の話自体が無かったことになればもっと最高。そしたら、女バレに入るだけだ。
「よかったね。マネージャー、多分あんたに決まりだよ」
「え?なんで分かるの」
「説明終わった後、北さんと監督が話してるのが聞こえてきて、北さんが大丈夫だって太鼓判押してたから」
勝った。完全勝利。でも顔に出さない、北さんがまだ視界にいるから。
「そうなんだ、なら安心かな」
「もっと喜んでもいんじゃない。目の敵にされてたんでしょ。説明始まる前、絡まれてたよね」
なんで知ってんだ。
「試合中によそ見は良くないんじゃない」
「バレてないから大丈夫」
見た目の雰囲気からして思っていたが、こいつはきっとサボりたがりなんだろう。覚えておこう。マネージャーをやるからには、中途半端なことはしない。やるならちゃんと。
マネージャー希望者の体験は終わり、とりあえず後日正式に決めるから、という話で解散した。MBと会話していたのを見られたのか、一部から睨まれたが、負け犬の遠吠えにしか感じなかった。私よりも、男目当てがバレバレな自分たちの失態に目を向けた方がいい。
体育館を出ていく直前、北さんに話しかけられた。
「自分、バレーやったことあるん?」
直感的に最終面接的な質問だと分かった。
真っ直ぐな目に私を測る気持ちがなかったとしても。
「はい。中学はバレー部でした」
「女バレ入ろうとは思わなかったん?」
ストレートにくるな。なんて返そう。
「北!言い方!それやとマネージャーなって欲しくないみたいに聞こえんで」
ナイス横槍、外国人ぽい人!
「そうか、すまん。ただ、背ぇ高いから勿体ないな思てな」
あの3人と同じこと言われたけど、人が違うと感じ方全然違うな。
「確かにバレーはやってたんですが、全然強くなくて、地区予選すら突破したことないんです」
「稲荷崎のバレー部が強いことは知っています。たとえ試合に出ることが出来なくてもバレーが好きだから、出来る努力はしようと思ってました。体育館に入る前までは」
「ほぉ」
「目の前で男バレの試合見て、気が変わりました。コートの外で努力するなら、今ここでバレーをしている人達の力になりたい。そう思いました。女バレに入ったら、もっと正直に言うなら、私の性格的に、三年間の間に血反吐吐いてでもベンチくらいはもぎ取るはずなんですが、その未来の努力を捧げてもいいくらいに、惹かれました。」
「…ふはっ。なんやそれ」
北さんの真顔がくずれる。
嘘は言ってない。邪 な事実を隠しはしたが、それでも、あの試合の風景に目を奪われた事は事実だ。
「随分な覚悟決めてくれてたんやな。それやのに、野暮なこときいたわ」
「いえ、気にしないでください」
「引き止めてすまんな、一旦教室帰らなあかんのやろ」
「そうですね、もう時間なのでこれで失礼します」
「おん、またな」
一礼して体育館を出る。
私は迫る時間を無視して、ご機嫌に教室へ向かった。
「”はまっちゃん”てバンド名、海の家みたい。次が”シーサーペント”だから余計にそう見える。このスケジュール考えたやつ狙ってやったのかな」
♢
読み終えた紙をポケットにしまい、外へ伸びたコンクリの道を歩いていけば、熱気の入った声の聞こえる体育館が見えた。今日の気温は暖かく、空の青さと相まって青春感に溢れている。何かが始まる予感に胸を躍らせる場面だが、錦花は全く動じなかった。ただ、半年前までいた中学の体育館よりも新しくて立派な体育館を見て、自分のいたところは東京のくせに都会感ゼロの超田舎であったことを再確認しただけである。
ためらいもなく入口を抜ければ男子のバレー部が試合をしている最中だった。気になって目を向ければ、金髪の男がサーブを打つ瞬間だった。
ジャンプサーブは強烈な音がした。
レシーブした小柄な人はそれをAパスであげる。
長身の人がトスを上げる。
B。 瞬間的にそう思った。でも多分捕まる。相手ブロックもう反応してるし。
外国人ぽい人が飛んで腕を振るう。
予想が当たることはなかった。2枚ブロックを正面からぶち抜いたから。
「キャーーーー!!」
隣から聞こえた大音量の歓声で我に返った。稲荷崎の部活は強いと知ってて入学したが、生で見ると気迫が凄い。本気じゃないやつお断り、と空気が語っている。男子でこれなら、女子も相当本格的なはず。中学の弱小バレーでそこそこ上手かったから何とかなるだろって思ってたけど、これは
女バレを探そうと思ったけれど、もしかしてこの黄色い声の集団がそうなのかもしれない。マネージャー希望者がこんなに居るとは思えない。しれっと混じって試合の続きを見る。
動き的にさっきの外国人ぽい人がいる、ビブス来てる方が2年か3年。相手は1年て感じがする。あんなに動けるんだから、中学で成績残して推薦できてるんだろう。センター分けの人が打ったエグい体幹のスパイクはレシーブの腕を弾いてそのまま床に落ちた。
「あの、ちょっといいですか」
関西弁のイントネーションが真横から聞こえてきた。右を見れば、3人の女子が愛想笑いでこっちを見ている。
「ここ、男バレのマネージャー希望者のところなんで」
真ん中の子が半笑いで言う。
「ああ、そうなんですか」
そう返せば3人は顔を合わせてくすくすと笑いだした。標準語が面白いのだろう。
「いやな、めっちゃデカイから、絶対バレーやる方だなって思ってん。やから、ここおるん間違うとるなって、声掛けてあげたんよ」
右の子が明らかに悪意ありげに言ってくる。左の子もどう見ても選手側やもんな、なんて同調している。
嘲笑を含んだお節介からは経験者っぽいから採用されそう、早めに脱落させたいって意図が見え見え。3人でけしかければ消えるって舐められてるのが、最高に腹立たしい。
―決めた。さっきの覚悟は前言撤回。このメス共を蹴り落として男バレのマネージャーやろ。
「間違ってないけど。中学はバレーやってたけど、今はマネージャーやりたいから。だから、間違ってないけど」
上から思いっきり圧をかける。言い返されるとは思ってなかったらしい。恨めしそうな目でごにょごにょ言っている。が、こっちも引く気は無い。
冷戦状態を続けていたら、監督らしき人が来た。
「説明始めるから、マネージャー希望者は集まってくれ」
女子たちが一斉に声の方を向く。監督は黒須と名乗り、男バレにおけるマネージャーの支えの必要性を説いて、詳しい説明は後ろに連れていた白い髪の人に代わった。
「2年の北信介です。具体的な内容について説明するんで、分からんところあったら聞いてください」
厳粛な空気を纏った北さんは業務内容を一つ一つ丁寧に話していく。経験者のアドバンテージで、なんとなく想像がついた。ポケットにしまっていた演奏スケジュールをメモ用紙代わりにして、念の為持っていたペンで要点をまとめる。例の3人は聞いているだけ。メモをとる行為には、相手に聞いている姿勢を顕示する意味があることを知らないらしい。実際にやっているところを見るために移動している間も、選手の方をよそ見したりはしない。北さんがついてきてるか確認する素振りでこちらを観察している可能性も考慮しているから。他の人たちはもちろん男達に視線が釘付けである。
一通りまわり終わって元の位置に戻ってきた。途中、紙のスペースが足りなくなって「紙ください」って言ったら、北さんに随分熱心やな、と声をかけられた。女の群れに睨まれたが、ミーハー共に恨まれる筋合いは無い。
「説明は以上です。…せやな、この後休憩挟んだらまた始まるんで、ちょっとやってみよか。人数が多いんで、何人かに別れて仕事をしてもらいます」
そう言って北さんは女の群れを3分割し、それぞれに仕事を与え、私はドリンク係に入れられた。
空ボトルを持って粉を準備して水を入れて混ぜる。やったことのある作業が懐かしい。一緒になった2人のやる気のなさに対するムカつきが添えられているけれど。私の後ろをついてきて、のそのそと動きを真似るだけ。メモ見せてって頼まれても見せる気ないけど、これはこれで癪に障る。
あとは持っていくだけ、になったら、ようやく向こうが口を開いた。
「出来たから渡してくるね」
そう言って逃げるように去っていく2人。
「は?」
「うわ」
腹の底から沸き上がる不快感がそのまま出た。それに重なるように、男の声がした。
「ほぼ人にやらせておいて配るのだけは自分でやるとか、ヤバ」
そっちを向けば、そこに居たのはエグい体幹でスパイクを打つセンター分けのMBだった。隠れてみていたらしい。ニヤついた細い目を隠そうともせずに近寄ってきた。
「サボってる?」
「今は休憩。そのうち面白い事が起きるんだけど、近くにいるとめんどくさいから、ちょっと離れてただけ。そしたら見ちゃったんだよね」
「ドリンク今持ってかれたけど」
「後で摂るから平気。…関西弁じゃないんだね」
「東京にいたんだけどね、家の都合でこっちに越してきた。そっちも関西弁じゃないね。でも、標準語じゃない感じする」
「うん。愛知から推薦で来たからね」
「へぇ」
使ったものを片しながら、名前も名乗らないやつと県外民トークを始める。戻しに行こうと歩き出せば、なぜかついてきた。
「はいこれ」
「ありがと…そろそろかな」
「何が?」
「見てればわかるよ」
体育館内に戻ってドリンクを持ってきて渡してやる。指をさした方向につられて視線を向ければ、女子2人に囲まれた金髪がいた。
「うっっっっさいわ!!やかまし豚!!」
金髪の大声が響き渡る。突然の大声に女子は固まっている。体育館全体の動きが止まった。
「俺の邪魔すんやな!!お前らなんかおらんくても何も問題ないわ!!居る方が邪魔やねん!!」
鬼の形相で凄む金髪は動かない2人を置いて監督の方へ向かう。
「オッホホ」
横を見ればセンター分けMBが笑いながらカメラを向けている。北さんが視界の端にいなければ私も指をさして笑っていた。私を睨んだ報復を受けていると思えば非常に気分がいい。アイツらがやらかした事でマネージャー採用の話自体が無かったことになればもっと最高。そしたら、女バレに入るだけだ。
「よかったね。マネージャー、多分あんたに決まりだよ」
「え?なんで分かるの」
「説明終わった後、北さんと監督が話してるのが聞こえてきて、北さんが大丈夫だって太鼓判押してたから」
勝った。完全勝利。でも顔に出さない、北さんがまだ視界にいるから。
「そうなんだ、なら安心かな」
「もっと喜んでもいんじゃない。目の敵にされてたんでしょ。説明始まる前、絡まれてたよね」
なんで知ってんだ。
「試合中によそ見は良くないんじゃない」
「バレてないから大丈夫」
見た目の雰囲気からして思っていたが、こいつはきっとサボりたがりなんだろう。覚えておこう。マネージャーをやるからには、中途半端なことはしない。やるならちゃんと。
マネージャー希望者の体験は終わり、とりあえず後日正式に決めるから、という話で解散した。MBと会話していたのを見られたのか、一部から睨まれたが、負け犬の遠吠えにしか感じなかった。私よりも、男目当てがバレバレな自分たちの失態に目を向けた方がいい。
体育館を出ていく直前、北さんに話しかけられた。
「自分、バレーやったことあるん?」
直感的に最終面接的な質問だと分かった。
真っ直ぐな目に私を測る気持ちがなかったとしても。
「はい。中学はバレー部でした」
「女バレ入ろうとは思わなかったん?」
ストレートにくるな。なんて返そう。
「北!言い方!それやとマネージャーなって欲しくないみたいに聞こえんで」
ナイス横槍、外国人ぽい人!
「そうか、すまん。ただ、背ぇ高いから勿体ないな思てな」
あの3人と同じこと言われたけど、人が違うと感じ方全然違うな。
「確かにバレーはやってたんですが、全然強くなくて、地区予選すら突破したことないんです」
「稲荷崎のバレー部が強いことは知っています。たとえ試合に出ることが出来なくてもバレーが好きだから、出来る努力はしようと思ってました。体育館に入る前までは」
「ほぉ」
「目の前で男バレの試合見て、気が変わりました。コートの外で努力するなら、今ここでバレーをしている人達の力になりたい。そう思いました。女バレに入ったら、もっと正直に言うなら、私の性格的に、三年間の間に血反吐吐いてでもベンチくらいはもぎ取るはずなんですが、その未来の努力を捧げてもいいくらいに、惹かれました。」
「…ふはっ。なんやそれ」
北さんの真顔がくずれる。
嘘は言ってない。
「随分な覚悟決めてくれてたんやな。それやのに、野暮なこときいたわ」
「いえ、気にしないでください」
「引き止めてすまんな、一旦教室帰らなあかんのやろ」
「そうですね、もう時間なのでこれで失礼します」
「おん、またな」
一礼して体育館を出る。
私は迫る時間を無視して、ご機嫌に教室へ向かった。