薄氷の落椿
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腹を割きたいといっても相手は賭場の外の人間。実際の手術が難しいことは村雨も分かっていた。直接話を聞くにしても、さほど知りもしない人間に過去の事を易々と話すはずがない。不審がられしまえば兄夫婦へ迷惑がかかる。傍若無人な村雨もそのくらいは考慮した。
村雨の技量であれば相手の生体反応から大抵のことは読み取れる。仕方ないので、機会が訪れるまでは体から読み取ることにした。
都合がついたので、村雨は次の迎えも担当した。
「今回少し気になったのが、独特の癖がついてしまっているところですね。弾きずらさはないとの事ですが、修正の必要があります。意識的に気をつけていけばすぐに直るとは思いますが……」
千路の説明を頭に入れながら千路の顔を見た。仕事の疲れは見えるものの、意欲的に正確なアドバイスをしている。
人間というのは、いくら意識的に行動や思考を変えようとしたところで無意識の部分まで変えることは不可能に近い。心を入れ替えたと宣う者たちの大多数は変わったと思い込んでいるだけで、本人すら気付かぬ矛盾が存在する。
彼女は不正を行い、師を冒涜した人間とは思えぬほど音楽に対する姿勢が真摯だ。 横でニコニコと話を聞いている姪も千路を信頼している。前回送り届けた際の姪の話からもその懐きぶりが知れた。
一般人を読み切るなど、村雨には造作もないことだ。
――千路霞晶は真に音楽に殉ずる人間である。
村雨は千路が不祥事を起こす人物ではないと診断を下した。
教室を出て車を走らせた。隣に乗せた姪は1日の出来事を話している。話を聞くものの、短い返事しかしない村雨の態度は気にしていないようだ。
兄の家に着くと窓から電気の光が漏れていた。帰宅していたらしい。
「ただいま!」
「おう、おかえり! 礼二、ありがとな。先生、今日はなんだって?」
村雨は千路からの指導内容を伝えた。
「そうか、分かった。いや、ぶっちゃけその辺は嫁さんが見てたからよく分かんねぇけど。舞によく言っとくよ」
「兄貴は講師について知っていたのか?」
「千路先生か? 礼二も驚いただろ。あんな有名な人が先生やってんだから。前に色々あった人だし、最初は俺も大丈夫かって思ってたんだけど、実際はすげぇ良い先生みたいでさ。俺はあんま詳しくないけど、嫁さんも舞もあの人が講師で喜んでるよ」
元プロだもんな、と明朗に笑う兄に千路を訝しむ気持ちはなかった。義姉の様子も含めた世間話もそこそこに、村雨は兄と別れた。
帰宅する頃には、村雨の疑問は千路の失脚の真相に移っていた。
村雨の技量であれば相手の生体反応から大抵のことは読み取れる。仕方ないので、機会が訪れるまでは体から読み取ることにした。
都合がついたので、村雨は次の迎えも担当した。
「今回少し気になったのが、独特の癖がついてしまっているところですね。弾きずらさはないとの事ですが、修正の必要があります。意識的に気をつけていけばすぐに直るとは思いますが……」
千路の説明を頭に入れながら千路の顔を見た。仕事の疲れは見えるものの、意欲的に正確なアドバイスをしている。
人間というのは、いくら意識的に行動や思考を変えようとしたところで無意識の部分まで変えることは不可能に近い。心を入れ替えたと宣う者たちの大多数は変わったと思い込んでいるだけで、本人すら気付かぬ矛盾が存在する。
彼女は不正を行い、師を冒涜した人間とは思えぬほど音楽に対する姿勢が真摯だ。 横でニコニコと話を聞いている姪も千路を信頼している。前回送り届けた際の姪の話からもその懐きぶりが知れた。
一般人を読み切るなど、村雨には造作もないことだ。
――千路霞晶は真に音楽に殉ずる人間である。
村雨は千路が不祥事を起こす人物ではないと診断を下した。
教室を出て車を走らせた。隣に乗せた姪は1日の出来事を話している。話を聞くものの、短い返事しかしない村雨の態度は気にしていないようだ。
兄の家に着くと窓から電気の光が漏れていた。帰宅していたらしい。
「ただいま!」
「おう、おかえり! 礼二、ありがとな。先生、今日はなんだって?」
村雨は千路からの指導内容を伝えた。
「そうか、分かった。いや、ぶっちゃけその辺は嫁さんが見てたからよく分かんねぇけど。舞によく言っとくよ」
「兄貴は講師について知っていたのか?」
「千路先生か? 礼二も驚いただろ。あんな有名な人が先生やってんだから。前に色々あった人だし、最初は俺も大丈夫かって思ってたんだけど、実際はすげぇ良い先生みたいでさ。俺はあんま詳しくないけど、嫁さんも舞もあの人が講師で喜んでるよ」
元プロだもんな、と明朗に笑う兄に千路を訝しむ気持ちはなかった。義姉の様子も含めた世間話もそこそこに、村雨は兄と別れた。
帰宅する頃には、村雨の疑問は千路の失脚の真相に移っていた。
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