過去編
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「ロマーノ! ロマーノ、どこにおるん?」
日差しが気持ちいい午後だった。庭掃除用のほうきをほっぽり投げてピザを貪っているところにスペインの声が聞こえた。うげっ、あいつもう帰ってきたのかよ。ロマーノは反射的にそう思った。2ヶ月前、スペインはしばらく家を空けるから留守の間ちゃんと掃除しとくんやで、と言いつけてから自身の真上に存在する島に船で向かっていった。当然、掃除などやっていない。それどころか本棚は倒し、絵画はデッキブラシに引っ掛けて壁から叩き落とし、カーペットはバケツをひっくり返してびちょびちょにした。他にもやらかしているが、それらが見つかったらめんどうだから隠せるものは隠しておいた。咄嗟に、バレた、怒られると思ったロマーノは焦って大きい声で返した。
「俺じゃねーぞちくしょー! 全部リスがやったんだ! 俺はそいつを追い出そうとしただけで、本棚も花瓶も何もかもリスのせいだぞこのやろー!」
ロマーノが叫ぶと思ったより近くにいたらしいスペインが屋敷の方からのそのそと歩いてきた。いつもの格好ではなく条約を結ぶ時なんかに着ていく上等な服を着ていた。ただ、出ていった時よりくたびれた顔をしている気がした。
「ロマーノ! そこにおったんか、って、また本棚倒したん? 俺ちゃんとやっといてってお願いしたやんやけど……」とよりゲッソリして嘆いた。スペインが「どうせまた絵に落書きしたりおねしょしてたんやろなぁ」と呟く。ギクッとして否定しようと口が開く前にスペインの方からバカにした高い声が聞こえた。
「お前が先輩子分のおねしょ野郎か。スペインの野郎から聞いたぞ。オレと同じくらいの大きさなのに、恥ずかしいやつだな」
スペインの足元、後ろに隠れる様に見たことない奴がいた。茶色い跳ねた髪の毛、つり上がった眉とこちらを見る緑の目は笑っていた。
「ちぎっ! なんだお前! スペイン、こいつ誰だ!」
「こら、だめやろフレネ。ロマーノにちゃんと挨拶せんと。ロマーノ、この子は新しく俺の子分になったフレネシオネや。俺んちの真上に住んどったんやけど、今日からここに暮らすから仲良うしてや。ほら、フレネもロマーノに言うたって」
「オレはフレネシオネだ。宜しくしやがれ、おねしょ野郎」
フレネシオネと名乗ったチビはふんぞり返ってロマーノの前に立ちはだかった。ニヤついた口元は宜しくする気なんて全くなくて余計に苛立った。
「ああもう、フレネも口が悪いんやから……。ごめんなぁロマーノ、フレネも悪気がある訳やなくて、ちょぉ緊張しとるだけなんよ。慣れんことも多いやろうし、ロマーノ、先輩としてフレネの面倒よく見たってや。フレネもロマーノと一緒に働くんやからロマーノとちゃんと仲良うせんといかんよ、な?」
スペインは屈んで2人の頭を撫でた。ロマーノがプルプル怒りながらその手を叩き落としたら、フレネもその手を叩いて言った。
「ぜったいにいやだぞちくしょー!」
「おねしょ野郎に教わることなんかない」
「いたっ。もう、2人ともそないな事言わんといてぇな」
スペインははたかれた手を擦りながら困った顔をしていた。ロマーノはおねしょ野郎呼ばわりしてくる男の面倒を見るなんて意地でもやりたくなかった。
「スペイン! 俺はこいつ嫌いだ。お前が連れてきたんだからお前が面倒を見ろよ」
ロマーノは指をさして訴えた。
それに対してフレネは眉間に皺を寄せた。
「面倒なんか見てもらわなくても1人でできるぜ。仕事だって、オレは本棚倒さないし花瓶も割らねぇよっ」
そう言って1歩踏みでるといきなりロマーノのくるんを引っ掴んだ。
「船に乗ってる間、お前の話ばっかりするからだいたいどんなやつか知ってるぞ。しょっちゅう仕事サボってるし、おねしょしてるし、食い意地張ってて、朝は頭突きで起こしてくるとか、いろいろな」
「ちぎっ、ぅ……や、やめろ! っ……さわんなっ、……っ、ちぎぎ……」
くるんを触りながらフレネは船でスペインから聞かされた話を延々と喋っている。
全身をなんとも言えない感覚が襲ってきた。やめろと言いたいのに強く握られているせいで変な声が出そうになる。
「言っとくけど、オレは負けたからここに来たんじゃなくて話し合った上でここにいるんだからな。スペインのやつもしれっとオレんちの支配権かっさらいやがって腹立つけど、フレヴスにこき使われるくらいならこっちの方がマシだったから子分になっただけだからな。先輩だからってオレのこと舐めてかかってくんなら……」
「っちぎーー! さわんなっ! やめろ!」
力を振り絞って顔を真っ赤にしながらロマーノは叫んだ。ふうふうと息を荒らげる顔は真っ赤で、ポコポコと湯気が出ていた。
驚いたフレネの手はすぐに離された。
涙目で睨みつければフレネは目を見開いていた。
「っ! な、んだよ、急に。痛かったか? 平気か」
手が肩に添えられる。くるんを強く握っていたとは思えないほど優しく添えられた手に一瞬ロマーノのほうが驚いて振り払えなかった。なんなんだよ、お前のせいだろ。さっきまで腹立たしい態度だったくせに、勝手に触ってきたくせに、なのに、そんなに真っ直ぐ心配そうに見てくんな。スペインだって勝手に触ってきてもそんなこと言わねーぞ。フレネの反応にロマーノの方が呆気に取られて言おうと思っていた文句が吹っ飛んだ。
「……べ、別に、痛くは、ねーけど……。そこはもう触るなよ」
「……おう。勝手に触って悪かった」
小馬鹿にしていた態度はどっかへ行って、代わりにバツの悪そうな顔をして謝ってくる。やけに素直なのがムズ痒かった。
「次は許さないからな」そう睨めば、「何言ってんだよ。オレは賢いからな、繰り返したりしねぇ」と返ってきた。
腹立つ態度だけど、ちょっとは悪いやつじゃないのかもしれない。ムカつくだけで。
「なんか大丈夫そうやな、仲良くなれそうで親分嬉しいわ〜。そうそう、フレネの部屋はロマーノの隣にしよう思ってるから、後で案内するな。さてと、俺今帰ってきたところで仕事が残っとるから、そろそろ行くで。ロマーノ、ちゃんと庭掃除やっといてな。フレネ行こか」
その様子を見ていたスペインが脳天気な声をかけて立ちあがる。フレネは歩き出したスペインに続いた。
「あいつの隣じゃなくてもいい」
「やめろ! 違う部屋に入れとけちくしょー!」
同時に発した言葉をさっきよりはマシな顔色をしたスペインは微笑ましそうに見て、子分が増えた喜びを噛み締めた。
日差しが気持ちいい午後だった。庭掃除用のほうきをほっぽり投げてピザを貪っているところにスペインの声が聞こえた。うげっ、あいつもう帰ってきたのかよ。ロマーノは反射的にそう思った。2ヶ月前、スペインはしばらく家を空けるから留守の間ちゃんと掃除しとくんやで、と言いつけてから自身の真上に存在する島に船で向かっていった。当然、掃除などやっていない。それどころか本棚は倒し、絵画はデッキブラシに引っ掛けて壁から叩き落とし、カーペットはバケツをひっくり返してびちょびちょにした。他にもやらかしているが、それらが見つかったらめんどうだから隠せるものは隠しておいた。咄嗟に、バレた、怒られると思ったロマーノは焦って大きい声で返した。
「俺じゃねーぞちくしょー! 全部リスがやったんだ! 俺はそいつを追い出そうとしただけで、本棚も花瓶も何もかもリスのせいだぞこのやろー!」
ロマーノが叫ぶと思ったより近くにいたらしいスペインが屋敷の方からのそのそと歩いてきた。いつもの格好ではなく条約を結ぶ時なんかに着ていく上等な服を着ていた。ただ、出ていった時よりくたびれた顔をしている気がした。
「ロマーノ! そこにおったんか、って、また本棚倒したん? 俺ちゃんとやっといてってお願いしたやんやけど……」とよりゲッソリして嘆いた。スペインが「どうせまた絵に落書きしたりおねしょしてたんやろなぁ」と呟く。ギクッとして否定しようと口が開く前にスペインの方からバカにした高い声が聞こえた。
「お前が先輩子分のおねしょ野郎か。スペインの野郎から聞いたぞ。オレと同じくらいの大きさなのに、恥ずかしいやつだな」
スペインの足元、後ろに隠れる様に見たことない奴がいた。茶色い跳ねた髪の毛、つり上がった眉とこちらを見る緑の目は笑っていた。
「ちぎっ! なんだお前! スペイン、こいつ誰だ!」
「こら、だめやろフレネ。ロマーノにちゃんと挨拶せんと。ロマーノ、この子は新しく俺の子分になったフレネシオネや。俺んちの真上に住んどったんやけど、今日からここに暮らすから仲良うしてや。ほら、フレネもロマーノに言うたって」
「オレはフレネシオネだ。宜しくしやがれ、おねしょ野郎」
フレネシオネと名乗ったチビはふんぞり返ってロマーノの前に立ちはだかった。ニヤついた口元は宜しくする気なんて全くなくて余計に苛立った。
「ああもう、フレネも口が悪いんやから……。ごめんなぁロマーノ、フレネも悪気がある訳やなくて、ちょぉ緊張しとるだけなんよ。慣れんことも多いやろうし、ロマーノ、先輩としてフレネの面倒よく見たってや。フレネもロマーノと一緒に働くんやからロマーノとちゃんと仲良うせんといかんよ、な?」
スペインは屈んで2人の頭を撫でた。ロマーノがプルプル怒りながらその手を叩き落としたら、フレネもその手を叩いて言った。
「ぜったいにいやだぞちくしょー!」
「おねしょ野郎に教わることなんかない」
「いたっ。もう、2人ともそないな事言わんといてぇな」
スペインははたかれた手を擦りながら困った顔をしていた。ロマーノはおねしょ野郎呼ばわりしてくる男の面倒を見るなんて意地でもやりたくなかった。
「スペイン! 俺はこいつ嫌いだ。お前が連れてきたんだからお前が面倒を見ろよ」
ロマーノは指をさして訴えた。
それに対してフレネは眉間に皺を寄せた。
「面倒なんか見てもらわなくても1人でできるぜ。仕事だって、オレは本棚倒さないし花瓶も割らねぇよっ」
そう言って1歩踏みでるといきなりロマーノのくるんを引っ掴んだ。
「船に乗ってる間、お前の話ばっかりするからだいたいどんなやつか知ってるぞ。しょっちゅう仕事サボってるし、おねしょしてるし、食い意地張ってて、朝は頭突きで起こしてくるとか、いろいろな」
「ちぎっ、ぅ……や、やめろ! っ……さわんなっ、……っ、ちぎぎ……」
くるんを触りながらフレネは船でスペインから聞かされた話を延々と喋っている。
全身をなんとも言えない感覚が襲ってきた。やめろと言いたいのに強く握られているせいで変な声が出そうになる。
「言っとくけど、オレは負けたからここに来たんじゃなくて話し合った上でここにいるんだからな。スペインのやつもしれっとオレんちの支配権かっさらいやがって腹立つけど、フレヴスにこき使われるくらいならこっちの方がマシだったから子分になっただけだからな。先輩だからってオレのこと舐めてかかってくんなら……」
「っちぎーー! さわんなっ! やめろ!」
力を振り絞って顔を真っ赤にしながらロマーノは叫んだ。ふうふうと息を荒らげる顔は真っ赤で、ポコポコと湯気が出ていた。
驚いたフレネの手はすぐに離された。
涙目で睨みつければフレネは目を見開いていた。
「っ! な、んだよ、急に。痛かったか? 平気か」
手が肩に添えられる。くるんを強く握っていたとは思えないほど優しく添えられた手に一瞬ロマーノのほうが驚いて振り払えなかった。なんなんだよ、お前のせいだろ。さっきまで腹立たしい態度だったくせに、勝手に触ってきたくせに、なのに、そんなに真っ直ぐ心配そうに見てくんな。スペインだって勝手に触ってきてもそんなこと言わねーぞ。フレネの反応にロマーノの方が呆気に取られて言おうと思っていた文句が吹っ飛んだ。
「……べ、別に、痛くは、ねーけど……。そこはもう触るなよ」
「……おう。勝手に触って悪かった」
小馬鹿にしていた態度はどっかへ行って、代わりにバツの悪そうな顔をして謝ってくる。やけに素直なのがムズ痒かった。
「次は許さないからな」そう睨めば、「何言ってんだよ。オレは賢いからな、繰り返したりしねぇ」と返ってきた。
腹立つ態度だけど、ちょっとは悪いやつじゃないのかもしれない。ムカつくだけで。
「なんか大丈夫そうやな、仲良くなれそうで親分嬉しいわ〜。そうそう、フレネの部屋はロマーノの隣にしよう思ってるから、後で案内するな。さてと、俺今帰ってきたところで仕事が残っとるから、そろそろ行くで。ロマーノ、ちゃんと庭掃除やっといてな。フレネ行こか」
その様子を見ていたスペインが脳天気な声をかけて立ちあがる。フレネは歩き出したスペインに続いた。
「あいつの隣じゃなくてもいい」
「やめろ! 違う部屋に入れとけちくしょー!」
同時に発した言葉をさっきよりはマシな顔色をしたスペインは微笑ましそうに見て、子分が増えた喜びを噛み締めた。